救いは犠牲を伴って   作:ルコ

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また連載。
ALO編は考えてなかったから雑になるかもです。
そもそもあんまりALOって覚えてないんですが。
また変な解釈あるかもです。


ーALO編ー
終わらずのその後


 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の通っていた高校にはとある不思議な部が存在した。

 

特定の活動をしているわけでもなく、ただただ部室に集まっては無言の時間を過ごしていく。

 

たまに顔を出せば、可愛らしいカップに注がれた紅茶を飲ましてくれた。

 

美味しい紅茶の香りに包まれた陽だまりの部屋。

 

彼らは互いに分かり合い、ぶつかり合い、身を寄せ合い。

 

何か特別な答えを導くために奮闘していた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

事件が起きたあの日、まだ報せを受けていなかった私は何の気なしにその部室に訪れた。

 

 

あれ?鍵閉まってる……。

 

 

お休みとは聞いてないけどなぁ。

 

 

少し残念な気持ちを抱えながら、私はその場を後にしようとした。

 

 

その時だった。

 

 

血相を変えた平塚先生が息を荒くしながら私の肩を叩き、目を細めるや静かに涙を零す。

 

 

……っ、す、すまない。

 

 

ど、どうしたんですか!?

 

 

……っ、君には伝えておくよ。

 

 

何を……、です?

 

 

 

シンと静まる冬の廊下はどこまでも冷たく。

 

先生の言葉でさえ凍ってしまったかのように私の耳に届くことはなかった。

 

いや、私が理解しようとしなかっただけだったのかも。

 

 

 

……比企谷達は、昨夜起きた事件に巻き込まれている。

 

 

 

喉の底から絞り出された声に、私は思わずその場から走り出した。

 

 

昨夜の事件と聞いて、私はすぐにとある事件が頭にチラつく。

 

 

今朝のニュースで全ての民放を独占した大事件。

 

 

ーーーSAO事件

 

 

1万人ものゲームユーザーが仮想空間に閉じ込められる。

 

概要こそ可愛らしいものだが、事件発覚から数時間と経たないうちに数十人の命が無くなったと言う。

 

 

 

私は生徒会室に置いてあるカバンも持たぬまま、周りの声に耳を傾けることもなく走り続けた。

 

 

以前に聞いた彼の電話番号は、何度掛けても一向に繋がる気配はない。

 

 

嘘だ。

 

 

そんなわけがない。

 

 

額から溢れる嫌な汗が顎から下へと滴った。

 

 

なんで……。

 

 

なんで出てくれないんですか…。

 

 

いつもみたいにあざといと言って私に呆れてください。

 

 

嫌そうな顔をしながら私を助けてください。

 

 

陽だまりのように暖かい手で私を守ってください。

 

 

 

っ。ーーーー

 

 

 

と、小粋な電子音がスマホから鳴る。

 

 

「ーっ!せ、せんぱい!!?」

 

『…っ!?』

 

「ぶ、無事なんですね!?よかった……。あ、あははー」

 

 

……繋がった。っ!

 

思わず飛び出た本音も隠すことなく、私は彼の生存に安堵する。

 

もう、先生ったら早とちりしすぎです。

 

やっと繋がった電話に耳を傾けながら、もう限界を等に超えていた脚を止めた。

 

 

 

 

『……ぁ、あの。…私は兄ではありません』

 

 

「ぇ……」

 

 

 

聞き慣れない女の子の声。

 

 

 

その声はとても悲痛に、疲れ切っていたような。

 

 

 

そんな印象。

 

 

 

 

『……兄は…っ、ぅ、うぅ…』

 

 

「……やだっ、そんなわけ絶対にない!!」

 

 

『…兄は。…SAOに囚われています』

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

SAO事件が解決してから2ヶ月。

 

 

 

 

 

俺は身体に障害を残すことなく、週に3回の身体検査とメンタルケアではほぼ全てが健康値に達している。

 

 

それでも、体のシルエットは女性のようにか細い。

 

 

手足を少し動かすだけでも息が乱れた。

 

 

だが目覚めてから2ヶ月で、これほどの回復を見せたのは奇跡だと医者は言う。

 

 

まだ身体を動かせない元プレイヤーも多数居る中で、アシストなしで病院の階段を登ることができるのはおそらく俺だけだろう。

 

 

 

「……」

 

 

 

どこで、何を間違えた。

 

 

 

そう自分に問いかけても、腹のなかで複雑な心情が渦巻くばかりで答えは帰ってこない。

 

 

 

屋上から見る景色はどこまでも現実で、少し退屈になってしまう風景だけを写した。

 

 

 

2年前とさほど進化していないスマホを眺めながら、俺はウェブニュースに目を移す。

 

 

 

SAO事件のその後ーー

 

 

解放された人達の生活はーー

 

 

現実で語られる真実ーー

 

 

 

どれもアホらしい内容ばかりだ。

 

メディアは所詮エンターテインメントを探す輩の集まり。

 

4000人もの死者よりも、6000人の生存者の声にしか興味がない様子。

 

 

「……」

 

 

 

記事の中で一際目立つタイトル。

 

 

 

ゲーム内での殺人は殺人罪に問われるのか

 

 

 

こればっかりは直ぐに答えが出そうにない。

 

 

 

ぼーっと風に当たっていると、背後から聞こえる2人分の足音に、俺は思わず身を構える。

 

 

存分に発揮されるSAO内での経験。

 

まだまだリハビリが必要なようだ。

 

 

 

「……やぁ。比企谷」

 

「……ん」

 

「変わら……、なくはないね。随分と細くなっている」

 

「……どうやってここに来た?身内でさえ制限が掛けられてるってのに」

 

「わかるだろ?君と俺の知り合いにはなんでも願いを叶える女神様が居るからね」

 

 

少し低くなったか、そいつの声は2年前よりも大人びいている。

 

生憎、高校生の頃のようにそいつの優しさを無下にするほどガキじゃない。

 

俺は屋上から見える外縁の風景から、ようやくそいつに顔を向けた。

 

 

「葉山……。雪ノ下さんも。久しぶりです」

 

 

「……」

 

 

 

黙りこくる雪ノ下さんの目は少し赤くなっている。

 

 

 

「…雪ノ下にはもう会ったのか?」

 

「あぁ、結衣にもね。……2人ともまだ万全とは言わないけど順調に回復しているよ」

 

「……そうか」

 

 

 

生暖かい風に、俺は思わず目を細めた。

 

首元を擽るように揺れる髪を、俺は自分の手で押さえつける。

 

 

 

 

「比企谷くん……。話は聞いたよ」

 

 

ぽつりと、雪ノ下さんが口を開いた。

 

 

「雪乃ちゃんや……、大切な人のために頑張ったんだってね」

 

「…何も…、いつも通りですよ。俺は」

 

「いつも通り…。いつもみたいに自分を犠牲にしたのね?」

 

「……」

 

「…もう、っ、もう頑張らないで。お願いだから…っ」

 

 

嗚咽交じりに叫ぶその姿は、我儘を言う子供のよう。

 

雪ノ下さんらしくないが、それを俺が咎めることもできない。

 

 

きっと、頭の良い彼女にはバレているんだろう。

 

 

「……っ。比企谷。聞いたんだよ、君がとある人物について、必要以上に調べていることを」

 

「……」

 

「オーバーにリハビリを繰り返すのも、”彼女”に関係しているんだろ?」

 

「…違う。ただ早く2年前の生活に戻りたいだけだ」

 

「……。クリア後も寝た切りの……、結城明日奈さんを助けるつもりなんだろ?」

 

「違う!!」

 

「……っ」

 

 

違うんだよ、葉山。

 

助けるとか、そう言うんじゃなくて。

 

どこかで間違えた運命を正すだけ。

 

本来死ぬはずだった俺が、結城の運命と取り変わるだけなんだよ。

 

 

「……茅場晶彦はもう死んだのよ…。もう、君たちは安全なの。…これ以上…、っ、私に心配させないで!!」

 

 

空に突き抜けた雪ノ下さんの声は、静かに、それでもしっかりとその場に響き渡った。

 

これだけダイレクトに感情を訴える人だったか。

 

だが、それだけ閉じ込められた俺たちは心配を掛けたと言うことだろう。

 

 

 

「…。…はい、わかりました」

 

 

「っ!ひ、比企谷くん…。よかった…っ」

 

 

 

涙を浮かべながら安堵する雪ノ下さんは、甘い香りを漂わせながら、細くなり惨めな俺の身体を包み込んだ。

 

暖かく、柔らかい。

 

ただ、昔とは違う他意のない無意識な抱擁に、俺は……

 

 

 

申し訳無くも、罪悪感を抱いてしまう。

 

 

 

そんな俺と目が合った葉山は、雪ノ下さんの背中越しに何かのメモ用紙をちらつかせた。

 

 

 

 

ん、おまえなら持ってきてくれると思ったよ。

 

 

 

 

 

俺が求める情報を。

 

 

 

 

 


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