The Phantom pain ~ 十一人の無き者たち   作:1056隊風見鶏少尉

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十四話

 

 

 

 

 

 「――やれるもんならやってみやがれ!」

 

 高橋友貴軍曹が挑発するように叫び、懐から二挺目のグロック拳銃を取り出し、後藤正俊二等兵へ向かって発砲する。

 

 「――アァ、イイゾ」

 

 感情の抜けた声で後藤はそれに答える。

 金属片を手にし、駆ける。別段、速かったわけではなかった。しかし、弾丸はまるで後藤を避けるように当たらず、距離が狭まってくる。

 

 「――くっ⁉︎」

 

 ぬっ、と伸びて握られたグロック拳銃は飴細工のように握りつぶされ使い物にならなくなる。

 離れようとグロック拳銃から手を放し、足を動かそうとするが、その前に先手を打たれる。

 

 「――ッ」

 

 自身の腕をボロボロでガサガサな手のひらで掴まれる。まるで人の手とは思えない感触、握りつぶす一歩手前まで握られ、思わず声をあげそうになる。

 しかし、声が出そうになったのはそれだけではなかった。

 

 高橋友貴(自分)を見る目が何よりも恐ろしく見えた。

 感情のこもっていないように見えたその双眸にはマグマのような憎悪とただ殺すことしか考えていない闇が見えた。

 

 ――だからだろうか、自分の腕が斬られたのに気付かなかったのは。

 

 飛び散る血飛沫、綺麗に切断された肉と骨の断面図を見てやっと友貴は我に返った。

 

 「ぐぉっ――」

 

 呻こうとして失敗する。いや、出来なかった。

 腹部に旗槍が突き刺さり、慣性の法則によって大きく後ろに持っていかれ、壁に叩きつけられる。

 

 「友貴!」

 

 「おいおい、俺がいるのによそ見とは――死ね」

 

 堂島賢は軍刀で鉈をギリギリ防ぎながら目線だけを高橋友貴に向ける。

 そこに投げかけられる言葉にゾクリと背筋が粟立ち、視線を内藤正樹に向ける。

 ――一瞬だった。

 

 一瞬で先ほどまでの拮抗した状態は崩れ去り、受け止めていたはずの軍刀ごと肩口に追いやられる。

 

 「ぐっ、ああああああっ!」

 

 全力でおしかえそうとするも全く動かず、こちら側が押されていく。

 ついには軍刀にヒビが入る。

 

 パキッ、ピキッ、と音を立てながら刀身に亀裂が入っていく。そして耐え切れなかったように刀身が砕け折れ、鉈が堂島の肩に触れる。そこからまるで柔らかいものを切るかのようにズブズブと刃が沈んでいき、肉を、骨を押し切っていく。

 その鉈が15センチほどめりこんでから堂島すぐさま動く。

 押しても引いてもビクともしない鉈に、こちらから抜きに行く形で内藤を蹴る。それで右肩から両断されることは防げた。

 

 受け身も取れず、無様に地面を転がる堂島。

 

 ――堂島賢に高橋友貴。すでに死にそうになっている二人の元に液体の入った一本の試験管のようなものが飛来してきた。

 後藤正俊と内藤正樹はあえてそれを見送った。

 

 飛来してきた元を見ればそこには伊東宏臣軍医がいた。

 

 「――よかったのか、みすみす見逃してしまっても?」

 

 「殺すんだ。少しくらいのハンデなどくれてやる」

 

 伊東軍医はふんと鼻を鳴らし、齋藤駿中佐は余裕綽々といった様子で佇んでいた。

 

 液体がかかった二人の傷は瞬く間に癒えていった。傷が完全に癒えると立ち上がり、動きを確認するように軽く動かす。

 

 「おおっ、身体が軽いぜ、これなら――」

 

 突如、高橋友貴と堂島賢の体から血が噴き出し、肉を隆起させ、身体が変形していく。

 

 「ガァッ……!? なんだこれはっ」

 

 「た、たすけ――」

 

 言っている間も止まらずに変わり続けた二人はついに人ではなくなった。

 

 正確には人の形は保っているもののその身体は人ではなく異形だった。脚や腕は醜く肥大化し、辛うじて見ることのできる顔面から覗く双眸はすでに生気を宿していなかった。

 

 「やった、ついに完成したぞ!」

 

 そこに場違いな声が響く。

 声の主は伊東宏臣であった。

 

  「ついに私はこの不死薬を完成させごえっ――!?」

 

  「お前はもう死ね」

 

 鉈で四肢全てを切断され、頭部を鷲掴み万力のように手のひらと五指に力を入れていく。冗談のように頭部からはミシミシといった生命の危機を感じる音が鳴り、伊東は恐怖する。

 

 「ひっ、ま、待ってくれ、殺さ」

 

 ぐしゃりと伊東の頭は熟れた果実を握りつぶすが如く有様へと変わった。

 地面に力なく投げ出された伊東の死体を見て齋藤駿は一言だけ呟く。

 

 「……お前たちの無念は晴らせんかったな。せめて安らかに――齋藤駿以下全隊員に捧ぐ」

 

 鎮魂とばかりに一度旗槍の石突をじめんに打ち付ける。甲高い音が鳴り、齋藤は目を瞑る。

 

 そこに飛来する二つの巨体。振るわれた丸太のような脚と腕はしかし齋藤に当たることはなかった。

 

 「――――」

 

 鉈で両断したはずの部位が生えていく。それを内藤と後藤は見て酷く落胆した。

 

 「――つまんねぇな」

 

 「既二生キテイナイナラ意味ハナイ」

 

 武器を構え、ただの肉塊を見てから声をだす。

 

 「――内藤正樹が以下全隊員に捧ぐ」

 

 「――肉塊ナゾタシニモナランガマアイイ、後藤正俊ガ以下全隊員二捧グ」

 

 そこからは速かった。地面を踏み砕きながら目の前に来た異形を瞬く間に解体していく。

 

 腕を脚を胴体を頭部を掌を足を腹部を顔面を五指を内臓を脳みそを心臓を頭蓋を全て解体していく。

 

 いくら再生ができるといってもこうもバラバラにされては回復速度は大きく低下していた。

 

 

 

 

 

 そして――

 

 

 そこには身体など存在しておらず、大きな血溜まりが二つあるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 




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