救いは犠牲を伴って   作:ルコ

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交錯する行方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

アミュスフィアから伝わる電子信号が脳に直接伝わる。

目の前が真っ暗になると思いきや、直ぐに私は立体のある自らの身体を手に入れた。

 

 

「……これが、仮想空間…」

 

 

先ほどまで自室のベッドに居たはずなのに、今はこうして暗闇の空間ではあるが自由に身体を動かせている。

 

 

《こんにちは。アルヴヘイム・オンラインにようこそ。まずは名前の入力をお願いします》

 

 

名前……。

 

さすがにリアルネームは使えないよね。

 

いろは……。

 

irohaをもじって…。

 

 

……よし。

 

 

《iraーー《アイラ》さんでよろしいですね?》

 

 

OKと。

 

 

どうせ名前に拘りはない。

 

 

《種族を選んで下さい》

 

 

種族?

 

 

どうやらこのゲームには9つの種族が存在するらしい。

 

そんなものどれだって同じでしょ?

 

と、私は比較的可愛いモチーフをした風妖精族を選ぶ。

 

 

 

《チュートリアルを行いますか?》

 

 

いらないわよ。

 

 

私は直ぐにいいえのボタンをタップする。

 

 

 

……。

 

 

 

 

SAOの仮想空間とALOの仮想空間が繋がっているかもしれない。

 

そんなことが有り得ないことぐらい、ゲームや機械に疎い私でも分かっていた。

 

それでも、ALOに縋る思いでプレイを試みたのは、きっと先輩達と同じ空間を味わいたかったから。

 

 

 

バカだなぁ。

 

 

 

居なくなって初めて気がつく。

 

 

 

私は誰よりも寂しがり屋で、誰よりもあなたを必要としているということに。

 

 

 

「……先輩、先輩。先輩」

 

 

 

そして……。

 

 

 

 

私はALOで生まれ変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を閉じること数秒、俺は直ぐに現実とかけ離れた仮想空間で、新しい身体を手に入れる。

 

 

ハチマン!新しい身体よ!

 

 

「……よし。脳も五感も異常なし」

 

 

 

《こんにちは。アルヴヘイム・オンラインにようこそ。まずは名前の入力をお願いします》

 

 

 

うぉ!?っと…。

 

……ゲームの中とはいえ慣れないな。

 

ぼっちは急に話し掛けられると寿命が3時間短くなるんだよ。

 

しっかりプログラミングしとけよな、ぼっちマスター茅場さんよぉ。

 

 

 

「はいはい。名前ね、名前……」

 

 

 

ふと、目の前に広がる半透明の50音表を睨みつけながら、俺は左下にある文字盤を1度タップする。

 

ローマ字入力に切り替わったボタンを一つ、また一つと。

 

 

【P】【o】【H】

 

 

これは戒めだ。

 

俺が人を殺したことに対しての。

 

俺が裏切ってきた大切な人たちに対しての。

 

 

そして、俺が俺だと気付いてもらうための。

 

 

《PoHさんでよろしいですね?……確認しました。次に種族を選んで下さい》

 

 

種族?

 

そういえばALOってのは種族間の戦いが云々かんぬん、世界樹がなんたらかんたら……。

 

…やっべ。

 

取説くらい読んでおくべきだったか?

 

まぁ、別にALOを楽しもうってわけじゃねぇんだ。

 

どれだって構わないだろ。

 

 

ぴっ、と。

 

 

風妖精族……シルフねぇ。

 

 

なんか俺っぽくはないが…。

 

 

 

 

《チュートリアルを行いますか?》

 

 

 

 

いらねぇよ。

 

 

俺は静かに目を閉じる。

周りの空間から自らを切り離すように、そして、過去への記憶を遡るように。

 

 

 

 

「……待ってろよ。結城」

 

 

 

 

 

 

.

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目を閉じて数秒が経った頃に、俺の頬には暖かくも柔らかい風が吹き付ける。

 

どこか気温も下がったような。

 

 

そして、ふと目を開けた時に見えた星空は、アルヴヘイム・オンラインが魅せる仮想空間だと認識させるに事足りるほどに美しかった。

 

 

現実じゃぁ中々観れるもんじゃないな。

 

 

背中に感じる冷たい感触は地面のそのものか。

 

微かに聞こえる雑踏に、ここがどこかの”街”であると理解する。

 

 

どうやら俺は街中で仰向けに寝転がっているらしい。

 

 

「……よっ。おぉ、身体が軽い」

 

 

ようやくに立ち上がった俺は、目の前に見えた噴水に近づき、水面に映った自分の姿を確認した。

 

 

「……っ!おい、どうゆうことだよっ!?…なんで、っ!なんでだよ!!」

 

 

 

少し緑掛かった黒く奥行きのある髪色と、細い身体がゲームの中ならではの幻想感を醸し出している。

 

ヒラヒラと舞うローブを被ったような服装はSAO当時を思い出す。

 

そして……。

 

 

っ!

 

 

 

「なんで目が腐ってんだ!?」

 

 

ばしゃん!と水面を手で弾く。

 

 

……茅場、おまえの仕業か?

 

 

やっちまったよ、おまえ。

 

 

俺の逆鱗に触れちまったよ。

 

 

……。

 

 

「……はぁ。諦めよう。俺に純粋な瞳は荷が重すぎるしな」

 

 

 

さて、まずは情報収集と行こうか。

 

と、街並みをキョロキョロと眺めていると、背後から忍び寄る気配に気がつく。

 

どうやらSAOで培った危険察知能力は健在のようだ。

 

 

「……?」

 

「っ!?」

 

 

振り向いた先には美しく透明な、女性ならではの線の細さときめ細やかな振る舞いをするプレイヤーが。

 

金に近い茶髪を腰まで伸ばしたそのプレイヤーは、俺と目が合うや妙に動揺した態度をとった。

 

 

「…あ?」

 

「あ、い、いや。…ゴホン。すみません、何かお困りですか?あなた、ルーキープレイヤーですよね?」

 

「……」

 

 

手を後ろで組みながら、彼女はニコリと顔を斜めに傾ける。

 

ふむ、なんと言うか……。

 

 

「……あざとい」

 

「……っ!?」

 

「あぁ、すまんすまん。んで、あんたはNPCか何か?」

 

「え、あ、…違いますよ?れっきとしたプレイヤーです。一応1年目の古参組なんですから」

 

 

そう言う彼女の装備は、確かに所々から長年のプレイにより得たであろうアイテムが備わっていた。

 

派手すぎない装飾や綺麗な服装は街中限定のオシャレアイテムだろうが、そんな物に金を……、ユルドを使えるんだから古参と言うのは嘘ではなさそうだ。

 

 

「え、えっと、私が何か?」

 

 

おっと、知らず知らずにジロジロと見てしまった。

 

いかんな、これじゃぁただの変質者だ。

 

 

「悪い…。あんたの言う通り、俺は今日の今、まさにこの瞬間に初めてダイブしたわけだが…」

 

「だからキョロキョロしていたんですねー。それじゃぁまずはこの街の案内をしましょうか?」

 

「いらん」

 

「い、いらん!?あ、あははー、えっとじゃぁ……」

 

「基本プレイが少しあやふやでな。他のMMOはプレイしていたんだが」

 

「え、えっと、そうなんですか?それなら直ぐに慣れると思います」

 

 

何やら胡散臭い女プレイヤーの親切心をバッサリと切り落とし、俺はSAO時と同様な素振りでアイテムやらステータスの確認をする。

 

 

……初期値高くね?

 

え、何これ、天才型?

 

 

ステータスを表す六角形のグラフはほぼMAXに近い数値が当てはめられていた。

 

ちゃっかり短剣の麻痺スキルまであるし…。

 

 

「ステータスを見てるんですか?初期値はみんな10前後だと思いますけど、ちょっとプレイすれば直ぐに上がりますよ」

 

「……ん」

 

 

やはり異常だ。

 

だが、どういうことかなんて本当は考えなくてもわかっていたのかもしれない……。

 

と、闇雲にアイテムストレージを開いてみると、そこには一つのアイテムが…。

 

 

「……ん、そうか。茅場の仕業か」

 

「へ?何か言いました?」

 

 

俺はそのアイテム名の欄をタップする。

 

 

光り輝くエフェクトはあの頃と変わらない。

 

 

どこか儚げで。

 

 

暖かい。

 

 

そんな小さな誓いの印が左手の薬指を包み込む。

 

 

 

「……結城」

 

 

 

そっと、ゆるりと、俺は約束の誓いを交わしたあの指輪を優しく撫でた。

 

 

 

 

さて、手っ取り早く情報を集めるなら、ALOに慣れ親しんだプレイヤーが必要だな。

 

利用できる奴は何でも利用する。

 

 

 

この、目の前にいる

 

 

何かを”企んでいる”であろう彼女も。

 

 

 

 

俺には最高に利用価値のあるプレイヤーなんだ。

 

 

 

 

 

「…さっきも言った通り俺は初心者だ。いろいろ教えてもらえるか?」

 

「はい!もちろんです!そうだ、あなたのお名前を聞いていませんでしたね」

 

「あぁ、俺はPoHだ」

 

「あはは!可愛らしい名前ですね」

 

 

柔らかく微笑む彼女の顔はどこまでも偽りで、だがその方が俺には安心出来てしまう。

 

 

本物とか、信頼とか、今の俺には必要がないのだから。

 

 

 

「よろしくお願いしますね。私の名前はーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーアイラです」

 

 

 

 

 

 

 


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