Chapter10“暁の思惑”
「お疲れ様!じゃあテスト用紙を後ろから持ってきて」
期末試験が終わってしまった。
汐凪君に声をかけられずに、このまま夏を迎えてしまうのかな。
「結華、試験どうだった?」
「うん…まぁまぁかな、奏はどうだった?」
「完璧だよ!…結華なんか元気ないね?また汐凪君のこと?」
奏は相変わらずの鋭さだわ。
もしかして、表情に出てるのかな?
「い、いや…そんなことないよ」
しどろもどろになってしまった。
「そう。悩んでいることがあるなら、言ってね!」
「うん、わかった」
ふぅ…また問い詰められたら、吐露してしまいそうだ。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
このまま夏を迎えると、大会のスケジュール的に顔を合わせるチャンスがなくなってしまう。
由美ネェにせっかくアドバイスしてもらったのに、ワタシの意気地なし…。
「椎名、ちょっといいか?」
振り返ると、小峰がいた。
「なに?またテストの点数でバカにしようとか思っているの?ざんね~ん、今回はいいデキ…」
「違うんだ。教室じゃなんだから、屋上で話さないか?」
あれ?すごく、真剣な話っぽい。
「暑いから早めにお願いね」
「そうだな、お前次第だけど…」
トイレに行く間待ってもらって、ふたりで屋上へ向かった。
その間の周囲の桃色の視線を感じながら。
でも残念、お互いそんな間柄じゃないんだなぁ。
屋上は誰も居なかった。
少し日射しが雲にジャマされて、過ごしやすい感じ。
「椎名、お前って…裕司が好きなんだろ?」
大きな雲の影に覆われながら、小峰は言う。
まったく想像もしていなかった発言にかなり驚いて、すぐに返事をすることができなかった。
大きな雲が流れる。
日射しがギラッと射した頃にやっと、返事ができる状態になった。
「小峰…なんで知っているの?」
「そっか、ウワサはホントだったんだな」
「ちょっと、ウワサって!今の学校では奏くらいにしか汐凪君が好きって言ってないのに、みんなに知られているの!」
「違う、そういうのじゃない」
「なっ!それじゃあ、ウワサってなによ?」
少し小峰はうつむいて、一息ついて言う。
「ウワサっていうのは、椎名が“好きな人を見つめるとその相手が…倒れる”っていう話だよ」
そっか…それで気付いたんだ。
でも、小峰はそれをウワサだと思ってくれていた。
ワタシは小峰に恋愛感情がなかったし、部活も別だったから現場を目撃することもなかった。
でも、あの体育の授業中は小峰もいた…。
だから、ウワサが確信へと変わった。
それでも信じられなくて、ワタシに確認しにきたんだ。
―聞くのには勇気がいるものね。
「そう…だったら、どうだって言うの?」
「裕司にはもう伝えたのか?」
「い、言えるワケないじゃない!こ、告白っていうのは男の子に言ってもらうのが普通でしょ!」
―違う、ただワタシは言う勇気がないだけ。
そんなこと小峰に言ったところで、変わるワケないじゃない。
「そんな、受ける側になるとか、お前の性格からは想像もできない発言だな」
「悪かったわね。その程度なのよ」
「ふむ、仕方ない。幼馴染みのクサレ縁ってことで、ひと肌脱いでやるか!」
「なに、人の恋路をジャマするつもり?」
「そうじゃねぇよ。デートのセッティングしてやるって、言ってんの!」
「えっ?でも…ふたりきりなんて、いきなりとか…そんなのムリだし」
「それはさっきまでの椎名の言動でよくわかった。デートっていうのは2種類あるんだよ。ひとつは一般的なふたりきりのデート。もうひとつはそう、グループでデートだ!」
意外と頭の回転がいいのね暁って。
「そっか。それなら問題ないね」
「男は裕司とオレ、それにツノキーで。そっちは3人で頼むな!」
「こっちは奏とワタシ。もうひとりは誰か誘ってみる。でも、この組み合わせはおかしくない?どんな繋がりなの?」
「んー?同じクラスって、ことでいいんじゃない?」
「奏…どう思うかなぁ。それにもうひとりは同じクラス限定になるのかぁ。難易度が一気に上がった感じ」
「それにいつにするかっていうのが、大事だな。もし、全国大会って考えると8月後半かな?まぁ、それはまた決まってからで。じゃあ、そっちはよろしくな!」
「あっ!ちょっと!」
昔からワタシを放置して、ふらっと消えるのが暁はうまい。
とりあえず、奏はなんとしても連れていこう!
「奏」
「なぁにぃ?」
「もし、バスケ部が全国大会まで行ったとして。そのあとの休みって、いつが空いてる?」
「う~ん、そうだなぁ」
奏は手帳を出して確認している。
結構、悩んでいる様子。
「8月は全国大会決勝が22日だから、そのあとだと…。24日の水曜日くらいかな?」
「そんな夏にスケジュールいっぱい、いっぱいかい!」
「夏休みと言っても、かなりの量の宿題があるし」
「そっか。宿題は適当に大会前にやってしまおうと思ってたから、気にしてなかったわ」
「ホント?それならスケジュールが一気に空く!」
「『それなら』って、どういう意味?」
「えっと、結華に宿題見せてもらえるなら!宿題に追われることもないって、意味だけど?」
「それはダメ!じゃあ、24日ね」
「えぇ~!ケチ!」
「自分のことは自分でやりなさい!それに宿題の答えが一緒だったら、あからさまに疑われるでしょ?」
「うぅ~」
グゥの音も出ないみたい。
「それで24日どこに行くの?」
「えっ…っと…」
そういえば、まだどこに行くとも小峰とは話してないや。
それに内容をここで言っても、変に疑われるだけだからここは…。
「ナイショ♪」
「あやしい…普段使わない言葉を結華が使うなんて。すごくあやしい…」
言わなくても、疑われた!
奏がすっごい目で見てくる…。
もう呪うっていうくらいの目で!
「ま、まぁたまにはナイショっていうのも、アリってことで」
「まいっか!全国大会決勝まで行けるといいね♪」
なんとか、誤魔化せたみたい。
24日になったけど、あっちは空いてるのかな?
もうひとり見つける前にメールしてみよ。
(おっ!椎名からメールだ。
『奏は行けるって!あとひとりはまだ見つからないけど、8月の24日で大丈夫?あともひとつ質問!どこに行くのか、決めた?』
24日か、よし!オレもその頃には大会が終わる。
裕司とツノキーに声をかけよう。
ん?行く場所?夏なら決まってるだろ)
「なぁ、暁。前に保健室で言いかけたことって、なに?」
「あぁ、あれはなぁ…」
(まだ、裕司には黙っておこう)
「いや、それより8月の24日って空いてる?」
「8月?まだ予定すら、決まってないよ」
「じゃあ、空けておいて!海行こうぜ!」
「なになに~♪海でナンパか?」
「おう、ツノキーもどうだ?24日」
「確かにいいなぁ~ナンパ!オレも行く!」
「じゃあ、そうしよう!8月24日ちゃんと空けとけよ」
「オレはナンパとかはいいよ」
「裕司、そんな寂しいこと言うなよ!せっかくの夏休みを満喫しないでどうするよ!ただ、海で遊ぶだけでも気分は違うぜ!」
(それに裕司が来ないと、何もはじまらないからな)
「そうか?じゃあ、遊ぶだけならいいよ」
「はは~ん?居るんだよね~こういうヤツ…。シオっちって、もしかしてムッツリスケベなのか?」
「なに言ってるんだよ!そんなことないって」
「だってさぁ。こうやる気のない素振りを見せているヤツに限って、現場に行けば豹変するもんな」
「ちょ、それはないよ!それに今はかの…ハッ!なんでもない。と、とにかく普通に海で遊ぼうな」
「まぁ行ってのお楽しみだな!」
「えっー!」
周りがビックリするほど、大声をだしてしまった。
小峰が送ってきたメールにはこう書いてあった。
『24日か、わかった。夏に行くとこなんて決まってんだろ。
海だよ!』
小峰はなんで海なんかチョイスしたの?
あっ!もうあの状況だと、ふたりには言っちゃったみたいだし。
胸が大きくないワタシを笑いモノにする気なの?
もう!ここは胸パット盛って行くしかない!
「どうしたの?結華?」
「ん?あぁ…奏、24日は水着持ってきてね」
「もしかして!海!海なの?あぁ~どうしよう!それならワタシ新しい水着買っちゃおっかなぁ~。ねぇ、結華!今度水着買いに行こうよ!」
「まったく、胸に悩む必要がない娘はいいわね」
「そんなことないよ。胸が大きいと、肩が凝って大変なんだから」
「羨ましい悩みだこと!」
たゆん♪たゆん♪っと、豊満な胸を揺らしながらこの娘は何を言っているんだか…。はぁ…一気に成長したりしないかなぁ…。