或いはこんな織斑一夏 IF Blade for Mysterious Lady (更新凍結中)   作:鱧ノ丈

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 さすがに三か月近く放置はマズイかなぁと思ったので、ここいらでまた一度続きを上げます。
今回の更新分については移転前と比べて加筆修正する箇所がほとんどなかったというのもありますね。


第十話

 日曜日、IS学園に入学してから最初の週末であるこの日、一夏は朝から学園の体育施設の一つである武道館に赴いていた。IS学園はその性質上、女子校としては武道系の部活が盛んな方に分類される。

空手や柔道、剣道や弓道と言った全国の高校でおおよそ見受けられるメジャーなものも当然ながら存在し、他にも合気道や薙刀、杖道。国外発祥のものに目を向ければボクシングやレスリング、中国拳法などもある。

 勿論それら全てがインターハイなどの大規模な大会を目指して顧問の指導の下、日夜練習に励んでいるというわけではなく、中には人数がさほど多くないために部活というよりも同好会に近い体裁を取り、同好の志で集まって各々の自己修練を目的として活動をする部もある。

 

 そしてそうした部活の大半は学園島の一角に作られた大きな武道館を主な活動場所としていた。

理由は至極単純であり、練習のための施設、つまりは剣道場や柔道場、弓道場やボクシングやレスリングのリングなどがこの施設に集中しているからに他ならない。

 この武道館施設の一角、先だって箒との試合を行った剣道場に一夏の姿はあった。師との修行でもよく着用していた自前の胴着に身を包み、その手にはやはり自前の木刀が握られている。

 

 一口に木刀と言ってもその種類は様々である。京都や鎌倉などの著名な観光地の土産物屋で売っているもの、剣道の形で使用されるもの、天然理心流などの古流剣術が各々の流派専門に稽古用として使用するものなど、同じ木刀というカテゴリーにありながら異なるものは多い。

 そんな中で一夏が使用するのは、強いて言えば剣道の型で使用されるものに分類されるタイプだ。形状は日本刀そのもの。そして特注ゆえに内部により本物の刀に重さや重心などを近付けるための鉄芯を仕込んだ代物である。

一夏が弟子入りする数年前に師が気紛れで作ったという物。弟子入りしたての一夏は安全などを考慮して、最初の内は専らこの木刀で練習をしたものだ。今でこそ素振りには本物を、師との手合わせには耐久性に重きを置いた特殊合金製の模擬刀を使用しているが、この木刀への愛着が色褪せることはない。

 それに、今立っている道場のような人目に晒されやすい場所、あまり真剣を振り回すことが出来ないようなあ場所で剣の一人稽古をするにはおあつらえ向きでもある。もっとも、今この道場に居るのは一夏一人だけなのだが。

 

「……」

 

 正眼に構えた木刀を静かに上段の構えに移行させる。

決して勢いや鋭さがあるとは言えない、誰の目でも軌跡をはっきりと捉えられるような動きだが、単に遅々とした動作というわけでもない。

例えるなら山を流れる清流のように、ごく自然そのものな静かさ。作った動きではない、幾年にも及ぶ鍛練の繰り返しで自然と体に染み付いた、意識の束縛から半ば解離したかのような動きだ。

 

 一流の料理人が材料を最大限に活かすための包丁裁きのように滑らかな挙作で降り下ろされる木刀。下段への到達と同時に刃を返して斬り上げ、さらに今度は袈裟に振る。

数度振るっただけで一夏の意識は剣に没頭する。深く深く、心技体を合わせることをごく当然として、そこへ更に己と刀を一体化させるという、より深い境地を目指して深く深く。

手の内に触れる木刀の柄に巻かれた滑り止めのための布の触感が消えるまで、手が木刀を握るという感覚、木刀と手の内が一体化するという感覚、そのさらに先、握る得物が己の体の器官の一部となるように、食べ物を咀嚼する時の口と歯と舌が当たり前のように織り成す完璧な連携を、得物と体ができるように。より深くを目指す。

 

 例えば、テレビゲームや友人とのサッカー、そんな遊びに夢中になる子供が長い時間すらあっという間と感じるかのように、無心で木刀を振り続ける内に時間の間隔を忘れる。

師との稽古の最中、常に全身全霊乾坤一擲、持った得物を振るい打ち合わすその都度その都度を生涯最大の瞬間と見定め武技を奮う時は、極限の集中により思考が加速し、時たま一秒が幾秒にも感じられる世界へと意識が誘われることがある。

だが今はその真逆。強烈なまでの意識の自覚ゆえに齎される思考の加速と、た使用的に無意識という無心を突きつめた結果の思考の遅延。同じ集中という過程を踏みながらも対照的な位置にある二つの結果。今、一夏が感じているのは後者だった。

 

 木刀が滑らかに空を斬る。五感で受け取った周囲の状況、動かす手足、胴の力の入り方。自身の肉体とそれを取り巻く周囲の情報が神経を通じて一夏の脳へと集約されていく。

人の脳という器官の妙が為せる技か、一夏がそうと意識せずとも思考が無意識の下で感受した情報を統括していく。そして纏められた情報から弾きだされる最適な次の動作が、電気信号による指令となって全身の神経を駆け巡り、その四肢を動かす。

既にその動きは半ば反射によって為されているも同然であり、既に一夏の思考は剣を振る以外の考えを排していた。

 

 その集中が不意に外部からの要因によって強引に断ち切られた。

 

『一年一組織斑一夏、至急職員室まで来るように』

 

 校内アナウンスの電子音と共に道場に姉の声が響く。呼ばれた当の一夏はと言えば、丁度木刀を腰に添えた後に振り抜いた姿勢でその場に留まっている。その眼は半眼になっており、徹底した集中状態にあった先ほどまでとは異なり、明確な感情や意識の発露が浮かんでいた。

数度こめかみをひくつかせると一夏は直立の姿勢に戻り左手に木刀の柄を持ちかえる。

 

「ったく、一体何だってんだよ」

 

 呟く声にはあからさまな苛立ちがある。つい先ほどまで良い感じに集中ができていたというのに、見事なまでにそれを台無しにされた。

いくら姉の言葉とは言え、さすがに看過できるかと問われれば素直には頷けない。無論、放送で呼び出すということは姉は職員室にいるのであり、先ほどまでの一夏の状況など知る由も無い。仮に知っていたらもう少し考慮をするはずだ。

ゆえに一概に姉を責めるわけにもいかないのだが、やはり気に入らないものは気に入らない。

 

「……とりあえず行くか」

 

 姉とは言え学園(ここ)では教師であり、一夏はその生徒だ。呼び出しに応じないわけにはいかない。

道場を使うために朝一で仮に行ったこの場の鍵を返すのにも丁度良い。手早く思考を切り替えて職員室へ向かうこととする。

 

「っと、その前に……」

 

 だが、歩き出す前に一夏は再び木刀の柄を両手で握る。そのまま再び上段に構える。

早く向かうべきは分かっているのだが、なにしろ良い所で中断させられてしまったために、どうにも中途半端な感覚が拭えずにいた。

せめて最後に一振り、締めの一刀を行っておこうと考えたのだ。

 軽く息を吸う。呼吸と共に湧きあがる気力を丹田に降ろし、そのまま全身に廻らせる。

 

「ラストワン」

 

 これが最後と己に言い聞かせるように呟く。

どういうわけだか出てきた声がやたらと低く、やったが最後、人間を捨てることになりそうでもあるような声であったが、気にすることは無い。

そのまま一夏は鋭く一度、木刀を唐竹に振り抜き呼び出しに応じて職員室へと向かうことにした。

 

 

 

 

 道場の更衣室で制服に着替えた一夏は竹刀袋に仕舞った木刀と胴着を入れた鞄を持ったまま職員室に向かう。

手に持った荷物はできれば一度部屋に置いていきたいのだが、なるべく早く行くことを考えれば寮の自室に寄るのは少々遠回りになる。

もとよりそれほど大した荷物でもないため、そのまま持っていこうと考えたのだ。

 日曜という休日ということもあって、職員室に向かう道中で人の姿を見かけることは殆ど無かった。

学期の始まりということもあり時間的な余裕も多いため、新入生上級生問わず学外に外出をする者は多い。

特に今年に関してはまた別の要因もある。例年より遅咲きとなった桜がちょうど全国で満開を迎えたのだ。これはIS学園と本土を繋ぐモノレールの駅の近くにある臨海公園も同様であり、満開となった桜を一目見ようというのも多くの生徒達の外出の理由の一つであった。

 無論桜の開花情報については一夏も聞き及んでいる。だが、まるで見に行く気にはならなかった。別段満開の桜に興味が無いわけではない。そのあたりに風情を感じる情緒くらいは持ち合わせているという自覚はある。

ただ、師の下で何度も見たのだ。春の出稽古で師の下に赴いた時は大抵その町の桜の開花時期と重なったため、修業の合間に師や知り合った町の住民と何度も花見をした。

桜を見ることに飽きたとは言わないが、そこまで執着するほどでもないくらいにはなっていたのだ。

 

 幸いというべきか、職員室のある学園の業務棟と道場はさほど離れていない。到着には数分と掛らなかった。

そして職員室に向かおうと業務棟に入った直後、入り口で一夏が出会ったのは真耶だった。

 

「あ、織斑君! 来ましたね!」

 

 自身の姿を見つけるなり小走りで駆け寄ってきた真耶に一夏は軽く首を傾げる。放送で直接呼びつけたのは千冬だが、どうも彼女も関わっているらしい。

それに、やや興奮した様子を見るにどうも結構な事のようだとも判断する。

 

「えっと、どうかしたんですか?」

 

 とりあえずは用件を聞いてみようと、駆け寄って来た真耶に一夏は尋ねる。小走りで、それも大したことのない距離を動いた割には真耶の呼吸はやや大きい。単純に運動以外に興奮も作用しているのだろう。

用件を尋ねた一夏に真耶は軽く呼吸を落ち着かせてから一夏の顔をまっすぐ見据えると、両手をグッと握りながら言った。

 

「織斑君! ISですよ、IS!!」

「いや、落ち着いて下さい先生。俺は名字の後に『P』なんて付ける趣味はありません。それはマイベストフレンドの一人の数馬の領分です」

 

 精々がIS絡みということしか分からない、言い方は悪いがいまいち要領を得ていない説明をする真耶を一夏が諌める。ISしか言われてもどう返せば良いのか分からない。

言われて真耶も慌てていたことに気付いたか、数度ワタワタと手を振ってから言うべきことを頭で整理してから、再び深呼吸をして落ち着きを取り戻してから言葉を紡いだ。

 

「えっと、すみません。ちょっと慌てちゃいました。あ、そうでしたそうでした。織斑君、織斑君のISが届いたのでこれからセッティングを行います。第一アリーナに来てください。先に織斑先生が向かっていますので」

「あ、やっと来たんですか。試合本番一日前って、結構ギリギリでしたね」

「そうですね。私も良かったと思います。ISの初期調整には時間が少し掛かりますから。当日にならなくって本当に良かったです」

「そう言えば専用機って乗り手に合わせるための調整が必要なんでしたっけ?」

 

 授業で聞いた内容を頭の中で反芻しながらの一夏の言葉に、真耶は嬉しそうに首を縦に振って肯定する。

 個人専用機とされるISは長期に渡って一個人に使用されるため、その乗り手に合わせて複数の乗り手で交代で運用する一般機とは違う調整を施される。それがIS業界では『フィッティング』と呼ばれる作業であり、これを行うことによってISは『一次移行(ファースト・シフト)』言われる乗り手に合わせた最適化を完了する。

 ちなみに、一次移行と銘打たれている以上は二次移行(セカンド・シフト)と呼ばれる現象も存在しており、これは長期に渡っての稼働をした専用機が、蓄積した乗り手の戦闘データなどを元に乗り手に合わせる形で武装の新造や機能の追加などをISが自動的に行う自己進化である。

 もっとも、全ての専用機が行う一次移行とは異なり二次移行は必ずしも全ての機体が行うとは限らず、各国で個人の専用機として使用されているISの中で二次移行を果たした機体の数は少ない。

さらに二次移行を果たしたISのみが発現すると言われる『単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)』の発現に成功した機体は更に限られたものとなる。このため、二次移行を果たし、尚且つ単一仕様能力の発現にも成功しているISは単純な機体能力という点において、一線を画したものを持つと言われる。

そしてその機体の乗り手もまた、二次移行を果たすだけの経験を積んでいるため、一操縦者として間違いなく優秀な部類に当てはまる。

 優れた機体と優れた乗り手。その二つが揃ったのであればどうなるか。その結果は想像に難くない。

 

 話を戻す。今回一夏が行うのは二回あるISの段階移行の内の第一段階である『一次移行(ファースト・シフト)』。

専用機を専用機とするための通過儀礼とも呼べる機体調整である。

 善は急げと言うように一夏と真耶は並んでアリーナへと向けて歩く。歩くその間に必要なことの確認を済ませる。

 

「んで、先生。向こうに行ったら具体的には何をするんで?」

「あ、それはですね。まずはISと一緒に織斑君用のISスーツが届いているのでそれに着替えて下さい。

一応試作品という形なのですが、形状は上下のシャツとズボンタイプですね。袖を短くして上下を分けたダイビングスーツをイメージすると分かりやすいかもしれません」

「あれ? ISスーツって俺はもう持ってますけど」

 

 真耶の言葉に一夏は首を傾げる。ISスーツというのであれば、それは既に一着を一夏は持っている。

他の生徒にも言えることだが、入学前に届くのだ。強いて他の生徒との違いを挙げるとすれば、他の生徒達は事前にカタログからいくつかの二、三程度ではあるが種類の中からサイズ共々選べることだろう。

この点において一夏は別であり、件の起動騒動の直後に行われた精密検査やらで適したサイズは割り出せたので、それに合う男性用として急造されたという代物を送りつけられたのだ。

それがあるからこそ、一夏はここ数日の夜間練習をできたのだが。

 

「えぇ。ただやはりあれは急造でして。一応今回のものは試作品という扱いですが正式に作られた物ですので。

もちろん、今までの物も使えますが、なるべく今後はこれから渡す方を使ってもらって、前の物は予備として欲しいとのことです。

私も一応同じ意見ですね。ISスーツは搭乗者と機体の連動にも少なからず関わりますから。なるべく良い品を使った方が良いですよ」

「はぁ。まぁ先生がそう言うなら、そうしますけど」

 

 何せISスーツの着比べなどしたことがない。故に一夏はそんな生返事をするくらいしかできなかった。

とはいえ、目の前の女性は世界でも有数の専門性を持つIS教育機関の教師であり、実技試験の担当官も務めたくらいなのだから乗り手としても十分な手腕を持っていると認められているのだろう。

武人としての感性で言うのであれば、先達にはリスペクトの精神を持って臨むべしというのが一夏の考えである。ましてや年長者であり、生徒の自分に対して教師という立場を持っているのならば尚更だ。

 仮にそうした心構えを持つ気になれない相手であれば、その時はその時で相対の仕方を変えるが、少なくとも目の前の女性に関してはそんなことはないだろう。

無論、一夏の気概で言わせてもらうのであれば、真耶もまた打倒し超える相手の一人とも言える。だが、それはそれだ。より身近な例で言えば、一夏の武芸の究極の目標の一つは師を超えること。だが、仮に超えたとしても師への敬意は生涯抱き続けるだろう。それと同じような理屈だ。

 

 その後も並んで歩きながら二人は言葉を交わす。とはいえその内容はいたって事務的。

真耶がアリーナについてからの一夏のすべきことを説明し、一夏がそれを聞きながら気になったことを質問をする。

そのやり取りだけで二人がアリーナに着くまでの時間は十分に埋まったと言える。

 

 

 

 

 

「ところで織斑くん」

「はい?」

「さっき言ってた数馬って誰ですか?」

「俺のダチです。イケメンなのに中身は変態かつテンションあがるとウザいというとても残念なやつです。けど他の連中よりもずっと面白いやつです」

「イ、イケメンなのに変態なんですか」

「はい」

 

 こんなやり取りがアリーナに向かう最中にあったとか無かったとか。

 

 

 

 

 

「来たか、織斑」

 

 二人が着いた学園第一アリーナ。そのエントランスに入った直後に一夏の耳朶を打ったのは実姉の声だった。

エントランス中央部に立って二人を待っていた千冬。背筋をまっすぐに伸ばした姿には一分の隙もなく、家で見せる姿とはかけ離れた公における織斑千冬としてその場にあった。

そして彼女の右手にはビニール袋に入った折りたたまれた衣服らしきものがある。おそらくはそれが一夏の新しいISスーツ。

 

「これに更衣室で着替えてすぐにピットに出てこい。一番のだ。場所は問題ないな」

「ん」

 

 放り投げられたISスーツを片手で受け取るとそのまま一夏はさっさと更衣室へと足を向ける。一夏の背が廊下に消えてから少ししてから、残った千冬と真耶の二人も一夏に指定した一番ピットに向かうために歩き出した。

 

 

 大きさに多少の差異はあれど、学園で使用されるISアリーナの構造は概ね共通だ。一夏がここ数日で使用していたのはこの第一アリーナとは別の第四アリーナであるが、少なくとも廊下などの基本的な構造はほとんど変わらない。

そのため、一番のピットと言われても場所に迷うということは無かった。存外早く慣れるもので、一度歩き始めてしまえば足が自然と正しいルートを辿る。尤も、ほぼ一直線なためにルートも何もないようなものではあるが。

程なくして更衣室に着いた一夏は手早く用意を整える。適当なロッカーを一つ見繕い、そこに荷物を収める。そして渡された新しいISスーツに着替える。肌への密着性を高くするためか、スーツは材質の伸縮性こそ良好だがキツいという感想は否めない。

ほとんど力ずくであるがために一応それなりに手早く着ることはできるが、決して楽とは言い難い。

 

 余談ではあるがこのISスーツ、特殊素材を使用しているためにその生地の薄さや伸縮性に反してかなり高い強度を持っている。

流石に補講ばかりを当てにするわけにもいかないと、一夏も時間を見つけて学内の図書館で参考になりそうな書籍を漁ったりもしたのだが、その中で見つけたISスーツに関する記述に曰く、小口径の銃弾くらいならば貫通を防ぐらしい。

とは言え、あくまで貫通などによる致命的な損傷を防ぐだけであり、超高速の金属の塊が極小面積に激突することによる衝撃や痛みはほぼそのまま残り、また大口径となればその耐久性も完全足りえない。

さらに付け加えると、これは同様の機能を持つケブラー繊維にも言えることだが、鋭利な刃物による斬撃にも強いとは言えない。纏めれば、精々少しマシな防御力を得られる程度である。

 

 それを読んだときに一夏が思ったのは「意味がないのも同じ」ということだ。

防ぎきれない攻撃は論外として、防げる小口径の銃弾にしても同じこと。仮に貫通などの重傷を防げたとて、その一発で終わりとは限らない。

自分のように年中木刀で、刀の峰で、あるいは本当に師が持ち出した暴徒鎮圧用の硬質ゴム弾とはいえ、実銃などに晒されている奇特な人間ならともかく、どちらかと言えばそうした肉体的苦痛の経験がやや乏しいお嬢様方(・・・・)が、防いだ銃弾の衝撃や痛みに耐えきるとはあまり思えない。

少なくとも苦痛に大きくひるんだり、あるいは痛みをこらえるようにその場にうずくまったりはしてもおかしくない。そんな風に大きな隙を晒してしまえば、あとはヘッドショットなどで仕留められるだけだ。

 結果的に仕留められてしまうのであれば、そんな守りは無いも同然ではないだろうか。傲慢、そう呼べるほどに周囲の生徒たちと自身の身体能力各種の差に自負を持つがゆえの思考だった。

 

 上下のスーツを着て、最後に靴底にそのままソックスを付けたようなIS装着時用シューズを履いて一夏はピットへと向かう。

いざピットへと出てみれば、既に到着していた千冬と真耶が待っており、一夏は無言で二人の下に歩み寄る。

 

「で、俺の専用機ってのはなんですか?」

 

 開口一番がそんな言葉だったことに一夏は自分自身で意外だというように僅かに驚いた。そして気づく。思いのほか自分が高揚していることに。

最初に専用機が支給されると聞いたときは「へぇ」としか思わなかった。だが、実際に動かすことを繰り返すうちにその心境にも変化が起きていた。

ISという超兵器。それを動かすということの面白さ、数が限られた優れた武器の一つを、自分が占有することの素晴らしさを。

有体に言ってしまえば、今の一夏はまるで誕生日やクリスマスのプレゼントを待つ子供のように、ワクワクした心境となっていたのだ。

 

 一夏の言葉を受けて千冬が真耶に目配せをする。無言ではあるが、現役時代に直接の先輩後輩という関係ゆえに付き合いのそれなりに長い真耶は千冬の意図をすぐさま察し、そして行動に移る。

手元の端末を操作する。すると、ピット内にアラームが鳴り赤色灯が光を灯す。同時にピットの奥の待機IS射出カタパルトのスタート地点の床の一部が僅かに沈み込むと同時に、二つに割れて開いていく。

出現した穴。そこから一つの影がせり上がってきた。

 

「へぇ……」

 

 現れた物体を見て一夏が面白そうに呟く。床下からせり上がってきた台座に鎮座するのは一機のIS。ごく一部にブルーとイエローをあしらってはいるが、全体の基本色は白。

一目見て一夏が抱いたイメージはと言えば、「鎧そのまま」。悪くはない造形だと思った。ただ一つ、言わせてもらうとすれば試合前日というギリギリの納入時期だろう。

 

(遅かったじゃないか……)

 

 あまりケチをつける気はないが、このくらいは思ってもバチは当たるまい。

 

「これが織斑君の専用機、『白式』です!」

「時間は限られている。すぐに装着してアリーナに出ろ。そのまま初期設定を行う」

 

 やや興奮した様子の真耶とは対照的に、落ち着き払った様子で腕を組んだまま顎でしゃくって千冬は一夏にISを装備するように促す。

言われずともと言わんばかりに一夏は素早い歩きで白式に歩み寄る。そしてその背に回り込み、やはりここ数日で慣れたISへの乗り込みを行う。ISそれ自体に熟達した、などとは口が裂けても言うつもりはない。だが、それ以前の着脱くらいはさすがに毎日連続で行っているからか手間取らずに行えるようになった。

 台座に固定された白式の本体に足をかけて上る。神無がつけてくれた訓練でも最初にそうしていたように、両手足をそれぞれの装甲に通す。そして、前面を開いた胴の装甲に背を預ける。

 

 搭乗者が乗ったことを確認した白式が自動的に起動する。開かれていた各装甲が閉じていき、空気が抜けるような音と共に装甲と体が密着して固定する。

更に腕部装甲の先からは装甲内に収まった自身の手の動きに正確に連動して動く機械の手が出現する。

 

「ふんむ……」

 

 完全に装着が完了した白式を見ながら、一夏は調子を確かめるように手や足を動かす。

 

「気分はどうだ」

 

 専用機となるISはより搭乗者との親和性を高めるために、機体からの搭乗者の生体スキャンや電気信号などによる機械的干渉が訓練機などを使用する場合に比べ多い。

干渉と言ってもそこまで大仰なものではなく、授業において真耶は下着を例えに出したが、ようはスポーツなどを行う際のサポーターのような位置づけのものに過ぎない。

だが、何かがあってからでは遅すぎる。それ故に千冬は尋ねた。

 

「いや、平気。やっぱすげぇよな、ISって。こんな鉄の塊着込んでるのに、体が無茶苦茶軽い。まだどうなるか分からないけど、手や足の動きも悪くない。このハイパーセンサーだっけ? 全方位視界なんてどんなふざけた代物だって思ったけど、成程な。乗ってない時の普通の視界は当然として、本来なら死角になってる部分の反応も行いやすくするってか。こりゃあ便利だ」

「問題はないようだな。ではすぐにアリーナに出ろ。何やらここ数日、随分とコソコソとやっていたようだな。丁度いい。その成果を見せてもらおうか。その間に私と山田先生が管制をしながら一次移行のサポートをする。ISに丸投げもできるが、それでは時間がかかりすぎる。我々も少し手を出す。稼働をしながらであれば、より実戦時に適したデータの入力もできるからな。良いか」

「了解っと」

 

 話を長引かせないための短さでありながら、要点はしっかりと相手に伝える。姉の言葉に相変わらずの外向けの糞真面目だと思いながらも、一夏もまた行動に移る。

すぐ目の前に設置された射出用カタパルト。そこに足をかける。白式の足がカタパルトに固定されると同時に、双方の連結によって一時的に白式とカタパルトの稼働システムがリンク。

射出タイミングの一夏への譲渡が行われたことを示す。

 

「はいはい、アイハブコントロールってな。さってと、行くか。織斑一夏、白式、出る!」

 

 その声に合わせてカタパルトが作動。電磁投射によりカタパルトが高速で動き、一夏を宙へと放つ。そして一夏は白式を纏いながら、陽光の降り注ぐアリーナの空へと躍り出た。

 

『聞こえているな、織斑。これよりお前の稼働データの取得、そして機体のフィッティングを行う。並行して武装などの確認も行う。しばらくはこちらの指示に従え』

「ういーっす」

 

 通信越しに聞こえる千冬の声に一夏が頷くと同時に、武装を展開するように指示が出される。その声に従って一夏は武装リストを呼び出し。使える物を確認する。

 

「これは……」

 

 そして眼前のモニターに展開された使用可能装備のリストを見て、一夏は一度言葉を失う。だが、呆然とした表情はやがて緩やかな笑みに変わった。

 

「はっ、そういうことか。中々どうして、憎い真似をしてくれるよな」

 

 誰に向けたのか、傍で聞けば分からないような言葉を呟くと一夏はリストを閉じる。そして、ゆっくりと右手を掲げた。

 

「いいさ。やってやろうじゃないか」

 

 念じる。脳裏に呼び出すべきをイメージ。思考という暗闇に埋もれたそれに手をかけ、一気に引き抜く!

 

「来いっ!!!」

 

 その言葉と共に掲げた右手に光が集まる。そして集った光は、静かに一つの影を成した。

 

 

 

 




 一応次回からは戦闘回に入るので、また加筆修正や本編の進行などで更新にお時間を頂くと思います。白式関連での変更を本編に合わせる形で予定しているので、ひとまず本編の二巻分が終わるまではまたしばらくという風になる予定です。
早くても手を付けるのは九月あたりからになりそうですね。

 これで本編、楯無ルートともに白式はほぼ共通の性能を持つことになります。
が、しかしおかし。行きつく先は別物になる予定です。アレっすよ、同じギロチンが得物でもゴールが序曲か終曲かって感じですよ。分かる人にしか分からないこの表現。

 とりあえず現在本編の方の最新話も鋭意執筆中ですので、次の更新はそちらになります。
よろしくお願いしますです。
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