すぅっと息を吸い込む。クリアになった頭でしっかりと上空の標的を見据える。
敵は一体。詠唱時間の長さから展開中のアーツは恐らく即死レベルの上級アーツ。
現在使用可能な手段での駆動解除は不可能。同時にアーツ発動前に撃破できる可能性も限りなく低い。
──全く、何のムリゲーだよ。
内心で呟く言葉とは裏腹に口角が吊り上がるのを抑えきれない。別に戦闘狂というわけではないが、この状況にゾクゾクしている自分がいることも否定することは出来ない。
機械人形の周囲に展開していた青い紋様が収束する。
そして、上空に現れた小さな火球は、周囲の力を集めるように徐々にその姿を巨大なものにし…──
夜の闇に光り輝くアンタレスのごとき赤い巨星となった。
火属性最上級アーツ《サウザントノヴァ》──攻撃範囲こそ狭いが、数あるアーツのなかでも最強クラスの威力を誇る攻撃アーツであり、仮に直撃すれば痛いでは済まないことは確実である。……少なくとも士官学校の入学試験でお目にかかるものでは無い。
今から自分が行おうとすることに対する馬鹿さ加減に内心で苦笑しながら、光剣の刃を消し、右手に握る柄を太刀を抜刀する直前のように左の腰辺りに構える。
普段だったら成功の見込みなど殆ど無いであろうし、実際にやってみようなど露程にも思わないが、完全魔法属性の刃とゼロに近い重量、そして……それを実行せざるを得ない状況。
予期せず、お膳立てを整えられた舞台で危機感と高揚感を胸に自身へと迫り来る巨星を見据えて自らを一本の刀のように研ぎ澄ませる。
「秘剣《虚空》」
地に向かって堕ちた巨星と一人の刀がぶつかり合い、赤い閃光が闇夜の運動場に拡がった。
咄嗟に目に被せた腕をゆっくりと離す。砂埃に包まれた運動場の姿はいまだに見えないが、僅かに感じる熱気が放たれたアーツの威力を物語っている。
──さすがに死んでいることは無いと思うけど……。
若干やり過ぎた感は否めなくもなく、念のために常に携帯している最上回復薬──ゼラムカプセルを取り出す。
数年前から彼らを知っている身としては、たかが機械人形相手に殺られる姿など想像できないが、先程の爆風を見てみると万が一を考えてしまう。いや、いくら実力が備わった者でも何でもないような戦場や依頼で命を落とす姿は何度も見てきたではないか。
「まったく、いくら俺でも不死身じゃあないですよ」
自分の心を見抜いたような声にハッと運動場の方に目を向ける。
徐々に晴れていく砂埃のなかで、すっかり熱で変形した銀色の筒を握りながら殆ど無傷の少年が立っていた。
ガシャリと空中からなにかが落ちてくるような音がした。
「それで、説明をお願いしたいんだけど。」
「いやぁ、説明って言われても……どの説明ですか?」
キョトンとした様子に額の青筋がまた一本増える。
「全部よ!武器から最後にやったふざけた芸当まで一切合財説明しなさい!!」
「え~と……じゃあ、企業秘密って……ハイ、わかりました、説明します」
特にストレスしか感じない冗談をひと睨みすることで遮り、説明を促す。
「そんじゃあ、まず武器ですけど。銃は以前にそっちも見たことがあるから良いでしょう、さて、この剣ですが」
すっかり先端部分がグニャリと曲がった筒を見せてくる。以前に試料で見た、エプスタイン財団の試作型魔導杖に搭載されている機能を彷彿とさせる能力であったが、威力、展開時間ともに試料のスペックとは段違いであった。
「確か、《特務支援科》には財団から出向している娘がいたわね。……大方、彼女の協力を得て作ったってとこかしら?」
「残念、その娘こそがロマンを意味不明呼ばわりした張本人です。その娘の保護者というか……逆に保護されているというか、まぁ、そんな感じの人がロマンを理解してくれたので、その人と職人さんと俺で作りました」
まぁ、壊れちゃいましたが、と苦笑しながらクルリと筒を弄ぶ。
「……なるほど、大方、アーツを受けても平気だったのはソレで相殺したからね」
魔導杖の能力、直前に見た抜刀術の構え、それらの要素から導きだした答えに一瞬、目を丸くした後、「ご名答」と小さく肩を竦めた。
「それにしても、普通はアーツを剣で相殺するなんて答えは出てこないと思うのですが……いや、少し驚きましたよ」
「その普通じゃないことをやったアンタが驚いてどうするのよ。……まぁ、何年もアンタ達のような規格外を見てたら認識も変わるわよ」
「まぁ、俺ですらあなたが二十かそこらの頃からの付き合いですからね。いやー、あの《紫電》様も四捨五入すれば……痛っ!!」
余計なことをつらつらと並べる口を閉じさせるべく物理的な制裁を加えると、ゴホンと咳払いをして試験官としての任へ戻る。
「それでは、結果を発表します。制限時間内に目標条件の撃破、及び、戦術課題の達成……以上の観点からソウ・エンペストの合格を認めます。………まぁ、一応、祝ってあげるわ」
薬にも毒にもなるであろう、目の前の規格外が少年少女達とどのような化学反応を起こすのか、1%の期待と99%の不安を胸にフゥッと天を仰ぐ。
「大丈夫ですよ、折角の学校生活なんですから俺もちゃんと真面目に学びますよ。……というわけで、よろしくお願いします、サラ教官」
「ったく、本当に頼むわよ」
にへらと笑う少年に改めて不安を感じながら、試験前にようやく届いた、モノを少年に放り投げる。
突然、放り投げられたモノに若干の驚きを見せながらもバサリと舞う衣服のようなモノを容易にキャッチしたのを見ながら一言、元遊撃士や腐れ縁でもなく担任の教官として告げる。
「ようこそ、トールズ士官学院《特科クラスⅦ組》へ……ビシバシしごいてあげるから覚悟してなさい」
少年の手にある、深紅の学生服が月明かりに燃えるように照らされた
ありがとうございました。これにて序章は終了です。第一章はバリアハート編の予定です。