救いは犠牲を伴って   作:ルコ

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ハニートラップ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボロボロになびく黒いローブから見え隠れする小さな銃。

物寂しげにホルダーへ仕舞われたその黒い鉄は、この世界で戦うには不十分過ぎる程に貧相だと言われる。

 

別に、戦うためにココへ来たわけではない。

 

不純な動機なのかもしれないが、その銃が持つ名前に俺は惹かれたのだ。

 

ピースメーカー。

 

イイじゃん。

 

偽善者との呼び声高い俺にはお似合いな銃だと思うぜ?

 

 

「……」

 

「…?何ですか?」

 

 

気付けば、雪ノ下さんが寂しそうな表情でこちらを見つめていた。

高いプライドと、それに見合ったスペックを持つ彼女には不釣り合いな表情が、どこか俺の胸に違和感を覚えさせる。

 

 

「んーん。…比企谷くんさ、もっと明るい色の装備にしたら?」

 

「金色とかですか?」

 

「極端!?白とか青とかだよ!」

 

「…金色なら考えますが、白や青は無いですね」

 

「金色は有りなの!?」

 

 

比企ガメッシュ…。

 

ちょっと憧れてたんだよなぁ。

あぁいう徹底した慢心王に。

 

 

「ま、冗談はさて置き、今日はこの辺でログアウトしましょうか」

 

「そうだね。あ、比企ガメッシュくん」

 

「あれ?心の声がなんでばれてんすか?」

 

「明日さ、ちょっとリアルで会って話せない?」

 

「む?まぁ、よかろうですけど…」

 

 

違和感は次第に大きくなる。

雪ノ下さんの事を知った風に語る訳ではないが、俺の知る限りじゃ、彼女がこうした…、遠慮気味に物事を頼むことなど今までに無かったから。

 

 

 

「それじゃあ場所はーーー」

 

 

 

 

 

.

……

………

…………

……………

 

 

 

 

 

 

「…住所だとこの辺だよな…」

 

 

俺はスマホを睨みつけながら道を彷徨う。

閑静とは間逆な、ビルに囲まれた都心部の街中は雑踏に溢れていた。

コンクリートジャングルとはよく言ったものだ。

これだけの遮蔽物があるにも関わらず、隙間を縫って吹き付ける冷たい風は容赦なく俺の体温を奪う。

 

あぁ、寒い。

 

まだ秋だよね?

 

なのにこの寒さ…。

 

なに?ここってまさか、平行世界なの?

1の犠牲で全を救う世界なの?

 

くっそ、イリヤはこの寒さの中で、よくもノースリーブで活動できたな…。

 

ガチリスペクト…。

 

 

「…あー、もう。ココもさっき通ったわ。…はぁ、電話しよ」

 

 

挙句、似たようなビル群のお膝元で彷徨い続けた俺は、スマホを取り出し雪ノ下さんに電話する。

 

プルっがちゃ!

 

 

「早っ…」

 

『やっはろー!比企谷くん!道に迷ったのかなー?』

 

「ええ、その通りですよ。ちょっと迎えに来てもらっていいですか?」

 

『もー、仕方ないなー!』

 

「すみませんね。寒いんで、なるだけ早くお願いします」

 

『……』

 

 

む?

 

電話口から声が聞こえなくなった。

 

と、不思議に思っていた瞬間に、俺の背中が暖かい温もりに包まれる。

お腹に回された細い腕と、背中にぶつかる2つの柔らかい山…。

 

 

「迷子ちゃん確保!!」

 

「っ!」

 

「へへ、驚いた?」

 

「…。お、驚きました。俺が背中を取られるなんて…」

 

 

振り向けば、そこには満面の笑顔を浮かべた雪ノ下さんが。

 

久し振りに会った彼女は、薄い化粧に大人っぽい服装をしており、ほんのりと、甘い香水の香りを漂わせている。

 

 

「変わりませんね…」

 

「ふふ。ありがと。比企谷くんは変わったね。背も高くなって、少し柔和になった」

 

「…雪ノ下さんの方が柔らかかったですよ」

 

「え?何が?」

 

「別に…。それよりも、ここじゃ寒いんで早く移動しましょう」

 

「そだね……、って、なんで白衣なの?」

 

 

研究者ですから。

朝っぱらから服を選ぶような面倒に囚われず、俺は数枚のストックが並ぶ白衣を身につけるのです。

 

 

「この白衣は俺のお気に入りです。証拠にほら、ここにマッ缶を零したシミが」

 

「…き、着慣れてるってこと?」

 

「はい。言わば正装です」

 

「この子、慣れない社会人生活で頭がおかしくなっちゃったのかしら…」

 

 

おい、聞こえてるぞ。

 

言っておくけど、頭がおかしいのはお互い様だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほい、暖かいココアだよ。コーヒー飲めないでしょ?」

 

「飲めますけど」

 

 

下から見上げれば首にどれだけ負担が掛かるかわからない高層マンションの一室。

一人暮らしだと言うには広すぎる間取りのそこは、まさしく雪ノ下さんが住んでいますと主張するような物件だった。

 

小洒落たリビングに通され、洋風な部屋にギャップを生み出すコタツが面白い。

 

俺はそのコタツに身体を沈め、雪ノ下さんに手渡されたココアをゆっくりと傾ける。

 

 

「ふぅ、美味い。焙煎が違いますね」

 

「…それココアだから」

 

「どこ産の豆だろう…」

 

「ココアだって言ってんだろ」

 

 

余談だが、俺の住まいにコタツは無い。

それどころかエアコンを引いては暖房器具と言える家電は置いていないし、冷蔵庫や炊飯器すらも無いのだ。

 

言わば就寝部屋。

 

一度、その現状を知った結城に怒られたが、ほぼほぼ研究所に寝泊まりする俺には無縁な代物だ。

 

 

「それで?話って何ですか?」

 

「こら。コタツに潜ろうとしない。…もう、真剣な話なんだから…」

 

 

仕方なく、俺はコタツから顔だけを出して雪ノ下さんに目を向ける。

 

 

「例の事件についてなんだけど、私の持ってる情報を共有しようと思ってね」

 

「ほう」

 

「まず、君が知ってるのは事件の概要と、関連するのがGGOってことだけだよね?」

 

「そっすね」

 

 

すると、雪ノ下さんはニヤリと笑いながら俺を見下した。

彼女の姿勢が良いのか、それとも俺の姿勢が悪いのか、身長は俺の方が幾分か高いのに…。

 

 

「事件の概要は菊岡さんから聞いているんでしょ?」

 

「まぁ、半ば無理やり…」

 

「死んだ3人の詳細は?」

 

「仏さんの顔を見るほど心臓に毛が生えちゃいませんよ」

 

「その死んだ3人は、それぞれGGOの中でも顔の知れてるプレイヤーでね。……比企谷くん、

 

Bullet of Bulletsって知ってる?」

 

 

Bullet of Bulletsーー

 

通称 BoBは、GGO内で最強のプレイヤーを決めるバトルロワイアルだとか。

既に第1回から第3回までが開催されているらしく、近くに第4回のBoBが開催されるらしい。

 

 

「…んで、そのBoBがどうかしたんですか?」

 

「死んだ3人は、それぞれBoBで優勝、もしくは上位入賞したプレイヤーなの」

 

 

へぇ…。

もう、その情報だけ持って菊岡さんに依頼の完了を知らせたいわ。

 

俺はココアが空となったコップを置き、コタツ布団を肩まで深く掛けた。

 

あぁ、この温もりは天国かしら。

 

出来ることならこの中に永住したい。

 

 

「…もしもコタツ オブ コタッツが開催されたら参加してみましょうか」

 

「……」

 

「俺は巣に戻るんで」

 

 

面倒な事は聞きたくない。

嫌な事から逃げるに限る。

 

いそいそとコタツの中に潜り込み、外界からの悪い空気を遮断した。

 

 

「……逃げても無駄よ」

 

「無駄な事なんてこの世にありません」

 

 

雪ノ下さんの声がコタツ世界の外から聞こえてくる。

悪魔の囁きだ。

聞きたくない聞きたくない。

 

 

ふと、俺の世界に外界の悪意が迫る。

 

 

ガシっと、雪ノ下さんの細く長い脚が俺の顔をホールドした。

 

 

「むっ…」

 

「ふふ…。女性の足の臭いを嗅ぐなんて…、比企谷くんったらへ・ん・た・い…」

 

 

足……。

 

臭い……。

 

ニーソ……。

 

 

「なーんか暑くなってきたなー」

 

 

ペラ。

 

 

雪ノ下さんは自らの手で、淡く揺れる薄い布地をめくり上げた。

 

健康そうな太ももの先には、黒い三角の……。

 

 

「ちょ、ちょっと待てー!!わかった!わかりましたから!!」

 

 

コタツの中でジタバタとするも、体制の悪さと脚に抑えられているために、上手くコタツを抜け出せない。

 

その間も、雪ノ下さんは黒いソレを露出し続けた。

 

 

「見たよね?見たよね?」

 

 

そう言いながら、雪ノ下さんはようやくに俺の身体から脚を退ける。

 

急いでコタツから出るも、もはや規定路線から逸脱することは不可能なのだろう。

 

 

「比企谷くん、結城さんって知ってるー?」

 

「……何でも協力します。腐眼のPoHの名に恥じぬよう」

 

 

それを聞いて満足そうに顔を綻ばせる。

 

その短いスカートも、エロいニーソもこの為か…。

 

 

「……コタツの中はどうだった?」

 

「く、黒のショーツが世界を覆いました」

 

「そ、そう…」

 

「少し甘酸っぱいような、でも嫌じゃない香りが…」

 

「……ぅ」

 

「…少しむっちりした太ももがすごくエロくて…」

 

「わ、わかったから!ぁぅ、わ、私だって恥ずかしかったんだから…」

 

 

 

「でも、雪ノ下さんの顔を見たら全部収まりました」

 

 

 

 

「どういうこと!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






三浦メインの新作書きたくなっちゃった…。

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