八幡side
放課後、奉仕部部室にて俺、雪ノ下、由比ヶ浜の三人はいつものように依頼人もなくグダグダした放課後を過ごしていた。
由比ヶ浜はケータイを、俺と雪ノ下は本を読んでいた。だが、本の内容が入ってこない。ペラペラと本をめくってはいるが、落ち着かない。
「そういえば今朝ニュースで見たけど、路地裏に半分になった死体があったんだって。怖いよね」
「そういえば、今朝そんなニュースをしていたわね。なんでも、男子高校生が刀で切られたように胴体が切断されていたとか。死亡推定時刻は一昨日の夜くらいだったかしら」
俺は冷汗を書きながらも平静を装う。
「そ、それはすごいな。由比ヶ浜がニュースを見ているなんて」
「それどういう意味だし!」
一昨日、その殺人事件の犯人と接触して介抱したばかりか連絡先まで交換したとは言えん。あいつは、また会いたくなったら連絡するとその時は笑顔で帰っていったが、正直落ち着かないのが現状である。
「ていうかヒッキーここ最近なんか様子おかしくない?」
「そ、そうか?どのあたりが?」
「んーなんというか、キモい?」
「おい、それはいつも言われてるだろ」
「あら、クズ谷くん、あなたは自分が排水溝に詰まった汚物のような存在であることを自覚していたのね。驚きだわ」
「いや、そこまで言ってないだろ……言ってないよね?」
急に自身なくなってきた。え、由比ヶ浜もそう思ってるの?
「いや、その、そこまでじゃないけど!なんというか、排水溝に詰まるほどじゃないっていうか……」
「つまり汚物とは思ってるってことじゃん……」
二人でバシバシ攻撃してくんじゃん……なに、鏖殺兵器なの?だったらちゃんとペインレスしてよ。めっちゃ心が痛いんですけど。
『レ・ミ・ゴー♪いつだってー、最大のポテンシャルで~♪』
突如鳴り響いた俺の携帯に俺自身がビックゥ!してしまう。雪ノ下と由比ヶ浜が『やっぱり……』と汚物を見るような目で見てくる。え、やっぱり汚物なの?今のどこに俺が非生物だと納得出来るところがあったの?着信音が『天誅ガールズ』だから?それともビックゥ!てしたから?
携帯に表示されている名前を見て、今すぐこの携帯を窓から投げよっかなーなんて思ってしまう。
「すまん、電話だ。ちょっと席を外すわ」
「そう、あなたに電話、ねぇ」
「ええっ!ヒッキーに電話!?」
「おい、どういうリアクションだよ。俺だって電話くらいするわ。戸塚とか小町とか戸塚とか小町とか、あとは……いないな。うん。いない」
というわけで部室を出て電話に出る。と、いきなり鋭い第一声が。
『おそい』
「悪かったよ。てんど……」
『木更』
「……木更」
『よろしい』
昨日、俺の自宅を出ていった木更が連絡を取ってきたのは初めてだ。まさか、やっぱり俺、殺される?キサラが斬る!しちゃうの!?俺は民を苦しめてないですって!
「それで、何の用だ」
『……』
「え?なんて?」
『……せて』
「だから聞こえないって」
『ご飯食べさせてって言ってるの!!!』
おおう、耳がキーンとするわ。どんだけ声でかいんだよ。
『比企谷くんの家を出てから、何も食べてないの。もう、限界……』
あのお粥から今まで何も食ってないのかよ。そりゃ腹も減るわな。
『ああ……なんでこんなこと暴露しなきゃいけないの……恥ずかしいじゃない……』
「木更が勝手に爆発したんだろ……分かった、分かったから。今どこにいる?」
『あなたの学校の前よ……』
「まじかよ……分かった。なるべくすぐ向かう」
『今すぐ来なさい。じゃあ、切るわね』
……財布の中いくらあったかな?
部室の戸を開けると、戸のすぐ前に雪ノ下と由比ヶ浜がいた。
「え、あ……ヒッキー急に戸を開けたら危ないじゃん!」
「本当だわ。ノックも出来ないのかしら。一度躾け直す必要がありそうね」
「悪かったよ……で、なんでお前らそんなとこにいるの?」
「別に、私たちがいる場所を比企谷くんに決められる筋合いはないはずなのだけれど」
「まあいいけど……すまんが、俺は急用が出来たから帰るわ」
「ねえ、その急用ってさっきの電話?」
「え、ああそうだが」
「比企谷くんと食事に行くなんて、どこの女なのかしら。説明してもらいたいものだわ」
「説明って……おい、ちょっと待て。なぜ電話相手が女だと知っている。そしてなぜ食事に行くなんて言えるんだ」
「ええっ!それはヒッキーがその……」
「お前ら戸の前にいたけどまさか聞いていたのか?どんだけ俺の電話疑ってんだよ……」
「いえ、その…………何を言っているのかしら比企谷くん。あなたまさか自分の電話が私たちに盗み聞きされたとでも言いたいのかしらまったくどれだけ自意識過剰なのかしら私たちがそのことを知っているのはあなたの声が大きすぎるから聞こえてしまっただけよむしろその声を聞かされたことに慰謝料を請求したいレベルだわ」
「お、おう……それは悪かった。まあそういうわけだから俺は帰るわ」
もうホント申し訳ないからとっとと帰ろう。
「ゆきのん」
「ええ由比ヶ浜さん」
『後を追う(わ)よ!!!』
校舎を歩きながら窓を見ると校門の向かいの塀に黒セーラー服の美少女がもたれかかっている。周囲にちょっとした人だかりが出来ているが、意に介していないかのようにぐったりとしている。
うわぁ……近付きたくねぇ……と思っていたらギロリとこっちを睨まれた。そしてニッコリとほほ笑む。その笑顔は雄弁に語っていた。『早く来い』と。
慌てて下駄箱に向かって靴を履きかえて校門へと向かう。
校門には優雅にたたずむ木更の姿。さっきのぐったりとした姿が嘘のようだ。手で長い黒髪をシャララーンとしたりしてる。
「さあ、行きましょう、比企谷くん」
「……で、何が食いたいんだ?」
「肉!」
「……直球だな。となると……あそこしかないか」
学生の味方、サイゼである。
「うん、美味しいわ」
「……どんだけ食うんだよ足りなくなったらどうすんだよ……」
ナイフとフォークでハンバーグを切る様はとても優雅で政治家のお嬢様であることを思い知らされる。そのわきに積まれた十数枚の食器がなければ。
「ふう、美味しかった。御馳走様。これでもう大丈夫よ」
「大丈夫って、また空腹でぶっ倒れて電話してくんなよ。毎回こんなに食われたら俺の財布が枯れちまう」
「大丈夫。これが最後の晩餐だから。そうして見せるから」
「……まさか、お前」
「……ええ、明日、最後の一人、天童菊之丞を呼び出して、殺すわ。そして私も」
「……そうか」
「あら、止めてくれないのかしら」
「止めてほしいのか」
「そんな訳ないでしょう。これは私の悲願よ。止めるなら、あなたも殺す」
「ああ、知ってるよ」
「なら安心したわ。私、ちょっとお花を摘みに行ってくるわ」
そう言って席を立とうとした木更だったが、よろけて通路に倒れそうになる。
「オ、オイ!」
とっさに席を立って木更を抱きかかえる。
「大丈夫かよ!?まさか、腎臓がどうとかいうやつか!?」
「いえ、その……人工透析はここに来る前に済ませてきたわ。ちょっと足がすくんだと言うか震えたというか……」
「やはり、明日の復讐か……?」
「うん、ちょっと……。だから、その、抱きかかえられるのは、恥ずかしいわ……みんな見てる……」
言われて今の状況に気づく。はたから見ればお姫様抱っこに見えなくもない。
「あ、ああ、すまん。えっと、起き上がれるか?」
「ちょっと待って。足がまだうまく動かないの。そっちから持ち上げられない」
「こっちも、その、重……」
「重い!?ちょっとそれどういう意味よ!?」
「いや、体勢的にこれは持ち上げるのが難しいという意味でだな……」
二人ですったもんだやってると二人の女子生徒が通路に立ってこちらを見つめているのに気付いた。
「比企谷くん?往来の場で何をしているのかしら。節操のない猿には去勢手術が必要かしら」
「ヒッキー?部室であたしたちを置いて帰っておいてこんなところで知らない女と何してるのかな?」
二人とも目のハイライトが消えている。とんでもなく怖い。俺、やっぱり死ぬかも。