救いは犠牲を伴って   作:ルコ

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流行と最先端は違う!!

 

 

 

 

 

分厚くなった資料をファイルに綴じ、説明用のデータをハードディスクに移す。

 

三日三晩徹夜で…、は言い過ぎだけど、1週間を掛けて作り上げた資料集を大事に鞄へと押し込んだ。

 

プロジェクト主任の相川は、資料には目を通しておくからと言ったものの、音沙汰なく打合せ当日を迎えてしまった。

 

まぁ、今から何か言って来ても遅いんだけど。

 

そう思いながら、あーしは少し重くなった鞄を肩に掛け、打合せ場所であるレクト本社の主任研究室へと向かった。

 

もちろん相川の同行は無い。

 

 

.

……

 

 

都心にそびえ立つ高層ビル。

その正面入り口には、レクトと書かれた会社名プレートが飾られていた。

流石は日本が誇る最大手電機メーカーだと感心しながら、緊張に身体を冷やしながら玄関口を潜る。

 

ロビーラウンジで来客者名簿に名前を書きなぐり、受付嬢に打ち合わせの旨を伝える。

 

 

「レクト・プログレスの研究部門ですね?」

 

「はい」

 

「少々お待ちください」

 

そう言うと、受付嬢を務める彼女は丁寧に内線電話の受話器を持ち上げ電話を鳴らす。

 

「比企谷さん、お客様がいらっしゃっています。主任室へ通されますか?」

 

「…む?」

 

ヒキがや…。

なんか聞いたことがある。

 

「はい。確認いたしました。…三浦様、エレベーターで8階へお上りください。A会議室をご用意しております」

 

「あ、はい。どうも」

 

小さな疑問を抱きながら、あーし通されるがままにエレベーターホールへと向かう。

 

6機あるエレベーターの一つにランプが灯り、それに乗り込むと、ボタンは既に8階が押されていた。

 

 

うぃぃぃ…、チン!8階です。

 

アナウンスに従い8階で降りると、またまた長い廊下と簡易なフロアマップが。

 

「むむ。あーし、地図って苦手だし…」

 

むぅ?右行って左行ってまっすぐ歩けばいいの?

待て待て、分岐があるし!

ちょ、迷わせる気!?

あーしをフロアで迷わせる気なの!?

 

なんて、冷や汗をかいていると、フロアマップから機械的な音声が流れだした。

 

ーーラインに従い進んでください。

 

すると、長い廊下の壁に光の矢印とラインが現れる。

 

「ほぇえ〜。ガチで最先端じゃん。このオシャレな感じが大企業っぽいし」

 

光に導かれること数秒。

 

扉に貼られた銀アルミのプレートにはA会議室と記されていた。

 

…こ、ここか…。

 

 

「…ふぅ。よっしゃ、行くか…。失礼しまーす」

 

 

簡易的な扉は抵抗なく開かれる。

取っ手部分の冷たさは、どんな大企業でも同じなんだな、と考えながら、あーしは会議室へと足を踏み入れた。

 

 

 

「アダム・スコッチの三浦です。本日はよろしくお願い致します」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー★

 

 

 

 

 

受付からの内線に、主任室で眠っていた俺は飛び起きる。

昨夜も遅くまで部屋に篭り、缶詰状態で仕事をしていたため、そのままココで寝てしまったようだ。

 

そうだ、打合せ…。

 

一色のバイト時間は午後からだからそれまでに終わらせなくては。

 

と思いながら、流石にこの起き抜けの顔で、さらには生活感の溢れるこの部屋に先方を通すわけにもいかず、俺は空いていたA会議室へ通すように伝えた。

 

「10時…。ちょっと寝すぎた…」

 

焦ることなく椅子から立ち上がり、凝り固まった腰と肩を回す。

同時にスマホをチェックすると、そこには一件のメールが受信されていた。

 

 

結城ーーーー

 

お仕事と掛けまして

 

比企谷くんと解きます

 

ーーーーーー

 

 

「…あ?」

 

なんだこのメールは…。

そう思って返信を送ろうとすると、それは俺の寝起きを予想していたかのように新着メールを受信した。

 

 

結城ーーーー

 

仮想(火葬)はお好き?

 

ーーーーーー

 

 

……怖っ。

なんだコレ。

あ、あいつ、遂にトチ狂ったのか?

 

俺は恐怖に駆られるまま、スマホをタップして電話画面を開く。

 

トゥル…ガチャ!

 

「!?」

 

『おはよ。比企谷くん』

 

「お、おう。おはよう」

 

『ねえねえ、約束覚えてる?』

 

 

その声には正気を感じない。

ピリつく空気が電話越しにも伝わってくる。

 

落ち着け…、落ち着け俺。

 

なんだ?約束?…約束、俺は結城と何か約束を……っ!?

 

 

「あ、あぁ、覚えてるよ。た、た、た、確か夕食を作ってくれるんだったっけな」

 

『もー、ちゃんと覚えてるじゃない。…ねえ、だから早く。早く。早く帰ってきて。ねえねえ、比企谷。ねえ。私、もう15時間くらいキミの部屋でマッテルンダヨ?』

 

 

止めどなく溢れる冷や汗が背中を伝う。

狂気が込められな言葉には、俺の心をすり潰す程の重力を感じる。

 

そ、そうだ…っ、昨日は結城が俺ん家に来て夕食を作る日じゃないか!

 

仕事のスケジュールばかりに気を取られていた俺の失態…っ。

 

過失…。

 

遁走…。

 

 

「…ご、ごめんなさい。きょ、今日は帰るから!そ、そうだ!おまえアレ好きだろ!ピーナッツ!ピーナッツバターいっぱい買ってきてやるから!!」

 

『……。いらない』

 

「あ、あぅ、あぅ…。あ、あれだ、ほら……。ほんとにごめんなさい」

 

『…もう。いい加減にしてよね。私だって怒るときは怒るんだからね?』

 

 

いつも怒ってるじゃないですかー。

とは言わない。

言えない。

 

 

『仕事が忙しいことは分かってるつもり。だからせめて連絡ぐらいしてよね』

 

「…ん。悪かった。気をつけるよ」

 

『それ、前にも言ってた』

 

「ぐ…」

 

『あんまり約束を破るようなら、GPSだけじゃなく首輪も着けますからね』

 

 

GPSは当たり前に着けられてるんですね。

 

電話越しに柔らぐ結城の声に安心しつつ、俺は再度謝り電話を切った。

 

GPSだとか、首輪だとか、火葬だとか、ちょっとメンヘラ過ぎませんかねー。

 

…はは、まぁ、そんな所も可愛いんだけどさ。

 

さて、そろそろ会議室に向かいますか。

 

 

ぼっちおうのおしごとが待ってるから。

 

 

 

.

……

 

 

 

で。

 

主任室から会議室へと場所を移し、待つこと数分。

外からカツカツと、靴がフローリングを叩く音が聞こえてきた。

 

先方は1人か…。

 

などと推測しながら、俺は来客様のために来客用のマッ缶を用意する。

 

 

するとーーー

 

 

「失礼するよ。む!?ひ、比企谷!!?」

 

 

 

「げぇ!?須郷くん!?」

 

 

 

 

「す、須郷くんはやめろ!!」

 

 

 

 

 

須郷伸之が現れた。

 

 

 

 

 

 

 


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