Chapter4“気付かないうちに”
G・Wなのに、なんで合宿があるワケ?
「結華!何してんの?置いてかれちゃうよ!」
奏にそう言われて、立ち止まっていたワタシはまた走り出す。
今は春合宿の真っ只中で、せっかくの連休が台無しになった。
片道5kmの走り込みで奏と併走しながら、足が悲鳴を上げていた。
―あと少しなのに…。
やっと到着した。
でも、まだ終わりじゃない。
息も切れ切れなのに、今度は屋内でパイロンを並べてドリブル30セット。
フリースロー30本(入るまで)スクリーンアウト…。
これ以上はなにをやっていたのか、まったく覚えていない。
―もう、倒れそう…。
午前練習終了。
もうですでに、身も心もヘトヘトだ。
しかし、奏は元気だった。
「ねぇねぇ、結華!今日のお昼オムライスだって~☆」
「まったく、奏はお子ちゃまだな…。ふふ」
「うん!オムライスは体も心も癒すよね~!」
ワタシは奏のその元気に癒されるわ。
―恥ずかしくて、言えないけどね。
オムライスを男女総勢200人のスポーツ部員が一斉に食べはじめる。
それはもう、ものスゴイ光景。
場所は長野。
しっかりとした、屋内&屋外の練習施設がある。
すべての部員が各々鍛錬して、己に磨きをかけている。
まだ少しばかり寒いくらいで、たまに霧がほわっとかかる。
奏やチームメイトと一緒に昼食を食べながら、ふと汐凪裕司を思い出していた。
そう衝撃的…いや、衝撃を与えてしまった出会いからずっと。
汐凪裕司が気になって仕方がない。
「バスケ部の1年は食べ終わったら、シャワー浴びること。そして、午後の練習に備えること!」
「はい!」
食べ終わった食器を片手に、バスケ部女子キャプテンがそう声をかけてきた。
この高校の先輩は、実に人間が出来ている人が多いなぁと感心した。
ワタシもそれを目指し、日々それに応えられるようしっかりと努力をしている…つもり。
「結華って、昔から好きな人に告白できずに逃げられるよねぇ~♪」
隣でシャワーを浴びながら、奏は言った。
この天然女子高生め!
人の心を見透かしたように…。
「ちょっと、奏!どこからそんな話題が吹き出てきたの?今日そんな話してなかったでしょ!」
「だって、今日の結華…なんか練習に身が入ってないから。ちょっとグサっとくるようなことを言ったら、やる気出るのかなぁって思ってさ」
「なっ!そ、そんなこと…」
「はは~ん。その顔は大当たり!って、感じだね」
―図星だった。
中学時代に好きな男子がいた。
このサッパリとした性格のワタシもスパッと告白できない。
いつまでも、モジモジと遠くから見つめていた。
でもなぜだか、見つめているだけでその好きな男子は突然…。
何かに怯えるように…体を縮みあがらせて、動かなくなりその後には逃げられてしまう。
好きな人がこれまで3人いて、3人とも似たような症状が出ている。
ワタシが見つめると、恐怖に苛まれるというウワサは一気に広まった。
それが原因で、好きな男子はワタシの姿を見ると逃げていった。
女子には『知り合いにいい霊媒師いるよ?』とか、『催眠療法受けてみたら?』とか言われる始末…。
自分の体に何も別状はないのだけど。
そんな気にされたり、怖がられたりしても正直苦笑いしかできなかった。
それでも小峰暁は相変わらず、昔とちっとも変ってない。
―本人にはこんなこと言えないけれど、それはすごくうれしかった。
「いくらやる気がなくても、そんな過去の話を振らなくてもいいじゃない!」
「はぁうぅ…。結華様怖い~」
「まったく…。先に出るよ!」
奏も奏で親友をからかうなんて、もう…。
ブツブツ言いながらも、ちゃんと着替えて身だしなみを整える…さすがワタシ!
シャワー室をあとにしてコーヒー牛乳を片手に持ち、サラリーマンスタイルでゴクゴクと飲みほしていたら。
「よっ!椎名!いい飲みっぷりだな!どうだい、調子は?まさかヘバって午後の練習休むとか、言い出すんじゃないだろうな?」
いつものように小峰がワタシをからかいはじめた。
でもここは女子の主張を言いたくなり。
胸を張って言った。
「仕方ないでしょ。女子は男子と違って、体力がないんだから!」
「まぁ、そうだな…。そう言うオレもヒザがガクガク言っているぜ…ハハ…」
いつもなら殴っているところだけど、小峰もかなりのダメージを負っているようだし勘弁してやるか。
「さすがの常勝ラグビー部だよね。いくらバテない小峰も音をあげるワケだ」
たまには小峰にも気遣ってあげないとね。
そう言葉をかけた直後。
「椎名は体力もないけど、発育もよくないなぁ…。」
ジッとワタシの胸を見て、一番気にしていることをサラっと言った。
「人がせっかく労いの言葉をかけてあげたのに、アンタは労い=暴力で欲しいワケね!」
いつものように振りかざす拳であったが、疲労のせいか力が入らない。
小峰の頬をちょんと当てるので、精一杯だった。
「いつもの椎名のパンチが虫ケラひとつも潰せないほど、弱っちまっては仕方がないな。まぁ、それも予想通りだがな、ハハハー!」
そう言って、去って行く小峰の背中はちょっと寂しそうだった。
「結華。また、小峰とケンカしてんの?…結華…?」
奏がそう声を細めるのも、かすかに聞こえるほど…ワタシは想っていた。
―こうやって、汐凪裕司にも触れ合いたいなぁ。
いや、殴るとかじゃなくてね?
そして午後の練習が始まった。