Chapter13“夏祭り”
夏休み。
暁やツノキーは夏の大会に全力を尽くしている頃だろう。
オレは思いっきり、バイトを入れた。
週に4日は入っているかもしれない。
その理由は単にヒマというワケではなく。
来たる8月上旬の生涯初デートに向けて、ガンバっているんだ。
バイトを野村先輩が彼女とデートでサボった翌日。
シフトが野村先輩と一緒になった。
「おはようございます!野村先輩♪」
「おはよう、ユウ!おや、ご機嫌だねぇ!」
「え、そうですか?はは…まぁ…。それはさておき、野村先輩!先日バイト替わった時、どこへ行ってたんですか?」
「へっ!いや、言ったじゃないか。生徒会での集まりがあったんだよ」
まだ、シラを切るつもりなのか…こっちはすべて知っている。
「あの日、リサに聞きましたよ。デートだったんですって?」
野村先輩はすごく、オドオドしながら。
「へっ?い、いや…その…ナンノコトヤラ?」
「あの日の帰りにバッタリ生徒会の先輩達とも会って、事情は聞いているんですよ。それでもまだ、生徒会の仕事と言い切りますか?ならば、その日のドラマ『夢の中へ堕ちる世界』」の最終回知っていますよね?そうそう、あのクライマックスシーンは…」
ドラマのネタバレをしようとしたその時。
「わ、わわわぁ!ご、ごめんな。その日しか、彼女の予定が空いてなくて!まだ、ドラマ観てないんだ!言わないでくれないか!」
「言わないでくれないか?いやいや…いくら先輩とはいえ、その言葉使いはいかがなものかと思いますよ。フフ…」
「くっ…ドラマの話は勘弁してください。ユウ様」
もう、屈辱の表情を隠せない。
野村先輩の表情はゲームで負けて、悔しがる小学生のよう…。
ちょっと気分がいいなぁ。
「まぁ、いいでしょう…ただし!」
「もう、いいだろう?」
「いえ、まだです。こっちもシフトチェンジしたい日があるので、代わってください」
「はぁ、そういうことならよかった。いつがいいの?」
「8月の24日です」
「うん、わかった。溝口スタッフにもちゃんと、伝えておくよ」
って、ことで小峰とツノキーとの約束はOKになった。
野村先輩が居なかったおかげで、リサと付き合うきっかけをもらったんだ。
そんなに追い詰めてもね。
一応、貸し借りナシってことで。
リサとは付き合っているのはナイショにしながら、バイトをしている。
まぁ、そのうちバレるだろうけど。
付き合っているとはいえ、普段通りの2人にしか見えないだろうし。
そんな、バイトに明け暮れている日々。
ある日、シフトでリサと一緒になった。
野村先輩も居ないということで、オレが送ることになった。
「ユウ。どうせ送るなら、家に泊まっていかない?」
デートの前に泊まるというのは、また大胆なことを言うなぁ。
「い、いいのか?デートもまだしてないんだよ?」
「そっか、ユウは段階を踏むタイプなのね」
そういうワケじゃなくて、リサ自身が積極的すぎるんだよ。
まだ、心の準備もできてないのに…。
「な~に赤くなってんの?やーね、男はすぐヘンな想像ばかりする♪」
「そりゃ、ちょっと考えちゃうだろう」
「いいわ。じゃあ、デート行こ!そうね、プランはユウに任せる」
「おう、わかった」
「じゃあ、今日は送るだけね♪」
マジですか!
この時ほど、チャンスを逃したと思ったことはない。
かくしてデートのプランは任されたものの、生涯初デートで女性経験もないオレが見つけたのは“夏祭り”だった。
雑誌にはデートとしては、“初心者にもってこいのイベント“と書いてあった。
その理由はわからないけど、リサにそれを伝えると喜んでくれた。
夏祭り当日。
リサの家近くの祭りが行われる神社で待ち合わせ。
10分ほどはやく着いたけど、まだ来てないみたい…。
「ごめん、待った?」
「いや、そんなことは…ない」
一瞬、見蕩れてしまった…。
普段は髪をおろしている女性が髪を結ってアップしたら、こんなにも印象が変わるのか。
普通にアップしているだけではなく、巻いてアップというのに大人っぽさを感じる。
さらに藍色の浴衣姿に黄色と緑のふわりとラインの入っているのがまたいい!
「そう、よかった。じゃあ、まずはわたあめ~♪」
子供みたいにはしゃぎながら、オレの手を引っ張るリサの後ろ姿…特に“うなじ”がくっきり見えて実に色っぽい。
子供のような振る舞いとは、正反対の大人の妖艶さ…。
存在自体が反則じゃないか!
わたあめを一緒にたべながら、そんなくだらない視線をリサに送っていた。
「今日、花火があがるんだよ!むっちゃ、楽しみ♪」
「そうなの?知らなかった」
「まぁ、地元だからね!」
「あっ、ワタシのわたあめ持ってて。たこやき買ってくる!」
「もう違うの食べるの?早くない?」
「さっきできたてのが2個くらいしかなかったから、今買わないと待たされちゃう!」
「そっか。じゃあ、待ってる」
両手にわたあめを持ちながら、月夜を見上げる。
「よっ、ユウ!お前も来ていたのか?」
月夜を見上げている視線を妨げて、ワッっと野村先輩が入ってきた!
「の、野村先輩!あれ?その横に居るのは…」
「おう、紹介するよ。オレの彼女の伊吹奏だ」
「汐凪君。こんなところで会うなんて、偶然だね♪」
「なに、知り合い?」
「そう、同じクラスなんだ!ねっ!」
「うん!…って」
マズイんじゃないか?
こんなところをリサが見たら、ショックで固まるんじゃないか?
それにナイショで付き合っているのに、野村先輩の彼女が同じクラスの伊吹さんだなんてオレとしてもマズイ…。
椎名さん経由で暁とかにバレたら、からかわれるのはゴメンだ!
ここは軽く話を流して離れよう!
「伊吹さん、大会とかじゃないの?」
「まだ、地区大会だから夜は帰ってくることができるんだ。全国大会ってなると、移動でこうやって会えないからね」
「そうなんだ…。じゃあ、これから大変なんだね」
「うん!」
「じゃあ、一緒にいる友達が待っているんで」
「えっ!もう行くのか?」
「あっ、はい。2人のジャマするのも、悪いんで」
「そっか、気を使わせてしまったみたいで」
「いや、そんなことはないですよ。じゃあ、また」
「汐凪君、またね♪」
どうにか振り切ったものの、肝心のリサを探さないと。
たこやき買っているハズ、だよな…。
いた!
「リサ!ちょっと、お祭りから離れないか?」
「えっ!まだ来たばっかりなのに」
「じゃあ、たこやきを食べながらでもいいから。ちょっと、奥に行こう」
「ちょ、ちょっと、わたあめ持った手で押さないで!ついちゃうじゃない!」
そんなことに構っていられるか!
この楽しんでいる時間が壊れてしまうのは、絶対避けたい!
「ふぅ…ここまで来たら、もう大丈夫だ」
「神社の中まで入って来て、おみくじでも引くの?」
「まぁ、そんなとこ」
「あれ~なんか隠してる~!なにかあったの?」
また、人の心を読むのが巧みすぎ!
「それは言えない…。少しここでゆっくりしてよう。欲しいモノがあったら、買ってくるから」
「ふ~ん、まぁいいわ」
ふたりで買った食べ物を食べて、少し落ち着いた時に。
「…ちょっと待ってて、トイレ行ってくる」
リサは颯爽と走って行った。
相当ピンチだったのだろう。
とりあえずここに居れば、大丈夫だ、
10分経っても、帰って来ない…どうしたんだろう。
気になって、ケータイを鳴らしてみる。
♬♫♬♫♪
着信音が近い!思わず、発信を切った。
そっと、神社の壁から様子を窺う。
「へぇ、そうなんだ」
リサの声が聞こえる方向を見ると…。
「仲良さそうで、よかった。マサは結構頼りない時もあるから、
そんな時はガツンとやっちゃっていいから」
「はは、リサさんって面白いね。色々知っているんだマサのこと」
「リサ、あんま余計なこと言うなよ。これからやりづらくなるじゃないか」
「はは、ごめん。つい、口から出ちゃった」
ああ…野村先輩達と会ってしまったのか…。
「じゃあ、ジャマしちゃ悪いし、ワタシはこれで。友達も待ってるし」
「そっか。そういえばさっき、ユウが居たよ。もしかして、友達ってユウのことか?」
「へっ!ああ…違う、違う。普通に友達と会う約束してるんだ」
「ふ~ん。じゃあ、またな!」
「リサさん。また会いましょう♪」
「うん!またね」
ふたりは人ごみの中へ消えていった。
見送った手と共に固まったリサ。
後ろから声をかけてみる。
「見ちゃったか…」
「うん…かわいかった…彼女」
見送った方向をずっと見ながら、話すリサ。
その背中は、お祭りに来た時とまったく違っていた。
今のリサの表情が手に取るようにわかる。
だから、そのまま後ろから続けて話しかけた。
「そっか…さっきオレも会ったんだ」
「そう、なんだ…。だから…ユウはやさしいね」
「楽しんでいるリサにはふたりがいることを言えなかった…。ごめんな」
「ううん。どっちにしても…ここにいたら、会っていたよ」
振り向くリサの顔はもう…泣きじゃくっていた。
そのまま抱きしめる…。
強く抱きしめる。
「まだ、会うまでは信じてなかったんだ…。でも…もう目の当たりにしちゃうとさ…」
「うん…わかった…もういい」
「ユウは知っていたの?ワタシがマサのこと好きだってこと…」
「それでもリサが好きだってことに、変わりはないよ」
「ありがと」
楽しみにしていたハズの花火が上がる。
花火の音が、寂しく聞こえる。
その音が体の芯を揺さぶって、落ち着かない…。
失恋って、こんなにも気持ちを苦しくさせるものなのか。
遠くから好きな人をずっと見て何も行動を起こさない自分とは、リサは違う。
リサはすぐ傍で一緒にバイトして、一緒に帰ってそのままの関係でもいい…。
相手が恋愛対象として見ていなくても、傍にいれたらそれでいい。
それを選んだリサは傷つくのを恐れて。
関係も壊したくなくて、告白しなかったそうだ。
でも…その反動はすごく大きい…。
今ではもうどうしようもない話を延々としながら…リサを家に送った。