Chapter14“気になって”
リサと約束していたドラマを録画したDVDを持って、同じシフトに入った日に渡そうとした。
しかし、その日リサは来なかった…。
心配になってメールや電話もかけたけど、一向に返事が返ってこない。
脳裏に最悪の事態が浮かんできた。
まさか、夏祭りのことを考えすぎて耐えきれず…。
自殺なんて、考えているんじゃないかと。
オレをひとりぼっちにさせて…。
居ても経ってもいられず、バイトが終わってすぐにリサの住むマンションに駆け付けた。
幸いにも合鍵を事前にリサからもらっていたので。
カギが閉まっていてもとは、思っていた。
だが、ドアは無防備にもカギがかかっておらず。
部屋は暗いまま。
その瞬間、頭が真っ白になった。
おそるおそる中に入っていくと、リサはベッドに横たわっていた。
少し躊躇しながらも、声をかけてみる。
「リサ?大丈夫か?」
「う…うーん…ユウ…もう食べられないよ…」
…寝ボケているようだ。
腐抜けた寝言で安堵と共に、あまりに考え過ぎていた自分がバカらしく思えてきた。
でも、なんでバイト来なかったのだろう?
そう思って、リサの表情を見つめる。
頬が普段より赤くなっている。
よく見ると、リサの枕はタオルをかけた水枕のようだった。
ほんの一瞬。
田舎のばあちゃんを思い出したが、それと同時に自分の手をリサの額に伸ばしてみる。
リサの額が熱い!
どうやら、バイトを休んだ理由は風邪だったようだ。
数時間経ったであろう、水枕を起こさないように抜いて氷を入れ直した。
その時、目に入ったシンクは洗い物の山で蛇口の先端まで積もっていた。
黙って見過ごすにはあまりに多いので、無心で洗い物に熱中してしまった。
次に部屋を見渡してみた。
女の子の家とは思えないくらい、散らかっている。
風邪をひいて何日か経っていたのだろう、ご飯は出前やコンビニ弁当で済ませていたようだ。
ピザの入れ物や、弁当容器が散乱している。
すぐさま有料ゴミ袋にどんどん入れて、片付けた。
下着も脱ぎっぱなしだし、洗濯物も取り込んでそっくりそのまま置いてある。
あれ?これは…黒一色の下着!
これが俗に言う、勝負下着なのか!
リサって、意外と大胆なのはくんだなぁ。
思わず掃除を中断して、見入ってしまった…。
下着を横目で気にしつつ、掃除は完了。
さて、次はリサにご飯でも作ろうか。
冷蔵庫はほとんど空っぽ。
お米はあったので、洗って炊いておく。
一端リサの家を後にして、買い物へと出掛けた。
近くのスーパーで梅干し・卵・万能ネギ・鶏ガラスープの素、水分補給に最適なポカリスウェットを買ってリサの家に戻る。
結構ガチャガチャと作業をしていたが、リサは熟睡していて安心した。
ケータイで心配していた溝口スタッフや、野村先輩にメールをしておいた。
―と言っても付き合っているのはナイショなので、連絡とれたと伝えた。
そのあとは音量を極力下げて、テレビを見ていた。
ご飯の炊けた音が鳴り、急いでその音を消す。
買ってきた材料で作るのはもちろんおかゆ。
小さめの鍋を手に取り、先ほど炊けたご飯と水を入れる。
味付けは鶏ガラスープ。
さっぱりした味になるので、食べやすい。
最後に溶き卵を入れて、ふわっと仕上げる。
梅干しは好みによるので、小皿に入れる。
ちょうど、出来あがったくらいにリサが起きてきた。
「あれ?ユウ…なんで、居るの?」
「連絡とれないから、心配で来たんだよ」
「そっか。ワタシ…ケータイをサイレントモードにしていたんだ。睡眠をジャマされないように」
「でも、連絡はくれよな。こっちは心配したんだよ」
「うん、ごめん。そんな気力なくて…」
「そんなに、ヒドイのか?」
「ほら、夏風邪って長引くでしょ?だから、ムリに体動かすと余計時間かかっちゃうかなって…。それに体がかったるいし」
「それもそうだな。ほい、ちょうどおかゆができたよ」
「わぁ!ユウの手料理だ!」
「熱いから気をつけなよ」
「…うーん」
「どうしたの?食欲ないの?」
「ユウが食べさせて…」
「そっか。腕を上げるのもだるいんだな…わかった。ほら、あーん」
「あーん…うん!おいしい!」
「それはよかった。手料理をごちそうするなんて、言っていたのに。最初がおかゆっていうのは、内心悔しいな…」
「そんなことないよ。すごくおいしいもの」
「ホント?うん…それはよかった」
「でもこれ“おかゆ”っていうより、むしろ“おじや”みたいだね」
「まぁ、これがオレの母が作る“おかゆ”なんだ。こういう味の方が、味気ないおかゆよりおいしいだろ?」
「そうね。普通のおかゆって、おいしくないもの。ユウの作ってくれたこっちの方が、おいしい」
結構しゃべれるようで、なにより。
そのあとは気力が湧いたのか、リサは自分で食べるようになった。
「ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
「じゃあ、洗い物したら帰るね…」
「えっ?帰っちゃうの?」
「長居すると、リサの体に負担がかかっちゃうだろ」
「もう今は大丈夫。ユウとはメールか電話しかしてないし、2日間くらい誰とも喋ってなかったから…。ねぇ、今日は泊って行って」
「…うん。じゃあお言葉に甘えるとするよ」
「それにしても部屋がキレイになっているけど。もしかして、ユウが片付けた?」
「あっ!つい…あまりにも散らかっていたから、夢中で片付けちゃった!ごめんね」
「ううん、うれしい!ありがと」
「ふぅ…一瞬怒られると思った。少し残念だったのは、下着が散乱してなかったことかな?はは」
ヤバッ!つい、口が滑った!
「あれ?下着も脱ぎっぱなしだったような…。あっ!ユウ、あんたまさか!下着も片付けたの?ワタシの断りもナシに?」
「下着も散らかっていたら、そりゃあ片付けるでしょ?」
「ユウ…ボロが出たわね…」
リサはベッドの横にあったテニスのラケットを利き手に持って、今にもこっちへ振りかざそうとしていた。
「ちょ!ちょっと、待って!ラケットは痛い!ラケットは痛いよ!」
「ユウのバカァァ!」
「ぐわぁぁ!」
ラケットのネットなら、そこまで痛くはないだろう。
でも、リサは持っていたハズの柄の部分をオレの頭のてっぺんにぶつけてきた…。
「痛い…痛いよ!どんなハンドリングすれば、柄の部分で殴れるんだよ。それに恋人同士だから、別にいいじゃんか…」
「よくない!恋人同士でも触れていいことと触れられたくないことは、ちゃんとわきまえてよ!ホント…ユウって、ウチのママみたいね」
「えっ?どういうこと?」
「お世話焼きすぎるところが、そっくり」
「ふーん…リサは高校生にもなっても、ママって呼んでるんだ意外だな」
「はっ…」
リサは恥ずかしかったのか、言葉に詰まっている。
ただ、言葉が詰まった代わりにラケットを振りかざしてくるとは…。
まったくもって、想像していなかった…。
「はぐぅう…」
もうオレの頭は、かなり陥没しているんじゃないか?
と思えるくらいの威力を感じる。
「男と違って、女の子はいいの!」
「ドメスティック・ヴァイオレンス反対!」
「違うよ。これは愛情表現じゃなくて、照れ隠しだから」
「そんな…。愛情表現じゃないの?こうなったら、やり返すしかないな!ほりゃ!」
オレはリサの脇腹あたりをくすぐりまくった。
「うは、うひゃひゃひゃひゃ!ちょ、やめてってば。うひゃひゃひゃひゃ!」
どこぞのお代官さんみたく笑うリサにちょっと、引いた自分がいる。
思わず、くすぐる手を止めた。
「うひゃひゃひゃって…あれ?もう終わり?あっ!」
気が抜けたオレはリサにのしかかる。
流れのままに見つめ合うふたり。
「キスしないか?」
「うん…いいよ」
そう言って、キスをしたあとは何もしなかった。
「あれ?ユウ?」
いくら若いとはいえ、バイトの帰りにリサの看病&部屋のお掃除をすると体はバテバテになる。
「ちょっと…ユウ?」
呼びかけるリサの声は、遠くに聞こえる。
そのままオレは眠りに落ちた。
陽の光が目に入ってくる。
気付けばもう朝、横をふりむくとリサが寝ていた。
ひとり用のベッドでふたりなんて、結構狭いのに…。
リサは幸せそうな顔で眠っている。
その横顔を目に焼き付けながらも、トイレに行く。
トイレの流す音に気付いたのか、戻ってきた時にはリサはもう起きていた。
もう一度リサの寝顔を見ていたかったのに…残念でならない。
「おはよーユウ…昨日あのあと大変だったんだよ!」
「ん?なんかあったの?」
「覚えてないの?ユウがワタシにのっかったまま寝ちゃったでしょ?」
「そっか、そんなこともあったような気もするけど」
「あのあとユウの体を起して、横に寝かせたの。結構強引に動かしたのに…ユウってば、起きないんだから…」
確かに、オレは一度寝につくと起きないけど。
「それは悪かったな…。せっかく、看病していたのに逆に迷惑かけちゃって」
「まぁ、いいわ。いい予行練習になったって、ことで」
「まぁ、お互い様って感じかな?」
「そうね。でも、あのいびきは一度病院に行った方がいいんじゃない?ヒドかったよ」
「そんなに!ショックだ…」
健康には気を付けていたつもりだけど、そんなにヒドイとは…気を付けなきゃ…。
「でも、ユウが来てくれてよかった。実はね、夏祭りのこと少し引きずっていたんだ…」
「やっぱそうだったんだ…」
「えっ!気付いていたの?」
「うん、それで家まで来たんだから」
「そうだったんだ…。でも、ユウに会ったことで落ち着いたよ。ありがと」
「うん」
勘違いから家まで来たけど、来てよかった。