「こういう説明ってのは柄じゃないのよね・・・。というか・・・」
めっちゃ緊張した・・・と、今度は机に覆いかぶさるように突っ伏した。それもその筈である。人間にはある一定の魔力を保有している。その魔力は人間のあらゆる感情から湧き出ているもの、つまり精気であり、生物が生きていく中で必要不可欠な存在。私達“人外”はこの保有している魔力を“マグネタイト”と呼んでいる。低級の妖怪もしくは悪魔は、生きるために、このマグネタイトを得るために人間を襲う。そうしないと存在を保っていられないからだ。最も、この館に住む者達ぐらいの実力者になれば、わざわざ人を襲って得るという非効率的な事をせずにすむのだが。
そのように、人間は妖怪・悪魔にとって捕食対象の中にあるのだが、さっきまで彼女の前に居たサムライの青年はまるで違った。一般的な人間の魔力の限界のそれをあきらかに超えていた。本気で魔力を開放したら、いくらこの紅魔館全体に強固な結界を張っているとは言え、間違いなく跡形もなく吹き飛ぶだろうと。
そして同時に、彼女は思った・・・本当に彼は人間なのか?と
彼は敵意を向けてはいなかったものの、不機嫌そうな様子だった。“私の一言は、この館の住民の命が掛かっている”と気が気でならなかった。緊張の糸が切れたように彼女は突っ伏したままぴくりとも動かない。
そんな中、彼女の使い魔、こあが
「申し訳ありませんパチュリー様、お暇を貰います。」
と背中に荷物を背負いそう言ってきた。
「?暇って・・・どこへいくつもり?」
「ええと・・・何故か昔の上司に念話で直ぐに魔界へ来いって・・・。」
このタイミングで・・・?とパチュリーは疑問に思う。
言っては失礼だが彼女はそこまでの強い悪魔ではない。むしろ弱いほうに入る。
そんな彼女でも直属の上司というのはいる。魔界の中でいえば決まった役職が無い、雑用の雑用に配属されているとはいえ・・・。
そんな彼女でさえ呼び出すような案件が起きたのだろうか?
考えられるとすれば・・・さっきのサムライのせいか?
「いいわ、行ってきなさい」
契約第一、とは言え、彼女の上司は私より遥か高位の存在。下手に返さないと言ったら何をされるか分かったものじゃない。第一、現実を受け入れるのに精一杯なのに、そんな事されたんじゃかないっこない。
願わくば、親友《レミリア》が下手を打たないよう願うパチュリーであった。
◇
「幻想郷・・・か。」
俺は案内された客室のベッドに座り、地下の図書館で聞かされた事実を静かにそう呟いた。
あの後、紫の髪の少女、パチュリー・ノーレッジと情報を交換した。俺は、自身の居た世界の詳細について、自分がどのような身分であるか、彼女はこの世界の詳細、呼び出した経緯などといったものだ。
先ほど呟いた言葉、幻想郷。つまり現在俺がいる世界の名であり、外の世界、外界から完全に隔絶された世界でありながら、一方で人々の恐れや信仰を無くした神々、その他の人外達が集まる最後の楽園だと、彼女は言った。忘れ去られる、つまり人々の心の隅からも忘れ去れたものが幻想になり、この世界へ入り込むのだという。
神々、悪魔が蔓延る世界・・・・ともすればだ。ここは、同じ系統の世界、別の世界の東京なのだろうか?
「・・・パロウズ、ここは<東京>なのか?」
俺は左腕のガントレットの液晶画面に話しかける。それに反応するかのように液晶画面に女性が映し出される。
彼女はパロウズ、俺がサムライとなった日から今日まで悪魔との戦いのサポート、相談相手として支え続けてきてくれた相棒である。
『いいえ、土地や周りの建造物をサーチしてみたけど、根本的に違う世界みたい。』
俺の問いにその相棒のパロウズが直ぐ返事を返してくれるが、色の良くない内容だ。残念ながら東京とは全く関係無いらしい。
ここが違う東京・・・即ち可能性の世界なのであれば、市ヶ谷駐屯地の“無限発電炉ヤマト”を使えば元の世界に帰れる。だが、東京ではないのであれば、そう言った手は使えないし、異世界に移動する手段があったとしても、無事に元の世界に帰れる保障は無い。
違う世界に飛ばされるというのには慣れている。散々と理不尽にも巻き込まれた。
依頼でも、強力な悪魔の討伐のため、可能性の世界に再び飛ばされた事もある。
だが、だからと言って飛ばされる事に不満が無いという訳ではない。
俺にはやる事があるのだ。復興を遂げていく、東京の行く末を。
混沌と秩序を飲み込み、その上で俺が目指す『中庸』、即ち、人々の可能性を。
それを見届ける義務が俺にはある。二人の友を切った時にそう誓ったのだ。
そんなこれからだ、という中でだ。
「(あの気絶していた悪魔の少女の命令、つまり、遊び感覚で呼び出した訳だ。)」
サムライというピンポイントのキーワードで呼び出したというのだから偶然としても性質が悪い冗談だ。
話を聞けば、パチュリーはあの悪魔の少女、レミリア・スカーレットに命令されやっただけであり、非はあっても落ち度はない。それは分かっている。が、それでも意図せずとも、自然と眉間に皺がよってしまう。複雑な気分だ。
『フリン様、何だか顔が怖いわよ』
「・・・。」
頭を手を当て、そのままベットに横たわる。
『ねぇ、フリン様。これからどうするの?』
・・・・これから、か。
俺を召喚した手前、この館の主であるあの悪魔の少女が俺を簡単に手放すとは考えにくい。
少女とは言え悪魔だ。難癖つけた上で、無茶な要求を押し付けて良いように利用されるかもしれない。悪魔は狡猾な奴が多いからな。
しかしだからと言っていざ強行手段に出て逃げ出したとする。
館の規模からして恐らく、この地域では有力な勢力、支配階級の部類に入るのやもしれない。無闇に暴れた結果、指名手配されて最悪、この幻想郷全域を敵に回すという事も可能性にはある。
少なくともこの世界に呼び出されるという事は、俺の世界に少なからず繋がりがあるという事、帰る手立てはある筈だ。そのチャンスを得るまでは、冷静かつ穏便に行動したいものだが・・・・。
「悪魔召喚プログラムの起動は?」
『問題ないわ。通常通り作動できる。誰か召喚する?』
「・・・いや、今は必要はない。だが、万が一という事もある。いつでも作動できるようにしておいてくれ。」
戦いが絶対に起きないとは保障できない。そこらの木っ端悪魔であれば俺だけでも十分だが、これだけの館の主だ。そこらの悪魔とは全然違うだろう。気を引き締めなければ・・・。
コンコンッ・・・
不意に部屋にノックの音が響く。
「・・・どうぞ」
そう返事をすると、侍従らしき銀髪の少女が部屋へ入室して来た。
地下図書館で会った、紅茶という茶と焼き菓子を持ってきた、確か、咲夜という名だったか。
「お嬢様の意識が戻られました。貴方様を部屋までお連れしろとの事なので、宜しいでしょうか?」
「ああ、構わない。」
この館の当主直々のご指名か。
さて、なるべく争わない方に持っていきたいが、どう事が動くことやら。
――――――
コンコンコン・・・
「お嬢様、客人のおサムライ様をお連れしました。」
「入りなさい」
その返事を聞き、侍従の彼女は部屋の両開きのドアを開ける。
俺の居た客間よりも2倍程大きく、また豪華な調度品、支配階級が寝る様な大きなベッド、小さなテーブルに載せられたティーセット・・・。正しく貴族であるという事を象徴しているような部屋であった。
ただし、必要最大限しか明かりが灯されていない上薄暗く、ここもまた色濃い紅で埋め尽くされていた。
紅魔館、その名の通りこの館は壁も通路に敷かれたカーペットでさえも紅一色である。
調度品までは流石にそうは行かなくとも、これだけ紅で統一しているとなると呆れを通り越して感心に変わってくる。見事なまでの拘りだ。勿論、悪趣味的な意味合いでだ。
ある意味人間と悪魔の権力者は似ている。変な所で見栄を張る所が。
そして俺の正面のソファには、あの図書館で気絶していた悪魔の少女が座っていた。
「ようこそ、お客人のサムライ。待っていたわ」
そう言うと、腰を下ろしていたソファから立ち上がり、優雅に、かつ堂々と俺へと視線を向けた。
「私はこの紅魔館の当主 レミリア・スカーレット。先ほどは無様な姿を見せ付けて申し訳ないわね。性質上、光に弱い種族・・・だから・・・?」
自身の身分と名を紹介し、俺の顔を見た瞬間
「・・・・。」ピシッ
当主の悪魔の少女レミリアの表情が無表情のまま固まった。
「?」
何故か余裕げな表情のまま止まってしまった。
しかも、心なしか顔色も悪くなっていってるような感じだ。
「・・・・・・・・・・さ、咲夜。」
ちょいちょいと手で来るよう、侍従の彼女に合図している。
そして呼ぶや否や、咲夜の耳元で必死に何かを訴えている様子だ。
・・・一体どうしたと言うのだろうか?
―― side レミリア ――
唐突だが私は吸血鬼、ヴァンパイアという種族の悪魔である。
様々な種族が住んでいる幻想郷だからこそ忘れがちだが、私は強力な妖怪であり、吸血鬼という種族の中でも上位に入ると自負している。だから、幻想郷に通じている魔界へ行っても、木っ端の悪魔共は私を見れば恐れ慄くし、有力な悪魔にもそこそこ顔が利く。
そして当然、そのおかげで魔界から外界、その他の世界へ進出している悪魔達から情報を得ることができるのだが、そのおかげで、私はこの状況に非常に戸惑っていた。
『何で・・・何で、天使と悪魔の軍勢を滅ぼした“サムライ”がここにいるのよぉ・・・?!』
長髪ポニーテールで中性的な整った顔立ち、青を基調とした制服に白い装束を着飾るその姿は、いつの日だったか、かつて魔界を震撼させるニュースの中で聞いた人間と同じ格好をしていた。
魔界を震撼させるニュース・・・それは一人間が、魔界の王であるルシファー率いる悪魔の軍勢、それも木っ端ではなく、爵位を持ち、軍勢を指揮する程の実力を持った大悪魔、そしてその他神話に出てくる魔王クラスの者達を滅ぼし、更にルシファーまでをも討ち取ったという話だった。
悪魔王率いる悪魔の軍勢は現在壊滅し、ルシファー自身も行方が知れずとなっている。
だが、それだけではない。ヘブライ神族たる四大天使率いる天使の軍勢までをも滅ぼし、さらに人と四大天使が合体し造られた究極の神の御業、神の戦車メルカバーまでもを破壊したとも言われている。
本懐である大魔王や神の戦車に出会うまでに、一体何百・・・いや何千の天使、悪魔を屠ったか。
それを、数名と仲魔の悪魔と共に戦ったというがそれを差し引いても常識の外の化け物である。
人間の範疇を超えている彼のサムライ・人外ハンターという肩書きと素性、似顔絵が出回っていた。そしてこう記されていた。
『このサムライなる者、最早人の枠を越えし者なり。
人間の範疇にあらぬ者 彼の者 魔人 の域に達した。
この者に遭遇すべからず、抗うべからず、ただ逃走すべし。
さもなくば、悪魔であろうと、天使であろうと、平等に死が与えられよう』
と・・・・。
魔人・・・神・天使・悪魔にも属さない非常に強力な悪魔であるがそれ以外謎に包まれている。ある時は、所々破け、古びた袈裟を身に纏った即身仏、あるいは終焉のラッパを吹く天使、幼き外見に似合わず、無邪気ゆえに残虐な幼女といったように、魔人といっても様々な者達がいるが、分かるのは、唯一つ。
“出会えば逃げることは叶わず、その先あるのは“死”あるのみ。”
チラリと彼の様子を伺う。
「・・・・・。」ゴゴゴゴ
ジェノサイドオーラを醸し出しているャヴぁイ。
サムライを呼び出したいって違う、そうじゃない。私は渋い感じのちょいっといけてるサムライを呼んで欲しかっただけなのに、ジャパニーズサムライを呼び出して欲しかっただけなのに、どうしてこうなった。
『あばばばばばばばっばばばばば』
ヤバい、意識が飛びそう↑・・・あれ、咲夜?何で口元押さえて笑ってんの、ねぇ?言っとくけど私だけが危険って訳じゃないんだからね?一応あんた達も危険が危ないんだから(?)てか、主を前にして主の様を笑うって瀟洒なメイドとしてどうよ?オオン?
一頻り、私の様を笑った咲夜は、目の前の客人のジェノサイダー(フリン)に向き直る。
「不甲斐ない主に代わって、貴方にした非礼の数々、謝罪いたします。」
そう言って頭を下げる咲夜。思わず反論しそうになるが、元凶は私だし、何より屁たれた醜態を見せているので何も言えねぇ(北島感)
相も変わらず、無表情で視線をこちらに向けているサムライに対し、瀟洒な彼女はこう持ちかけた。
「召喚された手前、この世界に拠点となる場所が無い筈。どうでしょう、お詫びと言っては何ですが・・・元の世界に帰る手立てが見つかるまで、我が屋敷を拠点としてご利用なさってはどうでしょう?」
「・・・・・・・・
・・・・・・・え、は、ちょ」
流石に今の言葉を理解するのに、物の数秒掛かった。
このジェノサイダーをこの紅魔館に置くと申したか?この瀟洒なメイドさんは?
普通にそこらの悪魔を相手に戦う人外ハンターならまだいい。許せる。
だが、この男は、そこらの勢力とかいうチャチなモンじゃない。悪魔と天使の勢力をジェノサイドした男だ。
てか、さっき話したつもりだったのだが、え?聞いてなかったの咲夜?
「我が紅魔館の客人対応の上、出来る限り支援はさせて頂きますので、どうか寛大なお心で主を許していただけたらと・・・。」
そこまで、咲夜は言うと、深く頭を下げた。
「・・・・・・はぁ」
サムライは降参とばかりに手を挙げ、そして深く溜息をついた。
「そこまで畏まらなくてもいい。そこまで怒ってない。その提案、ありがたく受けよう。宜しく頼む。」
ちょ、おぃ?話がドンドン進んでいくんだが?!私の意志は?私この館の当主!!ちょっと待っテ!展開早スギィ!!
「という訳なのですが、お嬢様?」
唐突な同意を求める問い。そして静かに私を見つめるサムライ・・・。
当然、反対に決まってるじゃない!ええ、反対って言ってやるとも・・・・言って・・・・言っ・・・て・・・・・
「俺は サムライ フリン 今後ともヨロシク」
「こ、今後とも、ヨロシク・・・。」
サムライのその挨拶に、私は屁たれた・・・。スイーツ(笑)
こうして、紅魔館にサムライ(人外)が住み込むことになった。
自分が撒いた種とは言え・・・・・・・
『どうしてこうなった・・・。』