そして、先日購入したファル学の四巻のパロディー祭りに不覚にもツボを突かれました(笑)
「……やっぱり、ダメでしたか」
「持ってきてくれたノートも見ながら可能な限り調べてみたけど、高密度の導力エネルギーを安定させる手段がどうしてもね……力不足で申し訳ない」
そう言って、この工房の実質的な主である黄色い作業着の先輩は大きな体を申し訳なさそうにすぼめる。
「いや、流石に製作者の二人が規格外というか、ぶっ飛んでいるというか、…まぁ、良くも悪くも技術馬鹿な変態なんで、あんま気にしないでください。俺としてはボロボロのアレから中心部以外が修復できただけでも満足ですよ」
同僚だった少女辺りに『何しれっと自分を抜いているのですか』とジト目で突っ込まれそうなことを口にしながらソウは、クルリと銀の円柱を手のなかで回す。
感覚も以前の物と比べても遜色はない。自分が構想した武器だけに何とか修復をしたいとは思っていたので取りあえずは一安心というところか。
因みに自分自身は、発案者であり、製作者ではない。念のために。
「ふぅ、それにしても一体全体何者なんだい?エネルギーを刃状に展開することなら既に実用化されているけど、それを長時間維持し続ける機構を思いつくなんて」
「まぁ、色々と個性的ですけど俺が今まで出会ったなかでも二人ともトップクラスなのは確かですよ。……《
久し振りに耳にする特徴的な振動音と共に長さにして一アージュ半の光の刃が筒から展開される。
「………はぁっ!、せぃっ!」
ブウゥン、ブウゥン、と空気を揺らす振動と共に虚空に二閃、光の刃が走る。
そして、二つの軌跡を描くと光の刃は力が尽きたかのように溶けるように消え去った。
「……五秒ちょい…ってところですね」
「何とか冷却部分を改善できないか粘ってみたけど、それでも再使用までに十五分から二十五分はかかってしまうからねぇ……はぁ、僕もまだまだ修行不足だな」
「いやいや、十分過ぎますよ。本家本元の二人も中々、三十分の壁を破れなかったですし」
それでも、技術者として思いが残る結果だったのか、二人から貰った整備用の設計ノートと自分で作成した導力ネットのデータを交互に見ながらしばらくの間、難しい顔で唸っていた。
帝国随一の工学のメッカ―《ルーレ工科大学》に熱望される程のホープであると聞いたのはつい最近であるが、普段の温厚な人柄からは想像できないほどの溢れる熱意を目の当たりにすると、やはり、この先輩もまた職人であると感じる。
「そういや、アレ以来会っていないな」
結局、バタバタして主任やおやっさんの顔を見せる前に戻って来た上に、彼女にも光剣を壊したことを伝えていなかった。
「……そうだな、 まだ一月位だけど手紙でも書くか」
ついでに何かお土産でも送ろう。特に彼女には怒られるであろうことを考えると尚更だ。
しとしとと窓の外に振る雨を見ながら何となく懐かしさを感じる顔触れを思い浮かべて口許を緩めた。
あの後、やはりリベンジしたいとのジョルジュ先輩の言葉を受けて、再度の修復計画に取り組むことになった。取りあえずは二、三の見通しを二人で相談した後、先輩に礼を言って工房を後にした。
道と空には名残こそ残っているものの先程まで奏でられていた雨粒のリズムはすっかりやんでいた。
「取りあえずは何を渡すか……だよなぁ」
各々の顔触れと好みを頭のなかで思い浮かべる。
そう言えば、カルバードに住んでいたときに自転車がどうのこうのと言っていた気がする……小さい娘も一緒に乗れるような奴を買うか……いや、少し悪いが先輩に作ってもらった方が良いか。
あっちは高そうな物よりも逆に庶民的で珍しいものにするか。斜め上の発想でミュヒトさんの店で何か変わったモノを買うのも……止めといた方がいいな。
問題は大人組とチビッ娘二人だとなと考えているうちに雑貨屋までついた。
一ヶ月半のうちにすっかりと顔馴染みになった店員に挨拶して、陳列品に順に目をやっていく。
小さな町ではあるが、帝都から鉄道で三十分程という立地や帝国中から生徒が集まる士官学院を擁することからか、この町の雑貨屋の品揃えは意外にも充実している。
様々な小物や茶葉、そして、みっしいの人形に至るまで様々な商品が棚に並んでいる。
「やっぱり、酒を学生が買うわけにはいかないし、帝国まで来てみっしいは、どうかと思うし……難しいな」
棚を見ながら考え込むが、中々妙案は浮かばない。
それにしてもクロスベルのローカルキャラだと思っていたが、みっしいが地味に帝国進出を果たしていたことに驚きだ。この報告を持って《みっしいを広め隊(仮)隊長》へのお土産とする……わけにはいかないか。
「あれ?ソウ?」
この一月半で聞き慣れた少し高めの少年の声に振り返る。
「ああ、エリオットとガイウス、それにユーシスも。確か部活に行ってなかったか?」
二人は共に部活が休みだったので学生寮で試験に向けての勉強をすると言っていたが、ユーシスの方は朝食を済ませるとすぐに傘を手に雨のなかを出掛けていった筈だったのでこの時間に雑貨屋に来たことに少々驚いた。
「ああ、しかし、あの雨だったからな。結局は手入れと厩舎の掃除だけで早めに終わることになった。まあ、帰路についた途端に上がったのは癪だったが」
最後に少しムスッとした表情を浮かべながらユーシスが答える。
学院生活のなかでも大変熱心に部活動に取り組み、意外にも馬との触れ合いをこよなく愛するユーシスにとっては貴重な休日の部活時間が無くなったのは結構残念らしい。
「ハハ、ドンマイ。エリオットとガイウスは息抜きか?」
「ああ、雨も上がったから昼食がてらにな。《キルシュ》で食べる前にノートとインクを買おうと思って来たんだが、ちょうどそこでユーシスに会って今に至ると言うわけだ」
「それにしても驚いたよ。熱心に棚を見ながら百面相している人がいるなぁと思ったらソウなんだから」
エリオットの言葉に軽く顔を逸らす。
今更ながら端からみれば自分がどんな様子だったか思い至った。
「フッ、中々良い見せ物だったぞ」
さも愉快そうな笑みを浮かべる金髪をジトリと睨み付ける。つくづく、先月の実習のマキアスとのやり取りを録音しなかったことが悔やまれる。……文学部の新作に自分とマキアスそっくりのキャラが出てきたら果たして彼はどんな顔を浮かべたのか惜しいことをした。
「……今なにか不穏なことを考えなかったか?」
「サァ、ドウダロウネ」
「……何だか分からんが、お前がろくでもないことを考えていたのは良く解った」
「イヤー、ボーリョクハンターイ」
「アハハ…、何で棒読みなのさ」
俺とユーシスのやり取りを見ながら二人が小さく苦笑する。
「フフ、先月の実習で随分と打ち解けたみたいだな」
「ホント、最初はビックリしたけどユーシスもマキアスもすごく柔らかくなったし、何よりも二人ともすっかり…―」
「仲良くないわ、阿呆!」
エリオットが言い切る前にすかさず突っ込みを入れる。
しかし、いがみ合う度にクラスの雰囲気が最悪になっていた時とは違い逆に微笑ましい雰囲気になる辺りが真実を如実に物語っている。
「照れるなって…ッ痛っ」
「フン」
頭部への手刀により物理的に話を打ち切るという強行手段に出たユーシスに対して、さながら保護者のような微笑みを浮かべていたガイウスが、そう言えば、と俺の方を見ながら口を開く。
「随分と悩んでいたようだが、誰かへの贈り物か?」
「ああ、クロスベルの皆に贈ろうと思ったんだけど如何せん…―」
何を選んだものか、と口に出そうになったところで、ふとひとつの提案が思い浮かぶ。
「なぁ、三人とも昼飯はまだなんだよな?」
「?、ああ、さっきも言ったように俺達は今からだ」
「俺もまだだな」
いきなりの問いに頭にクエスチョンマーク三人を見ながらニヤリと笑みを浮かべる。
「じゃあさ、ちょっと相談があるから昼飯がてらに乗ってくれないか?御礼と言っては何だがご馳走するしさ」