艦隊これくしょん - そこで生きる少女たち -    作:みどいろCPU

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episode01 - 今日の日は -



「海…」

 

 

 

季節は夏。ギラギラと照りつける太陽が海を輝かせる。

兵庫県からここ、広島県に引っ越して来た平賀(ひらが)志津香(しづか)は無意識にそう呟いた。

 

兵庫の海とは違う少し鉄の匂いが混ざった広島の海。

変な感じではあるが、嫌いではない。

 

「まぁ、どうでも良いけれど」

 

志津香は新しい家への荷物の搬入を続けた。

 

新しい家は海を見下ろせる丘の上に立つ和風の一軒家で、比較的広い家だった。

 

知らない土地、知らない家での新しい生活。

普通なら不安になるところだが、志津香はそうはならない。

 

元々友人がそこまで多くなかった志津香にとって、新宅やら学校生活やらはどうでもいい事であり興味も毛頭無かったからだ。

 

 

搬入作業も終盤に差し掛かり、得に運ぶものも無くなった志津香は家に入ろうと玄関へ向かった。

 

 

「あのー…?」

 

不意に後ろから声を掛けられる。

少し驚いたが表情には出さない。

振り向くとそこには自分と同年代くらいの黒い髪の少女が立っていた。

 

「あなた、新しいお隣さん?」

 

その少女は問いかける。

 

「ええ」

 

志津香は無愛想に答えた。

するとその少女は

 

「やったぁ!ずっと前からお隣さん居なかったから…。私、そこの家に住んでる一瀬(ひとせ)あかねっていうの。あなたの名前は?」

 

と心底喜んだ様子で志津香の手をとった。

嬉しそうに話す彼女に志津香は少し気圧されながらも自己紹介をする。

 

「ひ、平賀志津香。12歳、宜しく…」

 

「貴方も12歳?それじゃあ一緒の年ね!分からないことがあったら何でも聞いてね!宜しくね、志津香ちゃん!」

 

「よ…宜しく…」

 

 

これが、平賀志津香と一瀬あかねの出会いだった。

 

 

 

案の定彼女とは同じ学校、学年になった志津香にはそれ以来、

 

 

「志津香ちゃん、学校行こう!」

 

「屋上でお弁当食べない?」

 

「部活動見ていってよ!」

 

「日曜日に友達と買い物行くんだけど志津香ちゃんもどう?」

 

「ごめん、地理のノート見せてもらえない…?」

 

 

 

などとあかねがよく絡んできた。

あかねの活発な行動に引っ張られていた志津香だったが、不思議と嫌な感じはしていなかった。

 

 

 

 

一月も経てば二人はすっかり打ち解け合い仲良くなっていた。

 

部活動は前の中学校で所属していた事もあり、あかねのいる弓道部に入部することになった。

学校に一緒に登校し、授業を受けて部活をして再び一緒に帰る。

友人といつも一緒にいるという今まで考えられなかったこのような生活は志津香にとって新鮮であり、失いたくないものになった。

 

ずっとこんな生活が続いたら…。

 

「私らしくない考え…」

 

「えっ?」

 

「あ、いえ…何でもないわ」

 

「…?」

 

夕暮れに染まる海を背景に、今日も二人は歩く。

明日もまた。

 

 

 

そう思っていた。

 

 

 

 

 

【#】

 

 

 

 

 

志津香が広島に越してきてから1年がたった金曜日のある日。

志津香の家にあかねは勉強をしに来ていた。

 

2時間程かけて、二人共一通り課題が終わった所であかねが部屋の障子を開ける。

 

志津香の部屋は、障子を開けると海を望める。

志津香はここから見る景色が好きだった。

 

 

「いい眺め…」

 

「急にどうしたの?あかね」

 

突然のあかねの言葉に驚く志津香。

 

「あ、いや、素直にそう思っただけよ」

 

苦笑いしながらあかねは海を見ながら答えた。

その直後、再び海を見据えたあかねの表情がさっと変わった。

 

 

 

「船…」

 

 

 

「えっ?」

 

志津香が聞き返す。

 

 

「あかね…?」

 

「船が…見えるの…大きな船…。平ら…?」

 

呆然といった表情であかねは呟く。

 

「ちょっと、馬鹿言わないで、今の時代海に船なんかいるはずがないわ。そんなのすぐあいつらに沈められる」

 

「それでもいるのよ!浮いてるの!ほら!」

 

 

あかねは座っている志津香の手を引く。

 

志津香は引っ張られるがまま立ち上がり、見慣れた海を見るが

 

 

「…何も…見えないじゃない」

 

志津香の目にはいつもと変わらぬ不気味なほど静かな海しか映らなかった。

 

「えっ?」

 

あかねはもう一度海を見る。

 

その直後

 

「ッ!!??」

 

あかねが急に胸を押さえ出した。

 

「あかね!どうしたの?」

 

「…」

 

突然、あかねが静かになった。

 

「あかね…?」

 

「…」

 

「あかね!」

「あっ…」

 

「あかね!大丈夫!?」

 

「う…あ、えぇ。大丈夫、気にしないで…」

 

「でも…」

 

「大丈夫だから…。ちょっと潮風が効いたみたい…。その…今、風邪気味なの」

 

「…」

 

一体何だったのか。

疑問に思う志津香。そこで志津香は先程のあかねの言葉を思い出した。

 

「あの…あかね…さっき言ってた船って」

 

「あぁ、そういえばお母さんにお米炊いておいてって言われてたんだった。志津香ごめん、また今度ね」

 

「え、あの、あか」

 

志津香が言い切る前に、あかねは早足で部屋を出て行ってしまった。

 

「何だったの…?」

 

釈然としない気持ちまま、志津香は再び海を見る。

しかしそこにはやはり深海凄艦によって作られた船一つ浮いていない水平線が見えた。

 

「あかね…貴方には…」

 

 

- 何が見えていたの -

 

 

 

【#】

 

 

 

「…、早いわね…」

 

 

夜が明けて土曜日になった

 

いつもなら部活動に行くために7時半頃に起きるのだが、今日はオフにも関わらず6時に起きてしまった。

 

 

(何をしようか…)

 

取り敢えず、朝食までの間外を走る事にした。

 

薄いジャージとランニングシューズを身に付け外に出る。

 

家の門を開けて道路に出ると、あかねの家の前に黒いワゴン車が一台泊まっていた。

車の中には白い軍服を着た男性と見知らぬ少女。

 

と、もうひとり、あかねの姿があった。

 

「あかね…?」

 

何をしているのか。出かけるのだろうか。しかし何故軍服の人が?何故あかねのお母さんとお父さんは車に乗らないの?

 

 

 

どうして、あかねのお母さんは泣いているの…?

 

 

 

津波のような嫌な予感に襲われた。

頭の中の整理が追いつかず軽い混乱を起こす志津香。

 

すると、車のエンジンがかかった。

あかねを乗せた車が動き出す。

 

「!!」

 

志津香は走りだす。

 

「待って!あかね!!」

 

後部座席に座っているあかねは志津香に気づかない。

 

「あかね!!」

 

志津香は叫ぶ。

無我夢中で走りながら、ひたすら叫び続ける。

 

その時ゆっくりとあかねが志津香の方を向き、

 

 

「✕✕✕✕✕」

 

 

何かを言った。

 

直後、急な下り坂を車が降りてゆく。

志津香は上り坂で追いつけず立ち止まってしまった。

 

 

 

- 何がなんだか分からない -

 

 

 

海に向かって走り去る車をその時、志津香はただ、呆然と眺めることしか出来なかった。

 

 

 

【#】

 

 

 

あかねが何処かへ行ってしまった日から3日。

あかねは家に戻ってこなかった。

 

志津香はあかねの家にいた。

 

客間に居るのは志津香と、あかねの母。

「…」

 

志津香は黙りこんでいる。

コトンと、志津香の前に日本茶が入った綺麗な湯のみと和菓子が置かれる。

 

「ごめんなさいね、粗末な物しか出せなくて」

 

「いえ、お邪魔したのはこちらですから…お構いなく」

 

「…」

 

「…」

 

重い空気が部屋を包む。

 

「あの…」

 

「あかねの事でしょう?」

 

「っ…」

 

「ごめんなさい…。志津香ちゃんは…何も知らないものね…」

 

「…あかねは…何処に行ったんですか?」

 

「…」

 

あかねの母は何も言わない。

 

「どうして、何も言ってくれないんですか?」

 

「…」

 

「あかねのお母さん…!」

 

「っ…」

 

志津香の質問に、あかねの母は何も答えない。ただ、何かを堪える様に下だけを向いていた。

 

「…あの日の前日。あかね、少し変だったんです。急に苦しそうにしたり、驚いた様な顔をしたり…。…船が見えるって…言ったり…」

 

「…!!」

 

あかねの母の表情が変わる。

 

「あかねのお母さん、本当は何か知っているんでしょ?どうして私に言ってくれないんですか!教えて下さい!あかねが、何をしたんですか!あかねは…なんで!」

 

「志津香ちゃん!」

 

急にあかねの母が叫んだ。

 

「…ごめんなさい、もう帰ってもらえないかしら…」

 

「でも…!」

 

「お願い!」

 

「…。分かりました…。お邪魔…しました」

 

志津香は立ち上がり玄関へ向かおうとする。

 

「志津香ちゃん」

 

すると、あかねの母に志津香は呼び止められる。

 

「あの、折角来てくれたのに何も無いのも悪いでしょ…。だからこれ、持って行って」

 

あかねの母は志津香に一つ、ビニール包装された最中を手渡した。

 

「いえ、あの」

 

「いいのいいの、持って行って」

 

「…、ありがとうございます…」

 

 

 

結局、志津香はあかねについてのことは何も教えては貰えなかった。

部屋に戻り、ベッドに横になる。

 

「…」

 

(何も…分からないまま…)

 

志津香の心は暗かった。

 

「なんで…?」

 

そんな言葉が、口から出てしまう。

そんな中、パリッと何かが割れたような音がした。

 

「あ…。いけない、最中が…」

 

すぐにポケットから最中を取り出す。

最中は割れてしまっていた。

しかし、割れた最中から見えたのは小豆でも胡麻でもなく、小さく折りたたまれた数枚の紙だった。

「…!!」

 

志津香はすぐに包装を開けて中身を取り出す。手紙はあかねの母からだった。

 

 

 

- 志津香ちゃんへ -

 

《きっとこれを読んでいるということは志津香ちゃんは私から何も聞かされなかった事でしょう。

ごめんなさい。

でも、代わりにこの手紙で伝えるわ。あかねのことを。

 

あかねは海軍に行ったの。

あなたも知っているとは思うけど、あの横須賀の鎮守府よ。

突然海軍から電話があって、志津香を引き取りたいって。

 

勿論、反対だった。

 

けれど、あかねが自分で行くと言ったの。どれだけ説得しても聞かなくて…。

 

それに、国からのお願いなんて…。

でもこんなのは言い訳に過ぎない。

酷い母親よね。

私の子でもあるけれど、あなたの友達でもあったあの子を引き離してしまった。

本当に、ごめんなさい。

 

あかねは、あの深海凄艦と戦うために海軍へ行ったの。

 

私も詳しくは知らないのだけれど、「船」を見た女の子は艦娘(かんむす)と呼ばれて深海凄艦と戦うことが出来る…と海軍の人から聞いたわ。

 

しかもその「船」はただの船じゃなくて過去に実在した船、『第二次世界大戦で沈んだ軍艦』。

何故沈んだはずの軍艦が見えるのかは海軍の人も分からないらしいけど。

 

この事は機密事項で、人には話せない。家には常に監視員が付くようになるから家ではあなたに話せなかった。

だから、こんな形であかねのことを伝える形になってしまって本当に申し訳ないと思ってるわ。

 

あかねは志津香ちゃんにお別れは言わないと言っていたの。

 

ごめんなさい、喧嘩したわけではないとは分かるんだけど何故かは言ってくれなかったから。

 

でも志津香ちゃん。

あの子を恨まないであげて。

きっとあの子は志津香ちゃんに心配をかけさせないようにしたかったのだと思うの。

 

だから志津香ちゃん。

あかねの分も楽しんで生きて。

 

これからの人生の中で、あかねを、忘れないであげて。》

 

 

 

 

志津香は手紙を読み終える。

 

手紙の最後には少し、濡れた後が残っていた。

 

ベッドに横になっていた志津香はその手紙を持って起き上がり、自分の机に向かう。

 

机の前で止まった志津香は何も言わず、ただその手紙をぐじゃぐじゃにして引き出しの奥へと詰め込んだ。

 

 

 

【#】

 

 

 

蝉が鳴いている。

 

今日は夏休み前最後の登校日。

 

志津香は高校3年生になっていた。

 

地元の高校に通い、中学から続けていた弓道は高校生活最後の高総体で見事に全国優勝を飾った後、受験のために引退した。

 

 

ホームルーム後の終業式が終わり、帰路に着こうと志津香は歩く。

 

すると

 

「あ、志津香センパイだ!センパイさようならー!」

 

これから部活であろう弓道部の後輩に志津香はあいさつされる。

 

「…」

 

が、志津香は返事を返さない。そのままスタスタと校門から出て行ってしまった。

 

「相変わらず美人だけど無愛想だなー、志津香先輩は」

 

「えー、そう?無口なところがクールでカッコイイんじゃーん」

 

「あー、はいはい。ほら、部活行こ葵」

 

「了解でぇーっす」

 

 

学校でもトップクラスの容姿と学力を持ち、真面目な性格から同級生や後輩の信頼は得ていたが、特別親しい友人はこれといっていなかった。

 

 

志津香は学校帰り数時間ほど塾にいたため、帰る頃には既に日が沈もうとしていた。

 

夕暮れに染まる坂道を一人で歩き、家に着く。

 

「ただいま」

 

玄関で素っ気ない挨拶をしてすぐに自室に戻る。

 

自室に入った志津香はカバンを机の脇にかけ障子を開けて、置いてある弓を持った。

 

袋から取り出して制服のまま実際に射る様に作法をこなしてゆく。

 

志津香はここ数年間、この様なイメージトレーニングを毎日怠らなかった。

 

あの日、手紙を読んだあの日からずっと。

 

いつか、あかねと海軍で過ごすことを夢見て。

そうなって欲しいと願っていた。

 

しかし現実はそうもいかない。

 

5年が経っても志津香の目に例の軍艦が映ることは無かった。

 

調べてみると過去に戦った日本海軍の軍艦は全国で約640隻。

全国の子供の中で640人。

 

それほど、艦娘になれる少女は少なかった。

 

 

- また、昔の私に戻るだけ -

 

そんな事を思ったりもした。

 

それでも、志津香は鍛錬を止めない。

ましてや、受験勉強で忙しくなる時期にも関わらず。ただ、諦めたらそこでもう全てが終わってしまう気がしていた。

 

けれど…。

 

 

「もう、駄目なのかもしれない…」

 

ボソリと志津香が呟いた。

 

海を見る志津香の目からは涙が流れ出ていた。

 

 

「こんなことしたってあかねには会えない!!!」

持っていた弓を投げつけて叫ぶ。

溜め込んだ感情がとうとう爆発した。

 

「深海凄艦ってなんなの!艦娘ってなんなの!なんであかねが選ばれたの!私をなんで置いていったの!私の事が嫌いだった!?私は好きだったのに!どうして!なんで、なんでなんでなんで…なんで!!!」

 

 

古臭い匂いのする畳を大粒の涙が濡らす。

 

 

「さようならなんて…言わないで…」

 

 

志津香はその場で泣き崩れた。

 

5年という歳月は、志津香の心をより深く傷付けていた。

 

「…あぁ…、あの時だって泣かなかったのに…。参ったわね…ハハ…」

 

力なく俯き、涙を流したまま呟いた。

 

 

その時。

 

 

一際大きいザーンという波の音に混ざって、何が重い音が響いた。

まるで、工場にあるタービンの様な、ゴーッという音。

 

 

「…!」

 

 

志津香は顔を上げて海を見る。

そこには、オレンジ色に染まった海。

そして

 

 

「あ…」

 

 

- あぁ…あかね… -

 

 

 

「ああぁ…」

 

 

- 私にもやっと見えたわ -

 

 

 

「ああぁぁぁ…!」

 

 

- あの時、あなたが見たものを -

 

 

 

「ああああぁぁぁッ!!!!」

 

 

- あなたが伝えたかった光景を -

 

 

 

サイドテールが風に吹かれて揺れた。

志津香はボロボロと涙を流し、叫び、海を見つめ続ける。

 

 

そこには

本来、そこにはあるはずのないかつての日本海軍の軍艦。

排水量26900t級の巨大な航空母艦が夕焼けに照らされて悠々と海に浮かんでいた。

 

 

 

【#】

 

 

 

「失礼します」

 

 

ガチャリと『執務室』と書かれている部屋の扉が開く。

 

「おう、どうした大淀」

 

椅子に座った一人の男性が大淀と呼ばれる少女に対して応答する。

 

「先程、駆逐艦陽炎を含む陽炎型駆逐艦3名が大阪湾周辺で艦のドロップ反応を感知したとの報告がありました。恐らく、舞風ではないかと」

 

「そうか、分かった。そうだな…大和と明日か明後日には出たいな。明石と人物特定を急いでくれ」

 

「分かりました、すぐに」

 

 

「司令官!!」

 

バンッ!と扉を開け、執務室に一人の少女が乱暴に入ってくる。

 

「こら叢雲!入るときはノックをするとあれ程」

 

「西方海域に出撃している第一艦隊から電報、海域最深部で敵艦隊と交戦。敵は壊滅寸前しかし被害多数、うち赤城が大破判定です!!」

 

 

 

【#】

 

 

 

視界がぼやける。

頭がくらくらする。

 

確認出来る限り、残るは敵大型艦、通称装甲空母姫一隻。

対する味方は大破1中破2小破1微被弾2。

 

そのうち、小破は『私』。

 

恐らく、あと一発貰ったら艦載機

を飛ばすことは出来なくなるだろう。

けど…。

 

 

「チッ。仕方がない敵はあと一体だがこちらも消耗が激しい。一旦出直すぞ!撤退しろ!」

 

「ま、待ってください長門さん!雪風はまだやれます!」

 

「やめておくのじゃ雪風!お主も多少なりとも攻撃を受けておる。無理はしないほうがよい!しかもこちらには大破がいるのじゃぞ!」

 

「ですが…!」

 

 

 

「私がやります」

 

 

 

そう発した瞬間にその少女は敵に速力全開で接近していく。

 

 

「何を…あ、おい!行くでない!お主も一応小破じゃ!戻れ!くそっ、長門!」

 

「あの馬鹿…!仕方ない、撃てる奴は援護しろ!味方に当てるなよ!初風は赤城を保護、雪風はあいつの護衛だ!行け!」

 

「了解!」

「了解しました!」

 

 

初風と呼ばれた少女は重症を負った少女一人と戦闘区域外へ移動し始め、雪風と呼ばれた少女は一人で敵へ向かっていった少女を追いかける。

 

絶え間無く襲ってくる敵の攻撃を避けながら、その少女は武器を構える。

背丈ほどある大きなそれは、弓道の面影を残す立派な弓矢だった。

 

意識を集中させ、矢を弦にかけて弓を引く。

すると、後方から味方の攻撃が敵に命中。敵が僅かに怯み、隙が出来た。

 

 

「行け!!」

 

「当ててください!」

 

「倒せえええ!!!」

 

味方のそんな声が聞こえてくる中、

弓を構えた少女は呟いた。

 

 

「鎧袖一触よ」

 

 

矢が放たれた。

 

放たれた矢は低空で艦上攻撃機『流星』になり海に魚雷を落とす。

魚雷は扇状に広がり海中を進み、水柱を立てて激しく爆発した。

 

そして水柱が消えると、先程の敵深海凄艦は姿を消していた。

 

 

 

「…心配いらないわ」

 

 

海域を覆っていた黒い靄が晴れ、真っ青な海が映し出される。

大きな弓を持ったその少女は、深海凄艦がいなくなった海をただまっすぐ見つめていた。

 

 

 

【#】

 

 

 

「よくやった。見事なもんだよ。これで西方海域は突破したな。…だが、今後はあの様な行動は慎めよ。流石に肝を冷やす」

 

「…すいませんでした。以後、気をつけます」

 

「…まぁ、取り敢えずドックに行ってその怪我をゆっくり治せ。お疲れさん」

 

 

鎮守府に帰投し執務室に呼び出された後、彼女はとある少女の元へとそのまま真っすぐに向かう。

「おっ。お主か。先程は見事じゃったぞ。まぁ、吾輩の心臓にはかなり負担が掛かったがの…」

 

「…ごめんなさい。あの…利根、それで…」

 

「…ドックにおる。20時間じゃ」

 

「…ええ。ありがとう」

 

 

大浴場を思わせる風貌の入渠ドックにはすでに何人かが入渠していた。 自らも着替え、ドックに入る。

 

そのうちの一人、隣にいる少女に、彼女は話しかけた。

 

「調子はどう、赤城さん」

 

赤城と呼ばれた少女は顔を上げて答える。

 

「ええ、おかげ様で何とか」

 

「そう…」

 

赤城の頭の上のメーターには19:47という数字が表示されている。

 

彼女はあと19時間はこうして入渠している事だろう。

 

 

「…ごめんなさいね、私のせいであなたにまで被害が及んでしまって。これであなたまで大破になってしまったら…」

 

申し訳なさそうに赤城が言う。

 

話しかけられた少女の上には4:20という数字。

中破手前の小破だった。

 

 

「赤城さんのせいでは無いわ。私の実力不足よ。それに…」

 

 

 

「貴方を残して、沈むわけにはいかないわ」

 

 

 

- あの日のようにもう、貴方を一人にはしないから -

 

 

 

「そうね…」

 

赤城は笑う。

 

 

「ありがとう、加賀さん」

 

 

 

加賀と呼ばれたその少女は赤城の方を向き、

 

「ええ」

 

とだけ答えた。

 

 

 

彼女達の世界は日常から戦争へ。

 

それは決して喜ばしい変化では無い。

 

しかしその中で再び心の拠り所を見つけた彼女達には、また幸せな日々が戻ってくるだろう。

 

あの時のような。

 

 

いつか夕暮れの海を背に2人で歩いた事を思い出しながらサイドテールの少女、加賀はそっと、目を閉じた。

 

 

-end-




episode01でした。
いかがだったでしょうか。
艦これの顔の一部と言っても過言ではない一航戦の子2人のお話でした。

志津香の行動や性格の裏に隠れた感情を、ちょっとだけ考えながら読んで頂きたいなーと個人的に思って執筆しました。

プロローグでは明確にされてなかった『船』が今回出てきましたね。

オリジナル設定多めですが、こんな感じで次も書いていこうと思います。
恐らく次は本格的に『艦娘』というシステムが明らかに…。

まだまだ未熟な文章力ですが…次話もどうぞよろしくお願いいたします!
(誤字脱字ありましたら御指摘をお願いいたします…。)

補足: 作中の最中は密閉タイプではなく具材を挟み込むタイプです。

お詫び:episode01を未完成の状態で一度投稿してしまっていたようです。
大変申しわけありませんでした。
こちらが完成版(改)になります。よろしくお願いいたします。
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