Chapter8“今までにない試み”
「気分が悪いので、今日の部活はお休みさせて頂きます」
「大会が近いんだから、早くよくなってね」
監督はやさしく帰してくれた。
「ただいまぁ」
「あれ、今日は早いのね?部活があるんじゃなかったの?」
「ううん、今日はなかった。大会が近いから筋肉を休ませることも必要だって、監督が言ってたから」
「そう。今夜は由美(ゆみ)ちゃんが遊びにくるから、逆によかったかも」
「そうなんだ。来たら部屋に呼んでね」
母が言う由美ちゃんとは、5つ上の仲良しの従姉妹。
「呼ばなくても、由美ちゃんなら行くわよ」
「そっか。そうだよね」
「結華、ちょっと顔色悪いわよ。どこか体調でも悪いの?」
「ううん。平気だから、心配しないで」
嘘って重ねれば重ねるほど、ちょっと心に引っかかるなぁ…。
明日はちゃんと部活行こうっと。
ワタシは2階の自分の部屋に足を向けた。
これからどうしようかな。
こんなことじゃ、誰も好きになれないなぁ。
あまりのショックでトイレまで走ったけど。
校庭にあるトイレの臭いがあまりに強烈で外に飛び出して(間違って男子トイレに入ったのも手伝って)逆にハッとして我に返った。
枕を両手で抱えながら、これからのことを考えている。
「結華!パァァァァース!」
「は、はい!って、あれ?」
「ふふ、起きた?」
バスケの試合中みたいな感覚で手を構える。
手にはぬいぐるみが飛びこんできた。
目の前には由美ネェがクルクル回るイスを反対に座って、こっちを見ている。
どうやら、ワタシはそのまま眠ってしまったみたい。
「お、おはよう。由美ネェ…」
「遊びに来たら居るよって、聞いて。でも来てみたら、寝てるし。
バスケ全国制覇を夢見る結華が部活休むなんて、珍しいね」
「えっ、なんで?休んだって、知ってるの?」
「おばさんはいつも結華のことお見通しよ。多分思春期ねって」
母はほんわかしているのに…そういうとこだけは鋭い!
奏といい、母といい周りは鋭い人ばかり。
「はは、そっかぁ。ワタシ分かりやすいのかな?」
「えっ、今頃気付いたの?結華って、今何を考えているかがダイレクトに態度や表情に出やすいのよ」
「えっ!そうなの?」
奏や母が鋭いワケじゃなくて、ワタシが分かりやすいのか。
「なんかあったの?」
「…実はね、ワタシ好きな人がいるの」
「ほほう♪いきなり恋愛トークに発展!」
「まぁ、普通の恋愛トークなら胸高鳴るよね」
「普通じゃない…って、コト?」
「うん、普通じゃないよ。だって、相手が…」
そう言いかけたら瞳をルンルンさせて。
「うんうん♪イケない恋と分かっていても、止められないのよねぇ。ワタシもそういう経験あるわぁ。相手は先生なの?それとも、不倫?」
この人はまったく、人の話を最後まで聞かない…。
昔からそうだったけど。
「そうじゃなくて。ちゃんと話聞いてから、意見してよ」
「違うの?な~んだ、残念」
「話…続けるね。それでワタシが今まで好きになった人は何人か居たんだけど…」
「今回は諦められないってコト?」
「そ、それはそうなんだけど。それ以前に問題があって」
「問題?相手には彼女がいて、略奪するとか?いいわぁ♪それはぜひ、聞かせて」
「ちーがーうー!いや、いるか分かんないけど。なんで、由美ネェはそういう想像ばっかり働くの?」
「へへぇ~♪なんでだろ」
「高校生をバカにしているとしか思えない発言だ!」
「大人からしてみれば、10代ってそのくらい魅力的な世代なのよ」
「自分だって、大学生じゃん!」
「大学生でも高校時代とは違うのよ」
「そういうもの?」
「そう。部活やサークルは高校時代のような、キュンっとすることはないわ。だから、今の結華が羨ましい」
「大学に夢も希望もないのか」
「そういうワケじゃないんだけどね。それで!つづきは?」
「ワタシが好きになった相手は見つめると、異変が起きて倒れこんじゃうんだ…」
「な、なにそれ?心理学科を専攻しているワタシでも、そんな例を聞いたことないわ。結華それって、ホント?」
「ホントかどうかわからないけど。周りに聞くと、相手にそういう現象が起きているんだって」
「ふ~ん、それは困ったわね。何か解決方法はないものか…」
少し考える由美ネェは閃いたのか、大声で叫ぶ。
「そうだ!」
「な、なに!」
ビックリして、ワタシまで大声で返してしまった。
「問題っていうのは、説く上で色々な方程式があるものよ。数学でもあるでしょ?」
「どういう意味?」
「つまり色々やってみる。『行動に移してみる』=方程式の近道ってこと。結華は今まで好きな人に告白とか、それに近いアプローチとかしたの?」
「で、できるワケないじゃない!」
相手が倒れこんでしまうのに、そこまで行く前に諦めるしかないじゃん!
「そうよね。結華は硬派に見えて、意気地ナシだもんね」
「そ、そういうんじゃないって」
「まぁ、理由はどうあれ。これはワタシの勘だけど…」
由美ネェは話をしながらメモを手にとり、書き出した。
「好きな相手が結華に振り向いたら、その現象がなくなるとしたら一石二鳥じゃない?」
「うん、確かにそうだね。えっ!でも…それって、両思いってこと!」
「そう、あっ!赤くなってる~青春だねぇ」
自分で言っておいて、なに赤くなってんだろ。
「まだ付き合うって、ワケじゃないんだから」
「ご、ごめん」
謝るっていうのは違う気がするけど。
「両思いになったら、その現象がなくなる可能性もあるってこと!」
「な、なるほど」
「そこで大事なのは結華が好きな人とは、どういう関係なのかってこと」
「どういう関係って、同級生だけど」
「ただ、同級生なだけ?そうなると結構時間がかかるなぁ」
「同級生なだけじゃなくて、小峰の友達なんだ」
「幼なじみの小峰君と友達かぁ~。友達の友達なら、少しハードルは低いわね。交流とかあるの?」
「ちょ、直接はないけど。小峰が変な発言するたびに、そこに居たりするくらい」
「その時の好きな人の反応はどんな感じ?」
「えっ!そんなのわかんないよ」
「そっか、じゃあ何がきっかけで好きになったの?まぁ、この答えはカンタンには出ないけどね」
「それは覚えているよ」
「あら、意外ね」
「お昼ご飯を食べたあとに寝ちゃって、その後の授業で先生に怒られた」
「結華らしいわ」
ちょっとムッとしながらも、話を続けた。
「授業が終わったあと。その時ぶつけたヒザをさすっていたら、小峰がおちょくってきた。だから、拳を思いっきり振り切ったの」
「小峰君かわいそう」
「でもね、小峰はそれを避けて、ワタシの拳はその好きな人の顔面に思いっきり入って」
「その感触が忘れられなくて、好きになっちゃったとか?」
「そんなワケないでしょ!人の好きな人をサンドバッグみたいに言わないで!」
「ふふ。さすが、結華のツッコミ!」
おっと、落ち着こう由美ネェのペースに巻き込まれたらダメ!
「もう、話続けるよ。そんな目にあっても、ワタシのヒザを気にしてくれてそれで…」
「ふ~ん。意外と好きになる瞬間って、そんなもんなのよね」
「そんなもん…なの?」
たしかに、きっかけとしてはすごく些細なことかもしれない。
「人を好きになることに理由なんてないって、よく言うけど。意外とスゴイ出会いって、感じじゃないからかもね」
「そうかも、スゴイ出会いってワケじゃない」
と自分では思っているけど。
「グッとくる瞬間とか、シュンとなる瞬間とか集計出ているけど。好きになる瞬間はわかんないものね」
「そうかも!ははは!」
「ねぇ~、不思議。ふふふ」
こんな単純なことで人は人を好きになるんだって、思った。
「まぁ、ガンバりんさい。もうひとつ治す方法っぽいのはあるけど。それはまぁ“保険”って、ことでまだ教えな~い♪」
「ははは…へ?なんで?」
「それはヒ・ミ・ツ♪」
「由美ネェ、それ…古いよ」
「古いって言うなぁ~」
「2人共~!ご飯よ~♪」
1階から母の声がした。
「は~い」