救いは犠牲を伴って   作:ルコ

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柔らかな再び

 

 

 

 

 

 

 

 

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絶対安全を謳って発売されたアミュスフィア。

調べる内に、それがナーヴギアとなんら技術的に変わらないことが分かった。

 

そして、アミュスフィアと同時に発売されたアルヴヘイム・オンラインは、SAOと同様に仮想空間におけるRPGらしい。

 

SAO事件の真っ只中、誰がこんなゲームをやるんだろう。

と、思いながらスマホでウェブニュースを開くと、どうやらそのゲームの中では空を飛べ、魔法も使えるとか。

 

 

アホらしい。

 

 

なんて、腐しながら、日々痩せていく先輩の姿を眺める。

 

 

「……仮想…空間」

 

 

…それはただの妄想なのかもしれない。

 

ただ、電子力学やゲームに疎い私だからこその勘違い。

 

ねぇ、先輩。

 

このアルヴヘイム・オンラインって仮想空間とソードアート・オンラインって仮想空間。

 

 

中で繋がっていたりしないんですか?

 

 

ふと、私はスマホで葉山先輩の連絡先から電話番号をタップする。

 

 

数秒して繋がる電話に、私は胸の焦りと高鳴りを隠せない。

 

 

 

『……はい。どうしたんだ?いろは』

 

「は、葉山先輩!…あ、アミュスフィアって……、どこで手に入るんですか!?」

 

 

 

突然の質問に驚いただろう。

それでも私は口を開い続けた。

 

 

アミュスフィアがあれば、アルヴヘイム・オンラインをプレイできるのか。

 

そのソフトはどこに売っているのか。

 

 

聞きたいことだけを聞くと、私はお礼も疎かに電話切る。

 

 

 

先輩の眠る病院からの帰り道、私は持てる全ての資金をもって家電量販店に脚を運んだ。

 

 

アミュスフィア、アルヴヘイム・オンライン……、あった。

 

 

持っていた金額でも充分に足りる。

 

 

私は直ぐに店員を呼び出し、ガラスケースに飾られた円形のそれを指差した。

 

 

「こ、これ!これとこれ下さい!!」

 

 

.

……

………

……………

 

 

 

玄関を開くと、普段よりも慌ただしい私の帰りに驚いたママが心配そうに私を見つめていたが、私は直ぐに部屋に閉じ籠る。

 

 

説明書は軽く読んだだけ。

 

 

起動方法だけ分かればそれでいい。

 

 

待っててください。

 

 

直ぐに迎えに行きますから。

 

 

 

「リンク、……スタート。っ」

 

 

 

 

 

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アミュスフィアとアルヴヘイム・オンラインを葉山の口から聞くとは思わなかった。

 

もっとも、一色がそれを買ってプレイしているとはさらに想像が出来ない。

 

 

ゲームとかやりそうな性格じゃなかったしな。

 

 

アルヴヘイム・オンライン……。

 

 

レクト・プログレス。

 

 

そういえば、アルヴヘイム・オンライン……、ALOはSAOをベースに作られてんだったか。

 

レクトの社員とかもプレイしたりしているのだろうか……。

 

それこそ結城はCEOの娘なワケだし、レクト社内でも結城が寝た切りになっていることは知れ渡っているはず。

 

現実に戻れない原因がSAO、もといナーヴギアだとしたら、レクトの技術社員ならば有力な情報を持っている……はず。

 

 

……はぁ、もう考えるだけ無駄だわ。

 

 

そのALOってのにダイブして聞き回るか?

 

 

ついでに一色にも会えたら、周りに心配掛けんなと激おこしてやればいい。

 

 

……。

 

 

雪ノ下とか由比ヶ浜とかは激おこかもしれないな。

 

またあんな仮想空間に行くのかと。

 

小町は泣くかもしれん。

 

雪ノ下さんは……、俺を拘束しに来るかも…。

 

 

ふむ……。

あいつらに相談は出来んな。

 

絶対に激おこに決まってる。

 

 

「……さて、そうと決まればALOの入手からか…。ナーヴギアでも出来んのか?」

 

 

病室の片隅に今尚置かれているナーヴギアにちょっとした嫌悪感を抱く。

 

……また、仮想空間に閉じ込められたら…。

 

いや、大丈夫なはず。

 

SAOのデータベースに組み込まれたプログラムが幽閉の原因だったのだから、ALOをプレイする分には大丈夫……。

 

あれ?でも、ALOってSAOのプログラムと基本設計は同じ……。

 

 

……むむ。

 

 

アミュスフィアってのも入手しよう。

 

 

と、考えていると、突然に病室に置かれた簡易電話のベルがなった。

 

普段はリハビリや検査の時間帯にナースーセンターから掛かってくるのみにしか使われていないが、俺の記憶している予定に電話の鳴る理由がない。

 

 

「……はい」

 

『あ、比企谷さん。おやすみ中でしたか?』

 

「まぁ…。何か?」

 

『比企谷さんのお知り合いだと言う方から電話を受けたのでお繋ぎ致しますね』

 

「知り合い…?」

 

 

誰だ?

わざわざ病院に電話をしてくる知り合い……。

 

数秒の保留音が流れると、途端に外部の電話へと繋がった。

 

少し音声が悪いのは気のせいか、俺は用心深く受話器に耳を当てる。

 

 

『おう、俺だ。エギルだ。覚えてるか?』

 

「…っ!…お、おう」

 

 

大きく野太い声に、思わず受話器を耳から離した。

 

 

『まだ病院に居るってことはリハビリ中か?』

 

「そらそうだろ。殆どの奴らがまだベッド生活だって聞いてるぞ」

 

『そうか、やっぱり2年間寝た切りじゃぁな……』

 

「…ん?なんか他人事みたいだな。おまえだってまだ入院中だろ?」

 

『バカヤロう。こちとら妻も居る身だ。そんなに長々と寝てられるかっての。俺はもう店に復帰してるんだ』

 

 

な、なんと…!

 

流石はアフリカ系アメリカ人。

並みの回復力じゃないな。

 

 

「…んで、なんだよ。突然に」

 

『相変わらず愛想のねぇ野郎だなぁ。…いや何、おまえが生きてるって噂を聞いてよ。確かめたくなったんだ』

 

 

あぁ、そういえばこいつはSAOクリア時のボス戦に参加してたんだったな。

 

 

「…ん。お陰さんで。じゃ、忙しいから切るぞ」

 

『ま、待て待て!礼の一言くらい言わせろよ!……実質、おまえのお陰で俺らは帰ってこれたようなもんだろ』

 

 

野太かった声が細くなる。

 

礼なんていらんのだが…。

 

それに、まだあの事件は終わってないしな…。

 

 

…あ、そうだ。

 

 

「エギル。礼なんていらねぇよ」

 

『はは。おまえさんはそう言うと思ったぜ』

 

「俺が欲しいのは誠意だ」

 

『……は?』

 

「一つ、頼まれてくれないか?」

 

 

.

……

………

……………

 

 

 

数日後、俺の病室には一つの段ボール箱が届いた。

 

結構な大きさの箱には、服やら本やらが詰め込まれている。

 

 

「……」

 

 

それを全て出した1番奥底に俺の求めていたものが見つかった。

 

 

検品の可能性を考えて詰め込んだ雑品は、どうやら監視の目をすり抜けることに一役買ったようだ。

 

 

 

「アミュスフィア…、それとALO…」

 

 

 

本当に絶対安全なんだろうな……。

 

生唾を飲み込み、俺はそれを頭に付ける。

 

なんか厨二臭いし…。

 

 

消灯後の時間を見計らってダイブするため、時間は限られる。

 

あんまり悠長に構えている時間は無さそうだ。

 

 

「……行くか」

 

 

死んでもいいんだよな?

 

それでもちょっと抵抗あるな。

 

慎重に行こう。

 

ゲームの中とは言え、死なずにいれたら1番だ。

 

……さて。

 

 

 

 

「リンク、スタート…」

 

 

 

 

 

 






この数話、SAO編を書き終える前から書いてました。
だからめっちゃ更新が早いわけです笑


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