翼の軌跡   作:南野智

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第二章突入です。よろしくお願いします


麗しき翡翠の都
探索と現状


 どこの学校にも縁の怪談というものは存在する。

 動く肖像画、地獄へ続く階段、夜響くピアノの音…等々、それについて書かれた本を一冊見るだけでも驚くほどの数が載っているように古今東西その類いの話は尽きることはない。

 

 そして、それは、大帝ゆかりの名門校である《トールズ士官学院》も例外ではない。

 

 

 

 地下道独特のひんやりとした空気を感じながら時代を感じさせる石造りの通路を歩み続ける。

 自分と案内者の女性の実力故か、魔獣の気配は感じるものの襲い掛かられることはない。

 

「それにしても随分と古そうな場所ですね」

 

「学院長が言うには、この旧校舎だけは学院設立以前の建造物──暗黒時代のものだそうよ」

 

「……なるほど、道理で『如何にも』という雰囲気なわけですか」

 

 俺はわが担任の言葉に苦笑するとピタリと足を止める。

 

「……回復装置に転移装置…ということは奥の部屋が」

 

「ええ、終点ね」

 

 目線を合わせて意思を確認すると互いに道中一度も抜くことの無かった得物を構える。禍々しさを感じるほどの深紅の導力銃とブレードを両手に握る彼女の姿が紛れもなく、かつて剣を交えた《紫電》(エクレール)本人であると本能に訴える。

 

 ──まったく、奇妙な縁だな

 

「……じゃあ、行くわよ、遅れずについてきなさい」

 

「合点承知です」

 

 けして慌てることなく、しかし、最大限にアンテナを張りながらサラに引き続いて部屋に足を踏み入れた。

 

 

 

 最奥の部屋は石造りの広間だった。

 

 入り口のホールよりも一回りほど広い部屋には魔獣や宝箱等の物体の影も形も無く、壁面で不気味に照明代わりの炎が揺らめくのみであり、先月に報告された魔獣らしき気配は微塵も感じられなかった。

 

「どうやら何もいないみたい……ですね」

 

「……ええ、前回の時期を考えたら、そろそろ何かあると思ったんだけど……ハズレだったみたいね」

 

 サラは、小さく肩を竦めると両手の得物をそれぞれ仕舞った。

 俺もそれに倣うように片手に握る、蒼い長剣を背中の鞘に仕舞う。

 

「……姿を変える旧校舎…ですか。幻覚でもなければ、それらしいギミックってわけでもないんでしたよね?」

 

「前回に私一人で調査に来たときに辺り隈無く探したわ。……というよりオカルトめいた現象ならあんたの方が専門でしょ?」

 

「まぁ、否定が出来ない所が悲しいですけど……教会と違って目的が限られている分、俺達は必要以上に介入しませんよ」

 

 まぁ、必要とあれば徹底的にしますが―との言葉は自分の口のなかに留めておく。態々、自分で下手に蒸し返す必要もないだろう。

 

「けど、まぁ、急に今までに無かった事態が発生したということは……何か『然るべき理由』があるということだと思いますけど」

 

「『然るべき理由』…ねぇ」

 

 考えても答えは出ることはなく、一応室内の確認をした後に引き揚げることになった。

 

 

 

 扉を開けると共に新鮮な空気とオレンジ色の閃光が感覚を刺激する。

 

「もうすっかり、夕方ね……まっ、今回は無駄足だったけど礼を言うわ」

 

「……何というか、以前と比べて本当に成長しましたね」

 

 以前の基本的には棘の混じった態度の名残は見えるものの、この三週間近くの間の学校生活で俺が見たのは、あのサラ・バレンタイン(・・・・・・・・・・・・・・・・)がちゃんと教官をやっている姿であった。俺に対しても私怨を丸出しにするようなことはなく、ちゃんとした大人―あくまで以前に比べてであるが、となった姿を見てみると改めて驚かれずにはいられない。

 

「失礼ね、流石にベアトリクス教官とかに比べたらまだまだヒヨッ子だけれども一応それなりに教官としての自覚ってのはあるわよ」

 

 俺の言葉に心外そうに、眉をひそめながる教官に小さく苦笑する。

 

「すみません、じゃあ、サラ教官にひとつお願いがあるので……」

 

「イヤよ」

 

「……教官としての自覚が云々と言ってからコレは問題ありでしょうが」

 

 にべもない対応に口を尖らす俺を余所に心底めんどそうな溜め息をつく。

 

「はぁ、あんたのお願いとやらは、マキアスとユーシスについてでしょ?」

 

「御名答です……というより帝都知事の息子とアルバレアの次男を一緒のクラスにさせるって犬と猿を同じゲージで飼うようなもんですよ」

 

 入学試験を乗り越えて夢と希望をもって臨んだ学園生活のスタートは、見事に裏切られた。

 事あるごとに対立する二人が醸し出す不穏な空気のせいでクラスの雰囲気は最悪であり、ある程度予想はしていたが、学院全体を見ても無駄に鼻につく態度の貴族生徒や無駄に突っかかる平民生徒も少なくはなく、これからの学園生活に気が重くなった。

 ちなみに転入初日の放課後に学院の案内を買って出てくれた親しくなったクラスメイトから彼らの素性を聞かせてもらったが、対立の理由に納得すると同時に彼らを同じクラスにした学園の選択の正気を疑ったものだ。

 

「まぁ、あんたの気持ちもわからないことはないけど、私が介入すべき場所とそうでない場所があるのよ。あんたも気付いているでしょ、この学院の問題を」

 

 サラ教官の問いかけに渋々ながら頷く。……正直な話、大陸を色々回ってもこれ程までに面倒な国は珍しいだろう。

 

「貴族と平民の対立構造、国全体の問題が学院にまで及んでいるって話ですか」

 

「ええ、特に近年は鉄血宰相の貴族勢力への介入を強化してきたこともあって両勢力は一触即発って状態だからなおさらね」

 

 なるほど、だからこそ根っからの貴族生徒はより高圧的に革新に燃える平民生徒はマキアスのような感じになるというわけか。

 

 まったく、やはり面倒な国だ。

 

「それで、貴族派でも革新派でもない第三勢力の雛型として作られたのがⅦ組ってわけですか。……でも大丈夫ですか、同じ環境に入れたくらいで身に付いた価値観が早々変わるもんじゃないでしょ?」

 

「まぁ、そうね。だからこそⅦ組では特別カリキュラムが設定されているのよ。実際に帝国の現実を自分の目で見て確かめる為の…ね」

 

 特別カリキュラム―確か、例のクラスメイトが先月末に遊撃士(ブレイサー)の仕事のような実習をケルディックで行ったと言っていたヤツか。

 

「百聞は一見にってやつですか」

 

「正解、それに他にも色々と手は打ってあるしね。取り合えず、来週の水曜日に実力テストがあるから先ずそれを楽しみにしてなさい。折角、ここに来たんだからあんたにもたっぷりと働いてもらうわよ」

 

 茶目っ気たっぷりのウインクとは裏腹に背筋に嫌な予感が走った。

 

 

 

 

 

 

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