Episode Magica ‐ペルソナ使いと魔法少女‐   作:hatter

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 眩しい姿(2010,5/8)

 

 きらきら。ぴかぴか。てかてか。輝きを表す言葉など辞書から引けば何個もあるが、その全部が満遍なくここにはあった。

 

 どこを見渡しても目に入るのは七色に色が変わり続ける宝石のような不思議な樹木ばかり。見上げると遥か高い所で木々の枝と枝が絡み合い自然の屋根が形成されている。木漏れ日が巨大な樹木を照らすと光を拡散し周囲は明るかった。もちろんこれらが自然な物である筈のない紛い物というのは全員が解っている。

 

 だが、それでも目に映る七色の世界は幻想的で煌びやかなものだ。

 

「二人とも離れないようにね」

 

 四人と一匹が踏み込んでいるのは探索により見つけた結界だ。マミ曰く、今回の魔女退治はほむらの実力を測るためというのもあるらしい。少々それは厄介だなと思いながらほむらは先頭に立って歩いていた。カフェを出る際もどう立ち回るか考えたりしたが、これがなかなかに難しい。自分が魔法少女になった直後の魔女退治を思い出して参考にしようかと思っても、それはそれはひどい活躍振りであった。

 

 過去のマミは足手まといにしかならなかったほむらを鍛え上げてくれた。この世界のマミが、その時のマミでなくても彼女には感謝している。あの時マミにはまどかという相棒がいながらほむらを歓迎した。きっと彼女はどうあってもほむらに手を差し伸べただろう。お陰で自分の戦闘スタイルを見出し、ここまで生き残ってきた。そしてその戦闘スタイルは体に染み付いて一定のパターンと化している。 

 

 これがまたほむらの中で問題なのだ。魔女との戦いで生きる術だが、何せそれ以外の戦い方をほむらは知らない。魔法で時間を止め、その間に目標に接近して銃をありったけ撃ち爆弾を置く、そして再び距離を取って魔法を解く。相手がよほど頑丈だったりしなければこの1回で大抵は片付いてしまう。時の止まった世界においてほむらに干渉出来る存在も無く、一方的な攻撃が可能。強力な魔法だがマミの魔法に比べると応用が極端に効かないのが今の難点だ。

 

 動かない的に近づけばいくら素人でも弾くらいは当たる。そんなので魔法少女の初心者と思わせるには材料が少なすぎる。

 

(何か良い方法は……)

 

 ほむらは自分の魔法の特性を解らせず初心者らしさを醸す方法を頭の中で模索した。隠したいが為に魔法を使わなければ怪しまれる。普段通りの手際でやればこれはこれで怪しい。そこでほむらは一つの考えが思いついた。

 

(……これなら良いかもしれないわ。きっとマミはまだ私の魔法の能力をうまく解っていないはず。だったら言うなら今がいいわね…)

 

 魔女の寝床目指し木々の間を歩きながらほむらはゆっくりと後ろに振り返った。辺りに警戒を向けていたマミもほむらが立ち止まったのに気付いてそちらを見て止まる。

 

「どうしたの暁美さん?」

 

「たぶん巴さんはもう分かっているかもしれませんが、一応私の魔法について言っておきます。私の使う魔法は”瞬間移動”です」

 

 マミが確信を持っていない今、自身の魔法について語れば信じ込ませることは出来るはず。それも『巴さんはもう理解出来ているわよね?』と、さも本当のことを言っている風にすれば納得させ易い。時間停止の魔法も工夫しだいで瞬間移動の様に見せ掛けられる。

 

 昨日も身投げをした女性を助けた際にほむらの魔法を瞬間移動と勘違いしていたのだ。

 

「やっぱり暁美さんの魔法は思った通りそれなのね」

 

 予想通り乗ってきた。やっぱりね、といった感じに誇らしげな表情を浮かべるマミ。ここからはあまり疑問を持たせず、さらりと次の話題に移ってしまう。

 

「ええ。でもそれ以外に魔法がないから私はこういうのを使ってるの」

 

 左腕の盾から黒光る拳銃を取り出した。手に入れた頃からのお気に入りでこれまで幾度となく世話になった愛用の一品『デザートイーグル』。引き金を引くだけで簡単に人を殺められる物騒な代物だが、ほむらにとっては心強い武器となる。

 

 普段見ないような物を目にして他の三人は一瞬驚く。特にまどかとさやかは僅かに身を引くほど驚いている。

 

「ええと、なんて言うかあれね。昨日も思ってたけどよくそんな物を手に入れられたわね」

 

「そうかしら? 魔法少女に出来ないことなんてないわ」

 

「いやそういう事じゃないでしょ!」

 

「ほむらちゃんそれ危なくないの?」

 

 危なくないのかと問われても、今はそれほど危ないと認識していない。こういった銃の類いとはもう随分長い付き合いをしてきた故に、体の一部のようなもの。触り慣れすぎて目隠しをしていても手元が狂うことも無いくらいだ。

 

「まどかが持つには少し危ないかもしれないわ。でも使い方さえ誤らなければそこまでじゃない」

 

「あはは、普通使い方知ってる子いないと思うんだけど……」

 

 そう言うまどかの横でうんうんと首を縦に振るさやか。マミも苦笑している様子。ほむらも何とか話しを魔法から逸らせることに成功した──と思ったがそうはいかない。

 

「なんなら暁美さん、私が修行でもしてあげましょうか? その盾から取り出すタイムラグを考えたら即座に対応できる攻撃も必要だと思うの」

 

「いいえ大丈夫よ巴さん。そう言ってもらえるのは嬉しいのだけど、私のこの魔法は本当にこれだけなの。他に応用出来ないか私自身試してみたけど無理だったから」

 

「あら…そうなの? 何だかもったいないわね」

 

 タイムラグもなにも、魔法を行使している間は時間の流れが止まるので攻めに遅れる心配はない。加えて他に応用出来ないというのは嘘だ。本当の魔法は『瞬間移動』ではなく『時間停止』であり、停止している際にほむらが意識して触れる対象の時間を動かすのは可能である。さらには自分の時間を速め通常よりも素早く動くこともできる。

 

 かといってこれが直接攻撃に転じるわけではない。あくまでも補助的な魔法な上、ほむらが他に出来るのは魔力を固め打ち出すくらい。

 

 もう一つマミの言ったもったいないというのが何を意味するのかほむらはなんとなく判る。きっと魔法を使った際の必殺技名だろう。それは丁寧にお断りしたい。いくらなんでも今の自分には恥ずかしくて無理だ。出来ても可能性は何十周か前のほむらならあるいは──

 

「でも暁美さんが自分で鹿目さん達を守ると言ったくらいだから今日は任させてもらうわ。それに気付いているかもだけど、今回は魔女じゃなくて使い魔が相手よ。腕試しにはもってこいね。でも昨日一緒に戦った相手に比べたら簡単だったかしら?」

 

 今度はマミの方から話題を変えてきた。先程も言ったほむらの腕試し。どうやら意識はそちらに移り変わりつつあった。

 

 同時にほむらは、ああ、なるほど──と内心納得した。この結界に入る前から思っていた疑問が晴れた。入口に立った段階で魔女と比べるとやけに魔力の波動が弱いことは気付いていたが、それをもしかするとマミが読み間違えたのかと感じていた。実際は狙ってここを目指していたのだと。

 

 出発する前にはカフェで自分一人に戦ってもらうと言ったのを覚えている。さっきまでどう立ち回り魔女を倒すか考えを巡らせ続けいた。ただし今回その敵は強大な魔女ならぬ使い魔らしい。敢えて魔女ではなく使い魔の結界を選んで来たのも、きっと魔法少女『成り立て』のほむらに合わせてだろう。相変わらずこの人は優しくて良き先輩だ。

 

 恐らくどれだけの下手を打っても今日ほむらが怪我をする事はまずない。使い魔相手に隙を突かれても必ずマミのフォローで助けられる。任せると言いながらもいざとなれば手を借すのだろうと予想できた。甘やかしではなくこれが多くの経験から見た巴マミという魔法少女の在り方とほむらは確信している。見返りを求めない善意を彼女は後輩に、仲間に無償で果てなく向ける。こんなタイプの魔法少女どこを探しても他にいないだろう。

 

 それもこれも後輩たるほむら達と共に居たいから。何よりも一人を恐れるマミがみんなに離れて欲しくないから。彼女の優しさであり、また誰にも打ち明けられない弱さ。故にマミは三人の前で頼れて、優美な先輩であろうとする。

 

「ええ、使い魔だろうと容赦しないつもりよ。巴さんに見てもらうだけで今日は終わるわね」

 

 ならば期待に応えよう。厄介に思えていたが手を抜こうなどとは考えていない。魔法少女として素人を演じ、怪しまれない程度の実力を示そう。ほむらの中で決意が固まった──

 

 

 

 

 

 結界の深部に辿り着くまでに多くの使い魔が待ち構えていた。どこからでも湧く使い魔の波。ここまで来るのに一体いくらの銃弾が消費されたことか。これもそろそろ終わりが見えて来た。

 

 ほむらが一つ深い呼吸をして走り出す。視認するだけでなく気配でも使い魔共の居場所を把握し頭に手順を描いていく。

 

 地面を蹴って高く飛び上がった。重力に任せ今度は自由落下の速度で降りる。着地するであろう場所に居るのは四つん這いの爬虫類に似た使い魔。全身が宝石で構成された異様な姿。よく見なければ周りの樹木と同化して見落としかねない。すかさず機械仕掛けの盾から手に馴染む愛銃を取り出し、使い魔目掛け素早く発砲した。

 

 頭、胴を正確に撃ち抜き無力化される。さらに着地の瞬間に身を捻り、背後から大顎を開けて噛みつこうとする使い魔の口腔にグレネードを投げ込み下顎を蹴りあげ閉じる。無理矢理閉められた顎は噛み合わせの衝撃で砕けた。

 

 後方へ飛び退くのと同時にトカゲ型の使い魔が内側から爆発する。

 

 着地位置から距離を取りながら全方向に警戒を巡らせた。認識しづらいがすぐ横を通り過ぎた木にも無数の使い魔がへばりついている。辺りの景色に馴染み姿を捉えるのが面倒だなと独語した。

 

「どうやらこの結界は魔女の元から離れた使い魔達が集まって出来ているのね。もしかすると強い個体が居るかもしれないわ、気を付けて暁美さん」

 

 魔力の障壁で覆ったまどか達を背にマミが離れた場所からこちらの様子を見ていた。いつでも加勢できるよう数丁のマスケット銃が突き立てられ、手にも1丁握られている。それを見てほむらの口角が僅かに上がった。

 

「これくらいまだまだ余裕よ。なんなら巴さんは紅茶でも飲んでいても大丈夫なくらいだけど」

 

「あら、まだまだいけそうね。でも慢心は禁物よ。戦いの中じゃ些細なことでも命取りになるんだから」

 

「そうね」

 

 実際油断すればベテラン魔法少女だろうと下級の使い魔から致命の一撃をもらう事はある。その一撃は魔法少女に苦痛を与えて思考を鈍らせる。行動にしても余裕を見い出せなくなり最善の一手を打ち損なってしまい、そこからは悪循環に陥りじわりじわりと詰められる。どれだけ余裕に振る舞ってもそれを慢心と入れ替えてはいけない。その点はマミも強く念を押している。

 

 結界の中に安全地帯など何処にも存在しない。敵の縄張りに自ら身を投じて戦いの場に躍り出るのだからそれ相応の覚悟をもって挑まなければならない。そんな場所へ慢心など持ち合わせのは愚か者か恐怖を忘れた者か。

 

 ほむらは二つのどちらにも当てはまらない。彼女にとってこれは単なる復習だ。余裕を振る舞うのも過去に幾度となくこの使い魔と手合わせをしたからだ。未だ本体である魔女とは邂逅したことはないが、使い魔なら知っている。故に行動パターンを知り尽くしている。ただし一切の慢心、油断はなかった。

 

「……!」

 

 真上に迫る気配を感じ魔法を駆使しその場から瞬時にマミの隣まで退いた。直後に爆発が生じ衝撃波が空気を叩く。大量の宝石が隕石のように降り注ぎさっきまでいた地点に極小のクレーターが出来上がる。

 

「わっ!」

 

「きゃっ!!」

 

「まだ完全なわけではないようだけど、あと少しで魔女に変異しかけね。ここの主ってとこかしら?」

 

 舞い上がる砂埃に潜む者をマミが目を細めて見据える。邪気や呪いを孕む場違いに眩しい輝きは砂埃を貫きこちらにまで届く。それほどに輝きは強く他の使い魔と比して格が違っていた。だがほむらからすれば見慣れた雑魚だ。

 

「来たのね」

 

 ぬるりと這い出たのは宝石に塗れ前脚と後脚がそれぞれ二対ずつある異様な姿のトカゲ。コートとスカートを身にまとっているがそれは手足とも一対のみで、まるで二人羽織かそれとも誰かを背負っているかのようだ。閉じられていない口からだらしなく舌をはみ出させている。眼窩から飛び出し幾つも連なった目玉は首にまで到達し襟の中へ消えている。体を支える腕とは違うもう一対の腕は溢れて落とさんばかりの金銀財宝を抱えていた。

 

 なんとも欲深い使い魔だ。手下でこれならおおもとの魔女はもっと欲望に満ちた姿形をしているのだろう。ほむらの銃撃でバラバラに砕けた使い魔の破片を親玉は乱暴にも掻き集め、自らの胸に抱く。表情が満足そうににたりと嗤った様に見えた気がした。

 

 そんなトカゲの化け物の顔など無視し乾いた銃声が数回繰り返される。

 

 親玉の使い魔から少しズレたところに照準を合わせ前置きなく撃つ。経験上この使い魔の特性を知っているほむらは迷わず先手を打った。

 

「速い。…でもそれだけね」

 

 銃弾が迫る寸前に6本の手脚で地面が抉れるほど強く蹴り、その初速を利用し使い魔は避けていた。小規模なクレーターを作るほどの威力もこの膂力によるもので違いないだろう。予想される使い魔の攻撃方法は速度に任せた突進。連続で避ける使い魔を狙い撃ちながら魔法少女の動体視力で追っていく。見ていれば分かるが相手は弾丸を振り切る度、次の攻撃を避けるため再び足を着き急ブレーキで切り替えしている。緩やかに曲がれず一直線にしか進めていない。

 

 ──一般人のまどやさやかにはどうやって使い魔が避けているどころか、姿も追えていない。見ても何が何なのか分からない。しかし魔法少女の動体視力は常人と比べ物にならない。少し目を凝らせば少し高速程度で動く物体も追うことも可能だ。単純な身体能力の強化に加え五感までも単なる人を超え、人間離れさせるのが魔法と言うものだ。それは果たして人なのだろうか。

 

 ここまで捉えられたなら自ずと対処法は見えてくる。かの使い魔は身を捻りその位置で避けておらず、通り過ぎることで避けている。銃口の向く先から弾の軌道を予測しているのか。尤もわざと外しているのもあり当たることは無い。また、あれだけ大量の目玉でほむらの動きを視れば軌道を読み取るのは容易い。木々の合間も利用し狙いを定めづらくしている。ならばその予測の先をさらに予測して先に行動すればいい。

 

 だがそうしなくても策はある。特異な力を操る目の前の魔法少女には追いつけない。銃弾も置いていく速さをもってしてもほむらの魔法の前では止まっているのと変わりない。文字通り止まるのだから。

 

「瞬間移動を装うのも骨が折れるわ」

 

 唐突に世界から色が消える。音も消えた。風も吹かない。ありとあらゆるモノ全てが一切の活動を停止させた。たった一人、魔法の使用者のほむらを除いて。動くのは、動かせるのは、動けるのは暁美ほむらだけとなったモノクロの世界。まるで誰も居なくなったこの世界に一人取り残されたような静けさだ。

 

 ほむらにのみ与えられた時間。全てのものが共有してきた一方通行にしか流れない時間へ自らが作りだした固有の時間を割り込ませ、世界の時間を止めてしまう。太陽が地平線に沈む事だろうと、月が天に昇る事さえも許さない。宇宙も動くことを止めてしまう。これが彼女の保有する『時間停止』魔法。

 

 軽く跳び、使い魔の進行方向を少し過ぎるところで身を捻り、頭が下に脚が上の体勢となる。銃を構え落下する瞬間に魔法を解く。そして時間は動き出す。まるでそこへ突然現れたかのようにほむらの位置が三人の視界で移動する。色も音も取り戻した世界で間を置かず二回引き金を絞った。

 

 狙うは丁度地面に足を着き、再び身を弾いて方向転換に移るべくしっかりと膝の折られた後ろ脚。そこへ銃口から吐かれた二発の弾は使い魔の硬い皮膚を難なく打ち砕く。

 

 左後ろ脚の両方に風穴を空けられた結界の主は悲鳴を上げながらそのままの勢いで地面を転がる。大事に抱える宝石たちもその腕を離れ血の広がりのように散らばる。

 

「ナイスタイミングよ暁美さん!」

 

「わあっ、すごい!」

 

「高速移動の起点となる脚から潰したのは流石だね」

 

 魔法を使いほむらは瞬間移動に見せかけマミの隣へ立ち目をやる。

 

「コイツは倒してもいいかしら? もうまともに動けないんだし、長引かせる必要もないんじゃ」

 

「ええ、そうしておきましょう。暁美さんの戦闘スタイルも少し分かったことだし」

 

 向けてくる微笑みが眩しい。発砲中も何度かマミの表情を見ていたが、かなり気を張っているようだった。マスケット銃を握る手には力が込められて常にトリガーに指がかけられていた。いつほむらが使い魔に足元を掬われてしまうのではという心配による緊張もの。今では親玉を短時間で完封してみせたのに安心と喜びといったところだ。

 

 視線をマミから未だ息のある使い魔へ移す。輝きはかなり濁りくすんでいた。まるで輝きの強さが命を表しているようで、弱まっているのは死期の訪れが近い事を暗に示していた。しかし宝物の宝石類はまだ抱えたまま。空いた腕で散らばり届きもしない宝石を必死に掻き集めようとしている。そんなにも大事なのかこちら側には目もくれずひたすら腕を泳がせている。憐れとも思わず、その見た目相応の欲深さが行動にまで表れている。他の使い魔より格が上でも所詮は魔女のなりそこない止まりだった。

 

 盾より取り出した手榴弾からピンを引き抜き遠くの地面に伏せる敵へ投げた。弧を描き落ちた先で手榴弾が視界を遮っても、それでもこちらを見ないし気にしない。そして爆発に飲まれ欲深いトカゲは消し飛ぶ。

 

 主とするには力不足だったが、閉じられた箱庭を維持していた基礎が消えたことで結界も崩壊を始める。木々の輝きも瞬く間に失われ枯れてゆく。枝葉に隠れていた下級の使い魔達も結界と共に死んでいく。最後に大きく揺れて完全に溶けて消えた。

 

 

 

 

 

「まさかあんなにも冷静に対応出来るだなんて思わなかったは暁美さん。もう少しかかるんじゃないかって」

 

「ホント見直したよほむら!」

 

「美樹さんに私は何を見直されたのよ。…いくつか戦術のパターンを考えていて、偶然それが生きただけですよ巴さん」

 

 結界から弾き出され一行は住処であった廃墟を後にし、場所を移すため歩いていた。マミの予想よりも想定外に早く済んだこともあり、次の標的を探しながら先の戦いについて話している。

 

 戦い終えてからさすがに手際を良くしすぎたかと思い返し、内心ほむらは焦っていたがそんなこともないらしい。今後もあんな風なやり方をすれば不信感を買わなさそうなのでこれは覚えておこう。

 

「すっごくかっこ良かったよほむらちゃん!」

 

「そんな、ありがとう……って駄目よまどか? 決してかっこいいだとかで魔法少女を計っちゃあ」

 

「うん、分かってるよ。それでもほむらちゃんかっこよかったんだ」

 

「分かってくれているならいいの。その言葉は素直に受け取っておくわ」

 

 純粋に賞賛されるのは悪い気はしないし、しかもまどかからそう言って貰えて嬉しい。自然と口元も緩む。しかしここから魔法少女への憧れが強まったらそれはとてもいけない。もしそうならこの言葉も嬉しいがかなり複雑だ。今は憧れの芽を摘めればいいのだが。

 

 マミもこれ以上二人を希望なく絶望ばかり目にする世界に引き入れない方へ考えを変えてもらうにはまだ時間がかかるだろう。自分が一緒に居て満足させるのに何をすれば良いか、そうそう思いつかない。

 

「あら? 反応があるにはあるんだけど、これは…」

 

「どうかしたんですかマミさん?」

 

「僅かに感じるの魔力のは残滓かしら。それにしてもかなり薄い」

 

「マミが正しいよ。この近くに魔女の結界があったみたいだ。でも誰かに先を越されてしまってるね」

 

「別の魔法少女ってわけでもなさそうね。魔法少女ならもっと濃く魔力が残るはずだし」

 

 しかし魔女をかっさらっていったのは魔法少女とは別の何者か。こうなると考えられるのは、魔法少女以外でまともに魔女と戦えて勝つ者。

 

「もしかして港区の方たちも来てたの?」

 

 港区。順平や風花らの住む町のことだが自分たちの知らぬ間に今日も来ていたのか。お互いまだ連絡先を交換するまでの間柄ではないため情報のやり取りは出来ないでいる。見滝原へ足を運んできているのか確信はないものの、あのペルソナ使い達とお互い敵じゃないのは双方とも理解である。グリーフシードも彼らにとって不必要。グリーフシードの乱獲などはしない。

 

 とはいえ不用意にテリトリー内の魔女を狩られると魔法少女側からはあまり都合もよくない。魔法少女と魔女のバランスに乱れが生じてしまう。魔法少女なら誰もが至る考えだ。

 

「どうします? 先に彼らを見つけますか?」

 

「その方が良さそうね。一旦魔女探しは中断してペルソナ使いの方達を探しましょう。暁美さんの反省会はそのあとね。鹿目さんたちもそれでいいかしら?」

 

「はい大丈夫です!」

 

「さっさと探しちゃいましょう!」

 

 ペルソナ使いに近づけばソウルジェムでも反応をキャッチ出来てなんとなく居場所は分かる。あの特殊なエネルギーというか、魔力にも似たもの。魔女や魔法少女とは違うがその分見つけやすい。

 

(たぶんあの人たちがそこらの魔女に負けるとは思えないけど、逆に狩られすぎても困るわね。今後を考えても……)

 

 目標は見滝原を訪れているペルソナ使い。もし魔女結界にまたシャドウが現れた場合、対抗し得るのもペルソナ使いだ。出現する可能性を完全に否定できないなら、その間だけでも個人的にでよいので手を結んでおきたい。まどかへの危機がそれで自分やペルソナ使いに分散されるならば尚良い。こんな始まったばかりにつまづいて立ち止まってはいられない。

 

 昨日の風花曰く、シャドウは現実世界にはまず現れないと。よって可能性は魔女の結界のみ。彼らが探し物を探している内は結界に出てくるかもしれないシャドウ掃討に参加してほしい。しかしこの要求は必然的にペルソナ使いからの魔女狩りへの介入を許すことを意味する。

 

 ほむらの脳裏に浮かぶはこちらから手も足も出せず強大な力を奮ってきた死神。一つひとつの攻撃が並の魔女など一撃で消し飛ぶ威力。通常兵器は効かずマミの束縛魔法も意味をなさなかった。出口を確保しながら結界を彷徨いていてもどこから姿を現すかも分からない。どう考えても魔法少女で対処するには手に余る。

 

(……こればかりは仕方が無い、か。イレギュラーも今回が初めてではないのだから柔軟にね)

 

 横目で隣に立つマミを見る。マミも様子を彼らの行動を見つつ共存をとると予想する。ペルソナ使いにも目的があって見滝原へ来ているのだ。マミの性格からして来ないでくれとは言い難い。

 

 今はどこかでこちらが折れないと解決に手が届かない。これもまた駆け引きなのだ。ほむらの足元を歩く白い悪魔は今の状況よりもよほど悪質なのだから。立ち止まっては、いられない。

 

 

 

 

 


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