ここの塩梅も難しいです。
午前中の時点では、二日目の実習は順調にいくものだと誰もが思っていた。
昨晩にユーシスがリィンに自分の過去について話しているのをもう一人の同室の者と同じく偶々耳にしていたのか、今朝のマキアスは何処と無く何時もと雰囲気が違った。
不器用ながらもユーシスの方へ自分から歩みより、これまでの自分の殻を破って一歩踏み出そうとする、そんな気概を感じさせた。
しかし、決意の矢先に彼の思いはいきなり肩透かしを喰らうことになった。
ユーシスに突然、彼の父―アルバレア公からの呼び出しがかかった。
思わぬハプニングに遭遇しながらも午後に合流することを約束し、ユーシス無しで二日目の実習は始まった。
土地勘が無く少々困惑することもあったが、他のメンバーは、変わった旅行者の護送やレストランのオーナーシェフにしてユーシスの叔父であるハモンドからのユーシスの思いでのスープの素材集めなど順調に依頼をこなしていった。
思わぬ再会にソウが終始疲れた表情をすることになったり、ユーシスの思わぬ過去を聞くことになったりといった出来事もあったが、一通りの依頼を終わらした彼らは、満を持して北クロイツェン街道の手配魔獣の討伐へと向かった。
四方八方から飛んでくる毒液を右へ左へと回避する。
隣で同じように避ける少女程慣れた動きでは無いものの戦闘開始と共に委員長がかけてくれた
「……っなあ!…とっ……なぁ、まだか!!」
「っん、……そろそろ……っきついかも」
毒液に加えて、空気を引き裂きながら襲い来る巨大な蔓も必死で武器でいなす。しかし、両手に走る衝撃や疲労は少しずつ体と集中力を蝕んでいく。
『リィン、準備完了だ!』
『フィーちゃん、退避を!』
ちょうど、タイミング良く戦術オーブメントを通じて後衛組から待ちに待った合図がやって来る。
「
「…っよし、マキアス頼む!!」
「ああ、任せろ!!」
役割が終了した前衛二人の離脱をサポートするべく十数体は少なくともいるであろう《マントラップ》の大群に無数の散弾を放つ。
魔獣が悲鳴をあげている隙に離脱した前衛二人を確認すると後衛二人は準備した特大の一撃の照準を合わせる。
「……行くぞ!!……《ダークマター》」
黄金色の輝きと共に大群の中央―ちょうど《ヴィナスマントラ》の頭上に黒色の球体が出現する。否応なしに親のもとに吸い寄せられていく魔獣達に止めを刺すべく眼鏡の少女は自身の放てる最大のアーツを放つ。
「《ヴォルカンレイン》」
無数の炎の雨が緑の獣の群れに降り注ぐ。
一体、また一体と《マントラップ》が消滅していく一方で《ヴィナスマントラ》自身は微動だにしない。
そして、雨がすべて降り止んだとき傷ひとつない《ヴィナスマントラ》がそこにいた。
巨大な口を開けながらまるで嘲笑うかのような鋭い牙をガチガチと鳴らす。その姿には炎のダメージは元より、先程までに受けた傷すらも見られない。
「なっ!!まさか、効いていないのか!?」
「いえ、ちゃんとアーツは効いていました!……ですが」
「根を張ることで体力を回復していたのか。……随分といやらしいな、おい」
魔獣の脚部を見ながら小さく吐き捨てる。想定してなかった訳ではないが、実際に回復されるとやはり面倒くさい……が。
「大丈夫だ!タネが解っていればどうってことない」
「……だね!」
今のこのチームにとっては対処可能なイレギュラーに過ぎない。 前衛二人は顔を見合わせて意思を確認すると素早く役割を指示していく。
「エマ、サポートよろしく」
「ええ、任せてください」
「ソウは、俺の補助を……マキアスは、俺とリンクを……頼む」
二人の視線が交差する。実習が始まる前に互いの胸に言われた言葉、言った言葉が去来する。
この実習の間に何となくうやむやになっていたが、思うところが無いわけではなかった。
後悔や怒り、様々な感情が胸に刺さっていたが今は、頃だけはいえる。
「わかった、任せたまえ」
互いに信頼できる
絶え間なく響くふたつの銃声が魔獣との間に一定の距離を空ける。巨体に致命傷こそ与えられないものの徐々にだがダメージを蓄積していく。
「シャアアアァァァ!!」
「《プロテクションバレット 》」
奇妙な叫び声と共に二人に襲い来る緑の槍に対してソウの銃口から空中に放たれた光の弾丸が二人の頭上で弾け、円形のドームとなって包み込む。
「ギィオオオォォォォ!!」
ガキィン!!という衝撃音によって攻撃を阻まれ、怒りの雄叫びをあげる緑の獣に狙いをつけて前衛二人も動き出す。
「……よし、それじゃあ準備はいいか?」
「……ん、一撃で沈める」
「……二人とも気をつけてください」
エマによる
「……行くよ!」
無数の斬撃が瞬く間に巨体に走る。命を削り取る、妖精の舞に歓声の代わりの悲鳴をあげる魔獣にさらに銃弾の嵐が降り注ぐ。
「シルフィードダンス!…リィン」
「ああ!……焔よわが剣に集え…はああぁぁ!!」
紅き焔を纏った、美しさと激しさを備えた刀が巨体を焼き付くす。生命の危機を感じた魔獣は、大地から養分を吸収することで回復を図ろうとするが―。
「させるか!!……うおおお!!」
いっそう激しい散弾の嵐が魔獣の脚部を撃ち抜き回復の隙を与えない。そして、もがき苦しむ魔獣に止めの一撃となる刃が降り下ろされた。
ふぅ、と息を吐いて刀を納める。
激しい戦いだった筈だが思いの外疲労感はない。
体力が向上しているというのも確かにあるが、今回の場合はメンタル的な面が大きいのだろうか。
そんなことを考えながらも後ろから近づく人物に気付い小さく微笑む。
相手の方を向くとその友人もまた満足したような笑みを浮かべていた。
「……マキアス」
「やったな、リィン」
どちらともなく互いに拳をを出して打ち付ける。
コツンッと小さな、しかし、重い音がなにも言わずとも二人の重いを物語っていた。
「…む……何か疎外感」
「まぁ、これが男同士の友情ってやつだからな。…なっ、委員長」
「さ、さぁ、わ、私は良く分かりませんケド…」
どことなく視線を逸らすエマを怪訝そうに見ながら、ソウは改めて二人に目をやる。
「まぁ、仲直りできたようで何よりだ。後は……」
「ああ、解っている。今度は、もうあんな失態は冒さない……僕たちの力で何としてもやりとげて見せるさ」
「マキアス……」
自分の行為を省みて、仲間たちに改めて誓う姿は、昨日いた自分の世界観で全てを判断していた副委員長ではなかった。こうしてまた、一羽の雛鳥が自身の殻を破り、外の世界へと未熟な翼を拡げようとし始めていた。
「ふふ、でも良かったです。リィンさんとも仲直り出来たみたいですし、ユーシスさんとも…―」
「ちょっと待ってくれ!!確かに成功させるとは言ったが、僕は、あの男と仲直りなど…―」
エマの言葉にビシリと指摘してくるが、昨日とは明らかに違うその様子を見れば嫌悪か照れどちらの方が多いか我らが朴念仁にすら丸分かりである。
「はぁ、男のツンデレなんて誰が得するんだか…」
「だ、誰がツンデレだ!!いいか、別に僕は、あのいけすかない男のことなど、これっぽっちも気にかけてなんていないからな!!」
必死で否定するものの体勢が崩れた所にフィーの
「でもスープ飲んでるとき…―」
「あ、あれはだな…―というよりエマ君もリィンも何でそんな目で僕を見るんだ!!」
「……アハハ、えっと……」
「…うん、まぁ、何というかだな……」
二人の
顔から湯気を発しそうな副委員長にソウがゆっくり近づく。
「マキアス」
ポンッと肩に手を乗せると実習始まって以来、最高の笑顔を浮かべてビシリと親指を立てた。
「大丈夫だ。みんな分かっている」
全員の思いを代弁したかのような
和やかにバリアハートに向かう班員の不安は既に小さくなっていた。
このまま、何とか実習を成功で終わらせることも不可能ではないと希望を抱きかけたそのとき。
「マキアス・レーグニッツ、オーロックス砦侵入の容疑で身柄を拘束させてもらう。…抵抗するなら容赦せんぞ」
無数に向けられる銃剣によってそれは打ち砕かれた。