Chapter16“pardon・generathion”
8月24日。
暁&ツノキーと海に遊びに行く日。
リサも伊吹さんとどこかに行くみたい。
偶然にも、同じ時間帯に同じ駅で待ち合わせとなった。
でも、駅で会ったリサの服装がどうもおかしい。
「なんでリサ短パンにTシャツなの?」
「海と言えば、軽装が普通じゃない?」
「えっ!リサも海行くの?」
「えっ?言ってなかったっけ?今日はユウの男友達3人と、ワタシを入れた女子3人とで海に行くんだよ」
「き、聞いてないよ。そんなこと…」
そんな困惑している時に背後から声がかかってきた。
「おう、おはよ!裕司!」
「暁!今日は男同士で海に行くんじゃなかったのか!」
「ん?なんのことだ?今日は男女混合だぞ」
そんなことは一度も聞いてない。
「リサさーん!」
「奏ちゃ…ん―――?」
元気よく伊吹さんに声をかけるリサの『ん』の声が、一気に伸びた!
伊吹さんの方を見ると…えっ!
となりで歩いているのって、おいおい…勘弁してくれよ。
「おう、ユウ!早いな!」
「なぁ、リサ…。今日野村先輩が来るって、聞いてた?」
「ううん…聞いてないよ」
「海は飢えている男共が多いからって、彼氏もついてきちゃいましたー!」
伊吹さんはリサの事情を知らない。
海に行くのに彼氏を連れてくるのはありえることだったが、傷心から少し立ち直ったばかりのリサにはキツイ1日になりそうだ。
その空気を感じとったリサは小さな声で。
「大丈夫、ユウがそばに居るから」
「そっか。辛かったら、途中で離脱しよう」
「うん」
こそこそと話していると、暁が話かけてきた。
「あれ?ふたり共知り合いなの?」
そう言われた瞬間にバッと離れ、オレは暁を見て。
「ああ、あっとバイトのせんぱ…」
「いえ、彼氏です!」
「ちょ、おい!なんで…」
リサが言っちゃうんだよ!とは言えずに。
内緒にしていたのに、それもそういうのをいじるのが好きな暁に言ってしまうなんて。
「えっ!そうなの!」
(マズイなぁ。椎名にどう伝えよう…今日この日をドキドキして待っていたアイツは…)
あれ?いじってこない…。
逆に体全身が固まっている様子。
「いや、暁そんな固まらなくても…。いつかは言おうとしたんだよ。でもなかなか言い出せなくてさ」
「ああ…。ちょっと、トイレに行ってくる」
相当ショックだったらしい…。
一番身近な友人が彼女持ちだったというのが、暁の背中に重くのしかかったみたい。
「やっぱな。ふたりの行動がなんか、あやしかったもんな」
暁とは対照的に小悪魔な細目で笑みを浮かべる野村先輩。
その横にいる伊吹さんは一瞬固まっていたようにも見えたが、すぐこっちを見て。
「そうなんだ!じゃあ、やっぱり夏祭りの時に会った時はふたりと共一緒だったんだ」
「そうだよ。ちょっとヒミツにしているのって、スリルがあって面白いと思って黙ってたんだ」
思考が止まっているオレの代わりに、伊吹さんと話を弾ませるリサ。
この子は改めて、スゴイと思った。
「おはよー。奏、リサさん!あれ?一番遅く来たのがワタシ?」
「おはよー!結華!ちょっと、トイレ行かない?」
「えっ!でも、来る前にトイレ行ってたから」
「いいの!トイレくらい付き合ってよ」
伊吹さんが、今来たばかりの椎名さんを連れてトイレに行った。
「結華…。これから話すことを落ち着いて聞いて!」
「へっ?あっ…うん」
「汐凪君…実は…」
「おーい!電車来ちゃったよ!もう行くよー!」
「えっ!は、はーい!結華!メールで伝えるわ。今はとりあえず電車に乗ろ!」
「うん、わかった」
少し遅れてきたツノキーもついて来て、電車に乗った。
男子と女子に別れて、対面して座れるほど車内はガラガラ。
みんなが喋ると、その声が響き渡るほど。
「暁~聞いてなかったぞぉ!女子3人と一緒に行くとか、これでナンパとかしなくていいじゃん!」
さっきまで、喋りまくっていたみんなの声が静まる。
「ツノキー実はな…」
ちょっと空気の読めないツノキーに暁は現状を小声で伝えた。
それを聞いたツノキーも小声で。
「ええっ!伊吹さん彼氏付きとか、シオっちも彼女連れとか!マジかよ!」
「まぁ、そういうことなんだよ」
ツノキーは納得したと同時に大声で。
「あーもうー!残った椎名とかマジ眼中ないし!」
「角田!アンタ何様のつもり?ワタシだって、あんたに興味ないわよ!」
(今残ったって言った?なんのことだろう)
そのまま、殴りかかる椎名さん…まぁムリもない。
「ヒィィィィー!し、椎名…暴力反対!」
「まぁまぁ…はは…ツノキーは当初の予定ではナンパだったんだろ?それに変わりはないんだから。いいんじゃないか」
そんな3人のやりとりにみんなは笑って、電車は進んで行った。
海に到着。
「オレとツノキーはパラソル借りてくるから、みんなは先に着替えていて」
「うん、わかった」
木製でできた野生味溢れる更衣室で着替えている途中。
野村先輩が話かけてきた。
「なぁ、ユウ。リサのこと大事にしてやってくれよ。オレにとって、妹みたいなもんだからさ」
「はい。野村先輩に言われなくても、大事にしていますよ!」
「生意気なこと言うなぁ。出会った当初はモジモジしていたクセに」
「今はもうそんなことないですよ」
そうオレは変わったんだ。
いや、素の自分が出せるようになった。
―それは今までできなかったこと。
「椎名ちゃんって、着ヤセするタイプだと思ったけど、筋肉質なんだね!ビックリしちゃった」
「リサさん。それは褒めているの?」
「うん、そうだよ」
「まぁ、筋肉に肉がいった分。胸はあんまりないけどね~♪」
「奏、アンタはまた余計なことを言って!」
「うわぁ!結華ちゃんが怒ったぁ!リサさん助けてぇ~♪」
「ふたり共ホント仲がいいのね♪フフ」
「ああぁもう!椎名さん話逸らさないで下さいよ~」
女子も着替え終わって、いざ!海へ!
やはり目の保養になる水着をリサはチョイスしてきた。
彼氏としては、ヒモパンの水着は少々周囲の視線が不安だけど。
容姿は最高だ!
ビーチバレーをする時も胸が弾む!弾む!
「ユウ!ワタシの胸ばっかり見てないで、ちゃんとボールあげなさいよ!」
「ああ、つい…ハハハ!」
そんなこと言われても、視線はリサに釘付けだった。
みんなでビーチバレーをするなか、パラソルの下でくつろぐ椎名さんと伊吹さん。
「メールするチャンスがなかったから。今、結華に言うね」
「うん、汐凪君がとか言っていたよね?」
「そう、汐凪君…リサさんと付き合っているんだって」
「えっ!」
(ウソ!そんな…今日この日を待ちわびていたのに。
いざ、告白って時にその事実を突き付けられるなんて…)
「気持ちはわかるよ。結華…」
「ワタシね…。今日、汐凪君に告白しようと思ったんだ」
「そ、そうなの!だから、今日のために…結華は…」
「うん。暁がワタシの気持ちを察して、セッティングしてくれたんだ。ふたりっきりだとどうしようもないから、みんなで行けば流れで告白できるだろって…」
「そっか。それでどうするの?」
「どうするも何も…。彼女居るんじゃ、仕方ないじゃん」
「でもね…結華。気持ちって、伝えないと一生後悔するよ。告白することによって、状況が変わるかもしれないじゃない。あのふたりは付き合って間もないんだし。それにリサさんは長い間ワタシの彼氏好きだったみたい。未練タラタラな感じで、よく彼氏の話をしているもん」
「そうなんだ。じゃあ、リサさん今日は複雑な気分なのね。でも、スゴイなぁ…。そんな素振りは一度も見せないで、楽しそうに遊んでる」
「気持ちだけでも伝えなよ。伝えないと一生後悔するよ」
「うん、わかった。奏!リサさんのこと教えてくれてありがとね」
「いえいえ~♪じゃあ、ビーチバレーの輪に入ろっか!」
「うん!」
2人はなんか神妙な話をしていたみたいだけど、元気にビーチバレーの輪に入ってきた。
もう、3人の胸に目が釘付け!
椎名さんは小さい胸だけど、スポーティーな水着で引き締まっている。
伊吹さんはポチャッとしている感じで、その豊満な胸はたまらない。
ツノキーもその迫力に押されて、よくボールを顔面にブチかまされていた。
オレはリサに注意されてガン見しなくなったから、その被害者にはならなかった。
みんなで競泳とかやってみたけど、部活軍団の前ではまったく歯が立たなかった。
ツノキーは競泳をするフリをして、そのまま他の女の子にぶつかっていった。
「ああ!ごめん、ごめん!つい、泳ぎに夢中になっちゃって」
「いえ、こちらこそすいません。泳ぐの、好きなんですね」
「うん、だけど…君と遊ぶ方が、もっと楽しいと思うんだ!」
「ふふ。ワザとぶつかって来たのね」
まったく、ツノキーは姑息な手を使うなぁ。
そんなツノキーを放っておいて、みんなで昼食にした。
「野村先輩!今日は彼女の前ですし、みんなにオゴってください!」
「ユウ。お前こそ彼女の前なんだから、いい顔見せるべきじゃないのか?」
「ほほう~そんなこと言って、いいんですかね?」
「な、なんだよ!もうお前に揺すられることなんて、何もないぞ!」
「いやぁ~そんなことはないですよ~」
「ま、まさか!まだあるって、いうのか?」
「そう、あの件をまだオレは引きずっていますからね。溝口スタッフにあのことを伝えたらどうなるか…」
「いったい、どうなるっていうんだよ」
「先日、溝口スタッフにこんな質問を投げかけてみたんですよ」
「な、なにをだ?」
「『あの~もしデートとか私情を挟んで突然、シフトチェンジしたらどうなりますか?』って」
「そんなことをなんで…それで、答はどうなったの?」
「『そんなことしたら、シフト週7日にするからね!汐凪君もそういうことはシフト決める時に言ってね』って、言ってましたよ」
「ちょっと、待ってくれ!そんなことはありえないだろう!」
野村先輩のその固まる表情を見ながら。
ニヤッと、ほくそ笑んでみた。
「わかった!わかったから」
「ありがとうございます!さすが、頼りになるなぁ~野村先輩は!みんな!今日の昼食は野村先輩のオゴリだって!」
「おお、マジですか!野村先輩!小峰暁!ラグビーの先輩にはパシリばかりやらされて…先輩にオゴってもらえるなんて…。めっちゃうれしいです!」
「じゃあ、ワタシかき氷と焼きそば!」
「マサ!ラーメンとあとフランクフルト」
奏とリサも間髪入れずに、頼んでいく。
どこからか戻ってきたツノキーが来て!
「どうせなら、バーベキューしませんか?その方がより多く食べられますし。セットとかだと、意外とオトクですよ!」
「えっ!それって、高くつくんじゃあ…。な、なぁユウからも言ってくれよ!」
「いやいや、さすが!野村先輩!豪快ですねぇ!みんなバーベキューにしようって、野村先輩が仰ってくれたぞ!」
「そんなことは一度も言ってな…」
「の・む・ら!の・む・ら!」
野村先輩が阻止しようとしたバーベキュー。
オレが筆頭になって、野村コールにしたことによって、みんなの耳には届かなかった。
このあとの数分間、野村コールが鳴り止むことはなかった。
ちなみに、バイトの話はすべてデマである。
校則上、バイトを週7日も入れるなんて、休学時以外は禁止なので無茶な話。
あまりの波状攻撃に、野村先輩もそこまで頭が回らなかったのだろう。
野村先輩が固まるのが最近楽しくて、ちょくちょくこの手を使っている。
学校では絶対に怒らないし。
みんなに優しいという意味で使われた“仏”の生徒会長がオレの中では(過去をグリグリとすれば)常に後輩に目をかけてくれる“仏”の生徒会長となるワケだ。
オレが口を割らない限り、野村先輩の株が下がることはなく。
今の状況はむしろ、自分の株があがることしかないことは確かなので。
本人もなかなかオレを怒ることはできないらしい。
いつまで通じるかはわからないけど。
最近、自分の属性がドSであることを感じはじめた。
お店では台のレンタルをしていて、食材は自分達で近くのスーパーやコンビニで調達した。
バーベキューは豪華なものになった。
串刺しになった牛肉&野菜、その横では鉄板を使って焼きそばを作ったりした。
「うまっ!うまっ!」
「海で食べるとおいしいね!」
「か、帰りの電車賃しか…ない…」
そんな横で、ひとり食欲がない野村先輩…。
さすがに、みんなを煽りすぎたなぁ…。
少しフォローしないと。
「野村先輩!さぁ、食べましょう!」
「そんな食欲ないよ…。今日はこのあと、アメリカのホームドラマのレンタルしようとしたのに…。いったい、誰のせいだと思っているんだよ…」
「いやぁ、何言っているんですか?元はと言えば、野村先輩が自分で自分の首を絞めたんですよぉ!」
あれ?フォローするつもりが、口から出たのは追いうちだった。
「う、うわぁ―――――!」
叫びながら、海へと走って行く野村先輩。
ダメだ。
フォローするどころか、さらに追い詰めてしまいそうで申し訳ない。
「ユウ!マサをそんなに追い込まなくてもいいのに」
「ああ、リサか。うん、ごめんね。つい…口から出てしまって」
「そう。じゃあ、仕方ないね」
リサも結構ヒドイ。
お互いに属性が一緒だから、こうやってうまくいっているのかも。
「まぁ、これ以上は揺するヒミツも知らないし。これで最後にしておくよ」
「そう?ワタシ結構マサのヒミツ、知ってるんだけど」
「リサ、それあとで教えて。何かあったとき、使いたいから」
「うん、帰ったらね♪でも、今日はユウのおかげで楽しい!マサや奏ちゃんも仲良さそうだけど。もう、それは引き裂く気もないし。あのふたりに負けないくらい今は幸せだから」
「うん、オレも今は幸せだよ。ちょっと待って、ふたりの仲を引き裂こうとしたの?」
「そうだよ。当然じゃない!」
ホント、この女というのは怖い。
昼食後にもまたみんなで遊んだ。
夕暮れ時。
「汐凪君。ちょっと、いいかな?」
「うん、いいけど」
椎名さんに誘われて、みんなと離れた浜辺にふたりで行った。
他のみんなは疲れ果てていて、オレ達には気付いてないみたい。
「あっ!あのね…その~」
(ダメ!汐凪君を見ながらだと、またあの時みたいになっちゃう!
ここは顔を見ずに伝えなきゃ!)
「うん」
なんか神妙な面持ちのようだ。
「ワタシ…汐凪君のこと…好きなのぉぉ!」
海に叫ぶ椎名さん。
あまりにも大きい声で言われて、一瞬目がテンになった。
椎名さんがオレのことを好き?
「えっ!そんな素振り一度もなかったよ…」
暁みたいにブン殴られることはなかったけど、それを好きという風にとらえるのは相当な勘違いだと思う。
もちろん、オレはそういうことはない。
「い、一度もなかったワケじゃないんだよ。だって、汐凪君体育の時に倒れたし…」
「ん?倒れた?確かに突然気持ち悪くなって、倒れたけど。それは椎名さんとはまったく関係ないよ」
「あれは…。ワタシのせいなの…」
ん?まったく意味が分からない。
オレが倒れることと、椎名さんがオレのこと好きになることにどう結びつくんだ?
考えにふけっている間に椎名さんは話を続けた。
「ワタシ自身気付かなかったけど。『好きな人を見ると、その相手はいきなり倒れこむ』んだって」
「な、なにそれ?どうやったら、そうなるの?」
「わからない…。でも、今まで好きな人を見つめるとそういう現象が起きたの…」
「そう…なんだ…」
少し言葉に詰まった。
それと同時に話をしている間は椎名さんが、ずっとうつむいたまま話をしていた理由がわかった。
暁が伝えたかったのは、このことだったみたい。
その現象というのがすごく気になったけど、主題はそこじゃない。
椎名さんは勇気を振り絞って、オレに告白してくれたんだ。
それが一番大事なこと。
「うん、わかった。椎名さんの気持ちは素直にうれしい。告白されたのなんて、リサと椎名さんだけだから。でも…ごめんなさい。リサのことがずっと好きで。今は付き合えたことで、毎日がすごく幸せなんだ」
「そうだよね。もし…リサさんより先にワタシに告白されたら、ワタシと付き合ってくれた?」
「そんなことはないよ。どっちが先とか、後とかの問題じゃない。大事なのはお互いに好意を持っているから、付き合うと思うんだ」
椎名さんはしばらくだんまりしていた。
それはほんの数秒間だけど、すごく長く感じた。
そんなカンタンに諦めがつくハズないよね…。
「うん!でも、ワタシが好きな汐凪君らしい答えでよかった!」
椎名さんはオレの方を向いて、そう言ってくれた。
「あっ!汐凪君!」
(やばい汐凪君のこと見ちゃった!
どうしよ!汐凪君に心がすっきりした想いを伝えたくて、見ちゃった!)
「なに?」
「あれ?汐凪君…なんともないの?」
「そんなことはないよ。今の気持ちは確かに心がドキドキして、複雑な気持ちだよ」
「そうじゃなくて…。体が気持ち悪くなったり、しない?」
「うん、なんともないよ。そっか、椎名さんの言う通りなら、今頃体育の時みたいに倒れていたかもね。でも、今はなんともないよ」
「あれ?じゃあ…」
「治ったっていうことで、いいのかな?」
(ウソ!こんなことってあるの?
今さっき失恋したばかりなのに…。
心が晴れて今の状況ではヘンだけど、“うれしい”って気持ちが溢れてきた)
「クスっ!ふっ…あはは!アハハハハハ!」
いきなり椎名さんは、誰かにくすぐられたように笑いはじめた。
なにかが、吹っ切れたみたい。
でも、今そういう場面じゃない気がするけど。
「えっ?どうしたの?いきなり笑うなんて、オレそんなヘンなこと言ったっけ?」
「あっ!ううん、そうだよね!今、笑うところじゃないよね?うんとね。今まで『相手が倒れる』って現象がトラウマになっていて、直接告白ってできなかったの。ワタシは今日はじめて、告白したんだよ。告白したら…汐凪君を見てもなんともなかった!それがすごくうれしくて!なんだろ…なんか今のワタシって、ヘンだよね?」
「そっか…うん!ヘンじゃないよ!治ったのかもね、その現象。おめでとう?でいいのかな?」
「うん!ありがとう!」
「おーい!帰るぞ!ふたりでなにしてんの?」
遠くからツノキーの声が聞こえた。
今の状況…なんて言えばいいんだろう。
なんか後々めんどくさいなぁ。
「海に沈むキレイな夕日を見ていたの!」
椎名さんはそう言ってくれた。
ロマンティストなフリをして、その場を丸くおさめてくれた。
オレは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「今日はありがとう…椎名さん。これからもこんなオレでよかったら、友達として付き合ってくれる?」
「どう…しようかなぁ…」
椎名さんは軽く笑みをこぼしながら、沈みこんだ表情になってしまった。
それに気付いて、オレはすぐさま切り返した。
「そうだよね。今の状況で友達になるなんて、難しいよね…」
「うーそ!いいよ!これからもよろしくね!」
「なっ!今の表情はサギだよ!」
「そんなの演技に決まっているじゃん!女の子を甘くみると、痛い目に遭うから気をつけてね!」
「演技…だったの…」
呆気にとられて、そのまま立ちつくしてしまった。
少しずつ笑えてきた。
はじめて椎名さんとまともに話をしたけれど、こんなにも面白い人なんて気付かなかった。
さっきは“リサさんより先にワタシに告白されたら”って、問に答を出したけど。案外、答とは反対に椎名さんに惹かれていったかもしれない。
帰りの電車では、みんな疲れ果てて寝てしまった。
オレはリサと互いにもたれかかりながら、眠ってしまった。
見せつける気はないけど、遊び疲れたし仕方ない。
その中で椎名さんと暁がなんか話している…。
でもまぶたが塞がってきて、オレも眠い…。
「そっか。椎名は裕司に告白したんだ。それにしてもすごく清々しい顔しているのはなんで?」
「そう!今は気分がスッとしているの!なんでかわかる?」
「ん?うーん…わかんないや。普通こういう時って、泣き崩れたり心ここにあらずって感じで放心状態になると思うけどなぁ」
「こういう時は鈍感なのね!あっ!でもそれもムリないか。“ワタシにしかわからない感覚”だものね」
「椎名の感覚?そんなの誰もわからないよ。人の考えていることなんてわかったら世の中かなりうまくいくよ」
「それもそうね」
「なぁ…。椎名」
「ん?なに?」
「今度はふたりで海に行こう」
「えっ?それって」
「うん…そういうこと」
高校生。
恋愛、部活、バイトと大忙しだけど、人生の中で一番時間を長く感じられる世代。
そんな中にオレは今、溶け込んでいる。
中学時代のように毎日が淡白に過ぎていった時期とは違って、今はすごく充実している。
たった半年くらいで、ここまで周囲が変わるなんて思ってもいなかったけど。
勇気を出して、この高校に入学してホントによかった。
―終わりー