Chapter2“見つめるその先に”
最近気になる男子が同じクラスにいる。
学校に入学して半月もたたない頃。
ワタシはお昼に学食を食べすぎて、お腹がいっぱいだった。
そんな最初の午後の授業。
春風に誘われて窓の外を見ていたら、いつの間にか眠ってしまった。
―歴史の時間はそれじゃなくても眠くなる。
「え~っと…椎名結華(しいなゆか)と言ったかな?」
夢の中でワタシを呼ぶ先生の声がしたが、気付かずに眠っている。
「結華~。先生に呼ばれているよ!起きなよ」
「う…う~ん。だから、もうお腹がいっぱいなのよ…」
となりの席では中学から一緒の伊吹奏(いぶきかなで)が必死に呼ぶのに対し。
これもまた夢の戯言だと思って、満腹なのを理由に流していたら…。
「椎名あぁぁぁ!」
いつも物静かで、優しそうな老教師が声を荒げた。
「はい!」
ゴスッ!ガッシャーン!
ワタシはビクッと咄嗟に立ちあがって、その衝撃で水を打ったように教室は静かになった。
ワタシは呼ぶ声にすくみあがって、誰に命令されたワケでもないのに“起立”する。
正しくはイスを引いて立ったワケではないので、“起立”はできていない。
机に両ヒザが当たって、垂直に倒れた。
そのヒザの痛みでワタシは我に返った。
「椎名君、君は私の授業をなんだと思っているのかね?」
「はい、なんとも思っていません!」
たしかに我に返ったけど、少し寝ボケていたため自分でも想像できないくらい軽率な言葉を発してしまった…。
それで静かだった教室がクスクスと笑い声になり、そして爆笑の渦と化した。
笑いの渦がおさまりかけた頃。
老教師は血圧が上がり、頭に#マークを浮き出させた。
―完全にキレた様子。
「椎名あぁぁぁ!」
と老教師が怒鳴った瞬間、チャイムが鳴った。
いち教師としてはもっと叱りたかったろうに。
まさかのチャイムに邪魔されて、呆れ顔になった。
「もうよい…。次はしっかり、授業を受けるんだぞ」
この時は職員室に行くのかと内心ドキドキしていたので、その一言にはホッと一息。
先ほど倒れた机を直しながらも時折、悲痛な声が出てしまう…。
「痛っツツぅ~」
学校の机はもっとソフトに作るべきだと思う。
「椎名、さっきのはウケたぜ!」
チッ!とワタシは舌打ちをした。
あの恥辱をいちいち冷やかしに来るのはアイツしかいない!
いつものようにその標的に振り向くなり、拳を振りかざし。
「いちいちうるさいわね!小…峰?」
ゴスッ!
渾身の一発をかましたが、いつもと拳の感触が違っていた…。
ワタシが殴ったのは想像していた小峰の顔面ではなく、知らない男子の顔面だった。
そのまま男子は大の字で倒れた。
「あ、あの…ご、ごめんなさい!」
知らない男子の後ろには、標的になるハズだった小峰が隠れていた。
小学生からの付き合いの小峰は防衛本能から、咄嗟にその男子を壁にしていた。
「だ、大丈夫だよ…」
ヨロッっと彼は立ちあがってみたものの、あまり平気そうではない。
ワタシは申し訳ない気持ちでいっぱいで、何度も謝り続けた。
小峰はその横で間一髪難を逃れて、飄々としている。
ワタシは小峰の胸倉を掴んで。
「小峰!あんた、他人を壁にするとはなにごと?信じらんない!」
小峰は冷や汗をかきながらも。
「いやぁ、椎名が殴ってくると思ったから…つい…」
「あんたってヤツは!」
と続けて言いたいことを遮る、いやむしろ抑えるように。
「大丈夫だから。ちょっと驚いたけど、椎名さんだっけ?はじめまして、オレは汐凪裕司よろしくね」
殴られてもなお、平然と自己紹介をする彼。
男子の胸倉を掴む女子ははしたないと思い、小峰から手を引いた。
「わ、ワタシは椎名結華!」
第一印象がコレでは、暴力を振るう女子だと思われて敬遠されてしまう…。
―もう遅いけど。
「ねぇ、ヒザ大丈夫?血出ているよ…」
「あっ!え?」
自分のヒザを確認したら、片方からダラダラと血が流れていた。
あまりの衝撃的な老教師の叱咤はワタシへのダメージを精神的だけでなく、肉体的にも及ぼしていた。
そう思うと、叱咤とは凶器とも思えた。
すぐに手持ちのティッシュで抑える。
「ああ…うん。このくらい大丈夫だから」
「裕司、大丈夫だって。椎名さんはなんたって、頑丈なんだから」
何の反省もせず、尚且つねぎらいもしない小峰に憤りつつ。
間違えて殴ってしまった男子にはじめて女の子として扱われて、ドキッっとした。
バスケが好きで、スポーツが得意なワタシ。
昔からヤンチャな “オトコオンナ”としてしか見られなかったため、心配されるのがすごくうれしかった。
―これが気になる男子、汐凪裕司との出会い。