翼の軌跡   作:南野智

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やっとバリアハート編もゴールが見えてきました。


『知ること』と『智ること』

 

 

 

 オーロックス砦へ魔獣退治の報告を済ました後、バリアハートへと戻った一行は、先に街へと戻ってきたソウと合流すると一旦ホテルへと戻ることとなった。

 途中で幾らかの出来事はあったが、それらも含めて夕食までの時間の間にリィンとソウは、別行動中の情報交換をすることにした。

 

 ユーシスとマキアスは、やはり未だにソウと顔を合わせ辛いのか、それぞれ別に席を外した。

 

 豪華な一室のなかでそれぞれの手帳を見ながら二人の少年はそれぞれの報告を行った。

 

 

 

「露骨な軍備増強に謎の空飛ぶ人形ねぇ……、四大名門のお膝元だけに何かはあると思っていたけど、まさかここまで露骨な争いを見るとはな」

 

「それはそうとアハツェンも配備されていたんだろ?…我らが副委員長は御冠だったろうな」

 

 クックッとからかうような笑みを漏らすソウをジトリと睨みつつ、彼の怒りが既に鎮まっていることに内心で安堵する。

 

「まぁ、最初は一悶着起こると思ったけど、誰かさんの言葉が堪えたようで直ぐに収まったよ」

 

「それは、何よりで」

 

 小さく肩を竦めるとソウは、窓の下の街並みへと目を向ける。

 

 薄暗い空の下に広がる翠と白に彩られた街並みは昼間とはまた趣の異なる美しさを放っている。翡翠の都の異名に違うことのない美しさは星空の下でもその美しさは損なわれることは無いであろう。

 

 

 たとえ、そのなかで戦火の火種が燻っていたとしても。

 

「それにしてもオーロックス砦の軍備増強か……、アルバレア公は完全に戦う気だな」

 

「……ユーシスのお父さん……か」

 

 ホテルの玄関で偶然遭遇した高級車の後部座席に見えた横顔を思い出す。

 駆け寄る息子に一瞥すらしない……形式的な暖かみのないやり取り、そして、去っていく車を眺めるユーシスの悲しそうな、どこか諦めたような表情が胸を締め付ける。

 

 

「……ていっ!」

 

「痛ッ!」

 

 コンッとこぎみのいい音が突如として部屋に響く。

 

 頭上に降り下ろされた衝撃に頭を押さえながら、リィンは、いつの間に取ったのか備え付けのパンフレットを丸めた得物を握る友人へと目を向ける。

 

「あのなぁ、色々考えてしまうのは分から無くはないけどな、自分の手の届かない事も考えていたら体がいくつあっても足りないぞ?」

 

 ただでさえ苦労人気質なのにな、と呆れたように呟く友人の顔をまじまじと見つめていたがやがて小さく笑みを浮かべた。

 

「何だよ?」

 

「いや…、ありがとう心配してくれて」

 

 リィンの言葉に一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐに呆れた顔をととも溜め息をついた。

 

「はぁ、だから感謝の前に何とかしろって」

 

「はは、悪い」

 

「ったく、頼むぜリーダー」

 

 二人の少年の笑い声が翡翠の都のラピスラズリのような夜の空にこだました。

 

 

 

 

 

 

 その後、メンバーを集めて、中央広場のレストラン《ソルシエラ》で夕食を取った俺達は、改めて今日の実習で見た革新派と貴族派の対立する現実について話した。

 

「だが問題の根幹は革新派と貴族派の対立にある。今日見たアハツェンなど正規軍がどれだけ配備していると思う?」

 

「そ、それは…」

 

 帝国正規軍の機甲師団―それらの戦力が領邦軍のそれを上回るものであることは、士官学院生でなくともよく知った話である。

 いや、クロイツェン州だけではない。帝国の至るところで此所のように革新派と貴族派の争いは行われている。

 

「……まぁ、俺はこの国の対立については軽くしか知らないが、知識で知るのと現実で知るのとじゃ大分違うって思ったぜ。…少なくとも簡単に答えが出せる問題じゃないだろ?」

 

「……ええ、私の住んでいた場所も随分と辺境の所でしたから、知識としては知っていましたが特別実習で目の当たりにするまで本当の意味では知らなかったのだと思います」

 

 二人の核心を突いた言葉に沈黙が訪れる。

 

 領主の父さん、母さんにエリゼ、里の皆、駅員をしている友人、旅館で働く姉のような姉妹、皆の笑顔があふれる故郷(ユミル)の風景は貴族と平民の対立など感じさせなかった。

 

 いや、委員長の言葉通りに知識としては知っていたが、どこか現実感を感じてなかった。

 

 

 

「……ねぇ、それより早く食べない?」

 

 湯気と共にハーブの香りを漂わすスープに我慢が出来なくなったのか、フィーの不満そうな声にハッと意識を引き戻される。

 

「そうだな、折角の美味しそうな料理なんだから冷めないうちにいただくことにしようか」

 

「ふふ、そうですね。フィーちゃん、制服を汚さないようにナプキンを着けましょうね」

 

「……めんどくさい」

 

「フン、せいぜい味わって食べるがいい」

 

「なッ!?、君に言われる筋合いは……」

 

「二人ともうっさい!」

 

 こうして俺達は、仲良く……とは、いかないが各々が夕食に舌鼓を打ち、思わぬ人物との再会もあったりしたが一日の疲れを癒す一時を過ごした。

 

 

 

 

 贅を尽くした執務室に二人の人影が映し出される。

 侍女に用意させた素人目にも高級品と窺える赤色の液体のグラスに口を付けるながら、クロイツェン州を支配する男は、目の前に直立不動で立つ部下にある指示を与える。

 

 

「レーグニッツ知事の御子息を……ですか?」

 

「ルーファスが理事をしている士官学院の特別実習……とやらでバリアハートへ来ているらしい。息子が捕らえられればあの平民上がりも大人しくなるだろう」

 

 グラスを傾け本人の顔を思い浮かべながら嘲笑う。かねてより平民の分際であの男(・・・・・・)共々にしゃしゃり出てくるのが気に入らなかったが、思わぬ好機を得ることができた。

 

「……はっ、いや、しかし、ユーシス様には……」

 

「アレは、明日の朝に屋敷の方に呼び戻す。万が一にでも邪魔をされることはあるまい」

 

 

 少年達の知らぬ所でもまた二つの派閥の争いは進行していた。

 

 

 ―他ならぬ彼らを巻き込みながら。

 

 

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