Episode Magica ‐ペルソナ使いと魔法少女‐ 作:hatter
作品投稿はこれが初めてになりますのでよろしくお願いします。
この作品には以下の注意点がありますので目を通してから作品をお読みください。
①作者による独自解釈・設定、原作改変
②ドラマCDネタ出身がストーリー展開に関わる
③P3原作及び、まどマギ本編のネタバレを含む
④キャラの口調や性格が技量不足により原作と若干違う可能性あり
また時系列としてはP3サイドはフェスの後日談を経たその後にまどマギの本編に関わる形です。
以上を踏まえた上でどうぞお楽しみください。
どんな物語であろうと、それには必ず『始まり』と『終わり』が存在する。人が生を受けた瞬間にいつかは訪れる絶対の死があるのと同じように、一定のルールの上で成り立ってこの世界は回っているのだ。
死なない命が無いように、時間が止まらないように。覆らない理は無慈悲に結末だけを突きつけ、その度に終わりを迎え、また始まる。
そしてこれは生命の滅びという『終わり』を免れた世界の延長線で始まった一人の少女の旅路。最早始まりも終わりも無くなってしまった旅路を、交わした約束だけを頼りにひたすら歩く。
どんな困難が立ちはだかろうと、歩みを止めず、己の信じるがままに。ただ自らの望む結末があると未来に淡い希望を夢見て──
◆◇◆
2010年5月28日・金
もうすぐ初夏を迎える頃となった5月下旬は、次第に太陽の昇る位置も真上に近付き、日中の気温も高まっている。梅雨が訪れる時期に差し掛かるに当たって、分厚い雲が空を覆うことも多くなり不安定な日が続くことが増えてきた。しかし、長期休暇も迫り夏休みを待つ学生達にとってはあまり気にするような事ではなかった。朝には長期休暇の間にどう遊ぶかなど友人と駄弁りながら登校する学生の賑やかな声が街の至る所から聞こえてきていた。
だが、今日5月28日は街のどこを見ても人っ子一人すら見当たることはない。街から人が消え、まるでゴーストタウンとも言えるほど静まり返っていた。それもその筈。早朝からこの街、見滝原には全ての住民に避難勧告が発令されているからだ。
時刻は午前7時を回った頃。突如として発生した超巨大な乱気流の塊、スーパーセルが街一つを覆い隠すように停滞していた。突風が閑静な住宅地を駆け抜け地面から剥ぎ取り、雷鳴が空気を爆発させ絶え間なく響く中では常人に認識することも出来ない事象が起きている。自然現象とはかけ離れた”異物”を中心にして。
国内で観測史上最大の規模を誇る嵐の中は普通の災害とは一線を画す出来事も起きてしまう。およそ予想しきれない奇想天外な被害をもたらし、今日と言う日はそれが当てはまった。その自然の怒りとも違いない嵐が吹き荒れる異常な空間に歪みが生じた。
地上400メートル付近で確かに空が、凹んだような、捻れたような、明らかな異変を見せた。同時に耳を劈く狂気じみた女の笑い声が何処からともなく聞こえ、沈みきった街に降り注ぐ。歪みもさらに大きくなり揺れ始める。まるで”何か”が始まる暗示をしているかのように。
歪みは揺れる度にその揺れ幅を広げる。歪みの揺れも、もうこれ以上広がりきらない程まで広がりカウントダウンは終わりを告げ、”何か”が始まった。
終わりを告げた途端に風の吹く音に変化が起きた。ただの自然災害でしかない筈のスーパーセルでは有り得ない光景が広がる。台風や竜巻が起こった際に紙くずや瓦程度であれば風に煽られ飛んでいても不思議ではない話だが、細かな残骸を飛散させながら宙を舞っているのは間違いなく高層ビルであった。数千トンはある高層ビルが根元から千切られ、まるで木の葉の様に吹かれ、飛ばされる。それも一つではなく、無数に飛び交っている。しかし、これもまだ可愛げのある異常さであった。
歪みの終わりと共に突如発生した視界を奪う白い霧。瞬く間に霧は街全体に魔の手を広げる。そしてその上に顔を出しているのは天を仰ぎ、泥のように濁った雲を捉えようとする鋭利な枝を持つ巨大過ぎる樹だった。一体いつからあったのか、いつ現れたのか分からない実も葉もつけていない枯れた黒い巨木。
舞台は整った。残すは主役の登場だけ。
巨木の影から揺れる青い布のような靡く物が見えた。人が走るより速いくらいの速度で一部から全体へと見える範囲は広げ、だんだんとその全貌が明らかになる。それはこの異常と異変の元凶である”異物”。
荒れ狂う暴風をまとった巨大な舞台装置が、高笑いを響かせながら見滝原上空にパレードを引き連れて姿を見せた。赤や緑のカラフルな色をした象と人の膝下より小さいぬいぐるみの人形。無数の異形が盛大に騒ぎ立てて狂ったように踊る。暗い雲の下では、盛り上がりに応えるようにして空に浮いた直径100メートルを軽く超える複雑で鮮やかな七色の円が一層艶やかに映える。誰も待ち望まない悪夢の劇団は、静かに、錯乱し、狂乱し、絶叫し見滝原で演劇を始める。
湧き上がる歓声替わりの嘲笑。ラッパ代わりの破壊音。舞台より舞い降りた影の道化がワルツを披露して観客を楽しませる。必死に踊るその様は懸命その物である。たった二人しか居ない観客を前にして。
「来るよっ!」
「ええっ!」
踊る道化の前に居るのは桃色の髪を両サイドでまとめた少女と、黒髪を三つ編みにしたおさげに赤いフレームの眼鏡をかけた少女。どちらの少女もこの場にそぐわないであろうメルヘンチックな衣装に身を包み、異物を見上げている。むしろ舞台の上ではそのような派手な装いの方が楽しむにはよいのかもしれない。だが、二人は決してこの狂った演劇を楽しむ為にそこに立っているのではない。二人の表情は揃って闘志と言う年端もいかない少女には無縁に近い感情で満ち、常に空を浮遊する逆さの人形を睨みつけている。
現在、見滝原の命運はこの二人の少女に託されている。二人の少女は奇跡を起こす役目を負った希望の存在『魔法少女』と呼ばれ、魔法を駆使し悪の根源であり人々を死に追いやり呪いを蒔く絶望の存在『魔女』を討ち倒す者達。この日が来るまでにも数多の魔女を討ち倒し、来るべき脅威が訪れるこの日の為に少女は戦ってきた。己の掲げる正義の為。希望を抱き諦めない為。魔法少女の在るべき生き方として。桃色の髪の少女はそう思い、手に持つ魔を祓う力を宿した聖弓を握りしめる。そしてそれ以上にも、それ以外にもより強い思いを胸に秘めながら黒髪の少女は隣に立っていた。
桃色の髪の少女は眉間に深い皺を刻み、向かってくる影だけを取り出したような真っ黒の道化に矢を放つ。容易く道化は爆ぜて黒い液体をぶちまける。それを合図に今宵魔女の夜宴が開演した。
台風や竜巻の災害を人間が意図して止める事が出来ないように、この舞台装置の夜宴を妨げる術を持つ者はこの世にいない。魔女を討ち倒す力があるとは言え、たかが”それだけの力”しか持ち合わせていない少女に目の前で街を蹂躙する災害となんら変わりの無い圧倒的な存在を討つことは叶わない。
それでも少女達二人はそんな避けようのない窮状でも臆することなく目の前の困難へ勇敢にも立ち向かおうと奮闘する。その全ては傍らに居るたった一人の少女の運命を変える為の戦い。希望を胸に秘め、眼前の巨悪へと立ち向かう。
破滅を振り撒く劇団が容赦なくビルを薙ぎ、七色の炎で地表を染め上げ灰塵と帰す。悪を滅ぼす魔法少女が一矢で虹炎を払い、またある魔法少女は黒く光る科学兵器から射出された鉛の弾丸で道化の頭を撃ち抜き、爆弾で群がる影を押し退ける。しかし脇役である魔法少女の声は舞台の主役には届く筈もなく、一蹴されるだけで近づくのもままならない。無力にも少女達の努力は報われず、瞬く間に見滝原は舞台装置の演技により廃都へと変わる。闇はさらなる闇を呼び、破壊の限りを尽くす。
まるで魔女の夜宴の夢だったかのように。
穏やかな風が撫でるようにしてビルの合間を抜けて静かな時間が流れる。嵐は過ぎ去り、瓦礫の山に雨が降り注ぐ。その静けさが本当に先の嵐が夢ではないかと見る者を思わせる。しかし割れた雲から射し込む太陽の光が荒廃した街並みを照らし、逃避できない現実を突きつける。この街の住人は皆避難していない。そこに居るのは二人だけだ。誰かに知られるでもなく、戦いに敗れ、敗者である二人は地面に這い蹲り水溜まりに身を浸からせて静かに息をしていた。冷たい水が体温を奪うより、命が尽きるのが先に訪れる。そして絶望を振り撒く人ならざる者へと生まれ変わる。
どうしようもないこの世界の守る意味を見出だせず、黒髪の少女の胸には全てを諦め二人で何もかも滅茶苦茶にしたい気持ちがどこからもとなく湧いて出てきた。黒く穢れた感情。希望の存在であらなければならない魔法少女としてはあってはならない意に反した考え。虚ろな瞳が映すのは街の残骸だけで何も守れやしなかった事を物語っている。
自分は頑張った。自画自賛でもない客観的な評価。百人に聞いても百人がよくやった、頑張ったと言ってくれるに違いない偉業を為したのだ。だからもう諦めてもいいではないか、と。そこまで少女は追い詰められていた。最早希望など無い。あるのは自分の無力さとどう最期を迎えるか考える余力のみ。完膚なきまでに叩きのめされ惨めさを味わい、それらを忘れられるくらいに世界を壊したい。『あなたもそう思うでしょ?』と問い掛けるように頭を横に向けると、隣に横たわる少女もこちらに向いており、意図せずとも目が合った。そして黒髪の少女は驚きと疑問に襲われる。自分と同じように絶望したと思っていた少女のその瞳には希望がまだ宿っていたのだ。自分の手に彼女の手が重ねられながら。
黒髪の少女がこちらを向いて目が合った。桃色の髪を両サイドにまとめた少女は、そんな悲惨な状況を忘れさせるようににっこりと微笑む。こんな状況でも笑う自分に呆気にとられたのか口がパクパクと開いたり閉じたりを繰り返す黒髪の少女。そして驚きから疑問、驚愕の表情へと一変。それは重ねた手の内にある物を見たからだ。
無いと言っていた一つの災厄を生む種を宝石の形をした命に当てながら。
「なんで……私になんか…!」
「わたしにはできなくて、ほむらちゃんにできること…お願いしたいから」
笑ったまま少女は続けた。
「ほむらちゃん…過去に戻れるんだよね? …こんな終わり方にならないように、歴史を変えられるって、言ってたよね…?」
その笑みは誰がどう見ても無理矢理に作っているものだと分かる。涙声になり、笑っていた顔が悔しそうに徐々に崩れていく。でもまだ笑っていたい。目の前に居る少女『ほむらちゃん』にはそんな悲しい顔をしないでほしいから。それでも涙は流れる。ほむらが悲しそうにしているからなのか、自分の無力さに泣いているのか自分ですら解らなくなり、大粒の涙が頬を伝って雨と一緒に水溜まりへと加わる。
「キュゥべえに騙される前の、バカなわたしを…助けてあげてくれないかな?」
自分を救ってほしい。これがほむらの最も大切な人『まどか』からの悲痛な願い。自らの運命を知ってか、それとも過去の自分の運命を変えて後の悲劇を回避しようとしているのか。そしてそんな希望をまどかはほむらに託そうとしてくれた。まどかは他でもないほむらに自分にとっての希望となってほしいと。
自分に希望を託してそれが叶うと願い、命を磨り減らしながらも言葉に紡いで言ってくれた。だからほむらも折れず、絶望に身を委ねかけた安易な気持ちをすぐに消し去った。まどかはまだ希望を捨ててなどいない。それだけでほむらも立ち上がれ、何度でも立ち向かえる。
どんな理由があろうとこの約束は絶対に果たさなければならないと時間逆行者、暁美ほむらは心に誓った。彼女はその為に繰り返しているのだから、必ず。
「約束するわ! 絶対にあなたを救ってみせる…何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる!」
自分自身への誓い。守る。ほむらの願いは目の前にいるまどかに守られるのではなく、まどかを守る自分になること。そして救う。過去にそう願い、そうするが為に全てを捨ててでも為し遂げる覚悟はとうの昔に出来ている。
それだけを目的として戦ってきたのは言うまでも無く、それがほむらの戦う理由だ。故にこの願いを引き受ける。これがまたまどかの願いであるなら尚更に。
「よかっ…た……ぅぐッ!」
ほむらの固い決意と約束を聞いて安堵の息をつくまどか。けれど、すぐにそれは苦痛に続く悲鳴へと変わった。今まで味わったことのないような苦しみに、体をよじり必死に耐える。穢い感情が心を満たしていき意識が飛びそうになるもなんとか意識を保つ。命の宝石は形を変え、魔女の卵へなろうとパキパキと音を立てながら幾筋のひびが走り、黒い球体になっていく。それを押し殺してまどかは涙をポロポロと零すほむらに消え入りそうな声で言う。
「もう一つ、頼んでいい…?」
掠れた言葉の先に何を言うのかほむらは瞬時に理解し、同時に否定しようとまどかの目から逸らした。しかし聞きたくもないが、これが少女の最後の願い。ほむらはもう一度まどかと向き合い決意を固め涙を浮かべただ頷いた。
「うん…」
「わたし、魔女にはなりたくない。嫌なことも、悲しいこともあったけど…守りたいものだって、たくさん…この世界にはあったから」
まどか自身も解っている。このまま自分が魔女になれば世界にどれだけの災厄をもたらすのか。残った力を振り絞ってソウルジェムかグリーフシードか判断のつかない黒い物体を、皮膚が裂けて血の滲んで震える手の平に乗せて持ち上げる。この願いがどれだけほむらに酷な事かはまどかも知っている。だとしてもまどかほむらに頼んだ。願った。希望を託して、これを礎として。
「まどか…!」
「ほむらちゃん、やっと名前で呼んでくれたね。嬉しい…な」
まどかはまた微笑んで見せた笑顔は儚くそして力強かった。ここに来てまだ絶望に屈さず、希望と安堵に満ちて。そしてまた今この笑顔を奪うのは約束をしたほむらだ。まどかは笑っているのに、ほむらは反対に涙を流す。変身して拳銃を構える。胸が締め付けられ、噛んだ唇から血が出ても噛み続ける。指に力を入れても引き金を引くことが出来ず、喉が張り裂けんばかりの唸り声を上げた。
「はっ…ぅ、ぐっ…うぅ…ぬうううううぅぅぅ!!」
閃光が瞬くのとほぼ同時に乾いた発砲音が辺りに響き渡り、まどかの挙げられた手は支える力をなくして音もなく下ろされた。心臓の鼓動も止まって次第に冷たくなっていく少女の亡骸を前にほむらは泣き崩れる。返事をしないまどかの遺体にすがりつき、幼い子供の様に泣き続けた。
「ッうぁぁああああ…っ…ぅう……あああぁッ! ああぁうぅっ! …………ま…どか………っ…」
震える両腕でまどかの遺体を胸に抱きかかえ、涙を流す。そして思い立ったようにほむらは泣き止み、まどかを平らな瓦礫の上に寝かし、踵を返して背を向ける。左手に装着された軋んだ盾に手をかけ、静かに回した。
雨が降りしきる中、鹿目まどかの亡骸だけがあった。それはまるで幸せな夢でも見ているのではと思う程に安らかに。口元は僅かに笑みを残したままに。感情を爆発させて咽び哭いていた暁美ほむらの姿はもうどこにもなかった。
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