流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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残り二話です。
最後までよろしくお願いします。


第百四十二話.帰るべき場所

 場所はコダマタウンの展望台。夜になり、街灯がお情け程度に光をもたらしてくれる中、五つの小さい影が駆け足に階段を上がっていく。大きなツインテールをぶら下げた少女を先頭に、五人は見晴台に辿り着く。切らした息を整える暇もなく、ルナは自分のトランサーを開いた。

 

「天地さん、展望台につきました」

『よし、皆……今から僕の言う事をよく聞いてくれ……。

 スバル君が乗った脱出用モジュールは現在宇宙で行方不明だ。今の科学では……僕らの力では彼を見つけることはできない。スバル君を救出することは不可能だ』

 

 それはアマケンを出る前にも聞いたことだった。どれだけ最悪な状況なのか改めて実感してしまう。友達との永遠の別れを告げられて、寂しがりやのゴン太は涙混じりに叫んでしまう。

 

「もう、どうしようもねえっていうのがよ! い、嫌だぜぞんなの!!」

 

 誰もゴン太を止めようとはしなかった。皆が同じ気持ちだったからだ。ミソラは涙を流す代わりに、スバルがくれたペンダントを指に絡めた。

 

『だけど、一つだけ可能性が残っている。それが君たちだ』

 

 ミソラだけでなく、ルナもゴン太もキザマロも、ツカサも互いに顔を見合わせた。地球一のエンジニア達ですら何もできないこの状況下で、ただの子供である自分たちに何ができるというのか。

 

『君たちのブラザーバンド通信を使う。そうすれば、宇宙の中からスバル君を見つけられるかもしれない』

 

 天地の作戦は気が抜けるほど単純なものだった。やることは今までとあまり変わりない。スバルと通信を繋げるというだけのものだ。ただ、大きく違うのはそれを行うのに大掛かりな装置も、優秀なエンジニア達も、難しい操作もいらないということだ。

 この星で誰もが当たり前に使っているブラザーバンド機能を使う。それだけだ。

 天地の作戦を聞いて、真っ先に不安を示したのはツカサだった。トランサーを抑えながら、声を震わせる。

 

「あ、あの! ぼ、僕はスバル君とブラザーじゃないんですけれど……」

『大丈夫だよ。ブラザーバンドというのは、絆を……心と心の繋がりを見えるようにするだけの技術なんだ。だから、君たちがスバル君を思う気持ちがあるのなら、それは必ず彼に届くはずだ』

 

 全員が空を見上げた。いつも頭上に広がっているのに、ほとんど気にすることの無かった大空。それはどこまでも雄大で、底を思わせないほどに暗い。地球と同じぐらいか、それ以上に巨大なはずの星々は今にも消えてしまいそう。

 

『さあ、トランサーを空に掲げて……スバル君を救うのは、君たちだ』

 

 それでも、何も迷うことなんて無い。ミソラは目を細めると、ペンダントを握りしめる。そっとギターを下ろした。

 ルナと目が合う。ルナも画面を切り替えて準備を整える。ゴン太とキザマロもトランサーを開いた。

 

「お願い、スバル君に届いて!!」

 

 ミソラがギターの先端を頭上に掲げる。そこから白い光が一本の線となって伸びていく。

 

「まったく、道草食うなって言ったばかりじゃない! ……さっさと帰ってきなさいよ……!!」

 

 ルナはポケットの中から取り出した紙を右手に持つと、左手を掲げた。白い線が伸びていく。

 

「戻ってきてくれよ、スバル!!」

「帰ってきてください、スバル君!!」

 

 ゴン太とキザマロも後に続いた。

 だが、ツカサはすぐには動かなかった。トランサーを握り締めて目をつぶっている。頭を振ると、澄んだ目で空を見上げた。

 

「スバル君……僕は待ってるよ!!」

 

 ツカサの放った光が後を追いかける。

 五本の光の帯が空の一点へと吸い込まれていった。

 

 

 真っ暗で不思議な世界だ。明かりなんて一つも無いのに自分の手足ははっきりと見える。そんな世界にスバルは浮いている。上も下も感じさせないこの世界は、前にも来たことがあるような気がした。思い出そうとするが、そんな時間は無かった。目の前に大切な人が現れたからだ。

 大きな肩と腕をしたがっしりとした体格。スバルが見上げるほど大きい身長。ちょっと硬そうな茶色い髪の毛。そして子供のようでありながら、強い意志を持った力強い瞳。スバルのヒーローがそこにいた。

 

「……父……さん……?」

「よく頑張ったな、スバル。お前が地球を……いや、FM星とAM星も救ったんだ」

「うん。……でも、僕は帰れそうにないみたい……」

 

 スバルに選択肢は無い。このままなす術なく、宇宙を漂流して死ぬ時を待つしかないのだ。もしかしたら大吾はもう同じ運命の先にいるのかもしれない。大好きな父親に歩み寄り、手を伸ばそうとする。

 だが、見えない壁に阻まれた。そこから前に進めない。困惑するスバルに大吾は首を横に振った。

 

「諦めるな。お前には帰るべき場所がある」

 

 大吾がスバルの後ろを指差した。そこにはいつの間にか扉が出来上がっていた。

 

「さあ、帰るんだ。スバル」

 

 スバルは首を振ると大吾に走り寄ろうとする。だが、またしても見えない壁が阻んだ。手を伸ばせば届くはずなのに、抱きつけるはずなのに、それ以上近づけない。

 

「父さん……」

「泣くなスバル、俺は必ずお前たちに『ただいま』を言いに行く。だからそれまで母さんを頼んだぞ」

 

 スバルは大吾の目を覗き込んだ。父親が息子に向けてくれる優しいものだった。だがその中に、一人の男としての覚悟が見えた。スバルは歯を食いしばると、コクリと頷いた。

 

「父さん……待ってるからね!!」

「ああ!!」

 

 もうスバルが迷うことはなかった。踵を返すと真っすぐに進んでドアノブに手をかけた。そして開く。眩しすぎるほど白い光が、世界を満たした。

 そのとき、背中から大吾の声が聞こえた。

 

「スバル、忘れるな。本当の絆はどんなに離れていても、どんなことがあっても、絶対に切れることは無いんだ」

 

 スバルはゆっくりと目を開いた。目に飛び込んできた光景は銀色だった。見ているのは天井だと気づく。いつの間にか横になっていた。辺りを見渡しても黒い世界はどこにも無く、散らかった細かい部品が目に映る。ここはモジュールの中だ。かすんだ目でもう一度モジュール内を見渡すと、窓の側にウォーロックがいた。外を眺めているようだ。気配に気づいたようで、スバルに振り返った。

 

「よう、お目覚めか。よっぽど疲れていたみてえだな」

「ロック……そっか、寝てたんだ」

 

 スバルは立ち上がり、ウォーロックの側に歩み寄る。すこし埃がついてしまった窓の外を見た。宇宙と星雲が織り成す世界はやはり美しく、そして冷たそうだった。窓に映っている自分の姿がそこに混じる。

 

「夢を見てたんだ。父さんに会ったよ。諦めるな……って言ってた」

「大吾らしいな……本当に来ていたのかもな」

 

 ポシェットから写真を取り出した。大吾の部屋から拝借したものだ。家族三人が写っている最後の家族写真。そこに映っている大吾にそっと触れる。

 それと同時にトランサーが鳴り出した。何かの通信をキャッチしたらしい。これも壊れたのかもしれないと開いてみる。違った。宇宙のど真ん中にいるにも関わらず、アクセスシグナルを受信していたのだ。

 

「な、なに?」

 

 誤作動かもしれない。スバルにはそうは考えられなかった。

 

「ち、近づいてくる!?」

 

 アクセスシグナルがどんどん強まっていくのだ。機械音は警報のように大きくなっていく。辺りを窺ったとき、スバルは窓の外に見た。宇宙の向こうが白く光っている。

 

――スバル、忘れるな――

 

 それは見る見るうちに大きくなっていく。いや、迫ってきている。迷うことなく、真っすぐにスバルに向かって来る。怖いとは感じなかった。

 

――本当の絆はどんなに離れていても、どんなことがあっても――

 

 体が言う事を聞かない。それでも、硬直した左手をゆっくりと、必死に前に差し伸ばした。光がスバルを包み込んだ。

 

――絶対に切れることは無いんだ――

 

 徐々に光が晴れていく。その中でスバルは身を震わせていた。

 

「ハハ、すげえな地球人ってのは」

 

 太く力強い光の帯は、スバルの左手を掴んでいた。光り輝くトランサーの画面に、次々と画像と名前が並んでいく。

 

 響ミソラ

 

 白金ルナ

 

 牛島ゴン太

 

 最小院キザマロ

 

 双葉ツカサ

 

 皆がそこにいた。ポタリと画面が濡れた。

 

「父さん……僕、やっと分かったよ……父さんがなんで絆を大切にしたのか……今、やっと……」

 

 涙を拭くと、スバルは頬を緩めているウォーロックに笑顔を向けた。

 

「さあ、帰ろう! 僕たちの帰るべき場所に!!」

 

 

終章.スバルの絆(完)




次回、最終話です!!
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