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幻想郷
外界とは隔絶されたこの土地には数多くの人外達が住む秘境である。
恐怖の象徴であった怪異・妖怪、信仰し敬い恐れるべき神々、その他の伝説上の人外達の
いずれも科学技術の発達したことにより、人々の記憶から、心から忘れられかの地へと流れていく。
元からいたのか?と
そう、その名の通り、幻想になって
そんな彼の地の巨大な湖の畔にある、その異常なまでに紅(あか)一色の館。
ただならぬ雰囲気を醸し出しているその館は、夜の闇に包まれるとより一層不気味さが
増すだろう。住んでいる者が誰であろうと普通の人間ならば近づこうとはしない。
いや、知っていても好き好んでこの館に近づこうとはしないだろう。
何故なら、この館には恐るべき力と能力を兼ねそろえた吸血鬼姉妹と、当主の親友である魔女、従者達が住んでいるのだから。
幻想郷各所に散らばる勢力でも、力だけならば強力な勢力を誇る、スカーレットデビル率いる紅魔館。
全てはこの館『紅魔館』から、そしてその主である吸血鬼姉妹の姉にして
“永遠に紅い幼き月”の異名を持つレミリア・スカーレットの一言から始まった。
◇
場面変わってここは紅魔館地下の大図書館。
レミリア・スカーレットの親友の魔法使い
“動かない大図書館”ことパチュリー・ノーレッジが管理している
魔道書の図書館で、どう言った訳か、館全体、いやそれ以上の広さを誇るこの図書館に
びっしり置かれてる本棚に所狭しと並んでいる魔道書。
これらは長年にわたる彼女の魔法探求・研究の集大成であり、彼女の財産でもあった。
その財産を勝手に借りパクしていく人間の白黒魔法使いがいるのだが、それは割愛しておこう。
その図書館のテーブルに座り、相変わらず魔道書を貪るように読み、
何かの魔法に関する研究に没頭する寝巻きのような服に身を包んでいるパチュリー、
そしてパチュリーの対面に座り暇そうに頬杖を立てている、外見は幼く、その実数百年の年月を生きている吸血鬼レミリア。
そして、当主レミリアが一言。
「暇」
「丁度良かった。なら自分の部屋に戻りなさいな」
「つれないわね」と愚痴を零す彼女にパチュリーは内心溜息をついた。
なるべく魔道書に集中し研究を続けたいのだが、如何せんこの我がまま当主が
自分の気を引こうと様々な話題を振っていた。
やれ此間の宴会で博麗の巫女、霊夢とじゃれあっただの、最近召還したホブゴブリンは
知能が低くて使い物にならないだの、何回も聞いたことのあるような話題を振ってきているので若干ウザイと思っている。お前は何回も同じ話しかしないボケ老人かと思い切り突っ込んでやりたい。
だがこんなしょうもない事に突っ込んで労力を使うというのもやるせない。
と思っているので敢えてスルーしていた。
「パチェ、今物凄く失礼な事考えなかった?」
「別に」
パチュリーは素知らぬ顔でそのまま魔道書のページを捲る。
少し時間が経った後、またレミリアは尋ねてきた。
「ねぇ、パチェ」
「・・・何?集中したいのだけれど」
パチュリーの表情にあまり変化が見られないが声質は若干イラつき気である
事が伺える。だが、それに気づいてないのか、はたまた知ってて尚話題を出しているのか、長年共にした親友である事を考えれば恐らく後者であろうが・・・。
そして、彼女は唐突にこう振り出した。
「サムライってかっこよくない?」
「待てどうしてその話になった」
宴会の話、使い魔の話からいきなり時代劇染みた発言をしたレミリアに対し、
とうとう突っ込みを入れてしまうパチュリー。
「最近購入したテレビとDVDプレイヤーで映画見たら憧れたのよ。
いやー、三船かっこいいよ三船。座頭市もいいわね」
座頭市は侍じゃない、という突っ込みは留めておこう。キリが無い。
「・・・・はぁ、だからどうしたってのよ。」
半分、呆れ気味になりつつも、唐突に新しい話題を振った彼女が、
自分にきっとまた禄でもない“提案”と言う名の我がままが言い下されるのだろうと
まで予想して見る。いや、十中八九そうだろう。
今まで無茶振りに答えてきた彼女には分かった。
そしてレミリアはそんなパチュリーの予想に答えるように、こう言った。
「ちょっと、サムライを召喚してみせてよ」
『予想的中。レミィの悪い癖が出た。』とパチュリーは今度は心底溜息をついた。
◇
図書館でも開けたスペースにて、召還の儀を行う事になった。
使い魔である赤いロングヘアの少女の姿をした小悪魔、通称:こあに、
召還の内容の書かれた魔道書や文献を用意させ、それに反りながら魔方陣を描いていく。
最初こそくだらないとは思っていたが、たまには趣旨を変えて見るのもいいかもしれないと
この時パチュリーは思っていた。
紅魔館はとある従者の能力にて、外から見た館の大きさとは比べ物にならないくらい拡張されている。
その広さは、何の考えもなしに、うかつに出歩けば出口に辿り着く事もできない程である。(窓を突き破るのであれば別だが)
よってこの紅魔館は随時人手不足であり、賃金コストの低い妖精や召還したホブゴブリンを多く使役しているのだが、先程レミリアが言っていたように、この妖精とホブゴブリンは知能があまりよろしくない。
紅魔館の中を迷ってしまったり、目的を忘れて遊び始めてしまったり、妖精特有の悪戯癖が出てしまったり、かえって、仕事が増えてしまう事もしばしばである。
勿論、襲撃に合った際、それらが防衛の役に立つ筈もない。
なので、良い機会に使い魔の趣向を変えて見ようと考えた。
現代にそもそもサムライなんていう種類の人間がいるかどうか分からないが・・・。
レミィのお望み通りのサムライとやらが出てこなくとも、自分が本腰を入れた魔法陣だ。
少なくともホブゴブリンよりかは役に立つ奴が召還されることだろう。
「準備が出来たなら早くサムライ出してよサムライ!」
何故こんなにもテンションが高いのか?
というか侍なら幻想郷にもいるだろうに、半分死んでる奴。
まぁ、半人前で辻斬り魔だから、侍として認識してなくとも仕方ないか。
・・・さて、世話の焼ける友人が急かしている。
さっさと召喚を済ませることとしよう。
パチュリーは言葉として聞き取れない呪文のようなものを呟く。
魔方陣に自身の魔力を流し込むと、徐々に魔方陣の色が紫に変色していき、
その紫色が眩い光となり、徐々に彼女らの視界を支配していった。
大図書館が大きな光に包まれた。
・・・・・・・
腕で目を覆ってどれだけ時間が経ったか?既に魔方陣から放たれた光は止んでいた。
そして、肝心の魔方陣の中心には、
「・・・・ここは」
呆然と立ち尽くす、中性的な顔つきの一人の青年がいた。
青を基調としたコートの下に白い着物。長い後ろ髪は紐で縛っており清潔感がある。
何より彼が腰に差していたのは刀。紛れも無く侍の得物たる物である。
風格も剣士のそれと言って過言ではない。
まさか、本当に侍が召喚されるとは夢にも思わなかった。
レミィに関しては、てっきり感動で動けないのかと思ったが、
さっきの発光で気絶してしまっているみたいだ。
だが、好都合。その方が落ち着いて彼の話が聞ける。
さて・・・・
「召喚しておいて何だけど、貴方は何者なのかしら?」
私に気づいた彼は向き直り、佇まいを整える。
本来ならば、いきなり別の場所にいきなり転移したり、召喚されたりすれば
多少は困惑し、声をかけた私に問い詰める事をするのだろうが、彼は至って冷静だ。
むしろこう言う状況下に慣れているような感じだ。
まるで幾戦練磨のような。
これは久々に当たりを引いたのやもしれない。
「・・・私の名はフリン。先程、召喚という言葉を耳にしましたが、いまいち状況下が把握できない。よろしければ事情を伺ってもよろしいでしょうか?」
丁寧でいて、そして物腰柔らかい尋ね方に驚きながらも、
「ええ、こちらとしても貴方の事が知りたい。話し合いの場を設けましょう。」
私は気絶している小悪魔を起こし、メイド長の咲夜に紅茶と菓子受けを持ってこさせるよう命じ、大図書館のテーブル席へ彼を案内するのであった。
途中、彼に『もう一人の彼女は起こさなくても?』と聞かれたが気にしないほうがいいとだけ答えておいた。