Episode Magica ‐ペルソナ使いと魔法少女‐   作:hatter

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 最初に辿った道しるべ(2010,5/6)

 

 

2010年5月6日・木

 

"見滝原市"

 最近になって目まぐるしい発展により建設ラッシュを迎えた見滝原市は、日本とは思えない建造物が次々と増えている。40階建てを超える巨大なビルが競い合うように成長して空を埋めていく。この都市開発に多くの大企業が携わっていると言うのは世間では有名な話。

 

 そして最初にその施しを受けたのが見滝原市で最も古かった学校、市立見滝原中学校である。それもつい最近の事でまだ新設され8年も経っていない。それが今では見滝原屈指の生徒数を誇る学校となった。

 

 そんな見滝原中学に続く通学路で歩を進める二人の少女がいた。その二人の少女の後ろからは白いニーソックスに、桃色の髪を両サイドでまとめた小柄な少女が駆け寄った。ここまで走って来たのか若干息を切らして汗を浮かべている。

 

「おっはよう~」

 

「おはようございます」

 

「まどか、おそーい」

 

 笑顔で二人は振り返って言葉を交わす。すると青い髮をした少女はまどかと呼んだ桃色の髪をした少女の頭に注目して気付いた。目を付けたのは髪を纏めている真っ赤なリボン。歩く度にリボンが纏めた髪と一緒に揺れてまるで尻尾を振る子犬のようだ。

 

「お? 可愛いリボン」

 青髪の少女に続き深緑の髪色の少女もいつもとは違う装いに気付いてリボンに目をやる。桃色の髪の少女改め、普段のまどかならそう強気な色のリボンを使わないと二人の少女は思っていたところだが、何かあったのか尋ねると今日は母のモテる秘訣というアドバイスのもと赤いリボンを着けてきたらしい。

 

「とても素敵ですわ」

 

 深緑の髮に少しウェーブがかった少女もそれに便乗して褒める。朝の通学路には三人が楽しげに仲良く登校するいつもの姿があった。

 

 

 

 

 

 ここは市立見滝原中学校。各学年は総じて7つのクラスまで存在し、校内は一般的な中学校に比べてもかなり広く敷地面積も広大である。教室と廊下を隔てるのはコンクリートで出来た壁でなく、全てガラス張りで出来ており、見慣れた生徒教師でもない来訪者には日本ではなく海外のオフィスのような印象を与える。本当に中学校なのか疑わしい内装で、校舎の外装や構造も奇抜なものの多い見滝原でも一際目立つ。

 

 綺麗に保たれた校舎はその清潔感から、少し生徒が学業に励むにしては不必要な緊張を与えそうにも思える。が、それを生徒達は気にした様子はない。

 

「――今日はみなさんに大事なお話があります。心して聞くように」

 

 二年生のとある教室。まどか達の担任を務める女性教師、早乙女先生がいつにも増して真剣な顔つきで少し早口で言い放った。いつもの早乙女先生ならもっと穏やかでおっとりしている筈なのだが今日という日は違った。そして早乙女先生とは反対に生徒達はいたって普通に耳を傾けている。

 

「目玉焼きとは、固焼きですか? それとも半熟ですか?」

 

 真面目な空気とは思えない質問が投げ掛けられた。早乙女先生はいたって真面目でふざけているのではない。突拍子のない質問に生徒もどうリアクションすれば良いのか判断が着かず、固まって動けない。次第に硬直も解けて妙な空気が漂い始めた。

 

「はい、中沢君!」

 

 そんな事をもろもとせず、早乙女先生はビシッ、という音を発てながら一番前の席に座っている『中沢』という少年を指名する。後ろの席に居る生徒は中沢の背中に憐れみの視線を送ると共に安心したように肩の力を抜く。犠牲になるのはいつも最前列に席のある男子生徒だ。特に中沢は集中的にその餌食となる。戸惑いながらもぎこちなく起立をして中沢は答えた。

 

「えっ、えっと…どっ、どっちでもいいんじゃないかと」

 

「その通り! どっちでもよろしい! たかが卵の焼き加減なんかで、女の魅力が決まると思ったら大間違い!」

 

 高いソプラノボイスで愚痴を垂れる先生。年の割には可愛らしい顔立ちだが怒りによってものの見事に歪んでいる。

 

「ダメだったか…」

 

「ダメだったんだね」

 

 早乙女先生は長年恋愛絡みの事がうまくいかないという悩みを抱えていた。付き合うまで何とか事は進むのだがそれからがどうしてもダメらしく、ことごとく破局を繰り返している。それは生徒達全員周知のことなので、皆これといって驚くことはない。直接関係のない生徒達には些細なことである。

 

「 そして、男子のみなさんは、絶対に卵の焼き加減にケチをつけるような大人にならないこと!」

 

 愚痴を言って落ち着いたのか次の話題に移る。さっきとは180度逆のおしとやかな声で言う。

 

「はい、あとそれから、今日はみなさんに転校生を紹介します。じゃ、暁美さん、いらっしゃい」

 

 そんな大事なことを後回しにしていたのに全員がどよめくが早乙女先生は気にしない。生徒も物事の順序がおかしな担任を咎めたり愚痴ったりせず、関心も移り変わり早くその転校生を見たいとざわつき始めた。

 

 早乙女先生の言った通り磨りガラスの扉を開けて一人の転校生が早足で教室に入ってきた。早乙女先生の隣に立ち、毅然とした振る舞いに気品さが伝わってくる。頭には長く伸びた黒髪に併せてか黒のカチューシャを着けている。顔立ちはこのクラスで言えば誰も勝てない程に美人。中学二年生にして『可愛い』ではなく『美人』と言う方がしっくりくる。むしろこの場に居る生徒と同い年なのか怪しくも思えてしまう。黒のタイツが細く長い脚を引き締めてより締まって見える。無駄な肉が付いていないのでとてもスレンダーだ。そのお陰か胸はまったくと言っていいほど無い。

 

「うお、すごい美人。萌えか、これが萌えなのか!!」

 

「わぁ、可愛い」

 

 後ろの方でさやかとまどかが転校生を見てそんな感想を零す。他の生徒もそれぞれ転校生について駄弁る。特に男子からの反応は大きい。

 

「暁美さんは心臓の病気を患ってちょっと前まで入院をしていたの。皆さん、仲良くしてあげてね。はい、それじゃあ自己紹介いってみよう」

 

 転校生の身の上をあらかた説明してにっこり笑顔で早乙女先生が転校してきたなら恒例の自己紹介を促した。転校生は有無を言わずそれに従って自己紹介を始めた。

 

 

 

 

 

 教室の中から早乙女先生の高い声が廊下まで聞こえてくる。聞き耳をたててみると今回は目玉焼きの焼き加減について熱論していた。この"今回"と言うのは今聞いている本人、暁美ほむらが何度か似た場面に出会しているからだ。場所も時間帯も全て同じ。この市立見滝原中学校の二年生の教室前で見聞きしてきた。

 

 教室の外で招かれるのを待ちながら中沢がまた指名されるだろう予想していると、案の定早乙女先生が期待を裏切らず中沢を指名した。突然の無茶振りに何とか答える中沢の声を聞きながら可哀想にと思っていると、中に入るよう呼ばれたので迷わず扉を開けて踏み込んだ。

 

 早乙女先生の隣に立つとこれからクラスメイトとなる生徒の視線が一斉に集まった。当然と言えば当然だが、ほむらはまったく動じず平然とする。何度も何度もしてきたことで最早恥ずかしがる事などない。それに加えてほむらの眼中に生徒の事など入っていない。

 

 早乙女先生が生徒に自分について説明をしているのを横目に見る。ちょっと前まで入院していたと言ってまだ体調は完全ではないかもしれないと示唆するが、ほむらの体になんの異常もなく完全な健康体だ。早乙女先生はそのままの流れで自己紹介をするよう言うのでホワイトボードに自身の名前を書いてまた正面を向く。

 

「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

 

 お辞儀をして頭を上げる。上げると同時に後方で席に着いているまどかを捉えた。不思議そうに見つめ返してくるまどかに異常がないか全身を下から上に観察してまたまどかの目を見る。

 

(あれ以来変わったことはないけど、学校でも特に変わった様子はないようね)

 

 何もおかしな事がないのを確認すると、ふぅと安堵の息が漏れた。少し口元が緩み自然と笑みがこぼれる。

 

 ほむらの笑みの理由はまどかの左手薬指を見たからだ。そしてこの瞬間にほむらの今後取る選択が決まってくる。運良く今回のケースではまだ魔法少女になっていないので、ほむらのする行動は出来るだけまどかを魔法少女や魔女と関わらせないようすることだ。もしまどかが契約して魔法少女となっていた場合はほむらの取る選択も変わってくる。そしてそうなっていればほむらの目的達成の出来る確率は絶望的に低くなる。

 

(それと…美樹さやかね)

 

 まどかから目線を移して次にさやかの方を見てみる。こちらに関しては呆れるほど能天気そうな表情で馬鹿丸出しだ。さやかもまどかを救う際に難関となるのは毎度の事でいつもどう接してあげるのが良いのか考えさせられる。ある意味で一番の難所とも言える。

 

 幾らかさやかとは仲違いを起こしたこともあり、接する際、必要以上に神経質になってしまう。としても目の前に居るさやかと自分の中に残るさやかは、人は同じでも別人。同一人物でも同一視してはいけない。初めて仲違いが起きた時の理由もお互いをよく知らなかったが故に自分の配慮が行き届かなかったというのもある。もちろんさやかにも非がない訳ではない。それを踏まえても今は最初からさやかと言う人物を知っているので、上手く立ち回ればなんとかなりそうな気がないでもない。

 

(貴女とはこれまであまりいい関係にはなれなかった。だから今回は友好関係をもった方がよさそうね、私一人じゃどうにも出来ないのだから)

 

 今回はさやかとより良い関係を築く努力をするとほむらは志した。

 

 

 

 

 

 HRが終わった後にほむらを待ち構えていたのは沢山の生徒から投げ掛けられる遠慮のない質問責め。繰り返す度に起きる慣れたことなのでもうあしらい方も分かっている。聞いてくる内容も大体は変わらないのでほとんど聞かず適当な返答で受け流していく。

 

 それより気になるのは教室の後ろの方で話しているまどかとさやかだ。その他に一人が混じって喋っている。きっと話題の中心となっているのは自分なのだろうとほむらは予想する。背中に視線を感じているので恐らく間違いない。それも合間って他の子に対する受け答えが雑になっていく。

 

「ごめんなさい。何だか緊張しすぎたみたいで、ちょっと、気分が。保健室に行かせて貰えるかしら」

 

 多少強引だとは思いながら椅子から腰を上げて、取り巻いていた生徒をかき分けて踵を返してまどかの方へ歩み寄った。振り向き際に目が合うと、転校生のほむらが自分に用事があるとは予想しなかったのか頭の上にクエスチョンマークとも浮かべている。

 

「鹿目まどかさん。このクラスの保健係って貴女で合っているわよね?」

 

「え? えっと…うん…」

 

「保健室に連れてって貰えないかしら?」

 

 まどかの事だからすぐに了承してくれる、そう確信していると思わぬ横槍が入った。

 

「んじゃ、あたしも着いてってあげよーじゃないか」

 

 さやかがほむらとまどかの間に割って入ってきたのだ。にしし、と白い歯を見せながら笑うさやかの屈託のない笑顔。それは友達になろうとする人の良いただの同級生。目を数回瞬きさせほむらはさやかの顔を凝視した。さやかの方からこんな事を言ってきたのは今までの経験上少なかったので戸惑い、どう答えればいいのか考えた。

 

 繰り返してほとんど同じ事が起きるとしても細かなところは違い、今のような事態はよくある。これからはそんなハプニングにも対応していかなければならないので躓く分けにはいかない。綱渡りのような今の環境を最善の選択をして生き抜いて明るい未来を切り開いていく為にも。

 

「美樹さやか、さんも?」

 

 結局、なにも案は思い浮かばなかったが。

 

「転校生とも話したいしさ。いいでしょ別に」

 

「え、ええ。貴女がよろしいのであれば」

 

 ほんの僅か間を置いて答えたが断る材料が見つからずさやかの言い分を承諾した。問題ではなくても不思議に思わざるえなかった。

 

(珍しいわね…美樹さやかの方から積極的に話し掛けるなんて)

 

 いつもと違い未知の展開に考えを巡らせて足を止める分けにはいかないので歩きながら更ける。しかし所詮珍しい程度にしか考えなかった。

 

 さやかが同行するのを聞いてまどかはホッとしたように息を吐いた。それをほむらは見ていたがなんの安堵なのか分からず首を傾げた。

 

「じゃ行こっか?」

 

 

 

 

 

 三人は周りから注目の視線を浴びながら廊下を歩く。主に注目の対象はこの学校では珍しい転校生のほむらであるが。またこの学校に一、二を争う綺麗さの女子が転校してきたのだから周りが放ってはおかないのだ。

 

「うわー、めっちゃ注目されてる。全部転校生にだけど」

 

「だってこんなに可愛いからね。暁美さんは」

 

「ほむらでいい」

 

 『えっと…』と言った風にまどかが固まるがすぐに笑顔が戻る。まどかは大抵の事なら順応してしまう。良く言えば分け隔てがない。悪く言えば人が好すぎる。初めて逢った頃からそうだった。そのまどかの性格に暁美ほむらは救われている。またそんなまどかに甘えているとも言える。

 

 強引でも多少なりまどかと仲良くなっていないと今後の活動に支障をきたしそうだとほむらは判断する。よってこちらから歩み寄っていく。なにも言われなくてもまどかを名前で呼ぶことにするだろうが。

 

「あっ、そうなの? じゃあ、わたしのことまどかって呼んでね、ほむらちゃん」

 

「ええ、分かったわ。まどか」

 

 それなりに好感触の手応えを感じ、ほむらもまどかを呼び捨てにする。名前で呼びあう事ができ笑みを浮かべていると、不満そうにさやかが横目で見てきた。

 

「あたしのことは名前で呼んでくれないのか~? 特別にさやかちゃんって呼んでもいいんだからね!」

 

 "美樹さやか"。契約してしまえば高確率で魔女になってしまう一番の問題点。今回はさやかとも一応信頼関係を築く必要がある。

 

「…じゃあ美樹さんって呼ばせてもらうわ」

 

 さやかには悪いがまだ名前で呼ぶには抵抗があるので妥協して苗字で呼ぶことにする。妥協しなくてよいならフルネームで呼ぶのだが、今はそうはいかないのがなんとも歯痒い。

 

「うん? ちょっと堅い気もするけどまいっか! てか、ほむらって東京に住んでたんでしょ?」

 

「正確には入院で、だけど」

 

「じゃあこの街についていろいろと知らない事あるんじゃないかな、ほむらちゃん!」

 

 先を歩いていたまどかが眼を輝かせてほむらの顔を下から覗き込んだ。まどかの顔が近くにあるがために高揚する気持ちを抑えて、静かに受け答えをする。

 

「ええ、初めて来た街だから分からないことが多いいわ」

 

「じゃあさ、あたし達に放課後ほむらを見滝原に案内させてよ」

 

「それいいね、さやかちゃん!」

 

「ってなわけでほむら、放課後予定ないよね?」

 

 まどかとさやかの二人から『うん』と頷く以外求めていない眼差しを受けてトントン拍子で話しが進む。かといって不都合ではない。むしろ持ち掛けられて好都合で内心喜んでいるくらいだ。この話に乗れば間近でまどかと居られるし、断る義理も理由も無く、迷う事はなかった。二人の期待に応え笑顔を向けて言う。

 

「じゃあ頼めるかしら?」

 

「ホント! やったー!! じゃあ仁美ちゃんも呼んでいいかな?」

 

「ええ」

 

 テンションを上げて喜ぶ二人を見てほむらも心なしか嬉しくなる。無邪気にハイタッチを交わしている様子を見ていると、自分の都合を考えて二人の期待に応えてあげたものの良かったと心から思えた。

 

 その後、他愛ない会話をしながら三人は保健室に向かい、用事を済ませて教室に帰った。ほむらは一人今後の事を考えながら。どうすればこの笑顔を失わずに乗り越えられるだろうかと。

 

 

◆◇◆

 

 

「ひゃ~、ここが見滝原市かぁ!」

 

「随分開発が進んでいるんですね、この街」

 

「ここが、彼の住んでいた街…」

 

 高層ビルが建ち並び、多くの住人が行き交う街。アイギス達は見滝原市を訪れていた。見滝原市にある駅に降り立ったメンバー全員は思い思いの感想を口にする。本当はゴールデンウィーク中に来たかったのだが予定がうまく合わず、今日まで全員で来られずにいた。一人で来ることは出来たがそれではあまり意味を感じられず誰も一人では行こうとはしなかった。

 

 見滝原を訪れているのは声を出した者の他にも美鶴や真田もいる。そしてもう一人居た。小柄な少年、天田乾が。

 

「もう、みなさんハシャギ過ぎですよ」

 

 天田はまだ小学六年生になったばかりの幼い少年だが順平よりもよっぽど大人びているという評価を周りのメンバー達からされている。自身もそれを自負しているらしく、順平にはよく皮肉を効かせた態度をとったりしている。

 

 また完全な第三者として物事を見ることができる天田は純粋で、冷静な判断を下せる有能な人材。しかし精神的に未熟なところもあり、一度思い込むと突っ走った行動に出てしまうこともある。これらも齢12歳の子供らしい愛すべき一面とも言える。

 

「天田のいう通りハシャギ過ぎだぞ、順平」

 

「天田少年厳し~! て、真田先輩だってめっちゃキョロキョロしてるじゃないですか!」

 

 天田の指摘を軽い調子で受け流した順平はそれより真田の言い分に食い付いた。自分同様に真田も挙動不審だと言って。そう言われて真田は憤りを覚えて声を大にして反抗する。普段冷静な真田だが、お調子者の順平の煽りに簡単に反応したりするようではまだ思考が単純すぎる。それには真田をよく知る美鶴がいつも頭を悩ませている。

 

「なっ! 俺はただロードワークにちょうど良さそうだと思っているだけでハシャイではないぞ!」

 

 利き手である左手を振り上げて否定する真田。その手には小型のトランクを持っているのに重さなどない物のように軽々と持ち上げて振り回す。真田程の筋力ならばあって無いのと変わらない。

 

「つか、真田さん。その手に持ってるトランク、何なんスか?」

 

 順平は真田が左手に持っているトランクを指差して訊く。鈍い銀色をしたメタリックな色に頑丈そうな作りで金具が太陽の光を反射する。

 

「ん? ああ、これか。アイツの腕章と召喚器だが」

 

 それほど大きくないトランクを肩の高さまで持ち上げる。中に入れているであろう物が揺れてガチャリと金属音を発てた。

 

「へへへ、やっぱり。実はオレも持ってきたっスよ」

 

「私も。なんか職業病ってやつ?」

 

 順平が懐から銀色のピストルを取り出す。そしてゆかり、天田、風花。美鶴まで隠し持っていた。ピストルと言っても実際に弾が出る分けではない。このピストルは『召喚器』と呼ばれある一つの行動を起こす為の道具で、これ自体には何の殺傷能力もない。見滝原に戦いをしに来た訳ではないが持ってきたのはここが特別な場所だからである。

 

「…去年は、色々あったからな」

 

 美鶴の言葉で去年の出来事を思い出した。去年の4月に始まり今年の1月末に終わりを迎えた戦いの日々を。遠い昔に思えてつい最近の出来事。若干重たい空気がのしかかる。しんみりとしてらしくない表情を浮かべて皆口を結んだ。

 

 これまでメンバーが歩んできた一年間は楽しいことや幸せだと思えることより辛いことや苦しいことの方がよほど多かった。けれど、多くの出会いや別れがあったからこそ今の結束がある。だから一度解散した仲間達だがこうして再び集い、同じ目的を持って行動しているのだ。それは言葉にしなくてもここに居る全員が理解する事のできる心からの信頼による賜物。誰も侵す事のできない絆である。

 

「皆で出掛けたっていえば屋久島くらいだし」

 

「私はそのお陰で皆さんに出会えました」

 

「だね」

 何秒かの沈黙した時間が流れて、ゆかりがその流れを変えようと一言発するとそれにアイギスが乗っかり場が少し明るくなった。美鶴も目を瞑っているが口元は僅かに綻んでいる。それを見計らったように順平が軽い笑顔を添えながら大きな声で言った。

 

「んじゃ、さっそく街、見に行きましょうや!」

 

 いつも湿っぽい雰囲気を吹き飛ばすのは順平の仕事。自分から進んで皆のご機嫌をとるのはもうお手の物になっている。ムードメーカーの順平の手にかかればどんな状態でも一瞬で良くも悪くも場の緊張を緩められるのだ。暗い雰囲気はもうない。

 

「じゃあまず、あそこのショッピングモールに行ってみませんか?」

 

 明るい声で今度は天田が駅の向かいにある建物を指差しながら言った。白い壁面の大きなショッピングモール。駅の目の前に在るとは立地条件からして誰もが最初に足を運ぶことになるであろう。例に溺れずアイギス達もそこへ向かう事にした。

 

 横断歩道を渡りショッピングモールの入り口手前で、思い出したように足を止めて風花が順平に訊いた。

 

「そう言えば順平君」

 

「ん? どした風花?」

 

「コロちゃんどうしたの?」

 

「えっと、コロマルは桐条先輩の施設でチドリと一緒に居るけど」

 

「あ、そうなんだ」

 

 

◆◇◆

 

 

 場所は然程変わらず、駅のすぐ前にあるショッピングモール内のカフェ。そこでは四人の少女が雑談している。ここはまどかとさやか行きつけでさやかのお気に入りのカフェ。なのだが、個室という訳でもないので内緒話にはあまり向かない。開放的な店内デザインが売りなのか天井が高かったり、窓際の席が多く存在する。

 

「初めまして暁美さん。まどかさんとさやかさんの友人の志筑仁美です」

 

「こちらこそ。暁美ほむらです。よろしく」

 

 正面の席にはクラスメイトの仁美とさやか。隣にはまどか。仁美が微笑んできたのでほむらも笑みで返す。自分にしか分からない作り笑いで。

 

(…美樹さやか魔女化の要因…彼女自身には何の罪もないのだけれど、いつもいつもタイミングが悪すぎるのよね…)

 

 大きな溜め息をついて頭を抱える。もちろん心の中で。恨もうにも恨める筈のない立場にいるが、彼女には悪いがあまりいい印象が持てていない。どの時間軸でも必ずと言っていい程最悪のタイミングでさやかの精神を揺さぶり、破滅一直線の道に導いている。

 

「暁美さんは本当にすごいですわね。文武両道才色兼備だなんて。クラスは暁美さんのお話で持ちきりでしたわ」

 

「あら、そうなの?」

 

 そういったクラスの反応は繰り返している内に慣れてしまったのでそれに意識を割くことなどなかった。たまに勇気ある男子達が話しかけてくるなんて事もあったが、興味を示さずあしらっているとそれ以来近寄ってくる事は激減した。

 

 反って影では一部の男子達の中でより大きな反響を呼んでいたらしく、校内で時々妙な視線を感じる事もあった。懲りず近寄ってくる者こそ、その一部の者達だけだ。

 

「ほんっとそうだよ。容姿端麗なミステリアス転校生、暁美ほむら! もう掴みオッケーじゃん!」

 

「ホント、ほむらちゃん綺麗だよね。それにカッコいいし。何だか憧れちゃうかも」

 

 注文したオレンジジュースを一口含みながらまどかが何気なく"憧れる"という言葉を口にした途端、ほむらは――

 

「私なんかに憧れないで!」

 

 ガタッと椅子が耳障りな音をたてて床を擦った。周りの雑音にかき消されてほとんどの人には聞こえないが店内に居る数人の耳には届いていた。

 

 目を丸くしたまどかと立ち上がったほむらの視線が交差する。急な出来事に思考が追い付いていないのか状況を把握していない。

 

「ほ、ほむらちゃん…?」

 

 ざわざわと店内が騒ぎ始めた。我ながら馬鹿なことをした、と気付くのにそう時間は必要なかった。すぐに辺りを見渡して奇異の視線が自分に向けられているのを感じすぐさま腰を下ろす。都合の悪そうな顔をして下を向く。

 

「ご、ごめんなさい。急に大きな声をだして…なんでもないの」

 

「ううん、こっちこそごめんね。いきなり憧れるなんて言われたら変だよね」

 

 笑ってくれてはいるも、まどかはほむらの思っていたよりも申し訳なさそうにしている。なにもまどかに対して怒っている訳ではないのでほむらは慌てふためいて誤解を解こうとした。こんな些細な事でまどかに無駄なストレスをかけてしまうのは考えられないし、そんな悲しそうな表情をされるとこちらまで気を落としてしまう。

 

「違うのまどか! そういう意味じゃなくて、えっと…その、まどかの事が嫌いだとかそんなのじゃなくて…!」

 

「はっはぁ~ん。実はほむらがまどかに憧れちゃってるのかな~?」

 

「まどかさんもとても可愛いのですからね。うふふ」

 

 さやかと仁美が意地悪そうにそんなことを言った。

 

「へっ…?」

 

 何をどうとったらそういう解釈になるのか解らず、ほむらはマヌケな声を漏らす。意表を突かれてこれまでで一番おかしい顔しているとほむらは自分で悟った。

 

 固まるほむらを放っておいてさやかは続ける。面白そうな玩具を見付けたと言わんばかりに笑いを堪えて。

 

「いやだってさ、ほむらが教室入ってきたときやたら見られてたってまどかが言ってたから」

 

「まぁ! そうなんですの?」

 

「うん、自己紹介の時なんだけどね、たぶんほむらちゃんわたしの方見てたような」

 

「てか、あたしも見られてた気がするけどなんだったのあれ? もしかしてこのさやかちゃんにも憧れてたり?」

 

「あ、えっ、いや…」

 

 ふざけて自分の顔を指差しながら言うさやか。にやにやと口角をつり上げてからかっているのが丸分かりの笑み。あらぬ方向へと進んでしまいそうな話を慌てて修正しようとするが、まさか転校初日にさやかから早々にからかわれるとは思ってもみなかったので不慮の事態になかなか言葉が出てこない。

 

「べ、別に、特に意味はなかったわ。何か勘違いさせてしまったならごめんなさい」

 

「いや~、別にそんな謝るほどじゃないけどさぁ。んふふ」

 

「そうですよ暁美さん。何もおかしくないですわ」

 

 学校で見せた純粋な笑顔とはかけ離れたイヤらしい笑みのさやか。仁美も口元を手で隠して笑う。何もおかしくないなら笑うのをやめろと仁美には言いたくなった。二人の妙な連携がほむらを追い詰めるとは別に、当人のまどかが追い討ちをかけた。

 

「そうだよほむらちゃん。でも…ちょっと見つめられてドキッとしたけど」

 

「ほむらに見つめられてドキッとしたぁ!? あっははははは!」

 

「そ、それは言葉で交わさずとも目と目で解り合う間柄なのですか……!? 女の子同氏の恋! これが…禁断の!!??」

 

 豪快に腹を抱えて目に涙を浮かべて爆笑するさやかと、まぁといった風に口元に手をあて驚いた様子の仁美。ここまで来ると呆れてものも言えない。元々仁美にはこの手の話に興味があるというのはほむらが繰り返している内に分かったこと。人は皆、意外な一面を持ち合わせているということだ。

 

「さ、さやかちゃん! それに仁美ちゃんまで! ほむらちゃんは友達なんだから変な意味はないからね。絶対に!! ていうかほむらちゃんからも何か言ってよ!!」

 

「え、ええ。そうよ、私達は友達なのだからそんなこと…」

 

 大きな声で話すが通路を挟んで隣の席に座っている利用者に気にする様子はない。まるで聞こえていないのか談笑を続けている。

 

「でもまどか、ほむらのことそういう風に見てるってこと?」

 

「うぅ…違うよ~。ひどいよ…うぅ」

 

 さやかのいじりに耐えかねてまどかがしょんぼりと下を向く。落ち込むまどかを見て可愛いとほむらの心は場違いにも和む。

 

「暁美さん。本当にまどかさんとは初対面ですの?」

 

「ええ…そうよ」

 

「あー、もうこれ。前世の因果だわ。 あんた達二人の、時空を超えて巡り合った運命の仲間なんだわぁ!」

 

「あり得ないわね。そんなこと…夢じゃないんだから」

 

 今のまどかと気持ちも考えていることも違うがほむらも同様、自分の膝に目を落した。ここは現実。時空を越えた運命などそんな夢物語ではなく紛れもない現実なのだ。このまどかとは初めて会うし前の出来事を覚えている筈がない。どんなに忘れないと約束しても忘れてしまう。夢から覚めた時と同じように。

 

「ホント、全部夢だったら良いのにね」

 

(……え?)

 

 そんな声を聞き隣の席を反射的に見てしまったが、そこには誰もいなかった。もとから居なかったとさえ錯覚させられるくらい、その座席には人の居た痕跡がなかった。

 

(さっきまで居たはず…?)

 

「ん。どうしたのほむら?」

 

「ううん…なんでもないわ」

 

 話し掛けられたほむらはすぐにその疑念を忘れてしまった。

 

 

 

 

 

 お喋りに夢中になっている中、仁美がふと自分の腕時計を見て肩を落とす。そう言えばこの時間帯は仁美の稽古が始まる頃だとほむらは思い出した。これまでの得てきた経験のお陰で限られてはいるが、他人のある程度のスケジュールなどは頭の中に入っている。あまり役立つ情報でもなければそんな状況も少ないが。

「あら、もうこんな時間…。ごめんなさい、お先に失礼しますわ」

 

「今日はピアノ? 日本舞踊?」

 

「お茶のお稽古ですの。もうすぐ受験だっていうのに、いつまで続けさせられるのか」

 

「うわぁ、小市民に生まれて良かったわ」

 

 自分がやっている分けでもなちのに嫌そうな顔をするさやか。隣に座るまどかも微苦笑をして立ち上がる。

 

「私たちも行こっか」

 

「あ、まどかにほむら、帰りにCD屋に寄ってもいい?」

 

「いいよ。また上条君の?」

 

「えっと、まあね」

 

 ここに居ない人の名前を言われて照れくさそうに笑うさやか。ほむらはその名が誰を指すのか知っていながら敢えて訊いた。いかにも知らなさそうに。

 

「上条君?」

 

「上条君ってのはね、さやかちゃんの幼馴染みで今は病室に入院してるの。さやかちゃんはその人のことが好きなの」

 

「どわぁぁぁ!! 何いらんことをほむらに吹き込んでんのよ!!」

 大声で遮ろうとするが一瞬遅かった。はっきりと聞き取れたので無意味だ。だが、目を見張るべきところはそこでない。

 

「あら、青春してるのね。だったら自分からそれを壊すようなことはしないことね」

 

 正面に居る仁美だ。

 

「……………………」

 

(やっぱりね…)

 

 細目で見て心の中でやはりと思う。仁美の表情がどこか虚無的で感情を抑えたようになっている。どこを見ているのか判断出来ない視線で何を思っているのかすら予想するのが難しい。長いこと繰り返せばその人の特徴や仕草が分かってくるが、14歳の少女がこんな表情を作ることが出来るのには驚きだった。

 

 

 

 

 

 時間に押される仁美とはエスカレータの所で別れた。しばらくショッピングモールの中を三人で歩き回る。

 

「いやぁ、まどかに熱愛発覚とはねぇ~」

 

「だからそんなんじゃないってぇ!」

 

 お互いそんなやり取りをして歩を進める。多少大きな声で騒いでも周りの雑音に消されるので気にする様子は誰にもない。

 

 目的のCDショップに向かうそんな三人に一人の女性が尋ねて来た。

 

「あの、一つお尋ねしたいことが」

 

 独特のトーンが効いた聞き取りやすい語り口調。非常に小さな声だったがまるで周りと遮断されたようにその人の声しか聞こえなかった。

 

「あっ、はい。なんです、か?」

 

 そんな事も不自然に思わずほむらが振り向くと、そこに立っていたのは青いエレベーターガールのような服装をし、脇に分厚い本を抱えた金色の瞳をした銀髪の少女だった。肌は色白で金色の瞳は兎を狩る獅子の如く鋭い。容姿に関しては文句のつけようがないくらい完璧に美しく、プロポーションも素晴らしくトップモデルも霞んでしまいそうだ。気品さがあるが、まずこんなショッピングモールでは浮きまくりの格好。ましてや容姿からしても人間離れしている。

 

(なに…この人?)

 

 第一印象は"不思議"の一言である。さやかとまどかも対応に困っているのかほむらの居る位置から一歩下がったところで目配せをしてくる。この謎が満載の人にほむらはどう対応するか任されてしまい戸惑いの視線を二人に送るが首をもげてしまいそうな勢いで横に振って自分達にはムリだと意思表示をされた。

 

「このショッピングモールで右目が隠れるくらい前髪の長い少年をご覧になりませんでしたか?」

 

 銀髪の少女は三人のやり取りを無視して訊いた。むしろ相手のことなど気にも止めていないかのようで却って清々しい。

 

「………」

 

 しばらくの沈黙。取り敢えず冷静になって質問には答えるようにする。しかしそんな人を見たことは今まで一度もない。この街に居るのだろうが心当たりはない。ほむらだけでなく、 まどかもさやかも知らないのか頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

 

「…右目が隠れるくらい前髪の長い少年、ですか?」

 

「はい、ここまで追い掛けて来たのですが……道中興味深いものが多すぎて見失ってしまいまして」

 

 エレベーターガールにも似た服装の少女はソワソワと落ち着かない様子で今にも走り出しそうである。様々な店舗に目は釘付けにされており顔を見て話してくれていない。

 

 ――あなたの方がよっぽど興味深いんですが。

 

 などと心の中で評価した。

 

「いえ。知りませんが」

 

「…そうでございますか」

 

 目を伏せて残念そうに呟く。少女は困った風に唇を尖らせた。もっと大人な人かと思ったが、むしろその仕草は子どもぽかった。不思議な雰囲気を放っているがそれがむしろ普通に感じてしまう。

 

「うーん、まどか知ってる?」

 

「右目が隠れるくらい前髪の長い人…いたのかな?」

 

「すみません。力になれなくって」

 

「いえいえ。知らないのならよろしいので。それに、十分貴女は力になれてますよ」

 

 少女はふふふ、と笑みを作って言ったが存外的外れな事を言っている。力になれていないのに力になれている、と。

 

 この少女からすれば十分だと言う事なのかいまいち分からないが、納得しているならそれでいい。まどかもそう言われて口元が緩む。

 

「そうそう。まどかは自分でも分かってないほど力になってるって。なんせあたしの嫁なんだからな~」

 

「さ、さやかちゃん!!」

 

 そう言ってまどかを羽交い締めにして抱きつくさやか。いつでもどこでも調子の変わらないさやかを一瞥して銀髪の少女を見ると、少女の金色の目が見開かれた。つかつかとさやかの眼前まで迫り目線を合わせて告げる。金色に輝く瞳を細目にして妖しげな光を宿す。全てを見透かしているかのように。

 

「ちょ、え、何?!」

 

「まぁ…貴女の素養もなかなか侮れないもの…。このお二方に埋もれていたようですが」

 

 ぼそりと独り言のように囁く。口元を薄くつり上げてまた微笑んだ。さやかからは皮肉めいた笑みに見えるが、むしろ少女は祝っているようだ。

 

「素養? なんのことですか?」

 

「お礼に手品をお見せしましょう」

 

「へっ? 手品? いきなり?」

 

 さやかの質問を完璧にスルーして手品を見せると言う少女。手をさやかの胸に翳してスナップを効かせて手首を返す。流れるような動きは手慣れたもので、滑らかな挙動。

 

「わっ!」

 

 なにごとかと身体を半歩退くが危害を加えられることはなく、どこから取り出したのか、いつの間にか少女の手には1枚のカードが握られていた。少女はそのカードを見てまた独り言のように囁いて目を細めた。

 

「……なるほど。なかなか貴女様に相応しいカード。こちらをお受け取り下さいませ。ほんの気持ちですので」

 

「うわっ! 今どっから出したの?」

 

 そのカードをさやかに差し出す。戸惑って受け取ることを躊躇するさやかの前にずいと突き出して受け取るよう少女が促した。さやかはおどおどしながらそれを受け取る。

 

「ど、どうも……」

 

「それではありがとうございました。わたくしは先を急いでおりますので。ご機嫌よう。鹿目まどかさんに美樹さやかさんに――」

 

 少女は浅く頭を垂れた後、起こしてほむらの目を金色の瞳が睨むように見つめた。掴み所のない言動に不可思議な格好。なにもかもが常識はずれでありながら悠然たる態度。ほむらを見つめる少女の金眼が一瞬、光ったように見えたのは幻覚か現実か。

 

「暁美ほむらさん」

 

「…いえ、こちらこそ」

 

「では、ご機嫌よう」

 

 少女は笑顔を作ってその場を去っていった。ほむら達もすぐに目的地に向けて歩き出す。

 

 数歩歩いた所でまどかは思い出したように後ろへ振り向く。

 

「あっ! もしかしたらその人見たかも……て、あれ?いない」

 

 しかし振り返っても銀髪の少女はもういなくなっていた。お互い5メートルも離れた訳ではない筈なのに、跡形もなく消えて幻でも見ていたかのような錯覚に陥る。

 

「早っ! もういない」

 

「言いそびれちゃった…でも、なんだかいろんな意味で凄い人だったね」

 

「つかこのカード何なの?」

 

 受け取ったカードは裏表真っ白で用途不明で片手で弄んだりして眺めてみるさやか。折り曲げたり反らせてみようとしてみてもびくともしないのでもて余すしかなかった。

 

「……」

 

 その隣でほむらはさやかの持っているカードに気付かず、握り締めていた自分の手に目を落とした。手の平には汗が滲んでいた。知らぬ内に緊張していたようだ。

 

 

 

 

 

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