色々ありましてペースは下降気味ですが、続けていこうかなと思っております。
これからもよろしくお願いいたします。
※違っていたので修正しました。ご指摘ありがとうございます。
地下水路を六人の足音が駆ける。
「…はぁ…はぁ、それで、これからどうする方針にするんだ?」
若干、息を切らしながらマキアスが尋ねる。
脱出の際に偶々やって来た見張りの兵士はリィンとフィーが一瞬で黙らせたが流石にいつまでも隠し通せないだろう。
「なるほどな、だ、そうだユーシス」
「ちょっと待てソウ!僕は別に……」
「フン、仕方あるまい」
漫才のようなやり取りに残りの三人が苦笑する。二人とも相変わらずの態度だが、昨日のようなギスギスとした雰囲気は感じられない。
「はは、何と言うか」
「ふふ、これはこれで」
「ありかも」
危機を乗り越えてまた一歩《特科クラスⅦ組》が前進したことをメンバー全員が心の中で感じていた。
「聞こえてるぞ君達!!」
「フン、…無しに決まっているだろう!!」
……恐らくは。
「取りあえずは身を隠して兄上に連絡をとるのが先決だろう。幸いにもアテはいくつかはある」
「なるほど、それじゃあ…―」
「悪い、ストップだ」
突如として入った制止の声に一旦足を止める。
「フィー」
「……最短ルートで追ってきている。かなり訓練された大型の軍用魔獣で間違いないと思う」
二人の言葉に周囲が一斉に息を飲む。
「ソウ、軍用魔獣って…―」
「ああ、どうやらカードを回収するために少々強引な手段をとることにしたってことか」
そう呟きながら舌打ちと共に背後を見据える。まだ距離はあるが出口まで逃げ切ることは難しいだろう。
「ど、どうするんだ!?」
「狼狽えるな、見苦しい」
「なっ、べ、別に狼狽えてなんかいるはずないだろ!そっちこそ足が踊っているんじゃないか?」
「……二人とも本当に息がピッタリですね」
マキアス、ユーシスの漫才にエマが純粋に驚嘆を示す。思わぬ感想に二人とも一瞬、凍りついたように制止した後、慌てて同時にそっぽ向く。
「……どうするの?」
「さてと、どうしたもんかなリィン?」
二人の視線がリィンを見つめる。僅かに考え込みように目を閉じたがすぐに口を開く。
「このまま走っても逃げ切れる可能性は高くはない。なら俺は……ここで体勢を整えて迎え撃つべきだと思う」
自分が考えるベストな手段を自信を持って口にする。間違っているのではないかと言う不安がないと言えば嘘になる。こんな大事な局面だ、剣を噛じっただけの戦術のイロハもろくに知らない自分が考えるよりも明らかに優れている二人に、全面的に任せた方が安全で確実だろう。
だが、しかし、それでは前へ進むことは出来ない。
今回の実習で二人が大きく成長する姿を目の当たりにしただけに強く自分の思いを実感することが出来た。
二人に……自分に負けたくない。
ほんの数秒の沈黙がいやに長く感じる。自分の周りだけ時間の波に取り残されたかのように遅い。
「ん、……わたしは賛成」
沈黙を破った少女の言葉を皮切りに時間が動き出す。
フィーの言葉にソウもまた頷く。
「ああ、ここなら場所もまずまずだ。俺も良いと思うぜ」
二人の言葉に安心と喜びが胸に満ちる。しかし、その刹那、物凄い速度で接近する二つの気配を感じ急速に臨戦態勢に切り替わる。
「どうやら近づいてきたな。リィン!」
「ああ!みんな、聞いてくれ!」
徐々に大きくなる気配を感じながら全員で素早く作戦を纏める。そして、いざ、配置に就こうとしたときソウが手を上げる。
「折角なんだ。何か気合の入る一言でも言ってくれよ」
突然の振りに太刀を落としそうになる。
「ちょっと、何だ急に…―」
「ふふ、よろしくお願いしますリィンさん」
エマの言葉に敢えなく、抗議は封じられる。
「はは、しっかり頼むぞリィン」
「フッ、締まらない言葉だったら承知せんぞ」
顔に笑みを浮かべながらマキアスとユーシス。
「じゃあ、れっつごー」
フィーの決定的な一言によって抵抗が無駄であると悟った。覚悟を決めて大きく息を吸い込む。
「トールズ士官学院《特科クラスⅦ組》A班。……これより軍用魔獣を撃破する。…ここまで来たんだ、最後は笑って終わらせるぞ」
『応っ!!』
そして、最後の壁である二頭の獣が咆哮と共に目の前にやって来た。
地獄の業火のような紅い四つの瞳が獲物を見定める。見た目こそ犬であるものの、その体躯は獅子や虎というべきか…いや、体躯だけではない、纏ってる雰囲気そのものが両者が似て非なるものであることを物語っている。
「へぇ、何かと思ったら《カイザードーベン》か。中々、上手く調教できてるじゃないか」
「ん、まぁまぁかも」
「君達二人は一体何の話をしてるんだ!!」
マキアスの突っ込みを受けながらソウとフィーの二人は前後で挟むように少しずつ距離を詰める魔獣を見やる。
先程の追跡や今も少しずつ
「まぁ、考えるのは後にするとして……来るぞ!!」
物々しい鎧に包まれた二頭が体勢を低くする。
「グアオオオォォォォ!!」
「ガオォォッ!!」
刹那、爆発のような雄叫びが大気を、石壁を震わせる。反響によって何十倍もの威力となった咆哮は容易に人間が意識を保てる限界を超えていた。
何時ものように無防備になった獲物に各々の牙を、爪を、はたまた鎧の刃を喰らわせるべく二頭は獲物に狙いを定めた。……そして、何時もと違う光景を目にした。
「……《プロテクション・バレット》…、お前らのやり口なんて昔から知ってるもんでね。残念だったな」
不敵に口許を釣り上げた少年を中心に光の膜が全ての衝撃を遮断していた。
予想外の事態に二匹が硬直した隙を逃すことなく、素早く三人ずつのチームに分かれる。
「行くぜ、マキアス」
「ああ、了解だ!」
ソウとマキアス、各々の得物の銃口が火を放ち片方の《カイザードーベン》に命中する。
「グアウゥゥ!!」
短い叫びと共に怒りに満ちた視線が突き刺さる。ダメージこそ殆ど無いものの取り合えず注意は引き付けることが出来た。
「な、なぁ、僕にはかなりマズイように見えるんだが」
「安心しろとは言わないが、予定通りだ。それじゃあ、走るぞ二人とも」
一斉に背を向けて走り出したソウ、マキアス、ユーシスを怒り狂った《カイザードーベン》が追う。相方を援護するべくもう一匹が駆け出そうとしたとき、無数の弾丸が背後から体を打ち付けた。
「残念。相手はこっち」
静かに呟きながらフィーは相手を見据える。
二挺の銃剣を構える少女の姿が目に入った瞬間に魔獣の野生は標的の優先順位を変更したことが殺意に溢れた視線から強く感じる。
「はぁ、こんなに簡単に分離されるようじゃ失敗だね」
ポツリと呟いて後ろへと大きく跳ぶ。
「《シルバーソーン》!!」
エマの掛け声と共に幻の剣が獣を囲むように突き刺さり魔方陣を構成する。
「グワオオォォン!!」
魔獣の悲鳴がこだまするなかで、次のアーツの準備に入りながら後方へ待避したフィーの方へ目を向ける。
「大丈夫でしたか!?フィーちゃん」
「ん、ばっちり。次もよろしく」
「わかりました。……【ARCUS】駆動」
青白い魔方陣がエマの周囲に展開される。この瞬間、彼女は無防備になるが、ガードは今、魔獣と相対している少年が行うことになっている。
自分の任務は牽制と援護を行いながら致命的な隙を突くことだ。
「
両手の得物を構えて少女は小さく呟いた。
「ええい、まだあれは見つからんか!?」
主の怒声に領邦軍の指揮官が蛇に睨まれた蛙のように身を縮こまらせる。普段は領民に尊大な態度で接しているのが嘘のように顔色を青と白に変えている。
「……は、はっ、ただいま市内各所を厳戒体制で捜索中でありますが……未だに…―」
「ええい、使えん奴らめ!!」
バンッと乱暴に机を叩く音にさらに身を竦める。
容易であると思われたユーシス・アルバレアの捜索は予想に反して難航していた。貴族街はもとより彼が訪れそうな市内の場所は粗方捜索したものの影も形も見つからなかった。
市内の至るところに、万が一を考えて地下水路の入り口も調べさせたが何れの扉も施錠されていた。
「いい加減に連れ戻せ!!万が一にでもルーファスに連絡をとられたら…―」
「はて、『万が一にでも私に連絡をとられたら』……何かお困りになるのですか父上?」
執務室の外側から涼しい声が響く。本来ならば帝都におり、この騒ぎそのものを知るよしも人物の声に部屋の二人の驚愕に彩られた視線が入り口に集まる。
「いやはや、取り急ぎ帰ってみれば……たった一日街から離れていただけで随分な騒ぎになっており些か驚きましたよ」
ゆっくりと入ってきた、その人物はアルバレア公爵に向かって悠然と微笑む。老若男女問うことなく虜にするような微笑みである筈だが、今はそれに四大名門の当主たる父親すら圧するような凄みがある。
「ああ、お勤めご苦労。父上と二人で話があるので席を外してくれるかな?」
青年の言葉に自分の主の許可を確認するまでもなく指揮官は逃げるように部屋を出ていく。
怒りか、恐怖か、僅かに震えながらも当主としての威厳からかヘルムート・アルバレアは口を開く。
「何故お前がここにいる……ルーファス」
「無論、士官学院の常任理事としての職責を果たすためですよ父上」
父親に臆する様子もなく、ただ何時もの微笑みを浮かべながらルーファス・アルバレアは父親と対峙した。