翼の軌跡   作:南野智

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書き方を変えてみたりと試行錯誤していますが、やはり難しいです。

5.17 最後の部分を少し変更しました。




リベンジと断絶

「四の型・紅葉切り!」

 

 刹那、赤い狼達の真ん中で無数の剣閃が刻まれる。一瞬のうちに身体中に襲い来る紅葉は容赦なく獣を怯ませる。

 時間にしてけして多くはない隙である―が、最新の軍事技術の前では致命的といえるものへと変わる。

 

「今だ!ユーシス」

 

「フン、まかせるがいい!」

 

 崩れた隙を付くように騎士剣による追撃が無防備な獣を襲い息の根を止める。

 

 力尽きる仲間の姿を見て残りの狼達が動きを止める。

 攻めるか、逃げるか一瞬俊巡したのであろうが、《ARCUS》は、その隙すら許さない。

 

 

「マキアスさん!」

 

「了解だ!」

 

 Ⅶ組が誇る秀才コンビの連携によってオーロックス街道の狩人達は、なす統べなく倒された。

 

 

 

 

 

 

「へぇ、やるじゃないか」

 

 後方で四人の連携を見ていたが、その練度に純粋に感心する。二ヶ月かそこらの士官学院生にしては中々と言えるものであり、実習前の様子を見る限り不安だったマキアスとリィンのリンクにしても十分に及第点といえるだろう。

 

 しかし、同時に戦闘中にリンクを結ぶどころか、目を合わすことすらなかった二人が唯一にして最大の懸念材料になったとも言えるが、単なる二人の間の意地の張り合いでいる限りは何も言うつもりはないし、興味もあまりない。

 

 ──まぁ、誰かさんは何とかしたいようだが。……って、それよりも……。

 

 はぁ、と小さく溜め息をつき、俺と同じように後方で警戒に当たっている少女の視線に顔を向ける。

 

「……それで、さっきから何か言いたそうだな、フィー?」

 

「……ユーシスのお兄さんと何を話してたの?」

 

「何って、色々なハナシさ」

 

 俺の答えに不満げな様子で見つめてくる少女に小さく苦笑する。恐らくは、以前に言った言葉もあり子供扱いされていると思ったのだろうか。

 

「やっぱし、前に言ったのを怒っているか?」

 

「……別に、ソウ見たいに心が狭くないから。……言いたくないなら無理に言わなくてもいい」

 

「…ははは…そうかい、……まぁ、お前も気になること(・・・・・・・・・)だろうし暇を見つけたら話すわ」

 

「……ん」

 

 そして、再び四人の背中を見つめながら歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「確かこの辺り……でしたよね?」

 

「ああ、報告によればそこそこの大きさだからすぐに見つかると思う……っ、ビンゴだ」

 

 委員長に答えるより早く、高台の開けた場所で待ち構えるように佇む影を見つけて足を止める。

 

 手配魔獣《フェイトスピナー》。特徴は聞いていたが、ギチギチギチと不気味に巨大なハサミを鳴らす姿は、それだけで威圧感がある。

 

 一筋縄ではいかなだけに作戦を考えるべく一旦全員で集まった。

 

 

 

 

「……敵の数は二体。やっぱりハサミは結構固いかも」

 

「それに見た感じ番か何かは判らないが、見た目に反して同士討ちは期待できなさそうだ」

 

「そうですか、なら中距離からの足止めを行いながら如何にして胴体を狙うか……ですね。仮に番であるのなら連携してくる可能性も十分有り得ますね」

 

 フィーとソウの報告をもとに委員長が冷静に分析する。

 

 攻防共に強力な武器であるハサミ、動きもけして鈍そうには見えない。

 

「後衛の援護役はともかく、一番狙われるメインにはリンクで常に危険察知に意識を向ける必要があるな」

 

 俺の言葉にソウが頷く。

 

「そうだな、常に意識を拡げていなけりゃ、下手したら命に関わる可能性もある。…この面子なら俺とフィーで行け…―」

 

「それについてだが頼みがある」

 

 後ろから響いた声に四人の視線が集まる。

 

「マキアス?」

 

「その役目、僕達にやらせてくれないか」

 

 至って静かに、しかし、何かに駈られるようにマキアスと隣のユーシスは俺達に申し出た。

 

 

「……大丈夫?」

 

 酷かった(・・・・・・)と言わしめる先月の実習を知っているゆえか、フィーが真っ先に二人に確認する。……現実問題として二人のリンク成功が実習成功の前提ラインであることや必然的に実戦を経なければならないことを頭では理解しながらも、それの難しさと危険性も目をそらすことが出来ない要素だ。

 

 しかし、二人は一瞬、顔を見合わせると自分の《ARCUS》を起動させる。

 

「ああ、いつまでも足を引っ張っているのは本意ではないからな」

 

「フン、さっさと汚名を返上させてもらうぞ」

 

 驚く俺達の前で言うが早いか二人の間に白い光線を繋げた…―しかし。

 

 二人とも顔をには表さないように努めているものの心のなかの不快感が距離や顔の端々から窺える。

 

 ──けして互いを認めてはいないが、これ以上の失態はプライドが許さないと言うことか……

 

 確かにチームとしての結果を持ち出して二人に火をつけたのは自分だが、言葉に出来ないがナニカが歪な彼等のリンクに若干の不安がよぎる。

 

 ──ソウは、止めないのか?

 

 ちらりとソウの方を見つめると、時々見せる冷たい目で二人を見つめていた。しかし、他の誰も彼の凍てつくような視線に気付いた様子もなく、ソウ自身も特に二人に何も言うことなく、何事もなかったようにこちらに目を向けてくる。

 

「さてと、じゃあ二人がメインで戦うとしたら、後はどうするつもりだ……リィン?」

 

「……えっ?、あ、ああ、そうだな…―」

 

 まさか、こちらに振ってくるとは思わず、慌てて考える。地形や敵の見た目、こちらの特性などを頭のなかで自分なりの配置図を組み立てる。

 

「……俺とフィーが相手を掻き回しつつ削っていって、ソウと委員長が後方で支援するって形はどうだ?」

 

「……ん、私は賛成」

 

「ええ、私も問題ありません」

 

「……いいんじゃないか?」

 

 三人の賛成を得てホッと胸を撫で下ろす。

 

 そして、いざ魔獣のもとに向かおうとする直前にようやくソウが二人に向かって口を開いた。

 

「……最後に聞いておく。二人とも本当に大丈夫だよな」

 

 先程見たような冷たい視線―ではないが、真剣な眼差しでユーシスとマキアスを見据える。

 

 一瞬、気圧されるように顔を泳がせたが、何か決意したかのようにソウの顔を見つめ返す。

 

「ああ、任せたまえ」

 

「無論だ」

 

 何か言うかと思ったが、意外にソウは、そうか、と呟いたきり口を開くことはなかった。

 

「よし、それじゃあ行くぞ」

 

 彼らを繋ぐ仮初めの絆が途切れないことを胸のうちで祈りながら俺達は陣形を整えつつ高台へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 意識に伝わった情報に素早くその場から跳ぶ。

 

 背後から放たれた毒液の臭気に顔をしかませながら再び魔獣達の周囲を回るように移動する。

 

「リィン」

 

「大丈夫だフィー!…このまま削っていくぞ」

 

 同じく敵を撹乱しているフィーに答えながら再びヒットアンドウェイの体勢を整える。

 

 落ち着いて魔獣の動きを意識しながら一発ずつ斬撃を刻んでいく。―リベンジを胸に挑んだ戦いは圧倒的に俺達の有利で進んで行った。

 

 口から吐く毒液や背後からのハサミの一撃も銃やアーツによる援護を担当してくれている二人が注意してくれることもあり、殆ど深刻なダメージには至らない。そして、メインの二人も互いに注意を補いながらその役目を果たしている。

 

 

「行くぞ。《ARCUS》駆動……《エアリアル》」

 

 ユーシスの巻き起こした竜巻によって二体とも身動きがとれぬまま舞い上がる小石や木片、土砂に体を打ち据えられていく。その隙を見逃すことなくマキアスが既に定めていたショットガンの引き金に手をかける。

 

「これでどうだ!!」

 

 容赦なく撃ち込まれた貫通弾が一体の甲殻を抉る。頑丈な甲殻部分とはいえ無敵ではない。先程から受けていたリィンとフィーの攻撃もあり、既にそれは限界を迎えていた。

 

「グギ…ギギィ…ギギイイィィ!」

 

 そして、黄色い体液を漏らしながら怒りの叫び声をあげる魔獣の前に小さな影が音もなく近寄る。

 

「…ん…、悪く思わないで」

 

 すれ違う一瞬の刹那に致命傷となった傷口に素早く止めを撃ち込んだ。

 

 ──よしっ、いける

 

 全員の役割もきっちりとこなせている。委員長とソウが逐一援護や回復をしてくれているおかげで目立ったダメージもない。これならば…―。

 

 

 

 パリィン!!

 

 

「…………なッ…!」

 

「………馬鹿な…!」

 

 

 聞こえてきたのは、何かが割れる音と驚愕するマキアスとユーシスの声。

 

 一瞬の硬直の後に何が起きたのか理解する。

 

「……リンクブレイクか!」

 

切っ掛けは解らない。しかし、戦術の要であった仮染めの繋がりはあえなく砕け散った。

 

「…くそッ!、どういうつもりだユーシス・アルバレア!!」

 

「……貴様こそどういう了見だ!!」

 

戦闘中にも拘わらず言い争いを始める二人に背後から怒声か飛ぶ。

 

「下らんことは後にしろ馬鹿野郎!!来るぞ!!」

 

 ハッと二人が身構えた刹那、容赦なくハサミの一撃が見舞われる。相方の命を奪われて怒りに燃える敵が相手の隙(自滅)を見逃すはずもない。

 

 

「ギイイイイイィィィィ!!」

 

「う、うわぁぁっ!!」

 

「…ぐっ!!」

 

鈍い金属音と共に二人の得物が宙を舞う。

 

運良く直撃は免れたようだがその衝撃によって二人は地面へと投げ出された。

 

「まずいっ!!」

 

 

「ギイイイイイィィィィ!」 

 

 

無防備に地面に崩れる二人に巨大なハサミがゆっくりと振り下ろされる。

 

 

自身を襲うであろう痛みを覚悟したのか二人の少年が覚悟をしたように眼を閉じる。

 

──俺は

 

『…様……兄様!…て!』

 

 

──俺は!

 

 

 

これから起こるであろう惨劇、そして、血にまみれるあの日の光景が頭のなかでフラッシュバックする。

 

 

「……やめろ…、やめろおおぉぉぉ!!」

 

一瞬、ほんの一瞬だけあの日の感覚が甦る。自分でもあり得ない速度で地を駆ける。

 

 

「…リィン!?」

 

「リィンさん!?」

 

 

気がつけば、俺は、二人と魔獣の間に割って入っていた。

 

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