或いはこんな織斑一夏 IF Blade for Mysterious Lady (更新凍結中)   作:鱧ノ丈

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 これで最後のストックの放出と相成りました。
あぁ、これで続きはゼロから書くしかないのだなぁと思うとちょっと遠い目になっちゃいます。

 それはそうと久しぶりの更新ですが、確認してみたら前回の更新は十月。今は四月。
……ソレデハドーゾ(目逸らし)


第十六話

 それはあまりにも唐突であった。

事の始まりは朝の何気無い会話だ。既に教室に着き自分の席に座っていた一夏は、その周りに集まった数人のクラスメートの会話を交わしていた。

近く行われるクラス対抗戦についての新情報、優勝したクラスは生徒全員に食堂のスイーツ半年フリーパスが渡されるという特典に、少女達の期待は高まっていた。同時にその期待は一夏にも向けられていた。

 既に専用機を受領し、なおかつ代表候補生を下すという結果を挙げている一夏に、クラスの者達は勝利を期待していた。

警戒すべき他のクラス代表にしても、一夏と同じ専用機持ちと言えるのは四組の代表のみ。隣の二組に中国の代表候補生が転校をしてきたらしいが、この時期ではクラス代表も関係は無い。優勝も十分に希望が持てる。そう、誰かが言った時だった。

 突然一組の入り口前に現れた生徒。小柄な体格を包む制服の肩の部分のみを取り除いたカスタムと、ツインテールが印象的な彼女は高らかに名乗った。

 

 一年二組クラス代表、中国代表候補生 凰 鈴音と。

 

 そして名乗った彼女は、己のすぐ正面に一夏の姿を見つけると、怒声と共に駆けだして飛び蹴りを放ったのだ。

 

「なぁ鈴。開幕飛び蹴りは色々無茶苦茶だと思うのよ、俺」

 

 だが、迫る蹴撃に一夏はまるで動じない。それでいて行動は迅速だった。動き出したのは鈴と同時。椅子から素早く立ちあがると鈴が一夏に向かって行ったように、自身もまた鈴に向けて歩を進める。

だがその足取りは緩やかなものであった。そして二人の距離はすぐに詰まる。もとより数メートル程度の距離しかない二人の間。その間を片や駆けて、片や歩いて互いに向かえば直ちに縮まるのは自然の摂理だ。

そして一夏を間合いに捉えた鈴は勢いよく跳躍。まるで理解が及ばずに茫然と見ていた周囲の生徒達が思わず感嘆のどよめきを漏らす程、その小柄な体から連想される身軽さを体現した高さの跳躍を行うと同時に、足を一夏目掛けて伸ばす。

 

 いかに少女の飛び蹴り言えども、決して侮れるものではない。よほどの成長不良でもない限り、健やかに育っただろうことが伺える彼女は、小柄ではあるが数十キロという年頃相応の体重を持っている。

人体というあまり意識されない、しかし確かな重量物に前進と跳躍による下降の二つの勢いを加え、さらに衝突部を足先という小面積に限定させる。これだけの要素が組み合わされば、直撃すれば大の大人でも後ろへ吹き飛ばされることは確実な一撃となる。

 凡その人間はいきなり飛び蹴りを放たれれば避けようとするだろう。別に先に述べたような理屈を一々考えているからではない。直感的に危険と判断するからだ。

では、それを危険と判断しない極一部の例外的な人間の場合、どのような対応を取るのか? その回答がここに示される。

 

 迫る蹴りに対して一夏は軽く左手を伸ばす。その目は細められ、集中状態にあることが伺える。蹴り足の先端、即ち上履きの底が差し出した左手のひらに触れると同時に、思い切り手を握りこみ足を正面から鷲掴みにする。

そのまま左手は動かさないままに、それ以外の全身を軽く前に出して鈴のちょうど脛と自身が横並びになるように立つと同時に、思い切り左手を下に引き込んだ。

 

「ちょっ!?」

 

 急に体勢が崩れたことに鈴が慌てるような声を挙げる。空中での勢いが突然に殺され、重心が一気に下がったのだ。そこから感じる不安定さは並大抵ではない。

このままいけば彼女の体は氷の上で足を滑らせたかのごとく、背中から床に強かに打ちつけられるだろう。だが、それよりも早く空いていた一夏の右手が動く。

 鈴の背に添えるように滑り込ませた右手で鈴の体を支える。彼女の体のへその下、丹田にあたる部位を重心の軸として、足先を掴む左手と背に添えた右手で体を一気に回転させる。

そして全身と床がちょうど垂直になったところで手を離す。

 

「っと」

 

 生来持つ身のこなしゆえか、ある程度バランスが戻ったこの時点で鈴にとって安定した着地はさしたる問題ではないらしく、仕事は終わったといわんばかりに手を叩く一夏の後ろで、その足を床にしかとつけた。

 

「飛び蹴りをかましてくるとは、なんて奴だ」

 

 字面だけみれば驚いているような、しかし声音にはまるで驚きを感じない言葉を漏らす一夏に、着地を果たした鈴が睨みをきかせながら唸る。

 

「へぇ~、それがいきなり居なくなったやつの、幼馴染に対して掛ける言葉なわけ? ええ?」

 

 ドスをきかせながら詰め寄る鈴であったが、暖簾に腕押し、柳に風と言わんばかりに一夏は涼しい顔で受け流す。

 

「あぁいや、あれな。いや、俺もまさかお前が中国戻るなんてこれっぽっちも思ってなかったしよ。運が悪かったんだ、運が」

 

 悪びれる様子も無く一人したり顔で頷く一夏に、鈴のこめかみがあからさまにひくついた。

この時、二人からやや離れる形で二人を見守っていた周囲の面々は、彼女の頭にまるで漫画のような太い血管マークを幻視したという。

 

「ふっっっざけんじゃないわよ!! この馬鹿一夏!! いきなり何も言わずに転校なんてしちゃって!! してから連絡入れるとかどういう了見よ!!」

 

 怒気を全開にした大声で怒鳴る鈴に、さすがの一夏も苦い笑みを浮かべる。だが、そこで彼は視線を彼女の後方に向け、表情を僅かに固いものとした。

その変化に気付いた鈴も、怒気はそのままに後ろを振り向き、そして表情を強張らせた。

 

「朝から随分と威勢が良いな。実に結構」

 

 一組担任、千冬の姿がそこにはあった。彼女の登場によってギャラリーは更に歩を引き、一夏と鈴、そして千冬の周囲には完全な空白地帯ができあがっていた。

いつもの鉄面皮を崩さない千冬の手には出席簿、その端が握られており、いつでも振りおろせる体勢になっていることを示している。その姿に鈴は固まり、一夏は「俺、知ーらね」と言うようにそっぽを向いている。

既に千冬の十八番となっている、出席簿による痛打が繰り出されるのではないか。そう考えた一組の誰もが固唾を呑んだが、意外なことに千冬は呆れたようにため息を一つだけ吐くと、掲げていた出席簿を持つ手を静かに下ろした。

 

「もうすぐHRの時間だ。凰、さっさと教室に戻れ。それと、朝からあまり大声で喚くなよ」

 

 その言葉に鈴を除く、つまり一組の面々がある種の安堵を感じたのは常が常だからだろうか。何事も無ければそれでよし。そう言わんとする雰囲気が、そこにはあった。

誰もがそこでこの場は終了すると思っただろう。だが、そうはならなかった。凰鈴音、彼女は未だ転校して日が浅い。ゆえに、千冬に抗議をしようとした彼女は、決して責めるべきではないだろう。

 

「で、でも千冬さ「織斑先生だ」――お、織斑先生! 何とも思わないんですか、この馬鹿に! いきなり何も言わずに転校してくようなのを!」

 

 その抗議に対して千冬は軽く腕を組み、そして未だ自分は関係ないと主張するかのように明後日の方向を向き続ける実弟に視線を向ける。しばし沈黙、考えるような仕種を見せると、組んでいた腕を解いて再び口を開いた。

 

「そこの馬鹿には馬鹿なりの考えがあってのことだった。確かに、お前の言うことも分からんでもない、凰。だが、今はそれを議論する時ではない。今は教室に戻れ。休み時間などであれば、いくらでもそこの馬鹿に問い詰めれば良い。何だったらひっぱたいても構わん。好きなだけ鬱憤を晴らせ」

 

 その言葉に鈴もそれ以上言えなくなったのか、渋々と言った様子で教室から出る。去り際、一夏に向けて待っていろという旨の言葉だけを残して。

そして未だ固まったままの生徒達に千冬が着席を促し、一年一組の朝のHRが始まりを告げた。

 

「揃いも揃って馬鹿の連呼はヒデェよなぁ……」

 

 頬を引き攣らせた一夏が渇いた笑いと共に呟くが、虚空に溶けたその声が誰かの耳に入ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

「さぁ一夏! キリッキリ話してもらうわよ! 洗いざらい、まるっと盛りっとねぇ!」

 

 昼休み、昼食の鯖の味噌煮定食を食べる一夏の前に、自身の昼食であるラーメンを携えた鈴が険しい表情で座りながら問い詰める。

だが、一夏は鈴の怒気も何のそのと言わんばかりに、箸で鯖の味噌煮一つまみを口に運ぶ。食堂の調理士が腕を振るって作った品々。それはシンプルな和食であっても例外ではなく、出される料理の悉くの味に一夏は感嘆を禁じえずにいた。

 

「キリキリって言ってもなぁ。そこまで複雑な事情ってわけでもないし。話し出したら五分足らずで終わるぞ?」

「それでも良いから、さっさと話しなさいよ」

 

 ラーメンを食べる手を途中で止めてまで一夏に詰め寄る鈴に、一夏は持っていた箸を置いて顎に手を当てる。

ちなみに、IS学園入学からしばらく経った今でも、ある程度の落ちつきこそ見せているが一夏が注目を浴びやすいことに変化は無く、こうした食事時などはそれとなく一夏の周囲を囲むように生徒が集まっているのだが、今は鈴の放つ怒気による牽制によってその人影もまばらになっている。

しかし、離れていても会話は聞こえるために周囲の生徒たちは二人が知り合いという程度のことは把握していた。中でも一組の面々にかんしては、この昼休みの前の休み時間の前に一夏より直接、彼女が小学校以来の古馴染みということを聞かされている。

 

「で、何を聞きたい?」

「あんたがいきなり転校した経緯、理由、そこに至った動機、その時のあんたの気持ち、何もかもよ」

「はっ、ご注文の多いことで」

 

 即答した鈴に対して一夏は口の端を吊り上げる。その表情には、鈴の剣幕すらむしろ面白いと思っている節が見える。

いや、面白がっているか否かは別として、肯定的に受け止めているのは事実なのかもしれない。常に強気な姿勢を崩さないその姿には、一夏も懐かしさを感じる故に。

 

「オーケー。んじゃあどこら辺から話そうか。……そうだな、まぁ簡潔にできるように頑張ってみようか。

まずは俺がどこに行ってたかだ。鈴、俺が剣術をやっていて夏休みとかにはその師匠のトコに行ったりしてたのは知ってるだろ?」

「あぁ、そう言えばそんなこと行ってたわね。夏休みや冬休み使ってまで行くなんて酔狂なもんだと思っ――まさかあんた……」

 

 一夏が剣術家の師の下についているということくらいは鈴も知っている。なにせ夏休みや冬休みのような、子供にとっては絶好の遊ぶ時期の半分を使ってまで、その師の下へ出向いて稽古をつけて貰っているという熱中ぶりだ。

一夏と離れる以前、彼女はそのことについてよくごねた故に、記憶には強く残っている。そしてそのことを思い出して、何かを察したような様子を見せた鈴に、一夏は笑みを浮かべた。

 

「そのまさかだよ。ザッツライト、イッツ・イグザクトリィ。そうだ、転校してからこの春まで一年半、師匠のとこに居てな。みっちり鍛えてもらったよ」

「こ、こいつはぁ……」

 

 元々一夏が鍛えることを好んでいたのは知っていた。ISが時の主流へと既になっていた頃合いであるために、中には無駄な努力と影で心無い言葉を言う女子などが居たのも確かだが、鈴はそのような言葉に一切耳を貸さずにひたむきに自分を鍛える一夏を好んでいた。

だが、それもそこまで行くとやり過ぎなのではないかと思える。いや、確実に行きすぎであると鈴には断言する自信があった。

 

「さて、んじゃあ次は経緯だ。まぁ、あの頃にちょっと思うことがあってね。自分で必要と思ったから、そうしただけだよ。俺がどう思ったか? 悪いけど後悔は無かったね。どの道戻ってくるつもりはあったから、しばらくの間のお別れ程度の感覚だったよ。だからまぁ、お前が中国戻ったって聞いた時は少し驚いたな」

「色々、ねぇ……」

 

 そこに何が当てはまるのか。鈴には全てを察することはできない。精々思いつくとしたら、その少し前にあった千冬の第二回モンド・グロッソ決勝戦棄権と現役の電撃引退くらいだ。

もはや語ることは無いと言わんばかりに、一夏はいつの間にか食べ終えて綺麗になっていた膳を下げるために立ちあがる。その姿に、鈴も食べかけだったラーメンを思い出し、慌てて箸を持ち直す。

 

「一夏。あんた、何も変わってないわね。性格も、ついでに顔も」

「大きなお世話だよ。特に顔、特に傷」

 

 去り際に掛けた言葉に一夏は顔をしかめるが、それを見て鈴は微笑を浮かべた。

 

「けど、ちょっと安心もしたわ」

「そうかい」

 

 それだけの簡素なやり取りを残して一夏は立ち去る。残った鈴は、休み時間が終わる前までにラーメンを平らげんと、箸と共に再び丼へと挑みかかった。

 

 

 

 

 

「はぁ!? 一夏はとっくにいない!?」

 

 時は再び移り変わり放課後となる。一組の教室の前で驚きを露わにした鈴の声が響く。

昼休みに話した一夏の突然の中学転向騒動についてある程度の事情は把握したとはいえ、情報の不充分を感じた鈴は積もる話などもひっくるめた上で、一夏を捕まえて話そうと考え授業が終了するや否や一組へと赴いた。

しかし、入り口から探してみても一夏の姿は見当たらず、手近な所にいた生徒に聞いてみれば、一夏も一夏で授業が終わると直ちに荷物を引っ掴んで教室を出たとのこと。

一体何事かと聞いてみれば、おそらくはISの自主練に行ったと言うではないか。一夏のトレーニング馬鹿ぶりは鈴も知っていたが、IS学園に来てもまるで変わる様子が無いと分かると、さしもの彼女もしばし唖然とせざるを得なかった。

ではどこでやっているのか、せめてそれを聞き出そうとするも尋ねた生徒は知らないと首を振るばかり。彼女が一夏から聞いたに曰く、事前に練習場所とかがバレて人が集まるのは嫌だからと、敢えて申請した練習場所などは明かすつもりは彼には無いらしい。

 

「あ、あんの馬鹿……!」

 

 こっちの気なんてこれっぽちも考えやしない。唯我独尊、我が道全速前進フルスロットル、本当に知っていても度し難く感じる。

ひとまずは教えてくれた生徒に軽く礼を言って、この後をどうするか考える。一夏を探すか、しかし自分が探し当てるころには彼は練習を始めているだろう。そうなると、まともに相手にしてもらえない可能性もある。昔からそうだったが、一度トレーニングを始めると一緒にトレーニングでもしていない限り人への対応が非常に適当になるのだ。

それとも、ひとまずは自分も自分で、転向したばかりゆえの身辺整理を済ませて寮で待ち伏せるか。複数の案を巡らせながら唸っていたからか、彼女は自分に近づく人影に気付かなかった。

 

「少しいいか?」

「んっ?」

 

 背に掛けられた声に思考への没頭から復帰し、下に向けていた視線を挙げた鈴が見たのは箒の姿だった。

 

 

 

 

「ホイ、これ。緑茶で良かったかしら?」

 

 少々場所を移して外へ。広大な学園の敷地内には幾つか屋外用の休憩スペースも存在する。そこへ場所を移した箒は鈴が奢りだと言って渡してくれた自販機で購入した飲料を手に、設置されている木製の椅子に腰かける。

気前よく飲料を奢った鈴自身の手にも、烏龍茶の入った缶が握られている。

 

「む、すまないな」

 

 鈴の配慮に対して箒は素直に礼を言う。大したことじゃあないと言うように片手をヒラヒラと振ると、鈴もまた手近な椅子に座る。

 

「まぁ朝が朝だったから、一応改めて名乗っとくわ。二組の代表、中国代表候補の凰鈴音よ。呼び方は好きにして良いわ。こっちもそうするし」

「篠ノ之箒だ」

「箒ね。よろしく」

 

 簡単な名乗りを交わすと鈴はすぐさま話の本題に入ろうとする。前置きだとかそういうのは彼女の性に合うものではなく、話をする時は常に本題にストレートに切り込むのが常だった。

 

「で、どういう要件なのかしら? 何か話があるんでしょ?」 

「その、私は話というより、聞きたいことがあるのだが……構わないか?」

「そりゃ別に良いけど。何、聞きたいことって?」

 

 今いち一歩を踏み出しきれないような、オズオズとした口調ではあるが、尋ねてくる箒に鈴は軽く頷いて続きを促す。

鈴の返答を受け取った箒はしばし視線を泳がせ、何を言うべきか熟考する。そして、再び鈴と視線を真正面から合わせると、静かに言葉を紡いだ。

 

「その、だな。お前は……一夏の、何なのだ?」

 

 その問いが発せられた瞬間、鈴は僅かに目を丸くした。だが、すぐさま元の表情に戻ると顎に手を当てて「う~ん」と唸り始める。

 

「私があいつの何なのか、ねぇ~」

 

 顎に当てた手を離し、両手を頭の後ろに持っていく。そして、足を組んで椅子の背もたれに体全体を預けながら、組んだ足をブラブラと揺らす。

 

「そうねぇ。あいつ風に言うなら、あたしは『セカンド幼馴染』ってやつね。で、多分あんたがファースト幼馴染。名前聞いてピンと来たけど、あんたが一夏の昔馴染みなんでしょ? 昔の剣道仲間だって、話してたことがあるわ」

「確かに私と一夏は幼馴染だが、セカンド?」

 

 幼馴染はともかくとして、その前に付けられたファーストやセカンドの意味が今いち察することのできない箒は当惑を表情に浮かべる。

だが、その意味を知っているのか鈴は片手をヒラヒラと振りながら大したことじゃないと言うように補足をする。

 

「別に大した意味でも何でもないわよ。あんたが最初の幼馴染で、あたしが二番目ってだけでしょ。あいつにとっちゃ幼馴染なんて、単に付き合いが長い友達程度の感覚だろうからね。そこまで頓着もしてないんでしょうよ」

 

 その言葉に箒は衝撃を受けたような気がした。自分がそうであったように、目の前の転校性も一夏と自分が幼馴染同士と認識している。

だが、彼女と自分では違うこともあった。即ち、幼馴染という関係に頓着しない一夏の言動、態度を当り前のように受け入れていることだ。

 

「な、何とも思わないのか? 幼馴染なのだろう? もっと思うことなどは無いのか?」

「いやぁ、べっつに~? あたしも、そこまで深くは考えちゃいないし。ん? あ~なるほど」

 

 何かに思い至ったように鈴はニヤリとした笑みを浮かべる。それを見た瞬間、箒は嫌な予感に襲われた。そしてその予感はすぐに的中した。

 

「箒、あんた一夏に惚れてるわね?」

「な、なぁ!?」

 

 あからさまに狼狽える箒を見て鈴はカラカラと笑う。箒からしてみれば、知り合ったばかりの少女にいきなり自分が胸中に秘めていた想いを見破られたのだ。その動揺の大きさたるや、決して軽々しいものではない。そして、なおも狼狽を隠せない箒を見て鈴は、浮かべていた表情を微笑へと変えた。

 

「あたしもよ」

「え?」

 

 穏やかな声で発せられた鈴の言葉、その意味を察しきれなかった箒は思わず聞き返していた。

 

「あたしも、一夏(あいつ)に惚れてるって話よ。驚いたわ。まさかこんな所でいきなり恋敵に出くわすなんて」

「っ!」

 

 そこでようやく箒は緊張に顔を強張らせた。一夏の知り合い、それも異性。それだけで油断ならないというのに、この上恋敵と来た。

ただでさえ今、生徒会長という要警戒人物が存在しているのに、この上まだ増えるのかと箒の心に棘が刺さるような思いになる。

 

「ほら、そんな怖い顔をしないしない」

 

 内心の緊迫が表に出ていたのか、箒は鈴の指摘で自分が眉間に皺を寄せていたことに気付く。

人前でそのような、決して良いとは言えない表情をしてしまったことに恥じ入るような思いを抱くが、それを鈴が不快に思うような素振りは見せず、むしろ笑いを浮かべている。

 

「聞いてもいいか」

「何を?」

「お前も、私も、共に一夏に思いを寄せている。私たちは恋敵と言っても可笑しくはない。なのに、なぜそうまで笑っていられる。危惧したりはしないのか? 一夏を奪われるのではないかと」

「いや、言いたいことは分かるけどね。そんな心配、してもしょうがないのよ」

 

 箒としては、自分でも珍しいと思うほどに素直に胸の内を吐露したつもりだった。

もとより人に自分の胸中を話した経験など殆どない。それも、恋心に関することとなれば尚更だ。だからこそ、彼女にとって今の問いはそれなり以上に、重い意味を持っていたつもりだった。

 だが、それに対する鈴の返答はあまりにもあっさりしたものだった。

 

「あいつってさ、結局のところかなり自分本位なのよ。見てきたから分かるわ。あたしの、あんたの思いが叶う時が来るとすれば、それはあいつが自分であたしか、あんたを選んだ時だけ。あたしたちが奪う奪わないなんて考えても、あいつの選ぶ結果には何の影響もないのよ」

 

 そう語る鈴の表情は、微笑んでいるのと同時に僅かな憂いが含まれている。それを見た箒は、自然と眉間に寄せていた皺を解く。

 

「ねぇ。あんたはさ、どうして一夏を好きになったの?」

 

 そう問いかけられ、自然と箒は答えていた。幼少期、共に剣道を学んでいた頃。ひたむきに剣道に打ち込む姿に、自分がまるで勝てなかったその姿に憧れた。

男女と馬鹿にされていたのを、さりげなくかばってくれたその姿に憧憬を抱いた。眩しく見えたその姿に、いつの間にか恋心を抱いていた。

これといった明確なきっかけがあったわけではない。ただ、日常の積み重ねの中でいつのまにか想いが湧き上がっていた。

 自分も同じだと鈴も言った。

外国人という物珍しさもあったのだろう。学校でからかわれたのをかばってくれたことに、他人が暴力を振るうのを見るのは嫌だと言っておきながら、自分がやる分には構わないという、いっそ清々しいまでの独尊ぶりに、一本芯を持つようなその姿に、いつの間にか惹かれていた。

 

「だが、あいつは変わっていた。いや、六年という歳月を考えれば当然なのかもしれんな。だが、せっかく会えたのにあいつは――」

 

 痛みを堪えるような声で一夏の変容への辛さを語る箒を鈴は静かに見つめる。そして、再び口を開いた。

 

「確かに、あいつは変わったわよ。けど、結構昔なのよ、それ」

 

 どういう意味か。そう問いかけるように問いすがるような眼差しを向ける箒に、鈴は言葉を続ける。

 

「まぁ知らないのも当然よ。あんたが一夏と離れたのが10歳の夏あたりだっけ? あたしがあいつにあったのが、その少し後。殆ど入れ替わりよね。……11の頃よ。あいつが変わったのは。あの傷と一緒にね」

 

 傷と言われて、箒は一夏の顔を思い浮かべた。左のこめかみから顎あたりにかけて縦一直線に刻まれた傷跡。

綺麗な縦線でもなく、まるで引き裂いた紙の破り口のようにギザギザとした紋様は、姉譲りだろう鋭さを持つ目つきも相まって見る者に威圧を感じさせる。

 自己紹介の時に事故によるものと言われ、あまり詮索するのも憚れる気がしたために特別問うたことはないが、まさかそれが関わっていたのか。

 

「11、ううん時期的にあいつの誕生日前だから小5の夏休みの後だったわね。学校に来たあいつの顔にさ、包帯が巻かれてたのよ。

夏休みの時にちょっとした事故に遭ったって。顔に切り傷だけで済んだって言ってたけど、包帯取れてみたらみたであの傷跡だもの。さすがに驚いたわ。

ただね、そのあたりからあいつは急に変わったのよ。トレーニングバカに磨きが掛かった感じで、なんて言ったら良いのかしらね。何も見えてない、ううん。見えてる。ただ、何か一つだけを見て他に目もくれない。そんな感じだったわ。

別に友達づきあいが悪くなったとかってわけでもないけど、いつも一点しか見てない感じ。何も言えなかったわよ。なんだか、言うのが怖くてね。んでもって中二の中頃、知ってるでしょ? 千冬さんの引退。

あのすぐ後にいきなり転校してそれっきり。あたしも家の都合で中国に戻っちゃって。それで向こうで候補生になって今にってわけ」

 

 その言葉を聞いて箒は、鈴もまた一夏の変化に戸惑いを感じているということを理解した。そして、それでも想いを抱いているという、自分と似通った部分があることにも。

だが、自分と彼女では一つだけ、確実な違いがある。彼女がそれらをある程度前向きに受け止めていることに対し、自分は鬱屈した思いを溜め込んでいることだ。

今もそう。同じようでありながら、前向きな姿勢をとれる鈴の姿、それが羨ましく思え、同時に自分への鬱屈が積み重なっていく。負の想念が溜まるばかりの自分に、さらに嫌気が差していく。

 

「正直、あいつについて今更どうこう言っても仕方ない気がするのよね。本気であいつが欲しけりゃ、あいつに選んで貰えるようにしなきゃならない。自分との勝負みたいなもんよ、これ」

 

 言って鈴は立ち上がる。既に夕日のオレンジ色が空を染めており、そう遠くない内に日も暮れることが予想できる。

 

「そろそろ戻りましょ?」

 

 その鈴の言葉に箒も軽く頷くと立ち上がる。だが、箒の心に立ち込める暗雲は依然として晴れないままだった。鈴の語った一夏の心の向く先。それに箒は何となく心当たりがあった。

 更識楯無、一夏の旧知にしてセシリアとの試合まで一夏のISコーチをしていた彼女に他ならない。

試合後も練習相手に誘うつもりがあったなど一夏の直接の言などがあったとはいえ、明確な証拠の下に断言をするわけではない。だが、直感的にそうなのではないかと箒は当たりをつけていた。

知らず手を強く握りしめる。一夏は己に特別な思いを抱いている様子はない。そのくせ、彼の周囲には高いステータスを持った人間が集う。かつての繋がりの剣道も、今の繋がりのISさえも。

自分への無力、そのことへの怒りで小さく震える彼女の手は、その前を歩く鈴には見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 ところで、二人の乙女が互いに己の恋模様に悩んでいたころ、その一夏は何をしていたのか。

何故か、壁に背を当てて潜入工作をするスパイのように慎重な足運びで校舎の廊下を歩いていた。当初の予定では鈴が彼の行方を聞いた生徒が言った通り、いつも通りアリーナでISの自主練をするつもりであった。

一夏にとっては珍しく習得の手強さを感じたPICのマニュアル操作も、ようやくそれなりの感覚を掴めてきた頃合いなので、少し高跳びしてマニュアルでの不規則な機動変化をやってみようと思った頃合いだった。

 鼻歌を歌いながら廊下を歩いていた一夏。だが、その足を別方向から聞こえてきた一つの会話が強制停止させたのだ。

 

「今日も練習?」

 

「うん……。対抗戦、近いから……」

 

 会話から察するにどこか別のクラスの代表を務めている生徒と、その友人の会話だろう。そういえば自分と鈴以外のクラス代表についてはあまり知らなかったなと思った一夏は、歩きながらもその会話に耳を澄ませていた。

 

「そういえば専用機、できたんだって? 良かったじゃない。一組と二組は代表が専用機持ちだし」

 

「ありがとう。最初はどうなるかと思ったけど、何とかなった」

 

 専用機。その単語を一夏は聞き逃さなかった。現在学園の専用機持ちは一夏、セシリア、鈴、神無、そして少し前に真耶より聞いたもう一人の二年と三年に一人。最後に四組の代表。そして先の言葉から察するに、会話をしているのは恐らく四組の代表。

 さてどうしたものかと思う。このまま練習に行くのも良いが、折角だからこれから戦うことになるかもしれない他のクラスの代表の顔でも拝んでおこうかとも思った。

相手について事前の情報はあった方が良い。無いなら無いで緊張も良い具合に増すというものだが、やはり堅実な路線を選ぶのがベストだろう。時間にもまだ余裕はある。

 

「じゃあ、私はこっちだから。頑張ってね、更識さん(・・・・)

 

(なん……だと……!?)

 

 一夏の表情が緊張に強張る。今何と聞こえたのか? 一夏は自問する。自分の耳が馬鹿になっていなければ、確かに更識と聞こえた。

間違いなく名字だろう。名前にしては珍妙に過ぎる。そして、名字にしても極めて珍しい。

 

(そういえば昔、妹がいるとかって……)

 

 学園で再会してからは互いの近況だったり、IS絡みだったり、ちょっとした思い出話だったり、そのような内容の会話ばかりであったが、かつて共に師の下に居た時は互いの家族について話したりもした。その時に、妹が居ると言っていたような気がする。

この時になるまでまるで思い出さなかったことに首を傾げるが、五年の昔のほんの一瞬のことなら致し方ないかとも思う。

 そして、今重要なのはそこでは無い。いずれの対戦相手も確認も兼ねて、しかとこの目で確認をしておかねばならない。そう思うや否や、一夏は早歩きで声の方へと向かって行った。

 

 そして今に至る。なるべく気付かれないように気配を殺し、廊下に張り付くようにして静かに、しかしなるべく早く進む。声のした方向は分かっている。もうすぐにでも、恐らくは後ろ姿だろうが確認をするはずだ。

そして廊下の曲がり角に差し掛かった一夏はそっと先を確認して、目を見開いた。

 

「い、いないだと……!?」

 

 視線の先には誰一人として居ない廊下が広がっていた。しばし呆然とするが、すぐに首を横に振って思考を正常に戻す。

 

(ちょいまてやコラ。俺は確かに正確に後を追ったはずだ。間違いなくこっちに来たはずだろ。どういうこっちゃ、オイ)

 

 自慢ではないが、人の気配にはそれなりに鋭い自信がある。逆に自分の気配を殺すことにも自信があるため、その気になれば個人の尾行もそれなりにできる自信はあった。

なまじ自信があったからだろうか。予想もしていなかった事態に、一夏の思考は徐々に混乱をきたしていった。引き攣った表情のまま、一夏は携帯電話を取り出す。

二つ折りタイプのそれを開き、何かのボタンを押してコールも何もしないまま、それを耳に当てる。

 

(俺だ! CTUのワンサ・マウアーだ! 尾行中に機関の妨害とおぼしき精神攻撃を受けた! やつら、我々の狙いを感づいたに違いない! 至急増援を――何ぃ? 10分かかるだと? 5分でやるんだぁ! あぁすまない、時間が無い。まぁた掛け直す! エル・プサイ・コングルゥ!)

 

 色々とごちゃまぜになった、はっきりと言って滑稽極まる思考状態になった一夏は、そのままそこに立ちつくしていた。そして、状況に流されて悪乗りしていた節もあるのだろう。

だからこそだろうか。いつの間にか自分に近寄っている存在に、彼は気を割くことができなかった。

 

「なに……やってるの?」

「フォォォォォウ!?」

 

 不意に後ろから声を掛けられたことで思わず一夏は驚きの奇声を上げる。むせたのかしばし咳き込むと、ある程度落ち着き払った様子で後ろを向く。

視線の先には一人の少女。制服の胸元のリボンの色から察するに学年は一年。癖が内側に向いたセミロングの髪とノーフレームの眼鏡が特徴的だ。

 そこで一夏は気付く。先ほど彼女が自分に掛けた声。それが『更識』と呼ばれた少女のものと同じということに。

 

(じゃあこいつが神無の……)

 

 そう思って見れば、確かにその顔立ちには彼女と似通った部分がある。ただ、彼女と違う点があるとすれば彼女は常に明朗快活な雰囲気を纏うのに対し、目の前の少女は物静かな、彼女と見比べてちょうど太陽と月と形容できるような雰囲気を纏っている。

 

「で、なに? 織斑一夏」

「お、織斑一夏? 誰だそいつは? 俺は狂気のマッドソルジャー、朱雀院 凶魔で――」

「厨二病乙」

「すんげぇストレートに言ってくれるなオイ。なかなかのS」

 

 悪乗りしすぎた自分にも問題があると言えばそうなのだが、何の飾りもなくバッサリと切り捨てにかかるその姿勢に、一夏も苦笑いを禁じ得ない。ただ、そういうストレートな物言い自体は、一夏も嫌いではない。

 

「あ~ゴホン。わりぃ、ちょっとふざけた。んで、君誰?」

 

 誰と問うたものの、名字が更識ということはとうに知っている。知りたいのはその下、つまりは名前である。

 

「更識簪。で、なにやってるの?」

 

 名前だけを簡潔に告げると、簪は改めて一夏に何をしていたのかを尋ねる。言葉に余計な飾りはつけない。用件だけを言ってくる簪の言葉にはまるで機械染みた無機質さを感じる。

だが、その無機質さが逆に一夏にも落ち着きを取り戻させる。気を取り直すように軽く咳払いをすると、素直に簪の問いに答えることにする。

 

「あ~いやさ、廊下歩いてる時に『更識』と聞こえてな。つい反応を……。そうか、妹が居るって聞いてたけど、お前か……」

 

 納得したような声を漏らす一夏の姿を見て簪が僅かに目を細める。僅かな不満と、そして一夏同様の納得を含んだ眼差しだった。

 

「そう。あなたが、お姉ちゃんと知り合いって、本当なんだ……」

 

 その声はとにかく無機質。完全に第三者として見ているかのような、徹底した外側からの俯瞰を感じさせる静かな声音だった。

実の姉に関することを語るにしては少々無感動ではないかと思うが、よくよく考えれば自分も姉がらみのことでは、時に自分には無関係とあっさり切り捨てることもあるため、そこまで不思議なことではないかと自分を納得させる。

それよりも気になることがある。

 

「ちょっと話が聞こえたんだけどさ。もしかして四組の代表で専用機持ちって、お前?」

「そうだけど……何か?」

「あぁいや、もしかしたら戦うことになるのかなって。それに、専用機とかも気になるし」

 

 その言葉に簪は無言で己の首元に手を当てる。そこには紐で下げられたペンダントのようなものがある。だが、目を凝らせばそれがただのペンダントではないことが分かる。

色彩の基調となっている灰白色は女子が身につけるアクセサリーとしては少々似つかわしくないように思える。それだけではない。一見すれば角柱のように見えるが、細部には所々機械めいた金属質を感じる部分が見受けられる。

そこまで見て取って理解した。このペンダントこそが彼女の専用機、その待機形態に他ならないと。

 

「打鉄弐式。打鉄の後継機」

 

 それだけ言って簪は立ち去ろうとする。その背を追って一歩踏み出そうとする一夏だったが、それよりも早く簪が背中越しに声を投げかけてくる。

 

「試合、戦うことになったら、負けない。たとえお姉ちゃんが鍛えて、第三世代型を持っていても。勝つのは……私」

 

 静かながら断固たる意思が秘められた言葉に、一夏は足を止めてその場で簪を見据える。その目は先ほどまでの彼女同様に細められている。

 

「へぇ……」

 

 面白いことを言う。そう言わんばかりの一夏の眼差しではあるが、簪は一切動じない。そして、簪は首だけを回して一夏と視線を交える。

 

「……言っておくけど、君に勝つことはどうでもいい」

「その心は?」

「もっと、勝ちたい人がいる」

「そうか、奇遇だな。俺も、お前は踏み台の一つくらいにしか思っていない」

 

 この場が荒野であれば風が砂塵と共に二人の間を吹き抜けただろう。そのような錯覚を抱くほどに、二人の間には瞬間的に緊張が高まっていた。

互いに刃を携えていたのであれば、ほんの何かの拍子に抜き放ち斬りかかるように。二人を見守る者は誰一人としていない。だが、居たのであれば緊張に固唾を飲むことは必定だ。それを抱かずに悠然たる姿勢を保てる者がいるのであれば、それはこの二人よりもなおも強く、そして胆力に溢れる者だろう。

 

(面白い)

 

 怜悧な無表情を崩さないままに、一夏は心の内で小さく笑う。

このように自分が無言で見据えた場合、大抵の者は慄き一歩引く。こればかりは別に望んだわけではないが、稽古を受ける内に師の色が移ったのか、いつの間にか人を威圧する心得を体得してしまっていた。そしてそれに拍車を掛けているのが、もはや語るまでもない傷跡である。

 だが、それを前にして簪は微動だにしない。やはり『更識』は伊達ではないのかと思う。いや、今この場で生まれた家など詮無いこと。重要なのは、目の前の少女が歯ごたえのある相手足りうるということだ。

 

「じゃあ、試合でぶつかるのを楽しみにしているよ。俺も、これから練習だ」

 

 そう言って一夏はクルリと背を回して立ち去る。それに合わせて簪もまた歩みを再会する。二人の距離が離れるのに、さほどの時間もかかることは無かった。

 

 

 

 

 

 歩きながら簪は思考する。

織斑一夏。かつて姉と共に一時の修練を共にした少年。そして世界唯一のIS操縦者にして、あらゆることに秀でる姉が、厳然たる差を感じさせる一族の前の長である父が、こと武芸では敵わないと断言する男の唯一の弟子。

だが、そのようなことは瑣末事。問題なのは、彼が姉と浅はかならない関係にあるということだ。

 今でもよく覚えている。ちょうど五年前あたりから。次期当主としての訓練に励む姉の姿勢が、半ば鬼気迫るものになったのは。自分には常に笑顔を見せていた。だが、どこか余裕を失くしたようなその姿は隠しきれずにいた。

そしてひょんなことから、その要因の一端に彼が関わっていると知った。それもつい先日であるが。

 簪は姉の持つ高い能力に嫉妬している。だが、同時に敬意を抱いていもいる。だからこそ興味深い。あの姉にそれだけの影響を与えた彼が。

日本の代表候補生となり専用機を受領した彼女だが、その専用機の開発過程で研究職も自分には合っているのではないかと思った。機体の開発元の倉持技研――白式の開発元であり当初は白式開発のために一時は簪の機体の開発がストップしそうになったが、どういうわけか開発が無事に済んだ――にて開発に携わった時、漠然ながらそう思ったのだ。

打鉄弐式は未だ完全ではない。ハード面、システム面の双方で完成はしているが、まだまだ改良の余地は十分にある。そのための学園での運用によるデータ収集だ。基本的に倉持の技術者の協力を得たうえで行うそれらだが、自分一人でやるのも悪くは無いと思っている。

 そのような気質に気付いただからだろうか。一ISパイロットとしての対抗心もある。だが同時に、幾ばくかの興味も持ったのだ。自分が見たことのない、新しく思える存在に。

 

「面白そう」

 

 他でもない好奇心を。もしも試合で戦うことになったら確かめよう。この興味が正しいのか否かを。そして勝とう、糧にしよう。彼女に勝つために。

 簪は歩く。僅かに昂りもしない心のまま、ただ目的とすることを再認しながら。

 

 

 




 とりあえず本編の方が一段落したのでこちらを更新します。で、せっかくなので頑張ってこっちの続きを書いてみようかなぁとは考えています。
 さて、どうしましょうか。劇中での出来事とかは殆ど本編と同じわけですから、省けるところは何とか省いてスマートにやりたいと思います。バトルも然りで。
なにせメインヒロインが居る話ですからね。主人公とヒロインのそこらへんを、もっと頑張りたいです。
しかしこれ、話終わらせる予定の地点までにやっておきたいこと全部できるのかと不安にもなったり……

 とりあえずは皆様、また次回の更新の折に。
感想はお気軽にどうぞ。えぇ、なんだったら多すぎててんてこ舞いもどんと来いです
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