「っと、お前の賞金を忘れていたな。私室に行く前に取りに行くぞ。こっちだ」
そう言い、行き先を変える馬騰。
「えっ?あぁ、そういえばありましたね。そんなもの」
「ん?なんだお前?忘れていたのか?」
「それはまぁ…。さっきの模擬戦に比べれば、賞金なんて忘れますよ」
「ははっ、確かに。かなり集中していたからな」
「それはもう。あの馬騰殿と戦うとなれば、他のことなんて忘れて、集中しないとまともに戦えませんよ」
「それはそれは。そこまで評価されると嬉しいものだ。」
仲良く会話をしながら歩く二人。
それをすれ違い様に見た文官や侍女は、驚きで目を開く。
彼らにとって、馬騰は正に手が届かない存在。
そんな人が見たこともない人と仲良く話しているのを見れば、驚きもするだろう。
そうして歩いていると、馬騰が一つの扉の前で止まる。
「おっと、多分ここだ。お前も入ってこい」
扉を開け、部屋にはいる二人。
中には三人の兵士がいた。
「「「馬騰様!?」」」
「あぁ、そんなに硬くなるな。ここで賞金首の照合をしていると思うんだが、ここか?」
「はい、合っています。すみません、数が多いので時間がかかってしまい、そちらへ持っていけませんでした」
「ん?数が多い?今日はそんなに賞金首を持ってくる奴が多いのか?」
「いえ、違います。今回、一人だけで五人の賞金首を持ってきた者がいるらしく…」
「一人で五人!?それは本当か!?」
「え、えぇ。門番が確認しましたので…。ん?そちらの方は…?」
「ん?あぁ、こいつは…」
「いいですよ、馬騰殿。自己紹介ぐらいは自分でします。初めまして、その五人の首を持ち込んだ進道 徹と申します」
「「「「なっ!?」」」」
拳を反対の手で包み軽く頭を下げる徹に、その場にいる全員が驚きの声をあげる。
「おい進道、それは何人でやった?」
「は?いえ、自分一人でやりました」
「「「「はぁ!?」」」」
「えっ!?おかしいですか?」
「「「「「おかしい」」」」キッパリ
「…即答ですか…」
正直に答えた徹を呆れた目で見る四人。
「はぁ、頭が痛い…。それについても後で話す。それで、賞金首は本物か?」
「…あっ、はい!本物だと確認しました。こちらが賞金です」ドサッ
「うむ、ご苦労。それじゃ、進道行くぞ」
「はい。失礼しました」
賞金を受け取った馬騰は部屋を出て、徹も後に続く。
~馬騰の私室~
ガチャ
「ここが私の部屋だ。まぁ、適当に座れ」
「はぁ…」
馬騰に先導されて着いた部屋は、太守のものとは思えないほど質素だった。
寝台に政務をするための机、それとは別に丸い机があり、そこに二つの椅子があった。
徹はその内の一つに座る。
その間に馬騰は侍女を呼び、お茶を持ってこさせるように言っていた。
「さて、これが賞金首の賞金だ。受けとれ」
「ありがとうございます。それと、先程おかしいと言われましたが、何がおかしいのでしょう?」
「…お前、本気で言っているのか?」
「?、はい」
「…はぁ。なら言ってやる。普通、賞金首になるやつは集団を持っている。それに対抗するには、集団しかない。だから、普通なら複数で討伐する。それをお前は一人で五人もやったんだ。いったいどうやった?」
「あぁ、そういうことですか。夜に忍び込んで一人一人減らしていって、最後は真正面からやりました」
「まぁ、わたしとあれだけ打ち合えるんだ。出来ないことは無いか。それと一人でやったなら、お前は旅も一人でしてるのか?」
「えぇ、そのお陰で盗賊にかなりの回数襲われましたが…」
「だろうな。ということは馬は持ってないな?」
「えぇ、それがなにか?」
「いや、確認しただけだ…。(ボソッ)なら褒美は決まったな」
「ん?なにか言いましたか?」
「いや、なんでもない。さて、本題に入ろう」
賞金首のことはあらかた聞き終えた馬騰は、徹に向けてそう言い放った。
「私が聞きたいことは一つだ。お前なぜそんな眼をしている?」ピリッ
「っ!?」
その言葉と共に馬騰の雰囲気が変わった。
張りつめた空気…、真剣な馬騰の眼…。
先程戦った時と同じ雰囲気だ。
(これは…、嘘は聞いてくれないな)
「そんな眼と言われても、自分には何がなんだか…」
そんな馬騰を見て、嘘は通用しないと判断する。
しかし、一応誤魔化そうと試みるが…
「戯れ言はいらん」
それすら一言で切り捨てる。
「その眼は死地に向かうものの眼、死ぬとわかってる者だけがする眼だ。答えろ。なぜ旅人の、しかも若いお前がその眼をしている?」
「…」
黙る徹。
見つめる馬騰。
そして…
「流石は…、馬騰殿ですね」
徹が折れた。
「ふん。こんなもの長年生きていれば分かる」
「馬騰殿の容姿で長年生きたと言われても違和感しかありませんがね」
「おお?なんだ、私は若く見えるか?」
「ええ。正直一児の母には見えません」
「ふふ、そうか。それはいいことを聞いた。さて、この話はここまでだ。眼のことについて話せ」
(チッ!話は逸らせないか)
「…わかりました」
話を逸らす事が出来なかった徹は、所々嘘を混ぜて話した。
自分が涼州南部の村に拾われたこと。
2年間そこで生活していたが、この前盗賊に滅ぼされたこと。
そこで自分だけが生き残り、なにをすればいいかわからないから旅をしていること。
「…ということです。おそらく、俺がそんな眼をしているのは、世話になった人がみんな死んだから、自分も死にたいと心のどこかで思っているんでしょうね…」
「…ふむ」
(嘘は言ってないように思えるが、違和感があるな)
話を聞いた馬騰は判断に困った。
嘘は言ってないように見えたが、なにか引っ掛かるのだ。
「…それでお前はこの先どうするのだ?」
「…わかりません。とりあえず州を回って、自分にやれることを探したいと考えていますが…」
(計画のためにやれることを…な)
心の中でそう考える。
そんな徹を馬騰は見つめ
「…わかった。この話は終わりだ」
それ以上聞くことはしなかった。
「さて、最後に褒美についてだ」
「…ん?賞金はもらいましたが?」
「違う。私と模擬戦をした褒美だ」
「は?いえ、褒美が欲しくてやったわけではないので…」
「何を言う。それでは模擬戦でのお前の利点が無いではないか。最初から褒美を与えるつもりだった。それに、こちらは娘への刺激にと思ったが、私とあそこまで打ち合えるとは思わなかった。しかも、負けそうになったのだぞ?これはかなりの褒美をやらなくてはな♪」
「はぁ…?」
かなり上機嫌で話す馬騰に戸惑う徹。
馬騰は強い、強いがために張り合える相手がいなかった。
根っからの武人の彼女はそんな日々を不満に思っていた。
そこに現れた旅人の男。
初めに見たときは目に驚いたが、そこそこ強い男と思った。
なので、娘への刺激にと思って模擬戦に誘った。
そこそこ強いとは言え、自分には届かない。
そう思っていた。
しかし始めると、それは慢心だと気付かされた。
一瞬で距離を縮めての抜剣攻撃。
正直、あれを防げたのは運に近く、あそこで負けても何ら不思議ではなかった。
あれほどのギリギリの戦いは久しく、日々の不満もどこかに消えた。
そのため、馬騰は上機嫌だった。
「さて、実は褒美は決めている。外に行くぞ」
「はっ?外…ですか?」
「あぁ。外だ」
椅子から立ち上がり、また移動を始める二人。
~馬小屋~
「褒美は馬…ですか?」
「うむ。進道は馬がないんだろ?それでは旅が辛くなる。それに涼州といえば、名馬の産地。これほど、良い褒美はないだろ?」
徹が連れてこられたのは、馬小屋。
そう、馬騰の言う褒美とは馬だった。
確かに馬があれば移動は楽になり、荷物も持たせられる。
そして、涼州は名馬で有名なため、馬の質は国随一と言ってもよい。
しかし、徹は渋っていた。
「うーん…」
「ん?なんだ?不満か?」
「不満といえば不満ですね。自分は模擬戦をしただけです。それだけで高価な馬をもらって良いとは思えません」
徹の不満はそこだった。
模擬戦をしただけで、この時代ではかなり高価な部類の馬一頭。
しかも、涼州の馬なので現代で言うサラブレッドに近い。
これを買うとなると、徹の所持金は一瞬で消えるほどだ。
それをタダ。
「お前は実直だな。だが、これを受け取ってもらえないとなると私も困る。お前は私の我が儘に付き合い、私を追い詰めると言う予想以上の結果を出した。これでなにも渡さず、さよならとなれば私の面子に関わる。だから、気にせず受け取れ」
「ぐっ…、そういわれても抵抗が…」
日本人気質なのか、抵抗感がすごい徹。
それを見て馬騰は…
「はぁ、黙って受け取れ。じゃないと、殴る」
強引な手できた。
(いや、あの拳はもう受けたくない!)
「わ、わかりました!だから、その握った拳を下げてください!」
「そうだ、それでいい」
(この人、強引すぎる…!)
それを聞いて焦った徹は慌てて受けとる意思を示す。
それに満足した馬騰は拳を下げ、腕を組む。
「さて、肝心の馬だがどれがいい?好きなのを選べ。ここにいるのは全部名馬といっても差し支えのないものばかりだぞ」
「はぁ…」
(といっても、馬の良し悪しなんか分からんし…ん?)
好きに選べと言われてもどれも同じに見える。
そんな中、気になる一頭の馬がいた。
素人が見ても一目で名馬と分かる、黒い馬がかなり離れた場所に繋がれていた。
「あの、馬騰殿?あの馬はなぜ、あんな離れた場所に?」
「ん?あぁ、あいつか。あいつはかなり暴れ馬でな。他の馬を攻撃するんだよ。しかも、気に入らない奴は乗せたがらないんだ。私も乗るのが無理だったから、扱いに困って、あそこに繋いでる。ちなみに、雌馬だ」
「なるほど…」
困った顔で話す馬騰の話を聞きながら、黒い馬が気になる徹。
そして、馬騰の話が終わると徹は、天照を床に置き黒い馬に近づいていった。
「お、おい進道!そいつは無理だ。やめておけ!」
「だと思います。けど、あいつと少し話してみたいんです」
「話す…?」
「あいつの家族はいませんよね?」
「あ、あぁ?確かいなかったはずだ…?」
「でしょうね」
止める馬騰にそんな言葉を返す。
そして、黒い馬の前に立った。
「…」
「ブルルル…」
無言で見つめあう一人と一頭。
そんな徹にイラついのか、馬が口を開け…
ガブッ!
肩に噛みついてきた。
「…っ!?!?」
「進道!だいじょ!?」
駆け寄ろうとする馬騰を手で制す。
「…お前一匹でよく頑張った。けど、もういいんだ。ここの人たちは敵じゃない。」
噛みつかれたまま、話しかける。
しかし、馬は離さない。
「…」ナデナデ
徹は噛みついている馬を撫でた。
撫でられた馬は顎の力を緩め…
「ブルルル…」スリスリ
顔を徹に擦り付ける。
それを見た馬騰は急いで駆け付け、徹の肩を見る。
「おい、進道!肩は大丈夫か!?」
「えぇ、気を集中させて強化していたので大怪我にはなってないです」
「そうか、ならいいんだが…。にしても何をしたんだ?こいつのこんな姿見たことないぞ?」
肩は大丈夫と聞いて安心した馬騰は、徹が何をしたのかが気になった。
自分や他の人間が何をしても、噛みついてくる暴れ馬が、今も徹に頭を擦り付けているのだ。
「ただ、自分は敵では無いと証明しただけですよ。おそらく、こいつは子馬の頃に一匹だけでここに保護されたんでしょう。家族もいない中、誰も信用できない。それは体が大きくなっても変わらなかった。だから、こいつは誰にもなつく事が無かったんです」スリスリ
「なるほど…。一人で他の国に放り出されるようなものか。だが、他にも同じような境遇の馬がいるが、そいつらは人になついているぞ?」
「そんな感じです。他の馬と違うのは、こいつが賢すぎたんでしょう」スリスリスリスリ
「そういうことか。それで聞きたいんだが…?」
「はい?」ペロペロ、ブルル♪
「お前はいつになったら解放される?」
「…俺が聞きたいです…」スリスリ♪ペロペロ♪
「ブルル?」
馬騰はずっと気になっていた。
自分と進道が話してる間、ずっと頭を擦り付けたり、頬を舐めている元暴れ馬が。
「…これは決まったな…」
「…ですね…」スリスリ
「ブルル♪ブルル♪」
徹の褒美の馬が決定。
~西涼の城、正門前~
城の正門前で二人の人影と一匹の馬の姿があった。
「もう行くのか?」
「えぇ、どうやら旅をする前に武を磨く必要があると分かったので。涼州を回りながら修行するつもりです」
「そうか。今日は面白い日だった。変わったやつとも会えたし、暴れ馬がなついたしな。いつでも来い」
「変わったやつって…不本意な評価ですね?」
「賞金首を一人で五人も倒したり、変な剣を使うやつを変わったやつと言って何が悪い?」
「ぐっ…!言い返せない…!」
「はっはっは!…ではな」
「…えぇ、また会いましょう」
そうして西涼を出発する。
(馬超や馬岱の様子からして、原作まではかなり余裕がある。おそらく、最短で五年。それまでに実力を上げなくては計画の成功はない)
「まったく、修羅の道だな」
(修羅の道を修羅しか歩けないなら修羅にだってなんにだってなってやる。それが俺の進む道と言うのならば…)
「ブルル♪」
「…この馬の名前どうしよう?」
設定に徹の容姿と服装、馬騰を追加しました。