Chapter7“気付いたら”
起きると、そこは保健室だった。
カーテン越しにこぼれるオレンジ色…。
多分もう夕暮れなんだろう。
寝ている自分をイスに座った暁が心配そうに、見つめていた。
「気がついたか、裕司?」
「あぁ…。もう落ち着いた。暁、もしかしてずっと付き添ってくれたのか?」
「いやいや、授業が終わってからだよ。オレがずっと付き添っていたら、気持ち悪いだろハハ!」
「そうでもない。案外落ち着くよ」
「そうか、はは。それはよかった。…あのな、裕司…。」
真剣な眼差しで暁は続ける。
「実は…ウワサだと思っていたんだけど…」
「ん?なんのこと?」
「裕司が倒れた理由は…体調を崩したんじゃないのかもしれない…」
「えっ?どうして?」
「まだ確認はしてないが、認めたくもないことだけど…」
「認めたくない?何を?」
「あのさ…」
暁が喋りかけたとき、保健室のドアが開いた。
「ユウ、大丈夫か?」
「あれ?“仏”の生徒会長?おはようっす!でもなんでここに?」
話を途中で止めて、野村先輩に挨拶をする暁。
「うん!ちょっとね。小峰君だっけ?」
「は、はい!名前覚えてもらっているんすね!」
「君の名前はラグビー部によく聞くからね。会えてうれしいよ」
「そんな!うれしいっす!」
「うん♪とりあえず、ちょっと汐凪君と話がしたいから、席をハズしてくれないかな?」
「はい!じゃあ、裕司。話はまた確認ができてから、伝えるよ」
「うん。わかった。暁、ありがと」
「おう」
暁は野村先輩に一礼して保健室を出て行った。
野村先輩も心配して来てくれたのかな…。
「体調は大丈夫?」
「今はもう大丈夫です」
「うんよかった♪実はね、オレ今日バイト入ってるんだけど。どうも生徒会の仕事が終わりそうもないんだ」
「は、はぁ…?」
心配して来てくれたワケじゃないんだ。
「それでね!ユウに代わりに出てもらおうかなって、思ってさ。いいかな?」
「そういうことなら仕方ないですね。大丈夫ですよ」
「よし♪じゃあ、オレからスタッフには伝えておくから」
「はい!よろしくお願いします!」
「じゃあ、よろしくね!」
野村先輩はそう言って去って行った。
生徒会の仕事かぁ…。
そうだ、バイト行く前に今日のドラマを予約しないと。
クライマックスまであと少しだし。
授業はもうすでに終わっていた。
保健室をあとにして、下駄箱方面に向かう。
すると、生徒会の先輩たちが前を歩いている。
生徒会も夏休み前なのに、忙しいんだなぁ…。
しかし、歩く方面はまったく一緒。
先輩たちは下駄箱から靴を取りだした。
疑問に思ったオレは思わず聞いた。
「あの!今日、生徒会で仕事があると野村先輩から聞きましたけど…」
「んっ?いや別にないよ。夏休み前に行事はないからね。期末テストぐらいだし」
「へっ?あっ!そ、そうですか…」
ハッ!もしや!
ハメられた…。
野村先輩の仏のような顔で、あっさりとOKしてしまった自分がバカのようだ…。
これが“仏”の生徒会長のウラ顔なのか…。
一度バイト替わると言ってしまったので、いまさら断れない。
いや、それ以前に先輩だし…。
オレは断念した。
この報いは必ずどこかで晴らそう!
「はぁ~」
そして、やるせない気持ちのままバイトをしている。
「どうしたぁ。汐凪元気ないぞ!」
「桑島さん…。今日は色々あって心がヘトヘトで…」
「ははは、オレより若いヤツが何言っているんだ」
「色々高校生にはあるんですよぉ…」
「いや、一応コレでも高3なんだが」
「えっ!う、うそだぁぁぁぁ!」
衝撃の一言だった。
恰幅がよくそれに言っちゃ悪いが、老け顔だしとても高校生には見えない。
「そうでしたか、それはすいません。てっきり30代半ばかと思っていました」
さらに言わなくていい言葉を続けて言ってしまったが、後の祭り。
桑島さんはショックを隠せないまま。
「い、いやいいんだ。正直、自分でもわかっているから」
桑島さんの目にはうっすら涙が浮かんで見えた…。
ホント申し訳ない。
「さ、さぁ次のチキンを揚げなきゃ!」
気を取り直すように声を上げる桑島さん。
でも、場の空気は重い。
「おっはよーございまーす!あれ?今日、マサと桑島君じゃなかったっけ?」
場違いとも思える声の主はリサ。
レジのバイトの子は少し遅くシフトに入る場合がある。
「悪かったなぁ、野村先輩じゃなくて」
「ユウ、別にそんなイヤな顔しなくてもいいのに」
少しグチっぽく言ってみだが、意外とやさしい言葉が返ってきた。
少しいたたまれない気持ちになって、事情を話した。
「実は野村先輩に替わってと言われて、それでオレが入ったんだ。生徒会の仕事があるって、でもそうじゃなかった。多分、今頃遊んでいるような気がする」
「そうなんだ。ウソをついてでも優先する用事って…。まさか!彼女でもできたんじゃない?」
「か、彼女!いいなぁ…。」
まったくもって、怒らなきゃいけない場面なのに羨ましい気持ちが勝った。
「もしそうなら、マサはこれから付き合いが悪くなるね?」
「どうしてそんなこと言えるんだよ?」
「現にこうやって、バイトをサボってんじゃん!仕事終わりの雑談も彼女との用事があったら、そっち優先になるんじゃない?」
「そうだね…って、彼女居る前提で話しているけど…」
「マサはユウから聞いてる話とか、接している感じだとあれはモテるわ!まぁ、桑島君はすぐ帰っちゃうから、ユウとふたりっきりになる時間が多くなるかもね」
「おいおい、オレはそっちのけかよ!これは手厳しいなぁ…ハハハ!」
「あっ…。桑島君ごめんね!」
桑島さんは笑って流していたが、オレはリサのその一言が引っ掛かって言葉がでなかった…。
マサさんが居ないことで、ふたりでいる時間が長くなるっていいなぁ。
「な、なに赤くなってんの?あぁ!ヘンなこと考えていたんでしょ!」
「バカ、そんなことないよ!」
「はいは~い!雑談やウワサ話はまたあとで。チキン足らないから、早く仕上げてね!」
溝口スタッフに促されて、その場はそれで終わった。
さっきのリサの言葉は少し気になる。