軌跡シリーズ全体で見ても『蒼穹の大地』は、とても好きなBGMです。…バイクに馴れるまで馬派だった人は自分だけでは無かった……筈。
間章・高原の朝と二人の少年
乾いた朝の風が鳥の声を乗せて頬を撫でる。草と土の混じった生命力溢れる風の香りが肺を通って四肢に満ちる。
仄かに赤く光る朝日を浴びながらここ最近の寝床である岩から身体を起こす。徐々に意識が覚醒していくに伴い胃の物寂しさも鮮明になってくる。
先ずは、朝食を如何にしようかと思考を巡らせたとき高原の方から微かにこちらへ向かってくる気配を感じる。
国境の軍隊ならいざ知らずこの地に住む人々まだ陽が顔を出したばかりのこの時間に起床しているのは珍しく無いが、早朝にこの石切場へと足を運ぶものは多くはいない。
しばらくすると馬の嘶きと共に予想通りの人物―予想外にもこの地でできた自分より少し年下の友人がやって来た。
「おはよう、トーマ」
「おはよう、ガイア…って、えぇ!!」
ヒラリと寝床から飛び降りると驚いたような声をあげる。その声に驚いて馬が暴れるが、手慣れたように瞬く間に宥める。
しばしの浮遊感を経て地面に着地すると馬上の友人から朝っぱらから疲れたような声がかかる。
「……父さんが渋々納得したからどんな場所かと思ったけど、まさか、あんな場所だったなんて」
そう言いながら現在の俺の寝床を見上げる。石を切り出すなかで生まれたのであろう岩の柱は高さにして六アージュは容易に越えているだろう。
「タハハ、こうでもしないとトーマの父さんが許してくれなかったからね」
息子と同じく年頃だったというのも大きかったのだろう。自分が石切場を寝床にしていると知った目の前の少年の家族からは彼らの集落に寝床を移すことを度々勧められたが、そこらの魔獣に襲われることなどあり得ないし、
「はぁ、でもたまには集落にも泊まりに来なよ、シーダとリリもガイアがしてくれる話を楽しみにしているしさ。それに母さんも沢山ご飯を作ってくれるって言ってるし」
「やった!…あ―」
グゥー、と気の抜けた音がなる。
頭に浮かんだ一昨日の夕食の風景だけでは満足できないぞ、と胃袋が文句を言っているかのような実に大きな音であった。
ブルル、と呆れたように馬が鼻を鳴らす。どこか馬鹿にされたように感じたのは気のせいだと思いたい。
一瞬の沈黙の後、堪えきれなくなったトーマが小さく噴き出す。
「あーもう!、笑うなよ!」
「あははっ、ごめん、ごめん…ははっ」
馬上で大笑いする友人をジトリと睨み付ける。朝起きて腹が減るのは仕方がないし、何よりもその状態であの夕食を思い出すなんて腹をならせと言ってるようなものではないかと、自分でも良くわからないことを頭のなかで弁解する。
まあ、色々と言ってみても結局は単純なことなのだが。
「うん、お腹空いた!!」
「わかった、わかった。どのみち誘うつもりだったしさ」
「えっ?ホント!?」
高原の少年は、目の色を変えて食い付く友人に再び笑いの衝動に押されるが、何とか堪える。
「うん、これから北の方で羊達を歩かせるんだけど、母さんが行く前に誘って来いって」
「やった!!あっ、北に行くんなら俺も一緒に行っていい?」
「もちろん」
トーマの返事にガイアは彼の全ての荷物である小さなナップサックを肩にかける。体を捻ったり、軽く屈伸をしながら少しずつ解していく。
ここから集落までは数キロ位であり寝起きの運動にはちょうど良い。
「なぁ、トーマ。集落まで競争しない?…ハンデをつけてあげるしさ」
「えぇ、どうす…―」
「ヒヒイイィィン!!」
前回の敗北と最後に付けた一言が馬の誇りに火を付けたのか、相方が確認するまでもなく力強い嘶きをあげる。
「勝負は受けるけどハンデは結構だってさ」
「ふーん、りょーかい」
静かに火花を散らしながら二人と一匹が横に並ぶ。
遠くから魔獣たちの鳴き声がぼんやりと聞こえてくる。
「来た」
どちらが言っただろうか。
高原からの一陣の疾風が石切場をかける。
ひんやりと乾いた大地の息吹きがトーマの髪とと相棒の鬣を撫でる。
ガイアの胸元にかかる黄色の宝玉が埋め込まれたロケットが揺れる。
そして、少年達は駆け出した。