艦隊これくしょん - そこで生きる少女たち -    作:みどいろCPU

11 / 11
episode04 (2/2) - あの日 -

【#】

 

 

「…え?」

「いやな…今度は英語Bのノートをだな…」

「麗…あなたノート取ってないでしょ」

「いや、取ってはいるんだ…いるんだが...」

「...何よ」

「...いや、何でもない。私の不手際なんだ。だから...そのだな...」

 

チラチラと目をそらしながら言う麗。

思わず出る溜息を吐き出して私は鞄から英語Bのノートを取り出す。

 

「おお、流石だな。恩に着る」

 

手を合わせて嬉しそうに表情を変えた麗。

 

「どういたしまして。はい、どうぞ...」

「大和さん」

 

私がノートを渡そうとした瞬間、ふと隣から声を掛けられた。

確かこの子は、名前は分からないけれど隣のクラスの子だった気がする。

 

それと、その子の他にも数人、廊下でこちらを見ている女子生徒。

 

「...ちょっといいかしら」

「...ええ、構わないわ」

 

女子生徒に呼び出され教室を後にする。

麗が不思議そうな目でこちらを見ていたが気にしないことにした。

そして恐らく彼女は気づいていないだろう。

 

その女子生徒が一瞬だけ見せた顔。

如何にも人間らしい、私を憎むようなその顔を。

 

 

 

【#】

 

 

 

「大和さん、最近武蔵川さんと仲が良いわよね」

 

体育館横の倉庫前まで連れてこられた私はまず第一声にそんな事を言われた。

 

「そうね、最近よくノートを借りに来るわ。 ノートをちゃんと取ってないのかしらね」

「アンタねぇ...」

「まぁまぁ、待ちなよツグミ」

 

突然怒りの剣幕を私に向けたツグミと呼ばれる女生徒を先ほどの女生徒が制止する。

残りの子らも私を取り囲むようにして立っているため、どうやらここから素直に立ち去る...ということは出来なさそうだった。

 

「それで、なんで私はここに呼ばれたの?何かあなた達の気に触るような事をしてしまったのなら謝るわ」

「貴方自身に心当たりは?」

「ごめんなさい、見当もつかないの」

 

本当は大体分かっているのだけれど、もしもそれが当たっているなら馬鹿らしいなんてものじゃ済まない。私はちっとも悪くないはずだ。

けれども...。

 

「正直に言うとね。貴方、最近武蔵川さんとイチャイチャして...目障りなのよ」

 

やっぱりそうだった。

 

校内でも、いや、全国でも彼女程の容姿端麗でスポーツ万能、男勝りな女子生徒なんて両手で数え切れる程であろう。

そんな子に校内でのファン、もしくは恋愛感情を持つ人は少なくないはずだ。

 

きっと、この子達もその類だろうとは思った、だけど、どうやらそれが分かったところでどうにかなる状況でもなさそうだった。

 

「貴方も分かるでしょ?武蔵川さんはこの学校でも人気の存在、それどころか学外のファンだって多いわ。清く、凛々しく、そして美しい。なのに、あなたという人がいるから...!」

 

先程までの比較的穏やかな表情が一転。

教室で見たあの顔だ。

 

「武蔵川さんはこれといって親しい友人は居ないはずなの。私たちも他の子もね、そこに好かれているの。だからね、さっきみたいにああいう事されると困るのよ。

ちょっと頭が良くて背が高いからって調子に乗らないで」

 

他の女生徒が続けて言う。これで彼女らが言いたいことは分かった。

けれど。

 

「あなた達、もしかして私の他にもこんな事言ってたの...?麗と仲良くする子を、楽しそうに話す子には皆...」

「そうよ。といってもまぁ2、3人だけどね」

 

表情を変えずに彼女は言った。平然と。

 

突然、怒りが湧いてきた。

 

「そんなことをして...何になるっていうの?貴方達は麗を守っているつもりなのかも知れないれけれど彼女からしたらいい迷惑って事に気づかないの?

いや、いい迷惑どころじゃないわ、人として...最悪!」

 

ドンッ、と鈍い音がする。

それと同時に私は地面に座り込んでしまう。

女生徒の1人が私を突き飛ばしていたのだ。

 

「ごちゃごちゃうるさいし...何?その態度」

「ムッカつく...」

「ねぇ、もはやさ他人と喋れなくしてやればいいんじゃない?」

「あーいいねそれ」

 

物騒な会話を挟んだ後女生徒の1人が私の制服を掴んだ。

その時。

 

「楽しそうだな、私も混ざっていいか?」

 

突如聞こえた全然楽しそうじゃない声。

その声の主は事の主要人物、武蔵川麗本人だった。

流石にこの事には彼女らも驚いたらしく私の制服からもすぐに手が離される。

 

「む、武蔵川さん、これは...そのね...」

「?どうした?随分と楽しそうにじゃれ合っていたようだが違ったか?ほら、私のことはいい。続けろよ」

「えっと...」

「...そうか、終わったのなら大和を連れて帰るからな。ほれ、大和。行くぞ」

「え、えぇ…。」

 

麗が軽い調子で出した手を座った私は握り立ち上がった。

すぐに私の手を引いて歩き出す。

しかし、すぐに立ち止まり振り返らずに麗は口を開いた。

 

「これ以上私と大和の前に顔を見せるな。...目障りだ」

 

 

はっきりと、切り捨てるかのように言ったその言葉は...。

誰よりも麗に憧れていた彼女達にとってどれほどのものだったのか。

私には分からないがきっとそれは、愛した人と決別するのと同等のものなのかもしれない。

 

どこかで見た彼女達の表情を見て何となく、そう思ってしまったのだ。

 

 

 

【#】

 

 

 

『立ち入り禁止』

 

目の前の看板にはそう書かれているはずなのだが見えていないのか、はたまた無視しているだけなのか、彼女は軽々と柵をよじ登っていった。

 

「登れるか?」

 

そう言って彼女は私に手を差し伸べる。

 

「ええ」

 

私は少しの罪悪感を感じながら彼女の手を握り、柵を登り始めた。

 

 

事は3時間前。

私が呼び出された日から三日。

あの日から麗には友人が増えていた。

例の三人組が余程麗の周りをうろついていたのだろう、彼女らがすっかり成りを潜めたその隙に多くの生徒が麗に話掛けるようになっていた。

納得だ。本来ならばこの程度で済まないのだろうが…それでも彼女に笑顔が増えたのは確かであった。

 

そんな中、私は麗に一枚の紙を渡された。

そこには『ここで待ってる』、そんな文字と無駄に分かりやすい地図だけが描かれていた。

放課後、地図に記された場所に行くとそこには一本の電波塔がそびえ立っていた。

錆び具合や生い茂る雑草、そして此処は誰も知らないような森の中にある…ということを考えるとどうやら今は使われていないようだった。

何故こんな所に…?

そう思った丁度その時、麗が姿を現したのだった。

 

「…それで…なんでこんな所にっ、呼び出したのよ…」

 

運動部でも何でもない私は息を切らしながら梯子を登っていく。あぁ、制服で来るんじゃなかった。

 

「まあもう少し待て。あそこに着いたら教えるさ。というか、ジャージで来いって書いておけば良かったな」

 

そういうあなたも制服じゃないの。なんて心の中で突っ込みながら梯子を登り続ける。

本当に、何があるというのだろう。

 

「っしょっと。お疲れさん、着いたぞ。」

 

いつの間にかゴール地点にたどり付いたようだ。梯子が消えて展望台のような足場になっている。

何メートル登ったのだろうか、考えるのも恐ろしくなり早々に登り切り前を見た。

 

「な?綺麗だろ?」

 

一隻の船、障害物すらない一本の水平線と夕日が、そこに広がっていた。

 

「この時間になるとな、いい感じの風景になるんだよここが。他の人には言うなよ、一応立ち入り禁止だからな…ってどうした?」

「えっ…」

 

気づけば、私はすっかりその光景に見入っていた。ひどく懐かしい、そんな気がした。

 

「気に入ったか?」

「えぇ…とっても。素敵な場所ね。どうやって此処を?」

「あぁ…そっか…。その話をしに来たんだった…」

「?」

 

先ほど言ってた事だろうか。彼女はその場に腰かけ夕日を見ながら口を開いた。

 

「私にはな、姉が居たんだ。私が12の頃に死んだんだけどな。知ってるだろ?旅客機の墜落事故、生存者が無傷の女の子1人だったってあれだよ。酷い事故だった」

「まさか、その生き残りが…?」

「いや、それは違う。その時私は部活にいたからな。…その子はどうなったんだろうな、当時は幸運の子、奇跡の子なんて呼ばれていたな。幸せに暮らしていればいいが…」

 

なんて言葉を掛ければいいのだろうか。彼女の寂しそうな表情を変えられるような言葉は私には思いつかなかった。

 

「この場所は、姉さんが教えてくれた場所なんだ。丁度こんな景色だったよ。初めてここに来たあの日も。」

 

麗は立ち上がり、手すりに手を掛けた。

 

「私は姉さんが大好きだった。綺麗で、優しくて、強くて。でも、もう居ない。酷い虚無感だったさ。あの日からずっと。毎日。

…でもある日。私は見たんだ。学校で、姉さんにそっくりな人を。」

 

「顔も、髪の長さも、目も口も。まるで瓜二つだったんだ。…身長こそ違ったけどな、でも当時の私と姉さんはそうそう背は変わらなかったのさ。だから、違和感は無かった。」

 

私は言葉を発する事が出来ずにいた。次第に重みを増してくる麗の言葉の一つ一つが私の中の何かを押さえつける。

 

「…もう分かっただろう?私が何を言いたいか」

 

ええ。分かった。分かってるわ。でも聞きたくない。だって、聞いてしまったら私は____。

 

「…すまん大和、言うべきじゃないのかもしれない。だが、言わせてくれ」

 

嫌だ、聞きたくない。

 

「そっくりだったんだ」

 

聞いてしまったら私は。

 

「姉さんと」

 

私は…。

 

「お前が…!」

 

 

何になってしまうのだろうか。

 

 

 

涙が一粒、私の足元に落ちた。

それと同時に、私の中からも何か大事な物がこぼれてしまったような気がした。

初めて声を掛けられたあの時。

一緒に外食したあの時。

私を助けてくれた、あの時。

その中のどれでも良かった、麗が私を『友達』と思ってくれていたなら。

それだけで、私は嬉しかったのに。

麗の言葉を聞いて、ふと自分は麗と友達ではなかったのだと思った。

きっと彼女に悪気は無い、いや、決してないだろう。それなのに。

私は、私が『友達ではない別の何か』になってしまったのだと感じた。

 

そう思うと…。

なんでだろう。もう、どうでもいいやって。

 

「大和…?」

「あ…あぁ…。いいの、ごめんなさい。気にしないで…」

「ッ…!すまん…大和。悪かった…」

「何謝ってるのよ、何も悪い事なんてしてないじゃない」

「いや…しかし…」

「はい、ストップ。これ以上謝らない。こっちが申し訳なくなるわ」

「涙を…拭いてくれ…」

「あ、結構時間経ってたのね。遅くなると迷いそうだし、そろそろ帰りましょ」

「頼む大和…」

「…なにぼーっとしてるの?梯子降りてるわよ?」

 

 

「行かないでくれ!」

 

 

「…頼むから…行かないでくれ…」

 

涙を流しながら、麗はその場に崩れ落ちた。

 

「もう、これ以上誰かを失うのは嫌なんだ…」

 

似つかわしくないくらいの小さな声で彼女は口を開いた。

 

「…怖かったんだ。この事を言ってしまうと、また…誰かを…。大和を失ってしまいそうで…。でも、ここで言わなければいつまでも嘘を事になる。

確かに、姉さんと似ていた。だから近づきたかった。また一緒に過ごしたいと思った。けれど…!これだけは誤解しないでほしい!私は…お前を…!

お前を友人でないと思ったことは一度もない!!」

 

堪え切れなかった。

いつの間にか、私は走り出していた。

涙でぐしゃぐしゃになった彼女の顔を、私は必死で抱きしめる。

同じだった。私だけじゃなくて彼女もまた、失うことを恐れていたんだ。

 

大切なものを、やっと手に入れた失いたくないものを。

 

「大和…?」

「ごめんなさい…麗。私、何も分かっていなかったわ。あなたの事。」

「だが…私は」

「私はあなたのお姉さんなの?」

「…!いや、決してそんな事は!」

「ならいいのよ。それだけで十分」

「…そうか」

「ええ」

 

 

「…やっぱり、ジャージの方が良かったな」

 

 

 

【#】

 

 

「そう。麗のお姉さんって凄い人だったのね」

「まぁ…な。その点私は何も能が無いがな」

「そうね、バレーボール以外」

「…そこはお世辞でも何か言ってほしいのだが?」

「あら?自分で言ったんじゃない、何も能が無いって」

「まぁ…それもそうだが…」

「ふふっ」

「…性格変わってないか大和お前…」

「そんな事無いわよ?ふふ…」

「ハァ…どうだか…」

「それにしても綺麗ね。この景色」

 

夕日が沈みかけ、水平線がオレンジ色に染まる。

いつまでもこの風景を見ていたい、そう思わせてしまう力がそこにあった。

 

「…ねぇ、麗」

「なんだ?」

「この景色…どっかで見たことない?」

「?いや、それこそ私は何回もあるが…。似たようなものは見たことがないなぁ。元は内陸生まれだしな」

「そうだったの?…というかそうよね。一体どこで…」

「さて、そろそろ帰るぞ。流石に迷うわけにはいかん」

「そうね。行きましょう」

 

「…変な幻覚も見えてきたしな」

 

「え?」

「いや、何でもない。先に降りてくれ。後から続く」

「…?分かったわ」

 

しばらく海を見つめる麗。何かあるのだろうか。

取り敢えず早く降りなきゃ。登りと違って多少楽に進めるはずだ。

カンカンと金属音を鳴らしながら比較的軽快に降りてゆく。

すると一瞬、塔の隙間からあの海が見えた…気がした。

気がした…というのは本当に見えた海はさっきまであった海なのか、それが分からなかったから。

疲れてるのかもしれない。だってそこには、今の時代ではあるはずのないもの。

 

何百メートルもありそうな巨大な軍艦がそこにあったから。

 

 

 

【#】

 

 

 

「右舷、敵影なし。索敵を続けます」

「了解しました。左舷も異常なし、引き続き複縦陣のまま警戒をお願いします」

「了解!」

『こちら指令部。どうだ大和、調子は』

「久しぶりに動いたにしては快調です。どっかの提督が資材ケチるからですよ」

『…返す言葉も無い…。その様子だと武蔵も大丈夫なんだろ?』

「えぇ。早く撃たせろーって騒いでますよ」

『ハハ、相変わらずか。気を抜かず引き続き警戒を…』

 

「偵察機から通信!敵主力艦隊発見!北北西約10km!」

 

「おいでなすった…!用意は出来てるぞ大和?」

「武蔵まだよ。提督」

『…ここが最後だ。お前たちに懸かってる』

「…はい」

『武運を祈る』

「…了解、終わり」

「…大丈夫か、大和」

「えぇ。問題ないわ。ここで終わらせる。そのための私達よ、武蔵」

「…あぁ。そうだな」

「大和さん!別動隊、到着しました!」

「了解!合流後、第四警戒航行序列に!出来るだけ砲撃に当たらないように!ここが正念場よ!」

 

「「「「おおおおおおお!!」」」」

 

「いくぞ、大和」

「えぇ、一緒に」

「敵、目視確認!大和さん、武蔵さん!」

「全砲門、開けっ!」

「行きましょう…」

 

 

「連合艦隊旗艦、大和。砲雷撃戦、始めます!!」

 

 

 

 

 

-END-

 

 

 

 




閲覧、ありがとうございました。
お久しぶりです、みどいろCPUです。
生きていました。すいませんでした。生きていました。
文章力合宿とかもしてません。


episode4(2/2)、如何だったでしょうか。

自分なりに色んな伏線を張って回収してみたつもりです。
メインキャラ二人の名前はあえて今回はほとんど崩さないでみました。
この二人は特別ですから(笑)

長々とお話しするのもアレなので今回はここらで。
(次は誰にしようかなぁ。)

次回もどうぞよろしくお願いいたします!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。