翼の軌跡   作:南野智

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無敵の兄上様の登場です。ようやくオリ主についての話が出ました。
それにしても兄上様に勝つ機会はいつか訪れるのでしょうか?


対面と失敗

 場に重い沈黙がのし掛かる。

 表面上は静かな、しかし、発言することすら躊躇われる沈黙に息が詰まりそうになる。

 

 普段の争いの種である二人ですら向かい合う二人が醸し出す雰囲気に右往左往している。

 

 ユーシスとマキアスについては、道中の鉄道のなかで一時、相変わらず剣呑ならぬ雰囲気になりかけたが、二人の闘争心とプライドを刺激することで何とか良い形に持っていくことができた。なのに―。

 

「フフ、随分と怖い顔をしているじゃないか、《蒼穹の翼》殿」

 

「あ、兄上?」

 

「別に、少し気になっているだけですよ。……何故貴方がソレ(・・・・)を持っているのか」

 

「ソ、ソウ?」

 

 《翡翠の都》で待っていたのは、予想も出来なかった始まりだった。

 

 

 

 

 その後、ソウと二人きりで話をしたいというルーファスさんの言葉を受けて、俺達は先に宿泊するホテルへと荷物を置きに行くことになった。

 

「一体全体どうしたんだ!というか君は何か知らないのか!?」

 

「喚くな阿呆。……俺が説明願いたいくらいだ」

 

 クラスメイトと以外な人物との関係に流石にみんな戸惑っている様子が見られる。―いや、それ以上にソウがルーファスさんに向けたあの静かな怒りに対してだろうか。

 

「それにしても、ソウも一体どうしたんだ?」

 

「…ん……剣を見た瞬間に顔色が変わった」

 

 柄に嵌め込まれた翠の石の輝きが頭に浮かぶ。シンプルながらも優美な装飾が施された伝統的な騎士剣だったが。

 

 ──いや、何かあの剣には違和感があった。

 

 初めてみるのに何度も見たことあるような。自分の記憶を必死で辿るも中々、違和感の正体が思い出せない。

 

「ルーファスさんの剣ですか?…確かに立派な剣でしたが……リィンさん?」

 

 委員長の言葉に記憶の海から顔を上げて、気持ちを切り替える。

 

「ああ、いや、何でもない。……俺達は、先に荷物を置いて実習に取り掛かろう」

 

 結局は、違和感の正体が掴めぬまま荷物を置くべくホテルへと入ることにした。

 

 

 

 

 

「どうした?護衛も運転手も外したんだ、楽にしたまえ」

 

 吟うような美しい声が広々とした車中に響く。

 

 さながら、名画から抜け出してきた《貴公子》という言葉が相応しい、相変わらず何を考えているのか読めない、張り付いたような微笑を浮かべる男に小さく溜め息をつく。

 

「生憎、こちらは学院の授業で来ているものでね。可能であれば、本題だけ聞いてさっさと戻りたいんですが」

 

「ああ、それなら心配いらない。常任理事直々の命令として呼び出した。……という形で学院に必要とあらば報告しておこうじゃないか」

 

「……へぇー、弟にも内緒とか随分と良い趣味してますね」

 

「フフ、誉め言葉として受け取っておこう」

 

 軽く微笑みながら一目で高級品とわかるティーカップに口をつける。相変わらずひとつひとつが隙の無い絵になるような仕草だ。―仮にこの場で手元の紅茶を投げつけたとしても慌てた様子ひとつもなく、絵になる動作で避けるか防ぐかするだろう。

 

 

「それにしても、まさか、アルバレア家が持っていたなんて、正直、意外でしたよ」

 

「ああ、昨年にカイエン公が所持しているという知らせをさる筋から耳にしてね。然る筋を得て手に入れたというわけだ」

 

 然る筋(・・・・・・)どんな筋(・・・・・・)か聞くのは野暮ってものだろう。

 まぁ、カイエン公のもとから流れ出た一本の刀剣とルーファス・アルバレアという男が結び付くという可能性は皆無に等しいということだけは良く理解できた。

 

 相変わらずの手腕に内心で舌を巻きつつも極力顔に出さないように話を続ける。

 

「……なるほど、まぁ、四六時中金銀宝玉に埋まってるような方々だ、自分のもとにそんな代物があったことすら知らないでしょうね」

 

「フフ、残念ながら否定はできまい。……どうやらカイエン公も父上も表だって価値があるものにしか惹かれないらしい」

 

「そうですか、まぁ、制作者が言うにはソレ自体ちゃんと持ち主の所へ行くようにできているようですからね」

 

 小さく肩を竦めると、おや、と意外そうに目を丸くする。

 

「なんだ、てっきり返却を要求するのかと思ったが」

 

「貴方がそんな簡単に貴重すぎるカードを手放すはず無いじゃないですか。……それに、力ずくで奪うにしてもハイリスクなのは判りきっているんですから態々そんな愚は犯しませんよ」

 

「なるほど、それを聞いて安心したよ」

 

 口だけで微笑むルーファスに同じように口だけで微笑み返す。二つの氷のような視線が交差しると共に二人の空間に静寂が訪れる。

 

 

「それじゃあ、俺は行きますよ。あんまり遅いと本当にクラスメイトに文句を言われてしまうんで」

 

 御馳走様でした、とカップのなかを飲み干して席を立ちあがる。しかし、穏やかな、しかし矢のような鋭さを秘めた声に動きを止める。

 

「待ちたまえ。……最後にひとつ質問だ。…君は、いや、君達(・・・・)は、この国の先に如何なる未来を見る?」

 

 後ろに半ば向けていた体を正して、黙って声の主を真正面から見据える。既に口元の微笑は消えていた。

 フッと笑みを浮かべて口を開く。

 

「さぁ、所詮、俺は一翼でしかありませんから他の連中の考えなんてわかりませんよ。……ただ、俺個人の意見をいうならば、大きな嵐が何をもたらすのかは、まだ決まっていないと思いますよ」

 

 今度こそ体を後ろへ向けてドアを開ける。

 

「なるほど、しかと記憶しておこう」

 

 後ろから聞こえてきた声には、果たしてどんな感情が籠められているのか全く読み取れなかった。

 

 

 

 

 

 俺がホテルへと荷物を置きに行くと予想通り既にリィン達は出ていっていた。

 

 時間を考えると微妙な所であったが、一応、フロントから職人通りへと向かう旨を聞いていたので地図付きのパンフレットをさっと手に取り、職人通りへと向かう。

 

 しかし、やはり一足遅かったようで通りの入り口に差し掛かった辺りで妙に暗そうな一行と鉢合わせた。

 

 

 

 

「…なるほどなぁ、折角手に入れたドリアード・ティアが」

 

「まったく、一体、彼らのどこに誰かさんの言うような崇高な精神とやらがあるのか僕には検討がつかないね!」

 

 話を纏めると結婚指輪用としてドリアード・ティアの採取を頼まれたが、いざ持ち帰ってみると貴族が金に明かして無理矢理に買い取ったらしい。そして、よりにもよって依頼人がやっとの思いで買おうとしたドリアード・ティアをその場で噛み砕いて飲み込むという馬鹿丸出しの暴挙を行ったという。

 

 鬼の首でも取ったようにユーシスに皮肉を飛ばすマキアスに内心げんなりしつつも、今回のケースについては、彼の気持ちはわからなくはない。

 

 ──というよりもコレがこの国の一面なんだろうな。

 

 だが、あくまで一面でしかない。見る角度や光の当て方によって何通りもの姿を見せる。

 

「果たして自分の世界を破ってくれるのかねぇ」

 

「……どしたの…ソウ?」

 

 キョトンと見つめてくる銀髪の少女に小さく首を振ると気を取り直すように大きく伸びをする。それがどうなるかは、彼自身の話だし興味もない。あくまで同級生としてのサポートこそ行えど最終的な進化を行うのは自分の力でしかない。

 

──どう変わってくれるかね

 

「さて、課題はまだ終わってないんだからそろそろ行こうか。…反省も必要だけど今は課題をこなすことが先決じゃないか?」

 

 こうして俺の初めての特別実習は彼らのリベンジから始まった。

 

 

 

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