東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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新章早々、更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
言い訳をするつもりはないので理由は言いません。知りたい方にヒントを出すなら、学生が必ず直面する壁です。

では、4章スタートです。


第四章 狩人王と傍若無人なる王
第七十六話 彼岸へ


範人は夢を見ていた。

燃える街、火だるまになった人々、その爪と牙を血で濡らした化け物たち。街中に肉の焦げる嫌な匂いが漂い、響き渡る轟音と悲鳴はフライドチキンの骨にこびりつく肉のように耳から離れない。その様子は正に地獄絵図。

進みたくなくてもそこは夢の中。進みたくなくても夢の中の範人は勝手に歩みを進める。いくら念じてもその足が止まることはない。

ふと、範人が自分の手を見れば、その手は血で真っ赤になっていた。そして、靴を見れば、靴には誰のものなのかわからない…グチャグチャに混ざり合った体組織がべっとりと付着していた。一歩踏み出す度にグチャグチャと不快な音と地面に吸い付く感触を伝えるそれに範人は苛立ちを覚える。「チクショオ!」と空中に蹴りを入れても、体組織が靴を放すことはない。範人は小さく舌打ちをすると、元のようにまた歩き始めようとする。

しかし、その足が地面を離れることはなかった。足が上がらないのだ。靴に付着した体組織は地面をしっかりと捉え、吸着してしまった。ただ、それだけならまだ良かった。

グチャグチャになった体組織が再生するかのように増殖し、範人の身体を這い登ってきていたのだ。血に濡れてヌルヌルとした肉が…死んで冷たくなっている肉が肌に直接触れて、しかも動いているなど不快以外の何物でもない。

体組織はだんだんと範人の身体を包み込んでいく。そして、体組織はついに顎のすぐ下まで迫ってきて……

 

「ギャアァァア!」

 

範人は目を覚ました。恐ろしい、極上に嫌な夢である。身体中が汗でビッショリだった。

時計を見ると、朝の4時。もう早朝である。範人は普段、二度寝は絶対にしない。範人はすっかり覚めてしまった目を擦りながら、水を飲むためにキッチンへ向かった。

 

 

 

 

家の中には範人以外誰もいない……はずだったが、何故かリビングの明かりが点いていた。

最初、範人は紫だと思った。しかし、開いている窓を見て、そこにいる者が誰なのかを確信した。窓から入ってくる者など、この幻想郷では1人しか知らない。

彼の思った通り、リビングにいたのは赤髪の女性だった。

 

「誰だ?」

 

範人は威嚇するような低い声を出し、女性に覇剛剣アルゴスを背後から突きつける。振り向いた女性は範人の鋭い目付きと自身に向けられている刃物にギョッとした表情を浮かべた。しかし、一瞬で表情を落ち着かせ、範人に話しかける。

 

「範人、あんた…アタイの顔を忘れたのかい?」

 

女性の言葉に範人はフッと笑い、剣を下ろす。彼自身、攻撃するつもりは全くなかった。ただ単に、剣を突きつけた方が面白そうだったからで、そうした方が話しやすいと思ったからである。これくらいの冗談が彼らには丁度良かった。

 

「忘れるわけねえだろ、こまっちゃん。」

 

「楽しみを求めるその性格は相変わらずだねぇ。」

 

女性…小野塚 小町は範人を見て苦笑する。そして、彼の様子を見て、ずいぶん成長したということを感じとった。

客を待たせては悪いと思った範人が提案をする。

 

「何の用かはお茶でも飲みながらゆっくりと聞こう。入れてくるから、待っていてくれ。」

 

「もちろん。ついでにマイ箸も持ってきたよ。」

 

「朝飯食ってく気満々かよ……」

 

範人は苦笑し、キッチンに向かう。数十秒後、紅茶パックの入ったティーカップとお湯の入ったポットが範人によって、運ばれてきた。お湯をティーカップに注ぐと、数秒後には紅茶の香りが漂い始めた。

範人は紅茶を飲むことなくキッチンに戻り、適当に朝食を作り始めた。朝食には少し早いが、彼にとっては大した問題でもなかった。そもそも、お客を待たせることの方が彼にとっての問題だった。お客ではなく、不法侵入者とも言えるだろうが……

 

 

 

 

「なるほど、それでここに来たと……」

 

「ああ、そうだよ。映姫様が『会いたい会いたい』ってうるさくてねぇ。アタイもおちおち寝てられなくてさ。

で、来てくれるかい?」

 

「(仕事中に寝ているあんたが悪い。)ああ、良いよ。映ちゃんが待っているんだろ?」

 

「よしっ!ありがとう。さあ、早く行くよ!」

 

範人は小町の言葉に苦笑いしながら答える。その答えを聞いた小町は大喜びし、範人の腕を強く引っ張る。範人はその手を軽く振りほどき「準備がある」と言って、シャワーや着替えなどの身支度に向かった。

数分後、戻ってきた範人の姿はいつもと少し違い、白衣の代わりに白いラバーコートを来ていた。本人曰く、ちょっとしたオシャレだと言う。前を開けている時点でそちらに目が行ってしまい、いつもと大して変わらないような気がするのだが……

 

「あの白髪の娘は連れて行かなくてもいいのかい?」

 

「ん?白髪……ああ、妖夢のことか。今日は休暇をもらってないらしいから、連れて行くことはできないな。」

 

「そうかい。じゃあ、行くよ。」

 

小町の言葉に範人は少し考えながらもなんとも普通に答える。範人としては一緒に居る時間が長いことは嬉しいのだが、さすがに本来の仕事をしないということを良いこととは言えない。幽々子なら普通に休暇を与えそうだが、今日はしっかりと白玉楼で仕事をしてもらうことにしていた。

範人と小町は小町の能力を利用して、たった数歩で三途の川岸に辿り着いた。

 

 

 

 

コックリコックリと揺れる船。雰囲気のせいか、三途の川の水の色はどこか赤く見える。そんな川を横切る船の上には男女が一組。彼らが話に花を咲かせていたため、その周りだけは澄んだ水が流れているように見える。周りを通る船の死神や亡者たちはその様子を羨ましそうに眺める。

小町は良い話し相手だ。サボり癖を良くは思えないが、話し相手としてこれほど良い者はいない。聞き上手であり、同時に話し上手。彼女の話し方にはどこか惹かれるものがあり、聞き方も時折打つ相槌が話す者をリラックスさせる。

範人は元の世界での仕事のこと、そして、自身の起こした破壊について話した。小町はその全てを真剣に聞き、全てに対して的確に返した。全てを話し終えた範人はスッキリとした表情になっていた。

 

「範人も大変な仕事をしているんだねぇ。やっぱり、あんたはすごいよ。」

 

「そう言ってもらえるとはね……ん?ありがとう?」

 

「なんでそこで疑問形になるのさ?

でも、まさかあの時の大量の亡者たちの原因が範人だったとは……まぁ、ほとんどが悪人だったから仕方ないね。」

 

話している内に船は岸に辿り着いた。どこを向いても目に入る色は赤が混じっている。その血ともトマトとも言えない赤は現世とは全く違う雰囲気を醸し出していた。ある意味、Dr.bloodにはお似合いの場所だろう。

範人が岸に降り立った途端に周りの死神たちの視線が一気に彼に向けられる。何度も死にかけ、その度に圧倒的な生命力で蘇った範人は彼岸で伝説として語られ、彼岸では超有名人なのだ。そして、彼岸の常連になったことで気がつけば、閻魔…四季 映姫・ヤマザナドゥとも仲が良くなっていたのだ。

範人が映姫の元へ向かって歩いていると、周りの死神たちが挨拶を交わしてくれる。中には酒を勧めてくる者もいた。有名人というものはこのように様々な特典が付くものなのだが、それは同時に噂が立ちやすいということでもある。そのため、あるときは閻魔である映姫と付き合っているなどというかなり衝撃的な噂が立ったことさえある。現在はそういった噂も落ち着いてきたが、妖夢と付き合っているという事実が広がったせいで……

 

「やあ、範人さん。妖夢っていう娘と付き合っているって聞いたけど、今日はその子を置いて、映姫様の相手をするのかい?」

 

いつの間にか立っていた噂を聞いて、範人は小さくため息を吐く。彼自身、噂が立つことは仕方がないことだとわかっているのだが、浮気をしているなんて噂はまっぴらごめんである。

範人は声をかけてきた死神に超速の弾幕を飛ばし、誰も気づかないように一瞬で気絶させた。死神はその場に立ったまま、白目をむいて気絶しているが、範人はそれに構うことなく歩みを進めた。

 

 

 

 

範人と小町が辿り着いたのは巨大な扉の前。その扉の向こうには映姫が居る。

範人が扉をノックすると、突如として扉が開き、1人の少女が飛び出してきた。驚いたことで動けなかった範人は飛びつきをモロに受け、仰向けに押し倒されてしまった。

範人は映姫の行動に苦笑する。体格故に決して重くはないのだが、恋人のいる身としてはその体制はなかなか危険なものがあった。

映姫は苦笑する範人の心などお構いなしに挨拶をする。

 

「範人さん、久しぶりです。」

 

「映ちゃん、久しぶり。口調と行動が噛み合っていないんだが?」

 

「ふふふ、お話は中でしましょうか。小町はここまででいいですよ。」

 

「え?は⁉︎いきなり⁉︎」

 

映姫の言葉に小町はそそくさとその場を退散しようとする。範人は助けを求めるように小町に手を伸ばすが、映姫に引きずられて扉の向こう側へと消えていった。範人の身体が扉の中に完全に入ったところで扉はバタンという音を立てて閉じた。

1人になった小町が小さく笑いながら、つぶやく。

 

「さーて、映姫様もしばらく出てこないだろうし、昼寝でもしようかねぇ。」

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