今年も不定期的な更新になると思いますが、よろしくお願い致します。
巨大な鉄人形から放たれるレーザーを余裕をもって回避する。
最初に見たときは驚異に感じたそれもパターンを見分けることの出来るようになった今では、好機でしかない。
無防備になった隙を逃すことなく二つの影が鉄人形の背後より現れる。
「行くわよ、ソラちゃん」
「了解です!」
気合いのこもった声と共に無数の水晶の刃と雷のような一撃が未知の金属で構成された巨体を轟音と共に粉砕する。
「……うわぁー、ホントに同じ人間?」
二人の様子に若干引きながら失礼なコメントを口にするユウキに小さく苦笑しながら、特に押される様子もなく、周囲に散らばる敵を宙に浮かぶ球体から放たれるレーザーで撃ち落とす姿に安堵する。
彼自身が《異界》に足を踏み入れるのは、今回で二回目なので若干の不安はあったが、どうやら杞憂に終わりそうだ。
「こっちも負けてられねぇな」
周囲を取り囲む《怪異》達に目を向け、右手に纏うソウルデバイス《アンカーギア》を構える。
右手を一閃すると共に炎を纏った刃が空間を裂く。
突如として手甲の中から伸び出た蛇腹状の刃が生き物のようにうねり敵を切り裂く。
縦横無尽に走る刃に共鳴するように《アンカーギア》に力が収束する。
「うおぉぉォォッ!!《エクステンドギア》!!」
白い光を纏った巨大な刃が《怪異》の群れを貫いた。
「……ふぅ、これで全部のようね」
柊の言葉を合図に全員が安心したように息を吐く。
「おい、ユウキ、大丈夫か?」
「……別にボクは、問題ないけどさ、何か前の迷宮と《怪異》の出方が大分違うくない?」
「あぁ、なんというか現れないと思ってたら急にいっぺんに出てきたって感じだったな」
確かに前回の蜘蛛型のエルダーグリードの迷宮に限らず今まで見たことの無いパターンだ。
ふと、疑問に感じたところで、こちらの話を聞いていた柊が説明を加える。
「これまで《怪異》の出現パターンのが極端に偏った迷宮の報告は数例確認されてはいるけども、何れも通常の《異界化》との相違点などの目立った変化は確認されてはいないわ」
「えっと、それじゃあ特に強力な《怪異》とかがいるわけじゃないんですね?」
「えぇ、警戒するのに越したことは、無いけど、反応も特に強力なものでは無かったし、大きな脅威となりえる《怪異》の気配は無いし問題ないわ」
柊の言葉にソラは、安堵したように胸に手を当てる。
中学生離れした体力や技術を持っていたとしても中身は、高校生活にようやく慣れてきたばかりの少女だ。正体の判らぬ《怪異》との戦いに精神的な負担が無い筈がない。
かく言う自分自身も迷宮の主であるエルダーグリードとの戦いは、三回ほど経験したが何れも無我夢中で戦い、何とかなったという形である。未だに柊見たいに慣れることはない。しかし、だ。
「さて、そろそろ進もうと思うのだけどみんな行けるかしら?」
「はい、前衛は任せて下さい!」
「暑苦しいノリは結構だけど、さっさと、クリアーしちゃおうかな」
柊の問いかけに片や元気の良い返事が片や気だるげな生意気そうな返事が返る。
性格も真逆の二人の後輩であるが、どちらもこの異界の迷宮の戦いのなかでも弱音のひとつ吐かない。
何も感じていない筈は無いのに、自分の意志で勇気を出して一緒に戦ってくれている。
(ったく、負けられるかっての)
後輩に背中を見せてこその先輩ってヤツだろうが。
口元に僅かに浮かぶ笑みを感じながら三人のもとへて足を出した。
「なんだ……コレは?」
恐らく、迷宮中盤の大物であろう首なしの悪魔騎士を倒し、迷宮の後半に差し掛かったところでソレは、突如として現れた。
ここに至るまでも七耀石のような結晶や見たこともない果実、導力を使用していない未知の工業品らしきものなどゼムリア大陸には、存在しないであろうものは、少なからず目にしてきた。
流石に多くの荷物を持つ余裕もないこともあり、泣く泣く殆んどの物を箱の中に置いてきたが、何れもこの世界のゼムリア大陸とは異なる技術への興味と畏敬を感じさせるものであった。
しかし、先程、氷の粒に還した魔獣が体内に加えていたストラップとイラストカードは、また異なるベクトルでこの世界への関心と疑問を感じさせるモノであった。
「《魔法少女・まじかるアリサ》に《魔界皇子・リィン》……か」
様になったキメポーズを取る同級生にソックリな…いや、もはやそのものとしか言えないようなキャラクターのイラストとストラップを見ながら小さく溜息をつく。
何で二人の姿がこの世界に在るのか、この……個性的な格好は何なのかなど色々と思うことはあるが。
(何というか、まぁ、…痛い)
何がとは言わないが痛い。
未だに目立った傷ひとつすら無い筈なのに久方振りに感じる痛みにカードからスッと目を逸らす。
「まぁ、どうせ魔獣の腹から出てきたモノだし、持ち帰って本人にやるのも良いか」
流石に元の持ち主が取りに来る何てことも無いだろうし持って帰ってもバチは当たらないだろう。
幸いにもカードとストラップ程度なら持ち帰る余裕もある。
果たしてどのような反応を示すのか、少し期待しながら制服のポケットに二つの品を突っ込んだ。
『ふふ、彼らも頑張っているようだね』
眼下で迷宮を進む四人の少年少女を見つめながら、朧気に宙に浮かぶ少女は、小さく微笑む。
けして、潜めて声を出してる訳ではないが、彼らは少女の存在に気付く素振りを見せない。
事実、彼らは、少女のチカラによって彼女の存在にも、同じ迷宮を進んでいる彼の存在も認識することは出来ない。直接、顔を合わせない限りは気付くことは無いであろう。
迷宮を進む少年少女の姿を見送ると、同じく迷宮を進む異世界の少年の位置を把握して満足そうな表情を浮かべる。
『さて、いよいよ邂逅の時も目前だ。……交わるはずの無い因果の交錯は、果たしてどんな結果を生み出すのかな?』
そう呟くと少女の体は、虚空へと溶けるように消えていった。