艦隊これくしょん - そこで生きる少女たち -    作:みどいろCPU

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【注意書き】

(多少ネタバレですが)今回は第六駆隊のお話です。
タグにも無いようにグロテスクな表現(暴力、過剰な流血等)はほとんどありませんが、多少見ていて心痛いと感じる場合がある場面があります。
その点をご理解の上でご一読くださると幸いです。






episode02(1/2) - 今日も、明日も、明後日も -

ドンッと鼓膜を震わす音が響く。

 

海上に赤と黒が混ざった爆発が起こった。

広がっていた黒い(もや)は晴れ、上空に少し曇った雲が現れる。

 

「やったわ!どーんなもんよ!」

 

「凄いのです、雷ちゃん!」

 

「電。余り動かない方がいい。早く帰ろう」

 

「あ!ズルーい!私がちょっと下がっている間に!あんな奴くらい暁が」

 

「はいはーいそこまで!あー…残念だけど今回も撤退ねー」

 

駆け寄ってきた赤茶の髪の少女が仕方ないといった表情で言う。

 

「ここは北方だし、遠いから早く帰りましょ。電ちゃんも早くドックに入らなきゃだしね。…不知火、いいわね?」

 

「まぁ、致し方ありませんね。警戒しつつ鎮守府に戻りましょう」

 

「よし、さぁ行きましょ!」

 

赤茶髪の少女が先頭に立ち、6人の少女達は海を進み始めた。

 

「うぅ、ごめんなさいなのです…皆…」

 

髪を後ろで結んだ少女が申し訳なさそうに言う。

その少女は、ボロボロだった。

 

「気にすること無いわ電。ここの海域は難しいって司令官も言ってたし仕方ないわよ」

 

誰よりも早く彼女のフォローに入ったのは彼女とよく似た容姿を持つ、髪留めを付けた別の少女。

 

「そうよ。一人前のレディーならこの位でへこたれたりはしないわ」

 

Да(Da).気にしない方がいい」

 

隣にいた黒髪と銀髪の少女2人も同じように励ます。

 

「…皆…ありがとう…」

 

目に少しだけ涙を浮かべて、電という少女は笑った。

 

「んー、仲睦まじくて良いわねー…。どっかのウチの妹艦もこれ位愛想良ければなーっ。ね、不知火?」

 

「さぁ…誰の事かしら…」

 

「ほらー、冷たいっ」

 

談笑をしながら海を進む少女達。

危機感があるのか無いのか。

 

彼女らが鎮守府に到着するには、まだまだ時間がかかりそうだった。

 

 

 

【#】

 

 

 

【act1 暁 】

 

 

 

「朝陽、なんで貴方はそうも出来ないの?」

 

時刻は午後7時。

20畳以上はある比較的広い部屋で、黒い高級スーツを着た女性がピアノを弾いている少女にぴしゃりと言う。

 

「ここの指はこっちと何度も言っているでしょう。何故一回で理解出来ないの?コンサートは1ヶ月後なのよ?」

 

「ごめんなさい…。ママ…」

 

「本っ当に、貴方って子は…。コンサートにはパパの会社に関わっている方々も出席して下さるのだからちゃんとしなさい。私達の顔に泥を塗る様な真似はしないでよ。これも将来立派な三島家の淑女になるため。分かったわね」

 

「はい…。ママ…」

 

「本当に分かってるのかしら…。あと、ママはこれからパパの会社にもう一度行ってくるわ。何故か呼び出されちゃってね。帰りは遅くなるからちゃんと寝てなさいね。ご飯はそこにあるわ」

 

「うん。行ってらっしゃい」

 

ドアを開けとその部屋から出ていく女性。

残された少女は服の袖で目を擦った後、再びピアノを弾き始めた。

 

 

彼女、三島朝陽(みしまあさひ)の家は長崎県を中心に展開している大手半導体会社、三島エレクトロニクスを経営する一家であった。

父親は社長、母親は社長補佐という両親共に資産家であり、朝陽はその一人娘として生まれた。

幼少の頃から一人前の淑女になれと言い聞かされて育ち、しかし多忙な両親は家には殆どおらず、小学3年生になった今まで孤独に生きてきた。

 

「一人前の淑女になるため…。一人前の淑女になるため…」

 

そう自分機言い聞かせ、今まで様々な事をしてきた。

茶道、バレエ、ピアノ、スイミング。

しかし、朝陽の目に輝きは無かった。

朝陽にとってこの生活は何も得られるものが無い、ただのご機嫌取りの操り人形でしかなかったのだから。

 

 

 

【#】

 

 

 

次の日。

 

朝の7時に起きた朝陽は、家に両親が居ないことに気がついた。

しかし、仕事の関係でこれまでも昨晩から帰宅していないという事は何度かあったため、対して気にもしていなかった。

食パンをトースターで焼いて牛乳と一緒に食べる。

その後歯磨きをして学校へと向かった。

 

朝陽が通う小学校は彼女の家から徒歩10分程度で着く場所に立地している。

こればかりは、送り迎えが手間という理由で、私立の俗に言うお嬢さま学校ではなく一般的な小学校に入学させられていた。

誰にも話しかけず、話しかけられずにいつも通り通学路を歩き学校に着く。

上履きを履き階段を登って教室に入ると、何故かこの時間には居ないはずの担任の教師がいた。

朝陽は一瞬疑問に思うが

 

「おはようございます」

 

礼儀正しく挨拶をして自分の席に着いた。

 

「おはよう、朝陽ちゃん。あの、ところで朝陽ちゃん。その…大丈夫?」

 

突然朝陽は教師に心配された。

何故だろう?

朝陽にはその理由がわからなかった。

 

「先生、大丈夫って何がですか?」

 

朝陽は素直に聞き返す。

 

「…もしかして、朝テレビを見てなかったの?」

 

「?はい…見ていません…けど…」

 

「そう…。いや、良いのよ。見てないなら見てないで。ただ…あっ、そうだ。はいこれ、困ったことがあったら先生に連絡してね」

 

そう言ってその教師は連絡先を紙に書いて朝陽に手渡した。

 

「ありがとう…ございます…」

 

訳も分からないまま朝陽はその紙を受け取る。

何だったというのか。

それすら疑問に思う前に、朝の会のチャイムが鳴り響いた。

 

 

 

【#】

 

 

 

異質な光景だった。

 

朝陽の目の前に映るのは家の周りを覆い尽す無数の警察車両。

朝までは何の変哲もないただの大きな家だったはずなのに、今では見る影もない。

 

あまりの衝撃に、朝陽は声が出なかった。

ただ呆然と、目の前の自宅を眺めている。

そうしていると、警察官の一人が朝陽に近寄ってきた。

 

「どうしたの?…あぁ、これかい?ちょっと今ここの家を調べているんだよ。学校の帰り?」

 

若い男性警察官が優しく朝陽に話しかける。

しかし、今の朝陽に言葉を返す余裕は無い。

 

「どうしたの?道に迷った…っ、君…もしかして…。捜査部長!この子…!」

 

若い警察官が若干離れた場所にいるジャケットを来た中年の男性を呼んだ。

 

「あぁ?どうした…っておい、三島の娘じゃねーか。どうしてこんなとこに…」

 

 

資金の不正利用と売上高の改ざん、裏組織との密売。

昨夜未明その事が判明し、警察は三島宅への強制捜査を強行。

しかし、三島夫妻は既に逃亡しており、家の中は重要書類等が持ち去られたあとであった。

恐らく三島家の一人娘、三島朝陽が睡眠中の夜中に持ち去り逃亡したものと思われる。

 

それが、警察官から朝陽が聞かされた三島エレクトロニクスの汚職問題の内容であった。

小学4年生の朝陽にはその内容を完全に理解することは出来なかった。

しかし、彼女のその小さな頭でも一つだけ分かったことは、

 

《自分は捨てられた》

 

ということだった

 

今まで親の顔色を伺う生活の中で過ごしてきた。

そんな中でも必死に生きてきた。

どんなに罵倒を浴びようと、一人前の淑女になろうと自分に言い聞かせてここまできた。

しかし、そんな生活も終わりを告げる。

 

同時に、朝陽から何もかも奪い去って。

 

 

 

【#】

 

 

 

三島家はこれといった親戚もいない。

そのため引き取り先も宛もなく、独りになった朝陽は地元にある『星空荘』という児童養護施設に入ることになった。

全く新しい生活、一からのスタート。

朝陽は緊張と不安が入り交じった暗い表情のまま、星空荘のの新しい住人として紹介された。

 

「三島朝陽ちゃんです。小学4年生だよね?皆、仲良くしてあげてねー」

 

「はーい」

 

星空荘の職員である若い女性が朝陽を紹介すると、集まった子供達は元気良く返事をした。

 

朝陽は周りを見渡す。

やはり児童養護施設というだけあって、幼稚園児から中学生まで、幅広い年齢層の子供達が大勢いる。

これからここで、朝陽は過ごすことになるのだ。

 

「ここが、私の家…」

 

朝陽は誰にも聞こえないような小声で呟いた。

 

「ねえねえ」

 

突然後ろから声を掛けられる。

後ろを振り向くと、そのには顔、背格好が瓜二つの容姿を持つ2人の少女が立っていた。

髪型が違うのを見ると、どうやら双子のようだ。

 

「あなた、ここに新しく来たんでしょ?私、雨宮なずな。小学校4年生で、この子は双子の妹のかづほ。よろしくね!ここには半年住んでるけど同じ学年よ。仲良くしましょ、朝陽ちゃん!」

 

「よろしくなのです!」

 

なずなとかづほと名乗った2人の少女らはニッと笑って朝陽に握手を求める。

朝陽は若干戸惑いながらも素直に握手に応じ、改めて自己紹介をした。

 

「私は三島朝陽…。えっと…よろしく…」

 

すると、なずなが顔をしかめた。

 

「どうしたの?元気無いわね、そんなんじゃ駄目よ。もっとニコニコしないと可愛くないわよ。お母さんに言われなかった?」

 

「ええっ…」

 

元々そこまで活発な子供ではなかった朝陽はなずなの言葉の返しに困る。

 

「その…何ていうか…お母さんには…一人前の淑女になれって…言われてた…」

 

「「淑女?」」

 

なずなとかづほが同時に首を傾げながら言う。

 

「かづほ分かる?」

 

「ごめんなさい、分からないのです」

 

「んー、そうねー。なんかよく分からないけど…それってレディーって事じゃないかしら?」

 

「レディー…?」

 

今度は朝陽が首を傾げる。

すると調子付いたのか、得意げになずなが話し始めた。

 

「そうよ、レディー!大人の女の人の事を言うのよ。こう大人っぽくて綺麗で落ち着いてて…。だからあなたの言うそのし…しっ…し…」

 

「しゅくじょなのです」

 

「そう!淑女!それってつまり、一人前のレディーになれってことじゃない?」

 

「かっこいいのです…、朝陽ちゃんならきっとなれるのです!」

 

「一人前の…レディー…」

 

そう発した瞬間、今まで感じたことのない、不思議な感覚にとらわれる朝陽。

 

なんだろう、この感じ…。

初めて聞いた単語じゃないのに…。

なんか…。

 

彼女の顔には、窓から差し込む昼時の少し暖かい日差しが当たっていた。

 

 

 

【act2 雷、電】

 

 

 

時刻は午後7時35分。

 

外は暗くなり、住宅地を歩けばそこかしこから美味しそうな匂いがしてくる時間。

 

「なずー、かづー、ご飯よー」

 

そしてここ雨宮家でも丁度夕食の支度が出来たところであった。

 

「「はーい」」

 

双子の少女、雨宮なづなと雨宮かづほはドタドタと階段を降りてくる。

 

「わぁ!美味しそう!」

 

「シチューなのです!」

 

「ママね、今回は頑張ったのよ。さあ、早く食べましょう」

 

「「いっただきまーす!!」」

 

雨宮家は小学3年生の双子の姉妹なずな、かづほとその母親洋子(ようこ)の3人家族で暮らしている。

父親はなずならが5歳の頃に離婚、それ以来母親が女手一つで育ててきた。

お世辞にも裕福とは言えない生活だが、それでも幸せに暮らしてきた。

 

この日もいつもと変わらない食卓。

夕食を食べ終えたなずなとかづほは食器を片付け始めた。

これもまたいつも通り洋子が食器を水で流し、なずなとかづほが食洗器に入れるという連携作業。

 

だが今日、なずなには一つ気になることがあった。

 

「ねぇママ、なんか今日はやけにご機嫌じゃない?」

 

それを聞いたかづほも確かにといった表情で頷いた。

 

「え?そうかしら?何もないわよ。うふふ…」

 

「えー!絶対なにかあるわよー!教えてよー」

 

「ほらほら、いいから早く食器を入れて」

 

「そうなのですなずなちゃん、早くしないとミミリンちゃんが始まるのです」

 

「あ!本当だ!はやくしなきゃ!」

 

お気に入りのTV番組を見るために二人は食洗機へ食器を入れ終えるとすぐさま2階へと上がっていく。

一方、洋子は食洗器のスイッチを入れるとリビングのソファーに腰を下ろした。

 

「さてと」

 

ポケットからスマートフォンを取り出し、電源ボタンを押す。

明るくなったその画面には1つ、会話用SNSの通知バーが表示されていた。

 

 

 

【#】

 

 

 

「ただいまー」

 

「ただいまなのです」

 

次の日の午後5:00。学校も終わり2人は帰路を得て自宅に着いた。

 

「おかえりなさい」

 

母である洋子が夕食を作りながら2人を出迎える。

 

はずだった。

 

しかし今日は違った。

台所にはエプロンを巻いた洋子どころか、調理用の鍋すら置いていない。

 

「…?ママー?いないのー?」

 

2階に向かって、風呂場を覗いて、トイレを確かめてみたがやはりどこにも洋子の姿は見当たらない。

 

「どこ行ったのかしら…」

 

「何処かへお買い物にいったのだと思うよ。朝のお化粧もやっぱりそれなのです」

 

「そっかぁ…。今まで無かったからね、こんな」

こと。

 

そう言おうとした瞬間に、家のドアが開いた。

 

「ただいまー。あら、帰ってたのね」

 

ドアを開けた主は洋子であった。

 

「あ、帰ってきた!」

 

「おかえりなのです」

 

2人は駆け足で玄関へ向かう。

 

「ごめんね、今から夕飯作るから待っててね。すぐ作るからお手伝いはいいわよ」

 

「今日は何にするの?」

 

「そうね…オムライスでも作りましょうか」

 

洋子は靴を脱いで台所へ向かい始める。オムライスが大の好物であったなずなはパァッと顔を明るくする。

 

しかし

 

「わーい!やっ……た…ぁ…」

 

台所へ向かう洋子が横を通り過ぎた直後、なずなから笑顔が突如消えた。

 

「?なずなちゃん、どうしたのです?」

 

かづほがなずなの様子の変化を見て声をかける。

洋子はすでに台所で手を洗っている。

 

「あ、あぁいや、なんでもないわ。ちょっとトイレに行ってくるわね」

 

なずなはかづほから逃げるようにしてトイレへと歩き出した。

早歩きでトイレへと向かいながら、なずなは誰にも聞こえないような小声で呟く。

 

「タバコの…匂い…」

 

ただ喫煙コーナーを通っただけ…。

そう思えば済む話なのに。

 

なずなの心に、暗雲が立ち込めた。

 

 

 

【#】

 

 

 

その日、オムライスを作った日を境に洋子は変わっていった。

 

朝食を作り化粧をして仕事に行ったきり夜中まで帰ってこない事や、休日に朝から出かけたりという事が増え、そのような日なずなとかづほは前日の夕食の余りやインスタント

食品を食して過ごすことが多くなった。

 

そしてある日、事件は起こる。

 

 

時刻は午後8:30。

 

洋子が家に見知らぬ男性を連れてきた。

身長は170cm後半、20代後半くらいで髪を金色に染め腰や手には無数のアクセサリー、耳には銀色に光るピアス。

玄関で立ち尽くす二人に洋子は優しく話しかけた。

 

「ママのお友達よ」

 

洋子は二人にそう説明した。

しかし勿論二人は気づいている。

もはやこの2人はそんなもので収まるような関係ではないということに。

 

二人は言葉を発することが出来なかった。

洋子は2人分のインスタントカレーを食卓に置き、ビールやつまみが大量に入った袋を持って男と一緒に2階へ上がろうとする。

 

「ママ…?」

 

動揺と絶望が詰まった悲痛な表情でなずなは母を呼ぶ。

すると洋子は階段を上がる足と止め、なずな達の方を向いて

 

「大人しく下に居なさいね?」

 

にっこりと笑ってそう言った。

洋子は再び階段を登り始め、

男もそれに続いて階段を登る。

おそらく目指すは洋子の寝室。

 

もう、どうにもならない。

 

「なずなちゃん…」

 

「かづほ、外に行きましょ」

 

「えっ…でももう夜だし危」

 

「いいから。今はここにいちゃ駄目。行くわよ」

 

家のドアを開け既に暗くなった外へ出る。

周りの家からは夕食の匂いや楽しげな笑い声が聞こえてくるが二人の耳にそれらはもはや聞こえていなかった。

 

目的も無く10分程歩くと、見覚えの無い公園に2人はたどり着いた。

歩き疲れ、長椅子に肩を並べて座り込む。

 

「ママ…」

 

力ない言葉がかづほの小さな口からこぼれる。

 

「…ママはもうあの頃のママじゃないわ…。最近おかしかったのはきっとそういう事だったのよ」

 

「…どうして…変わっちゃったの…?」

 

「分かんないわよそんなこと。大人の事なんて」

 

ツンとした物言いでなずなはかづほに言葉を返す。

 

「…なずなちゃんはショックじゃないのですか?ママが…あんなに…」

 

「ショックに決まってるじゃない!優しかったママが…なんで…。もう、あんな顔見た後じゃ…ママとは思えない…!」

 

平静を保っていられるのも限界。

なずなは涙ぐんだ。

 

 

『大人しく居なさいね?』

 

 

あの時の洋子の表情が、なずなには恐ろしくて堪らなかった。

いつも通りの笑顔の裏に隠れた、いつもとは違う何か。

優しかった母親が見せたそんな表情になずなは絶望し、恐怖した。

 

「なんで…なんで…」

 

涙がボロボロとなずなの頬を伝い地面を湿らす。

 

「なずなちゃん、泣いちゃ駄目なのです…。泣いちゃ……ヒッ…うぅ…」

 

なずなに寄り添ったかづほもとうとう泣き出す。

そのまま二人は、日付が変わるまで誰にも気づかれず、小さな声で泣き続けた。

 

 

 

【#】

 

 

 

「かづほ、あと何円残ってる…?」

 

「…12円…なのです…」

 

「…」

 

とうとう洋子は家に滅多に帰ってこなくなった。

もはやインスタント食品すら食卓に置いていくことはなくなり、なずなとかづほはわずかに残っていたお小遣いで過ごしていた。

しかし、それすらも今日尽きてしまった。

これから、何を食べて過ごせばいいのか。

2人は途方に暮れていた。

 

「取り敢えず今日も休むって学校に言っておくから…」

 

固定電話から、学校へと電話し始めるなずな。

この時点で、2人は学校を一週間近く休んでいた。

 

「はい…はい…インフルエンザがまだ治らなくて…はい…大丈夫です…じゃあ…」

 

受話器を置いて床に座り込むなづな。

 

「なずなちゃん!」

 

「大丈夫よ。ちょっと疲れただけだから」

 

「学校に行けたら給食が食べれるのに…」

 

「駄目よ、ママに言われたでしょ。『家にいなさい』って。鍵も持ってないから泥棒に入られちゃうし、それに今の私達が行ったらすぐに保健室よ。

まぁ、そもそも学校までたどり着けるかどうかも怪しいけどね」

 

「うぅ…」

 

「…もう寝ましょう。動くとお腹空くし大丈夫、なんとかなるわよ」

 

リビングのソファーに座り、寄り添って毛布を被る。

2人はカーテンの閉まった暗い部屋で、静かに眠った。

 

 

 

【#】

 

 

 

「…ここは…?」

 

真っ白な天井と、蛍光灯。

横にはカーテンが掛かっており自分が横になっているベットは清潔そうで柔らかい。

そして、腕には点滴が刺さっている。

 

「あれ…。なんで…」

 

「なずなちゃん、気が付いたの?」

 

隣のベットからかづほが声を掛けた。

既に目を覚ましており、腕にはなずなと同じように点滴が刺さっている。

 

「かづほ…。ここって」

 

「うん、病院なのです」

 

「病院…?」

 

なずな達が学校を休み始めてから2週間が過ぎた頃。

欠席の連絡の度に弱々しくなる声、姉妹両方の長期欠席、ここ数日の音信不通に違和感を覚えたなずなのクラスの担任教師は児童相談所に連絡。

連絡を受け、このことを重く見た児童相談所側の相談員と担任教師は雨宮家への訪問を決行。

状況によっては家のドアを蹴破る事も(いと)わない覚悟で雨宮家のチャイムを鳴らしドアノブを捻るとドアは呆気なく音を立てて開き、児童相談員と担任教師は家の中へと入った。

 

すると、そこに居たのは酷く衰弱し、やせ細ったなずなとかづほが寄り添いながら眠っていた。

2人はすぐに緊急保護、病院へ搬送され数日で容態は回復。無事に一命を取り留めた。

 

見舞いに来た担任の教師は、なずなとかづほに、そのように話していった。

 

そしてその後、児童相談所の審査により洋子とその彼氏は子の育成能力が無いと判断され、

2人は長崎にある児童養護施設で過ごすことになった。

 

父親がいないながらも幸せに続いていくはずだった生活。

そんな生活が終わり、突如新しい生活が始まる。

目が覚めたら病院、母親との別離、新しい生活。

頭の整理がまだ追いついていないなずなとかずほにあるものは

 

『不安』

 

ただそれだけだった。

 

「…と、いうわけで今日からみんなと一緒に暮らすことになりました、雨宮なずなちゃんとかづほちゃんです。みんな仲良くね」

 

「「よろしくお願いします」」

 

入園の挨拶も終わり、2人は新しい部屋へと向かう。

 

「これからはここで暮らすのね…」

 

周りには聞こえないような声でなずなはかづほに話かける。

 

「そう…だね…」

 

何もかもが変わってしまった現実をまだ受け入れられない2人の表情は暗い。

幸いな事に部屋は二人部屋となっており、なずなとかづほは同じ部屋で暮らすことになった。

 

「…よし」

 

『106』と書かれたドアの前に立ち、深呼吸をしたのちに2人は部屋へと入る。

 

しかし、二人の目の前に映ったのは古臭い二段ベッドでも無機質な机でもなく、据え置きの椅子に座る一人の銀髪の少女。

まるで、そこに元々居るかの様な佇まいで頬杖をついている。

なづな達があっけにとられていると、銀髪の少女はなずな達に気づいたのかドアの方を向き

 

「やぁКак дела(Kak dela).君が、新しい住人かい?」

 

表情を変えずに、しれっとそう口にした。

 

 

 

- to be continue… -




- そこで生きる少女たち -のepisode02(1/2)です。
今回も見やすさの関係上2つに分割して投稿します。

第六駆逐隊のお話ですね。
メインの女の子が4人なので、一話一話若干短い感じで分割して書きました。
今回は『児童養護施設に入るまで』という感じになっていましたが…いかがだったでしょうか。
『児童養護施設』というテーマを扱ったため今回は割と調べるのに時間が掛かってしまいました…。
とはいっても私もその類の専門家では無いので…もしかしたら表現や条件が間違っている部分があるかもしれません。
お気づきになられたらご一報して頂けると嬉しいです。
次回(続き)は一週間以内には投稿できる予定です!

最後まで読んでくださった皆様に感謝の意を込めつつ、episode02(2/2)もどうぞよろしくお願いいたします!

※毎度の事ですが誤字修正をしました。大変申し訳ありませんでした。
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