星は夜空に輝くから綺麗なんだし!
晩秋に吹く強い風が彼女の金糸をなびかせる。
コンビニ袋を片手に帰ってきたアパートの一室に明かりは無かった。
部屋の明かりを点け、リビングに置かれた小さなテーブルの上に袋を置く。
「…はぁ」
小さなため息が部屋の中を揺らめいた。
袋から覗くカップラーメンが物悲しい。
年齢ばかりが大人に近づく女性の夕食が、カップラーメンと言うのも体裁が悪い気がする。
ただ、料理が作れるかと聞かれれば答えはNOだ。
彼女はキッチンへ向かいお湯を沸かす。
カップラーメンの蓋を開け、後はお湯が沸騰するのを待つだけだ。
ふと、彼女の視線が部屋の片隅に置かれた鞄へ移る。
その鞄の中には、会社から支給された、とあるゲーム機が入っていた。
彼女の勤める会社で先日から始まった仮想空間を利用したプロジェクト。
仮想空間内で使用できる、服のアバター?だとかなんとかを作るのだとか。
「…あのゲーム機で仮想空間に入れるってことだよね」
無知が故に至らぬ理解。
学生時代からゲームに疎かった彼女にとって、VRマシンは触った事のない未来ガジェットなのだ。
彼女は沸騰したお湯をカップラーメンに注ぎ、テーブルにそれを置く。
退屈な待ち時間を持て余すように、彼女は鞄からVRマシンを取り出した。
「あ、あみゅすふぃあー?…なんだし、これ」
未来ガジェットの名前はアミュスフィア。
昔流行ったナーヴギアの後継機である。
「……仮想空間って、あんまり良いイメージが無いんだよね…」
それもそのはずである。
数千人もの犠牲者を出したSAO事件は、高校生だった彼女にとって、すくなからず衝撃を与えた事件だ。
同じ高校に通う生徒が3名、その事件に巻き込まれている。
その内の1名は仲の良かった友人で、残りの2名だって面識が無かったわけではない。
そんな彼女にとって、仮想空間とは悪夢を増長させるような、現実からの延長線でしかなかった。
だが、会社の命令とあらば従うしかない。
「…なんだってあーしが…」
ゲーム用の服を考えねばならないのか。
そう、口に出したら仕事が鬱になる。
…んーん。
もっと楽しい事を考えよう。
所詮ゲームはゲームだ。
適当に仕事を済ませば直ぐに休日が来る。
今度の休日は久しぶりに買い物にでも出かけようかな……。
と、考えながらカップラーメンをすする彼女が、数週間後に仮想空間で大切な
.
…
……
………
「それじゃあまず、優美子ちゃんにはALOを知ってもらおうかな」
会社の会議室を貸し切り、今回のプロジェクトの主任を務める相川 啓太が説明を始めた。
高圧的に光る目障りなピアスを揺らしながら、不自然に優しくあろうとする相川に、あーしは少し苦手意識を持っている。
「今回、僕らはALO内で使えるアバターを作るわけだけど、優美子ちゃんは、ALOについてどこまで知っているのかな?」
「何も」
「はは。それならALOのPVから見てもらおうかな。これを見てもらえば世界観は伝わると思うから」
馴れ馴れしく優美子ちゃんと呼ぶな。とは言わずに、あーしは言われるがままにそのPVからとやらを鑑賞する。
流れるクラシックと、派手なエフェクト。
そのPVの中で、羽を持つ妖精のようなプレイヤーが、光の渦を作りながら夜空を飛んでいる。
その光景はまるで妖精のダンス。
もう少し若い頃なら、こんな世界に憧れて、仕事に関係無く熱中していたかもしれない。
「…ふーん。面白そうなゲームじゃん」
「そうでしょ!?実は僕もALOをやっていてね、このプロジェクトの主任に選ばれた時は飛んで喜んだんだよ!」
「あっそ」
あんたの趣味に興味は無いと言わんばかりに、興奮冷め止まぬ相川を放っておき話を進めた。
「それで、あーしはこの世界観にあったデザインを考えればいいわけ?」
「まあ端的に言えばそうだね。ただ、システムの都合やプログラミングの重さもある。そこら辺は専門家と相談しないとね」
そう言うと、相川は手早く自前のスマホを操作してあーしに見せる。
そこにはプロジェクト用の計画書と、それに携わる関係者の名簿が記されていた。
「今回のプロジェクトはレクトの研究開発部門との共同制作なんだ」
ーーーーーー★
「へぇ、GGOでそんな事があったんだ」
「うん。すごく大変だった」
小洒落たテラス席に座り、テイクアウトで購入したカフェラテを傾ける。
秋が深まる時期にも関わらず、陽気に照らす太陽が、これからまた夏でもくるの?と思わせる程に暖かい。
そのためか、結城の格好はどこか涼しげである。
「へくちっ!」
「もう。なんでいつも白衣の下は薄着なのよ」
と、言いながら、結城はいそいそと俺の肩に、自らが羽織っていたカーディガンを掛ける。
「白衣の下は半袖と短パン。これは研究者の掟だから」
「はいはい。それで?本当に危ない事は無かったのよね?」
結城は俺の手をテーブルの上でギュッと握りながら、訝しげな、そして不安げな瞳で俺を見つめた。
どこの世界でもその体温は変わらず暖かい。
手から伝わり、胸をポカポカにする結城の魔法に、俺はほんの少しだけ頬を緩ませる。
「当たり前だろ。この通りピンピンですわ」
「寝癖もピンピンですけどね」
ここ最近はポンコツのせいで何かと忙しかった。
そのために、こうして結城と一緒に出掛ける事も減っていたのだ。
久しぶりに落ち着いた休日を迎え、偶には彼女孝行でもしますかな、と重い腰を上げたわけだが…。
「……はぁ」
「…お仕事、そんなに忙しいの?」
「ん、まあな。随分と遊んじまったから、そりゃ溜まるよなぁ。ガチで猫の手も借りたい」
仕事の山がまったく片付かないのである。
ポンコツに絡まれていたせいで、仕事ばかりが溜まっていき、有給ばかりが減っていた。
なんだこれ、割りに合わん。
しかも、俺の知らぬ間にどこぞのアパレル会社と
「猫の手…。ひ、比企谷くん!」
「んぁ?」
「にゃん!あすにゃんが癒してあげるにゃん!」
「……」
「にゃぁん、にゃん!にゃーにゃーにゃー」
あらら。
大変なポンコツがもう1人増えちゃった。
ただまぁ、少し可愛いから付き合ってやるか。
かまくらはあんまり俺に懐いてくれなかったしな。
「あすにゃんは何ができるの?」
「比企谷くんのためなら何だってできるにゃん!」
「え、まじで?それならエクセルでマクロとか組める?」
「…そ、そういうのは出来ないにゃん。ほら、手が肉球だし…」
「……はぁ」
「で、でも、えっちな事とかならいっぱいできるにゃん!比企谷くんのマニアックなプレイにだってついていくにゃん!」
もはやこの状態がマニアックなプレイだっつの。
……っ!
こ、こいつ、まさかっ!!!
「おまえ、また勝手に俺ん家へ行ったんじゃないだろうな?」
「っ…」
「部屋に入ってないよな?」
「…は、入ってないにゃん。猫耳娘の爆乳発情期だなんてえっちなブルーレイも知らないにゃん」
あすにゃん…。
それは見つけちゃダメだにゃん。
ルコの作品に彼女は必須。
この章はいつもより気合を入れて書きますかな…。
腐れ正ヒロイン共をあーしの可愛さで淘汰してやる!!