東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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珍しく2日連続投稿ですぜ!
第三章の本編も終わり、毎度の如く過去話です。

ヤベェ⁉︎第四章スタートしたら、書くって言った小説の進行がまだプロローグの半分しかいってない!


平の過去話 スパイダー転生!

アメリカ某所。とあるクリニック。

未来の蜘蛛島 平はここで育った。飼い主はこのクリニックの院長。そのクリニックがあった街、及びその周辺では最高の腕前と言われる名医だった。何故、大病院に行かないのかと言われていたが、それは彼の飼っていた蜘蛛が原因だったのかもしれない。

フラットと言う名前のコバルトブルータランチュラの朝はクリニックの玄関にあるケージの中で始まる。コオロギと呼ばれる餌をケージに入れてもらい、飛びかかって捕まえ、牙を突き立て、外骨格の中身を毒で溶かして吸う。クリニックに一番目の客が来たら、一番前の脚一対を挙げて挨拶し、迎えに来た飼い主の肩の上に乗る。後は、診察終了時間までずっと一緒に診察する。診察時間が終了すれば、ケージの中に戻され、夕食のコオロギを貰い、寝る。これが毎日のサイクルだった。一週間に2日程ある休診日は一日中ずっと飼い主の肩の上。

同じサイクルの繰り返しだったが、フラットには全てが楽しく思えた。飼い主を含め、人間のことが大好きだったからだ。人間たちはフラットに対して様々な反応を示し、様々な表情を見せてくれた。それが堪らなく楽しかったのだ。

人間たちもフラットのことが好きだった。幸せの青い鳥というものが存在するらしいが、彼は幸せの青い蜘蛛だった。とりわけ、飼い主は彼を溺愛した。

フラットは賢い蜘蛛だった。飼い主の診察に同行していたことで病気の名前、症状、毒の名前、それらに効く薬を覚えてしまった。彼は学ぶことも好きだったため、毎日が天国のようだった。

 

 

 

しかし、そんな日々がいつまでも続くわけがなかった。

 

 

 

冬のある寒い日。フラットのケージの周りにはクリニックのスタッフ全員が集まっていた。その中には泣いている者もいた。何が起きたか?

フラットが死んだのだ。死因は老衰だった。院長はクリニックを臨時休業にし、クリニックの庭に墓を作った。彼は泣いた。いつか別れが来るとわかっていた。それでも、フラットの死はあまりにも悲しすぎた。院長は泣きながら、フラットの死体を墓に納めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば、彼は森の中に倒れていた。地面に両手をつき、立ち上がる。しかし、ここで違和感に気付いた。何も考えずに立ち上がったときに一番後ろの脚で地面に立っているのだ。というか、脚が少ない。4本しかない。

迷っていても仕方がないため、彼は現実を知るために川を探した。目線が高いことも気になるが、そんなことは気にしていられなかった。

しばらくすると、水の音が聞こえたため、彼はそちらへ走った。見つけたものは滝。流れる水は彼が元々いたクリニック周辺ではありえないほどに綺麗で透き通っていた。川の縁に立ち、水を覗き込む。

 

「なんだよ…これ……」

 

彼は自身の姿に驚くと共に自身から発せられた音…声に驚いた。水面に映った自分は自分ではなかった。人間…いや、人型の何かだった。

彼は恐る恐るといった様子でもう一度水面に映った自分を見る。やはり、人間ではない。青い髪と紫の瞳、額に一対の眼を持つ人型の何かだった。服装は忍び装束と言うのだろうか?彼の飼い主が読んでいた漫画に登場する忍者の服装にそっくりだった。腰に巻いた帯にはどこで手に入れたのか、短い忍者刀が差してある。

 

「もう何も驚かないぞ……⁉︎

なんだ…頭が……グ…ガァア!」

 

彼は突然として頭痛に襲われた。脳が溶け、頭が爆発してしまいそうなほどに痛い。脳内に様々な情報が流れ込み、満たしていく。あまりの苦しさに彼は地面に頭を押さえて倒れこんでしまった。

『痛い』『食え!』『殺す……』『怖い』『無駄ァ!』『斬る』『脚をもぎ取る?』『死ね』『嬉しい』『ザイザルを二週間分』『味は5種類』……

 

 

 

何分間倒れていたのだろうか?

頭痛が引き、彼は立ち上がる。脳に流れ込んでいた情報は彼の中に完全に取り込まれていた。そんな情報の中で一つだけ、彼の中に強く響く言葉があった。『蜘蛛島 平』。彼はこの名前を知らない。しかし、その名前は自分の中でどこかぴったりと来るものがあった。

 

「これは…俺の名前か?」

 

彼は自身の名前を『蜘蛛島 平』にすることを決めた。

周りを見ても、人が住んでいる気配は全くない。このまま、その場にいても仕方がないと思った彼は人を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平は人間の少女を見つけた。しかし、その少女の前に出ることができない。額の眼は何故か持っていたゴーグルで隠したため、問題はないはずである。では、何故か?

何故なら、その人間が10体の異形たちに襲われていたからである。平としては大好きな人間が攻撃されていることは許せないことなのだが、戦ったことのない彼には戦う度胸がなかった。

 

(せめて、糸が出せれば……)

 

平が思い浮かべていたのは自身とは違う種類のナゲナワグモという蜘蛛だった。蜘蛛=糸というイメージだが、平はあまり糸を出したことがない。だから、糸など出せるはずが……

 

「おや?糸が出てる……」

 

出ないはずの糸がイメージしただけで出た。それは彼にとって、とても衝撃的なことだった。まるで、人々の想像から創られる幻想の中に迷い込んでしまったようだった。

彼は困惑したが、あまり深くは考えずに異形たちの前に踊り出た。

 

「女性を攻撃するのは感心しないなぁ。しかも、集団でなんて……」

 

「なんだ、テメェは?俺たちは今、お楽しみ中なんだよ!」

 

「文句あんのかコラァ!」

 

「ありすぎて言い表せないくらいだよ。」

 

不機嫌な様子で言う異形。威嚇する異形に対して、平は挑発するように返す。異形は簡単に挑発に乗り、平に殴りかかった。平は冷静にそれを避けるとカウンター…異形の顔面を殴り飛ばし、糸でがんじがらめにした。蜘蛛の糸はとてつもなく強靭。絡め捕られた異形は身動きが全く取れない。それを見た他の異形たちは目を見張って驚く。

 

「お前、妖怪だったのか⁉︎」

 

「妖怪?何のことかよくわからないが、確かに俺は人間じゃない。」

 

「構わねえ!やっちまえ!」

 

『オァァァア!』

 

残っていた異形…妖怪たちが一斉に襲いかかる。平はハァとため息を吐き、腰の忍者刀に手をかけた。先程流れ込んだ情報から、この武器の使用方法、名前はわかっていた。平は逆手持ちで抜刀、刀の名前を詠んだ。

 

「妖刀"千刃"!」

 

平は千刃で何もない空間を自分を中心に円を描くように斬った。妖怪たちはその刀を恐れることなく、むしろ空を斬ったその剣技を笑いながら突っ込んだ。しかし、平に彼らの拳は届かなかった。

 

「ゴバァ……⁈」

 

「ギャアァァァー⁉︎か、身体が…ゴポッ……」

 

妖怪たちの身体が突如として空中で真っ二つに切れたのだ。切り口から真っ赤な血液や内臓が溢れ出てくる。妖怪たちはその場に倒れ、鉄の匂いがする真っ赤なプールを作り出した。平はその匂いに思わず顔をしかめる。

死んだと思われた妖怪たちだったが、まだ一体だけ辛うじて生き残っている妖怪がいた。(平も妖怪だが……)平は真っ二つにされても尚生きているその生命力に感心してしまう。

 

「まだ生きていたのか?丈夫だな。」

 

「当たり前だ。俺ァ、丈夫だからよ。この心臓さえ生きていれば死なないんだよ。」

 

「ほう…心臓を壊せば死ぬのか……」

 

「な⁉︎やめろ!

その人間ならお前が全て食べていい!だから、殺さないでくれ!」

 

「人間を食べる」この言葉を聞いたとき、平の目の上の筋肉がピクリと動いた。「許せない……」その言葉が彼の中に充満した。

本来、妖怪は人間に恐怖を与えて初めてその存在を維持できる。だから、襲って食べるのだ。しかし、平にはそんな考えなど無かった。全く無いというわけではなく、脳内に流れ込んだ情報の中にはしっかりと「人間を食べる」という事項があった。それでも、人間のことが大好きな彼は受けいることができなかったのだ。

許せぬ怒りは殺意に変わり、平の中で渦を巻く。

 

「腹は減ってないんだ。人間を食べる気はないな。食べたくもないし……」

 

「み、見逃してくれるよな⁉︎」

 

「さすがにあんただけが生き残るっていうのは不公平じゃないのか?

死ねよ、ゴミが……」

 

こんなゴミクズには触れたくない。そう思った彼は妖怪の露出した心臓に糸を巻きつけ、きつく締めつける。圧迫された心臓はいとも容易く破裂してしまった。妖怪は血を吐いて絶命する。

妖怪たちを殺した平は地面に座り込んで震えている少女に手を差し出す。しかし、少女はその手を取ろうとはしない。

 

「大丈夫か?良ければ、家まで護衛するが?」

 

「妖怪なんて信じられないわよ!どうせ、あれでしょ!貴方も私を助けるふりして食べるんでしょ!?」

 

「…はぁ……」

 

平は少女の返しにため息を吐く。もうわけがわからない。つい最近まで、街の人間に愛されていた自分が何故嫌われなければならないのか。不思議で悲しくて仕方がなかった。それでも、この少女には家まで安全に帰ってもらいたい。その考えが彼を動かした。

 

「俺は人間を食うことはないから安心してくれ。そもそも人間大好きだから、食べたくないし……」

 

「信用できないわね。」

 

「信用してもらわなくても結構。ほら、案内して、家まで連れていくから……」

 

「ち、ちょっと⁉︎何するのよ⁉︎」

 

平は突如として少女を背負った。少女は驚き、平の頭をポカポカと殴る。しかし、平からすれば、その攻撃は痒いくらいである。

 

「どちらにしろ、このままじゃ危険なはずだ。それなら、少しでも安全な方法を選んだ方が良いだろ?」

 

「……ホント…悪いヒトね。」

 

平は少女に案内され、彼女の住んでいる人里に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里の入り口に着いた平は少女を下ろした。少女は人里の門へかけて行ったが、くぐる前に立ち止まり、平の方を振り向いた。

 

「ありがとう。お礼だけ言っておくわ。」

 

「どういたしまして。」

 

少女はそれだけ言うと、門をくぐって人里の中へ消えていった。平はそれをただ笑顔で見送った。

少女の姿が完全に見えなくなったとき、平は人里に背を向けて歩き出した。当分の間はこの周辺に住むつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平は人里からあまり離れていない場所に放置されている農作業小屋を見つけた。住めそうということを確認した平はそこに入るとすぐに掃除を始める。雨風をしのげれば、それでいいのだが、さすがに汚いのはどうも好きになれない。

家の中の埃を全て外に追い出し、断熱材兼壁紙として粘着性の無い糸を壁に隙間なく貼り付ける。ほんの3時間で家の内装が出来上がってしまった。平からすれば、もう少し部屋が欲しかったのだが、屋根裏があっただけ良しとした。農作業小屋なのだから仕方がない。

 

「さて、今日はもう遅いし……さっき捕まえたコオロギでも食って寝るか。」

 

平は備えつけてあったかまどでコオロギを加熱調理して食べると、糸で布団を作り、屋根裏で寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平が幻想郷に来て1カ月。人里ではどんな病でも治す医者が人里の外に住んでいるという噂が流れた。しかも、人間ではないらしい。

人里の守護者、上白沢 慧音はその噂の真相を確かめるべく、医者がいると言われる古い農作業小屋へ向かった。

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