Chapter11“夏休みを満喫”
7月のはじめ。
夏真っ盛りという感じの暑さ。
ある日、ツノキーから電話がかかってきた。
「シオっち、今度の日曜日ヒマかい?」
「うん、ちょうど休みだよ」
「ラウンドワンで遊ばないか?」
「面白そうだね。じゃあ、暁も誘わないか?」
「もうすでに、暁には連絡してあるんだ。じゃあ、朝10時にラウンドワンで待ち合わせな!楽しみだな」
「ああ、楽しみにしているよ!」
そして当日。
オレは少し早めにラウンドワンの前に着いた。
「おはよー、裕司!」
「おはよー。そういえば、ラグビー部の大会って始まってるよね?」
「今、県ベスト4まで来てるぜ!」
「すごいな!さすが県屈指の強豪だけはあるな!」
「その肩書きは今大会で、返上するぜ!」
「ん?そんなマズイ状況なの?」
「いやいや、その逆だよ!オレ達ラグビー部は全国も狙えるくらい強い!」
「ホントか!楽しみにしているよ!」
「おう、どんと期待してくれ!」
ものスゴイ気合いの入りようだな。
「ふぅ~!」
「はううっ!」
暁と大会の話で盛り上がっていたその時。
オレの敏感な耳元に息を吹きかけてくる人物がいた。
「よっしゃ―!」
歓喜をあげる男が、オレの背後にいる…。
ツノキーだ。
「つ、ツノキー…。なんてことを…」
「想像以上の反応だなぁ」
ツノキーは満足気に両手を腰にあてている。
「裕司…お前って、耳敏感だったのか?」
暁は突然のことでビックリしていたが、心配そうに話しかけてくれた。
「うん…ダメなんだ。耳がゾクゾクっとする」
「シオっち、その表情…たまらないなぁ!」
ツノキーの表情は楽しそうだったが、こっちは全然楽しくない!
「ツノキー!なんのつもりなんだ?」
「ただの朝の挨拶だよ。そんな怒るなって」
「この仕返しはラウンドワンで返す!」
「おう!ハードル走の決着もまだついてなかったな!」
「よし、その決着もここで!つけるよ!」
「ノリ気だねぇ、ハッ!」
ふたりの闘志は熱く燃え上がる!
「お、おい…そんな熱くなるなよ!なっ、今日は楽しもうぜ!」
「なんか言った?」
「なんか言った?」
ふたりで声を合わせて、睨みつける!
「いや、普通に遊ぼうぜ…」
今にも飛びかかりそうな熱視線で、暁を睨みつけるオレとツノキー。
「わ、わかった。わかったって!」
「よし!わかればいいんだ!」
「楽しみだな、シオっち!」
「はぁ~。せっかく、部活が休みだっていうのに。とんだ巻き添えを…」
暁は少し意気消沈しているみたいだが、オレ達は気付かない。
オレとツノキー熱気は、周囲のお客さんをも寄せ付けないほどだった。
受付のお姉さんも例外ではない。
遠くからこっちを見て、ドン引きしている。
そんなのはお構いなしに、受付に行く。
「あ、あのどちらで遊びますか?」
「『スッポンポン』で、お願いします!」
「は…はい?お客様、どちらで遊びますか?」
お姉さんはもう一度聞き直してきた。
「だから、スッポンポンでお願いします?」
「お、お客様。私に何を求めているのですか?」
「だーかーらー!スッポンポンですって!」
それを見ていた周囲のお客さんからクスっと、笑いが起きはじめていた。
「当店は、そのようなサービスは承っておりませんが…」
「えっ?だって、ここに書いてありますよ!」
ムキになって、受付にあるメニューを指差して伝えた。
「ぎゃっはっはっはっはー!シオっち最高―!」
「ゆ、裕司マジで言ってるのか?ヒャハハハハ!」
横にいたツノキーと暁がなぜか、爆笑している…。
さっきまで熱気に気負されていた周囲のお客さんも笑いはじめて、受付は爆笑の渦と化した。
オレは真剣な顔で言っているので、まだ気付かない。
受付のお姉さんは状況が飲み込めた様子で、落ち着いて案内してくれた。
「お客様がご希望のプランは『スポッチャ』ですね…ぷふっ!」
なぜか、お姉さんまで笑っている。
だって、ここにスポッ…チャ…。
オレは間違えて、言っていた。
「あっ…す、すいません!」
熱くなっていて、まったく気付かなかった…。
それにいつもテレビのCMを観て、いつか行こうとワクワクしていたし。
ラウンドワンに来ること自体初めてだったのもある。
それも手伝って、一気に恥ずかしくなり数秒…(体内時計では数分)固まるオレ…。
「裕司、あとはオレがやるから、ツノキーと一緒に待っててくれ」
笑いがおさまって、冷静になった暁が受付で応対してくれた。
オレは周囲の視線を避けるようにツノキーの元へと行く。
「はぁ~。もう帰りたい…」
「まぁ、そんな気を落とすなって。誰にでも間違いはあるんだから」
ツノキーは慰めてくれたが、その表情は完全に笑いを堪えている。
気を落とした状態で、ツノキーとの勝負に勝てるのだろうか。
リサにはこの事は伝えないでおこう。
変態扱いされて、KFCでは笑いモノにされるだろうし。
暁とツノキーは固まるオレを引きずって、エレベーターへと乗り込む。
「シオっち!って、おい…」
「帰りたい…帰りたい…」
ツノキーの呼び声も遠くに聴こえるほど、独り言を連発していた。
「しょうがないなぁ~こうなったら、ヒヒッ!」
それはもうないだろうと、内心ほっとしていた。
その油断が甘かった。
「ふぅ~」
「は、はうううっ!」
ツノキーはまたもや、オレの耳元に息を吹きかけてきた。
「つ、ツノキー!やめてくれって、言っただろ!」
「おっ!元のシオっちに戻った。お帰り」
「はっ…た、ただいま」
迂闊にもツノキーのノリにのってしまった!
「ツノキー、あんまりやり過ぎると効果なくなるぞ」
「そっちの心配じゃなくて、オレの心配をしてくれよ暁」
「ん?そうか?おっ、着いたぜ!」
まずは屋内で遊ぶことになった。
フロアの休憩所に3人で座る。
「じゃあ、オレが審判をやろう。コイントスで先攻と後攻を決める!」
「暁。ラグビーじゃないんだから…ジャンケンにしない?」
「ジャンケンだと、あとだしとか後々面倒だから。なっ、いいだろ?」
「まぁ、それは確かに一理ある。しかし本格的だなぁ…」
唖然とするオレの横でひょいっと、100円玉をひっくり返す暁。
「100円と書いてある方がウラで、桜の模様がかいてあるのがオモテ。さぁ、どっちにする?」
「詳しいなぁ。普通に100円の方がオモテだと思ってたよ。その知識を勉強に生かせたら、赤点ギリギリなんて彷徨ないで済むのに…」
「裕司、知識と勉強はまったくの別物だ」
「そうなのか?」
「じゃあ、オレはウラで」
暁の豆知識に感心している間に、ツノキーはウラを選んだ。
「いま気付いたけど。コイントスって、先に言ったもん勝ちのような気がするけど…」
「そんなことはないさ。オモテもウラも先攻と後攻って、決めてないからな」
「そうだぞ、シオっち!まだ決まったワケじゃない」
「そっか」
なんか、丸めこまれている気がする。
オレは自動的にオモテの桜の模様となった。
「さて、ここで出た方が先攻だ。おっ?100円の絵柄だから、ツノキーが先攻だな」
「先攻か、先手必勝ってヤツだな!」
「じゃあ、ツノキー。どの競技にするか、決めてくれ」
スポッチャは32種類もある。
ツノキーが選ぶとしたら、部活でもやっている卓球かな?
「ダーツだ!」
「なるほど、ダーツか!よし!」
意外なチョイスだったなぁ。
待てよ、ちょっと暁に確認しないといけないことがある。
「暁、今日どのくらいの種類で勝負するの?」
「一応3時間パックだから、まぁ大体5種類くらいだな。オレも当初は遊びにきたわけだし、残った時間は一緒に遊ぼうぜ!」
「なるほど、わかった」
「えっ?3時間ぶっ通しで勝負じゃないのか?」
「ツノキー。そんなんじゃあ、夏の大会でヘバっちまうぞ!」
「それが…卓球部は…」
さっきまでのツノキーのパワフルな勢いがなくなった。
卓球部でなにかあったのかも…。
「実は今日、試合の予定だったんだ…」
「えっ?じゃあ、ツノキーここに居ちゃマズイんじゃないか?」
「そうじゃないんだ…」
かなり深刻そうだから、これ以上は何も聞かないでおこう。
「ま、まぁ。とりあえず、今を楽しもう!」
気落ちするなら、それを持ち上げるだけだ。
今日はツノキーをおおいに盛り上げるしかないな!
「じゃ、じゃあ!勝負といこう、ツノキー!なぁ、暁!」
「おう!さぁ、遊ぼうぜ!」
暁も場の空気を読んで、盛り上げてくれた。
「お、お前ら…よっしゃ!まずダーツで勝負だ。シオっち!」
「おー!」
いい意味でテンションが上がってきた。
3人でダーツのある場所へと向かう。
ダーツにはルールがいっぱいあるので、正直言うと分からない。
ツノキーが選んだというのは、得意としてる可能性が高い。
完全に不利な状況だ。
「ダーツって、矢を投げて遊ぶっていうのはわかるんだけど。詳しいルールをよく知らないんだ。ツノキー、教えてくれないか?」
「な~んだ、シオっちもか!ははっ、実はオレも知らない」
「えっ~!」
「えっ~!」
暁とオレは同時に大声で驚愕。
「つ、ツノキー?なんで、ダーツ選んだの?」
「なんで…って。最近テレビでよく見かけるからさ。一度やってみたかったんだよ!ダーツって、響きだけでカッコイイじゃん!」
「確かにダーツバーとか、ダーツのプロとか見かけるけどさ。ルールわからないんじゃあ、やろうにもできないよ」
「そんなことはないよ。ほら、ダーツっていうのはゲームの本体みたいになっているから」
そう言われて、ダーツのマシンに近づいてみる。
ボタンを押すだけで、ルールや競技の種類などが出てくる。
これは初心者でも便利な設定だ。
マシンを見るだけで、早くプレイしたくなってくる!
「これが、デジタルな時代なのか!スゴイな!」
オレは子供のように目をキラキラさせて、マシンを見ていた。
するとツノキーが近寄って、ヒソヒソと話しかけてきた。
「おいおい、シオっち。あんまり騒がない方がいいぜ。初心者だって、バレるぞ!いいかい?ここはさもやっているフリをするんだ」
「そ、そうだね。サンキュー、ツノキー」
心躍る自分をなだめながら、いざ勝負!
「マシンが計算してくれるから、オレも参加するけどいいか?」
暁は審判をせず、普通に楽しみたいようだ。
「もちろん!一緒にやろう!」
最初にプレイしたのは、『COUNT―UP(カウントアップ)』というもの。
前もって、決めたスコアに最初に到達したプレイヤーが勝ち。
ポイントが高いほど、勝つ可能性が高い。
ダーツの中で一番知られている競技でもある。
スコアは400に設定したので、そこに到達した時点で勝ち。
「じゃあ、オレからいくぞ!」
ツノキーの第一投はド真ん中に入った!
“BULL”とダーツ盤の上の画面で点滅する。
そのあとに25点と表示された。
「ツノキー!スゴイじゃん!」
「いや、たまたまだよ!」
うれしさを隠しながら、クールに流すツノキーはなぜかかっこよかった。
「同じところに2本を連続で当てれば、さらに加点されるハズ!」
ノリにのったツノキーの気持ちはむなしく、2本とも的の外へと飛んでいく。
ド真ん中に当たったのは、ホントにたまたまだったようだ。
「ま、まぁ。次で決めれば、OKだし。気にしない、気にしない」
自分で自分を励ますツノキー。
「ドンマイ!じゃあ、次はオレだね!」
オレはまず、横でプレイする人のやり方を観察した。
ラインの向きに足を合わせて、持ち方は90°くらいの角度。
そのままの形でスっと投げる。
第一投はうまく刺さったけど、結果は2点。
あまりに力を入れなかったせいで、斜めに刺さった。
今度は少し力を入れて第二投!
刺さった場所は少し上の20点だったが、なぜか60点になった。
「裕司やるなぁ!」
「やるじゃん!シオっち!」
ふたりは褒めてくれているが、こっちはまったく状況がつかめない。
「刺さったのは20点なのに、表示されるのは60点なの?」
「裕司、それはな。あの中心から少し離れている狭いところに刺さったからなんだよ。そこは20の3倍の得点が入るんだ」
「シオっち、実はやったことあるんじゃないのか?」
「そんなことないよ。周りの人のマネして、投げてるだけ。でもこうやって、刺さるとダーツって面白い!」
「だろっ!」
ツノキーは少し、鼻高々といった感じ。
しかし、第三投は的を外した。
十数分後。
「やったー!勝った!」
オレが勝利!
「シオっち、おめでとー!」
「うん!ありがと!でも…」
「そうだな…素直に喜べないよな…」
ふたりでラウンド12までもつれた接戦をよそに、暁は6ラウンドでスコア400軽々と達成した。
「おーい、ジュース買ってきたぞ!おっ!裕司が勝ったのか、やったな!」
あまりにも早く達成したため、飲み物を買ってきてくれた暁。
「なんで、そんなに上手いの?ありえないでしょ!暁も初心者じゃないの?」
少し黙りこんで、暁は口を開く。
「実はさ。小さい頃から商店街のダーツ大会で毎回優勝してるんだ!」
「えっー!なんでそれを早く言わなかったんだよ?」
「だって、自慢みたいになるから…」
「そんなことない!暁が教えてくれたら、もっと早く決着したハズなのに!なぁ、ツノキー!」
「そうだよ!暁、早く教えてくれよな!」
「わりぃ、わりぃ。じゃあ、教えるよ!」
暁に手とり足とり教えてもらったが、ツノキーの飲み込みの早さには勝てなかった。
「よっしゃー!」
結局、トータル2勝1敗でツノキーが勝った。
「負けたのは悔しいけど、かなり面白かった!」
「また今度やろうな!」
「おー!次回は負けないよ!」
ダーツは意外と時間が経つゲームだった。
「時間が経つのが、早いなぁ。あと1時間半だ。じゃあ、次は裕司が決めてくれ」
「それだったら、ポケバイで勝負だ!」
「ポケバイってなに?」
「ポケットバイクの略称でバイクのちっちゃいのだよ」
「へぇ~。そんなのが、ラウンドワンにあるのか?」
「うん。さっき、やってる人見つけたよ。ほら!」
オレが指差す方向には、確かにリンクはあるが…。
「裕司、あそこはローラースケート専用のリンクじゃないか?」
「さっきのダーツできっと、神経疲れてるんだよ。だから、リンクでバイクが走ってるように見えたんだよ!」
ふたりの言う通りリンクではローラースケート場のようだ。
「い、いやでも来た時には走ってたし、それに音もしていたんだ」
説明しても、不思議がるふたり…まるで信じていない。
「ちょっと待って!店員さんに聞いてみるから!」
ふたりにそう伝えたあと遠くに見えた店員に聞いてみる。
「あの…ポケバイって、ありますよね!」
「はい、ございます」
「そうですか!」
よかった、やっぱりあったんだ!
「ポケバイはどこで乗るんですか?」
店員はローラースケートのリンクを指差して。
「今、ローラースケートしているリンクで行います。1回につき6名様まで走行可能ですよ」
事故防止のためか、少人数で走行するらしい。
「スタート時間は何時ですか?」
「さきほど、ポケバイをご使用になるお客様が見えましたので。あと10分後くらいにスタートしますよ。ポケバイは90分に一度なので、この機会にどうぞ!」
待てよ、10分後って…あんまり時間ないじゃん!
「ありがとうございます」
一礼をして、急いでふたりの元へ戻る。
「やっぱ、あったよ!ポケバイやろう!」
「ホントか!オレも乗りたい!」
「よし、勝負しよう。シオっち!」
ふたりを連れて、リンクへと向かう。
ローラースケートをしていたお客さんがリンクから出ていく。
ポケバイに乗るお客さんが3人見える。
「やばい!早く行こう!」
「なんでそんなに急ぐんだ?裕司」
「ポケバイに乗る人が3人見えたから、急いでるんだ。1回に6人までだって。このチャンスを逃すと、結構待たされるって!」
「マジか!そりゃ早く行かないとな!」
そう伝えた瞬間、暁はビュン!と走って行った。
さすがに足が速い!
ラグビー部のウイングってことだけはある。
さきに着いた暁はもうすでに準備していた。
「ふたり共エントリーしておいたから。早く準備して、もうすぐはじまるぞ!」
ポケバイに乗るにはプロテクターにバイク用のグローブとゼッケンを用意された。結構本格的だった。
さっそく、装着する。
「壁際1mは接近してはいけません。また、走行する相手との車間は2mは空けてください」
ポケバイ専属の店員から説明を受けて、借りたバイクを引いてリンクへ。
レースは3周勝負、元はローラースケートのリンクなので、ちょっと路面がツルツルしている気がする。
「よし、いざ勝負だ!」
「ツノキー、ここは負けるわけにはいかないよ!」
「強気だねぇ!」
ここで負けたら、時間的に勝てる可能性がなくなる。
「はい、ではみなさんルールを守ってくださいね!いざ、スタート!」
ハンドルを切ると、体が持っていかれる。
はじめての運転なので、最初は戸惑った。
が、徐々に慣れてきて前方を見る。
目の前にはツノキーがいた!
ハンドルを回して、アクセルをかける。
「ツノキーお先に~!」
「あっ、待て!シオっち!」
ツノキーが追いかけてくるものの、ポケバイの調子が悪いのか思ったよりもスピードが出ないらしい。
後方を軽く見てみた。
エンジンのかかりが悪いのか、暁はちょっと遅れている。
コーナーでレーサーみたいに、体を斜めにしてみようと思ったが。
先を行く他の人がそれをやって、転倒しかけているのを見て思いとどまった。
ポケバイのレース中は疾走感のある曲が流れた。
今日流れていたのは、Queenの『I Was Born To Love You』だった。
「裕司、ラスト一周で勝負だ!」
「いつのまに来たんだ!早いなぁ!」
背後から暁が追い上げてきた。
ギリギリ6人中2位でゴール!
3周はあっという間に終了したが、かなり楽しい!
もう一度とも思ったが、他のお客さんが待っていてそれは叶わなかった。
リンクにバイクを置いて、借りた物はすべて店員に渡す。
「惜しかったなぁ。裕司にもう少しで届きそうだったのに!」
「ものスゴイ追い上げだったね、暁。結構後方に見えたから、油断していたよ」
「エンジンがかかってから、スピードを緩めないように乗ってたんだ。
そしたら、目の前に裕司が見えた。一瞬、勝てると夢を見たね!」
暁も興奮を抑えきれない様子。
「いいよなぁ。ふたりはデッドヒートできて…。オレなんか…まったくスピードが出なかったよ」
ポケバイの結果を楽しく話しているふたりの背後に、元気のない声が聞こえる。
「あ、あははっ。まぁ仕方ないよ、ツノキー。マシンの性能の差はあるよ」
「そっか。それなら、仕方ないか!」
「これでツノキーと裕司は1勝1敗で引き分けだから、時間的にも次が最終決戦だな。じゃあ、次はツノキーが種目を決める番だ!」
「よし、勝負としては面白くなってきた!」
気を取り直すツノキー。
「じゃあ、卓球で!」
まさかのチョイスだった。
「えっ!本気で勝ちに来てるじゃん!」
「そうだよ。負けられないからな!」
容赦ないツノキーだった…ありえない。
「それはいくらなんでも、やる前から勝負は決まったようなもんだろ!ツノキー」
オレのフォローに来てくれた暁。
「やってみなきゃ、わからないよぉ?(ニヤっ)」
今めっちゃ、ニヤッって笑った!
「ツノキーは確信犯だよ!暁!なんか言って!」
「いや、ルールは時に残酷だからな…。裕司、この条件は飲むしかない」
「えっー!」
さっきまでのフォローはどうしたのさ!
何かを賭けているわけでもないのに、盛り上がっている。
そんな時にツノキーのケータイが鳴った。
「はい、宮間先生。どうも暑中お見舞いもうし上げ?…って、それどころじゃない?はい、はい…ええっ――!はい…分かりました」
ツノキーは電話に出たあと、深刻そうな顔をしている。
「どうしたの?ツノキーなんか顔色悪いよ?」
「ああ…実はな、今日補習サボってきちゃったんだ。それが今宮間先生にバレて、補習期間延長だと言われた。はぁ…ついてないよ」
「ん?補習?ツノキー補習だったの?じゃあ、卓球部は?」
「卓球部は今日無事に県ベスト4に入ったって、さっき連絡が来た。補習のヤツが大会に出られるほど、卓球部は甘くはないよ」
心配をして損した。
卓球部が予選敗退とか、不祥事があって大会に出られないと思い。
まったく、いらない心配ばかりしていたオレ。
そんなことでツノキーが落ち込んでいたのかと思うと、だんだん腹がたってきた。
「ツノキー!今すぐ学校に行って、先生に謝っておいで!」
「えっ!そんなことしたって、大会に出られるワケじゃないし…。それに補習だって…」
「四の五の言わずに、まずは謝ってきなさい!」
「わかったよ。じゃあ、この勝負はお預けだ!じゃあな。暁、シオっち!」
「手を振るヒマがあったら、早く行きなよ…もう」
暁はただただ苦笑いだった。
「裕司、怒りとツッコミって、意外と近いものがあるんだな」
「そうか?あんまり関係ないとも思うけど。じゃあ、ここからはふたりで遊ぼうな」
「お、おう!」
残り時間はやりたい放題に遊んだ。
ガンシューティングやビリヤード、バッティングセンターなどなど。
多種多様に遊んで、暁と楽しんだ。
「じゃあね、また24日に会おう。暁!」
「おう、遅れるなよ!」
(あっ!裕司に椎名の話をするの忘れた。まぁいっか、海で伝えればいいんだし)
そのまま帰っていく暁の背を見ながら、はじめて夏休みらしい夏休みを満喫した気分だった。