Chapter3“勢いにまかせて”
まったく部活に入る気をなくした。
オレはG・Wを迎えている。
浄心高校は部活が盛んと伝えた通り、ホントに度を超えて“盛ん”だ。
せっかく、できた友人も『春合宿』という名目でみんな休みがない…。
結局、家でまったりとするしかなかった。
これでは前の自分と変わらないじゃないか!
そう思い、意を決して人生初のバイトを始めてみることにした。
学校の校則では。
『バイトは社会を学ぶことの出来る場。
一般常識範囲内のものであること。
学業や部活に支障をきたさなければ、よしとする。
学校休学時以外は週に3日以内まで。
それを守れなければ、それ相応の罰を与える事にする』
“社会を学ぶことのできる場”というOKサインを出しながら、後半では “学業や部活に支障をきたさなければよしとする“とか。
”週に勤務3日以内まで”と学校生活のリズムを崩さずと言っておいて、しっかりと週3日というボーダーラインを引くのがなんとも堅苦しい。
それに“一般常識の範囲内”っていうのと、“それ相応の罰”が気になる。
常識っていうのに反するバイトは女子で言う“ホステス”や“キャバクラ嬢”。
男子なら“ホスト”や“闇金融”の類を想像してしまう…。
一応この『バイトやりますのでお願いします』という『承認』が必要なので、前記をやろうにも土台無理な話だ。
『自分の知らない社会勉強になる』と思ってしまうのは『思春期のサガ』というものだろう。
それに罰って、“停学や退学”もありえるということですよね?
校則を読み解くと。
『バイトしてもいいけど、しないでくれたらうれしいな』というのが、ウラ側に見え隠れするのは気のせいだろうか…。
とりあえず、バイト専門誌“0円”を片手に探しはじめた。
校則に乗っ取って、週3日&一般常識の範囲内と考えればかなり絞れてくる。
年齢制限のない飲食や接客をメインに考えてみて、“KFC”に目がいった。
あの揚げた鶏を売る老舗チェーン店だ。
早速、電話をしてみる。
TRRrrrr…。
「はい、KFC駅前店です」
「バイトの広告を見て、お電話させて頂いた。汐凪裕司と申します」
「わかりました。バイトの面接ですね。では、面接の日時は5月1日ですが。いかがでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「では、午後3時はいかがでしょう」
「はい、それでお願いします」
「では、5月1日午後3時に面接をします。もう一度、お名前と電話番号を…」
そして無事に通話は終了。
しかし、こんなオレでもうまく話せるように最近のバイト情報誌はしっかりと電話時の対応パターンを分かりやすく説明してくれるコーナーがあるのは助かる。
うまく対応できたのは、このコーナーのおかげだと思う。
心から感謝したい。
しかし、問題は明日の面接。
オドオドしないか、自分としては少し心配。
5月1日、バイト面接の日。
KFC駅前店に行った。
そこで、面接担当の女性スタッフに駅前店とは離れた貸しビル。
いわばスタッフルームに案内された。
午後3時面接開始、女性スタッフと向き合って座った。
「ではまず、勤務希望時間と曜日を教えてください」
いきなり!
まさかの“採用します”という意味合いを込めた聞き方に正直、虚をつかれつつ。
「基本的に部活はしてないので、いつでも大丈夫です。時間は夜間でお願いします。ただ、学校の規則上週3日までにしてください」
と返答した。
朝が弱いからとは、ちょっと言えない。。
「わかりました。基本的に接客は女性がしますので、あなたは裏方―つまり中での調理担当となります」
自分としても調理担当の方が、都合がよかった。
やはり人前での接客は緊張する。
「はい、お願いします。」
「毎週シフトが変わる形ではありますが、週3日以内で承ります。採用結果は今日連絡いたします。では、これで面接は終わります。何か質問はありますか?」
さっきの言葉が気になったので、聞いてみる。
「あ、あの。勤務希望時間と曜日を教えてくださいっていうのは、もう採用って意味ですか?」
「いえ、面接するみなさんに聞いています。採用するって、意味じゃないんですよ」
なんだ、みんなに聞いているんだ。
あとひとつ気になることがある。
あまりにも個人情報というか、まったく人格のことを聞かないのでいつも使わない自分の呼び方で聞いてみた。
「もうひとつ。僕個人の性格とかは面接では聞かないんですか?」
すると女性スタッフは少し考えながら、今までの口調とは変わったしゃべり方になった。
「はっきり言うと、今は人手不足って上に(上司)に言われているのよ。だから、基本は見た目が悪そうじゃなければ“採用”っていう安易な感じなの」
まったくもってテキトーだ!
一瞬にしてKFC駅前店が怖くなった。
それは“ゴロつき”や“フダつき”が居てもおかしくないってことじゃないか!
履歴書だって真実とは限らないんだし…。
「そうでしたか、僕からの質問は以上です」
わかった風に流してみたが、先のことを考えると動揺してしまう。
が!表情に感情が出ないタイプなので、バレてはいないだろう。
「では、以上で面接を終了します。じゃあ、“あとで連絡するから”これからよろしくお願いします」
えっ!今なんと?
そして自分の脳の中で巻き戻して、冷静に再生してみる…。
“あとで連絡するから、これからよろしくお願いします”。
―採用された…。
座っていた自分は色々モヤモヤした感情よりも先に、立って一礼していた。
「よろしくお願いします!」
先の不安よりも、はじめて受けたバイトが受かった事のうれしさが勝った瞬間。
そのまま帰り、連絡はものの1時間で先ほどの女性スタッフから採用するという電話がきた。
続けて。
「汐凪君、明日空いている?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ明日、午後6時半に今日来たスタッフルームに来て」
「はい、わかりました。よろしくお願いします!」
通話はそれで終了。
まったく変な緊張もせず、人と話せるとは。
―しかも、初対面の女性と話しても大丈夫だった自分には驚いた。
面接をすることで、色々勉強になるものだ。
もう人と話すのにも慣れていたんだなぁ…。
さて、明日からバイトだ!
担任の宮間(みやま)先生にバイトしますという承認の電話を入れたら、あっさりOK!
「もしもし、宮間先生。KFC駅前店でバイトすることになりました」
「そうか。一応、バイト先の連絡と勤務先はG・W明けにでも持ってきてくれ」
「はい」
通話はそれで終了。
―でもなぜだろうか?
なぜこうもあっさりと、バイトをOKしてくれたのか…。
バイトを始める上ですべてが順調すぎて、怖いくらいだった。
―翌日その理由が明らかになる。