翼の軌跡   作:南野智

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こんにちは。旧校舎探索まで進めるつもりが、少し前に食べた居酒屋寿司屋レストランのだし巻き玉子に衝撃を受けて、こんな内容になってしまいました(笑)

まぁ、絆イベントと言うことで……


抱えるナニカと懐かしの味

 5月23日―早朝の肌寒さも消え失せ、夏への第一歩を感じさせるような時季になった。

 

 普段の勉強や生徒会の手伝い等、学園生活にもかなり慣れてきた今日この頃。俺の生活に新たな変化が訪れた。

 

 

 

「遅い」

 

 無遠慮に放たれた言葉と共に再び体が宙に投げ出される。

 

「…ッグァ!…カハッ」

 

 潰れたような声を上げながら受け身を取る間もなく今日で既に何度目かとなる地面の衝撃を全身で受け止める。

 

「初手の踏み込みが甘い。それに、さっきも言ったけどパターンが単純すぎる。…得て不得手は仕方がないけど八つの型を一通り修めたなら自分なりにどう生かすかを考えないと」

 

 疲労と痛みで荒い呼吸を繰り返す俺とは反対に至って涼しげな声が降りかかる。

 特徴的な蒼く輝くの刀身を肩に乗せながら俺の戦闘を正確に分析する姿は、満身創痍の俺に対して、汗ひとつかいていない。

 

「どうする、今日はやめるか?」

 

「…………あと一本頼む」

 

 疲れた体を奮い立たせて立ち上がり太刀を構える。

 剣の道を歩む端くれとしてのプライドと信念を胸に大きく息を吸い込み精神を集中させる。

 

 ──よしっ!

 

「行くぞ…ソウ!」

 

 せめて一太刀……いや、浴びせられなくとも余裕を崩すべく、閃く刃とともに前方へと踏み込んだ。

 

 

 

「よし、じゃあ今日はここまでにしようか」

 

 俺の掛け声とともに刀を杖にしながら辛うじて膝で立っていた体が崩れ落ちる。息をあげながら仰向けに寝転ぶ剣士に向かいの川で冷やしていたタオルと水筒を放り投げる。

 

「フレッドさん特性のレモネードだ。ビタミン、塩分、水分ちゃんと摂取出来るように丹精込めて作ってくれたんだからな、ちゃんと礼を言っておけよ」

 

「……ああ…」

 

 朝っぱらからグロッキー状態の姿に一抹の不安を感じつつも改めて目の前の剣士こと―《八葉一刀流》リィン・シュバルツァーの持つ可能性に舌を巻く。

 

 《初伝》を授けられたものの、見切りをつけられて修行を打ち切られたという話であったが、実際に剣の交えてみても腕前や才能も悪いとは思えない。恐らく、ナニカに怯えて逃げ続けているような剣―メンタル的な面で修行を打ち切られたのであろう。

 

 ──まぁ、それはさておき、一体全体ナニを抱えているんだか

 

 激しく燃え盛る焔のように絶大でもあるが自らすらも喰らうチカラ、血を求める獣のように全てを引き裂かんとするチカラ……イメージとして(・・・・・・・・・・・)流れ込んできた情報だけでも内に抱えているモノ―進歩にも停滞にも滅びにもなり得るソレには戦慄せざるを得なかった。

 

 だからこそか寮に入った翌朝に早朝にひとり稽古を行っていた彼に声を掛けた。

 

『一体、何を怖がってんの?』

 

 そして、そのまま一緒に稽古をすることから始まり、現在に至る。

 

 

 

「おーい、生きてるか」

 

「……ハハハ、何とかな」

 

 少しは楽になったようだが、疲労の色を濃く残している様子に小さく溜め息をつく。

 

「まったく、熱心なのは結構だけど一日の始まりからそんな調子でどうすんだよ。……生徒会の手伝いもあるんだろ?」

 

「寮に帰って九時頃まで休めば問題ないさ。……それよりも毎回付き合ってもらってすまないな」

 

「なに何言ってんだよ、元々混ぜてもらったのは俺の方だろ。……実力が云々と気にしているなら反省を生かして伸びろや」

 

 申し訳なさそうなリィンに自分の柄じゃないと思いつつもソレっぽい言葉をかける。……短い付き合いのなかでも結構なネガティブ思考であることが所々に伺えたので下手に遠慮するよりもこちらの方が良いだろう。

 

「……なぁ、ソウはクロスベルから来たんだよな…」

 

 何か尋ねたげな様子を見てニヤリと口の端を上げる。先程の模擬戦でも赤子の手を捻るように弾かれた自分の剣を見れば気になっても仕方がないだろう。

 

「ああ、向こうでやっていた仕事の都合上何度かお目にかかったことがあるぜ。――《風の剣聖》アリオス・マクレイン、そして彼の十八番《疾風》もな」

 

「…まさか、手合わせしたのか!?」

 

 俺の言葉に大きく目を見開くと熱の籠った口調で問いかけてくる。日常生活では、あまり見せない年相応らしい様子を微笑ましく思いながら軽く頭を振る。

 

「違う、違う、ちょっとした事情で二回ほど共闘することになっただけさ」

 

 まぁ、そのうちの一回はクロスベルじゃないが。

 

 俺の言葉に羨望の表情を浮かべる彼にとっては、まぁ、どちらでも良いのだろう。

 

「あの《風の剣聖》と肩を並べて戦うか……本当に、何の仕事をやっていたんだ?」

 

「ナイショ、前にも言ったが遊撃士じゃないぞ……って言っても俺の仕事なんか当てても面白くないだろうに」

 

 再び考え込むリィンの様子に肩を軽く竦めて小さく笑った。

 

 

 

 その後、商人や料理人、挙げ句の果てには医者という答えすら出てきたが、結局リィンが正解に辿り着くことはないまま第三学生寮に帰って来た。

 

「なぁ、何かヒントはないのか?」

 

「ダメだ、ダメだ。そんじゃあ、二度寝するにしてもシャワーは浴びておけよ」

 

「ああ、それじゃあ、九時に」

 

 バタンと肩が閉まり、フゥーと息を吐き出す。

 まったく、一体全体何を好んで野郎の前職なんて知りたがるのだろうか。…と言ってもアリオス・マクレインの話を出して興味に拍車を掛けてしまったのは俺自身か。

 

 そんなことを考えつつ《ARCUS》を取り出して時間を確認する。午前6時40分―そろそろ寝ているやつらも起き始めて《キルシュ》なり《学食》に朝食を食べに行く頃合いだろう。

 

「……まぁ、シャワーでも浴びてから考えるか」

 

 久し振りに料理をするのも良いかも知れないなどと考えながら先程リィンが入った部屋の向かいの部屋―206号室の扉を開けた。

 

 

 

「……ふぁ、少し寝過ぎたかな……ん?」

 

 午前8時半―浅い眠りから目覚めて身支度を整えて部屋を出るとほんのりと懐かしい香りが広がっていた。

 何であるかは思い出せないが、記憶の隅に引っ掛かるような独特の香りが気になり、足早に階段を降りる。トワ会長からの依頼を取りにポストへ行く前に右手の扉を開けて、普段は滅多に使用されることのない食堂へと足を踏み入れた。

 

 先程よりも濃厚な辺り一面に広がる旨味が凝縮されたような香りに胃が刺激される。

 グーと情けない音が広い部屋に響き、シャツの上に青色のエプロンを掛けながら鍋と向かいあっていた意外な人物―ソウが振り返り愉快そうに笑う。

 

「ハハハ、朝っぱらから景気の良いお腹だな」

 

「仕方がないだろう、朝食がまだなんだから」

 

 絶対に言われると思っていたが改めて弄られるとやはり恥ずかしく少し強めに返す。しかし、ソウは特に悪びれた様子もなく、悪い、悪い、と愉しげな態度を崩すことなく何やら別の作業に取り掛かった。

 

「何作ってるんだ?」

 

「まぁまぁ、後、5分ぐらい座って待っていろ。特別メニューをご馳走してやるよ」

 

 グーと響く腹の音を返事代わりに興味と羞恥を胸にいそいそと席へと座った。

 

 

 

 目の前に並べられた東方風味の品々に思わず唾を飲み込む。

 修行時代を象徴するこの味を機会があれば再び口にしたいと思っていたが、まさか士官学院でその機会に恵まれるとは思っていなかった。

 

「味噌汁に御飯にだし巻き玉子、そして、ロックの塩焼きか…ハハ、久し振りに見たけどかなり美味しそうだ」

 

「やっぱり、一度食べたことがあったか。それじゃあ、是非とも感想を聞かせてもらおうか」

 

 挑戦的な笑みを浮かべるソウに答えるように俺も軽く笑みを返す。

 

「言っておくが俺は料理にはうるさいぞ」

 

「はは、じゃあその舌を唸らせてやるよ」

 

 両手を合わせて、かつて老師に教えてもらった食前の礼をすると東方の食事道具―箸をを使ってだし巻き玉子を割る。まるで抵抗なく割られた卵をたっぷりと乗っている雪のような大根おろしと一緒に口に入れる。

 

 卵を口のなかで噛むと同時にジュワッと旨味が効いた出汁が口のなか一杯に広がる。卵の甘味と触感とともに絶妙な旨味を口のなか全体に演出する。上にたっぷりとかかっていた大根おろしの辛味と僅かな苦味もだし巻き自体のしつこさと重さを消して良いアクセントになっている。

 

 続いて味噌汁を一口啜り驚愕する。ユン老師が作ってくれた味噌汁も確かに美味しかったが、これはさらに野菜の旨味が出ている。

 

 想像以上の味にひとつ、またひとつと器が空になり、あっという間に空の食器だけになった。

 

「……驚いた。…美味しそうとは思っていたけど、母さんの料理にも負けていないぞ」

 

「へへっ、お粗末様。まぁ、色々な所へ出掛けて気になった料理があるたびにレシピを学んで作っていったからな、自慢じゃないけど中々のもんと思うぜ」

 

「へぇ、それも仕事の関係か?」

 

「いんや、これは仕事に就く前からだな」

 

 ──なんと言うか、本当にスゴいの一言だな

 

 食後に出された緑茶を啜りながらますます、このクラスメイトの多芸さに驚嘆した。

 

 

 

 時計の針も九時を回り、そろそろ生徒会からの手伝いに取りかかるべくポストからいつもの手紙を取り出す。

 内容を一通り確認しているとエプロン姿のままソウがひょいと顔を覗かせる。

 

「おっ、今日の手伝いは何をするんだ?」

 

「あぁ、《家庭教師の代理》に《教官用図書の配達》、そして《旧校舎の調査》だな」

 

 旧校舎の調査は先月以来だがその間、特に異変らしい異変が起きたという話は耳にしない。

 このまま何も起こらないに越したことはないが、先月の変化(・・・・・・)を見ているだけに何かが起こりそうな不安も拭いきれない。

 

 ──まぁ、取り合えず最後に調べてみればハッキリするか

 

 軽く息をついて動き出そうとしたとき。

 

「なぁ、リィン」

 

 突然、ソウに横から呼び止められる。

 

「どうしたんだソウ?」

 

 そのとき、ほんの一瞬だけ―彼の顔に何かを考えるような表情を浮かんだが、直ぐに何事も無かったかのようにいつもの表情に戻り、口を開いた。

 

「あぁ、頭数が足りていなかったらで良いんだけどさ、俺も旧校舎に付いていっても良いか?」

 

 少しだけ彼が浮かべた表情に疑問が出たが、こちらとしても願ってもない申し入れに快諾した。

 

 そして、何時ものようにトリスタを走り回るうちに疑問も無かったかのように消えていった。

 

 

 

 

 

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