星を司るプロの話   作:零円

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連載はじめました。


01 決勝

『さあ、ハートランドチャンピオンシップもいよいよ大詰め!残すところラスト一試合、本日の決勝を残すのみとなりました!』

 

 司会の言葉に、観客が沸く。当然だ。DMに興味の無い者が此処に居るはずが無く、そんな彼らが、数日に渡り街全体を舞台に行われたハートランドチャンピオンシップの決勝戦を前に、ボルテージの上がらぬわけがない。

 更に言うなら、その決勝の舞台に立つ、二人の決闘者も、彼らの興奮を掻き立てる要因足りえた。

 

『それでは、選手入場して頂きましょう!

まずはこの方!武神モンスターを操り戦う姿はまさに風林火山!圧倒的タクティクスを持って危なげなくこの決勝戦へと駒を進めました!本大会の大本命、切崎卓斗ぉおおおおおおおおおお!』

 

 歓声の中でスモークがたかれ、その向こうから男が一人、歩み出る。厳つい顔にがっしりとした体つき。袖がなく、裾がボロボロになったブラウンのロングコートをまとったその姿は歴戦の武士のような印象を与える男だ。

 ノッシノッシと静かに歩を進める男が、やがて低位置に立つ。

 

『対するは、この男!

 星の進撃は留まる所を知らないのか!プロになって半年、公式戦未だ黒星ゼロ!この決勝に勝てばいよいよ五十連勝の大台を達成!彼は伝説の体現者となれるのでしょうか!星野光莉ぃいいいいいいいいいいい!』

 

 やはり歓声の中でスモークがたかれ――しかし誰も出てこない。歓声が、ざわめきに変わり始める。

 

『……あれ?星野選手ー?』

 

 視界の言葉にも、反応無し。やがてスモークが晴れ始める中、誰かがその耳にエンジン音を聞いた。

 それは一人、また一人と増えて行き――

 

 ブォオオオオオン!

 

 一際けたたましい音を上げながら、スモークのカーテンを突き抜けてバイクが姿を現した。

 その姿に、ざわめきが再び歓声へと変わる中、後輪から着地したバイクはそのまま光莉サイドの陣営まで走り、スリップするように横滑りしながら停車した。

 とにかく派手。デュエルリングにバイクで乗り入れてくるような非常識。この場にいる全ての人間は一人だけ心当たりがあった。プロ公式戦初デュエルにおいても、彼は遅刻ギリギリでバイクで乗り込んできたのだから。

 

「ふぅ、ぎりぎりだったな」

 

 バイクを停めた男が、ヘルメットを外す。その下から、項あたりで一つに纏められたセミロングの茶髪とほんわかした印象を与える中性的な男――光莉の顔が覗いた瞬間、歓声の声はピークに達した。

 

「やー。どもども」

 

 光莉がライダースーツのジッパーを下ろしながら、観客達にヒラヒラと手を振る。そんな彼へ、慌てた様子でスタッフの一人が駆け寄って、ピンマイクを装着した。帰り際にはバイクを押して行くことも忘れない。余りにも手馴れた一連の動作が、どれだけこのスタッフに光莉が迷惑をかけている事を証明していた。

 心中で礼を言いながら、『こんにちわー!』とマイクに乗って拡声された声がスピーカー越しに響く。直後に、やはり『こんにちわー!』と観客席からレスが返って来た。満足げに頷く光莉。そして観客達に向いていた視線は、卓斗の方へと向く。

 

「きちんとお会いするのは初めてですね切崎プロ。お噂は予々。こういう機会でもなければ、こちらから一戦、お願いしようと思っていました」

「ああ、こちらもだ」

 

 光莉の挨拶に、彼の体にあった低い声で、卓斗も応える。

 

「仲間内で、誰がお前の連勝記録を止めるのかと、良く話題になっている。賭けもした」

「あらあら」

「勿論俺は――俺自身に賭けた。お前は強い、認めよう。だからこそ俺が止める」

「……残念ながら」

 

 ニコリと、人の良さそうな柔らかい笑顔を浮かべていた光莉が、一転、目が細くなり、目尻を釣り上がる。

 

「止まりません。五十連勝、決めさせて貰います」

「その意気や良し」

 

呼応するように、卓斗の表情も更に険しさを増した。

 

「ならば語るのに最早言葉は必要無い。始めよう」

「いつでも」

 

『相対する二人、その熱気は今や最高潮! それでは初めて頂きましょう、ハートランドチャンピオンシップ決勝戦! 切崎卓斗選手VS星野光莉選手の一戦です!』

 

「「決闘!!」」

 

***

 

「キャー! 星野プロー!」

 

 直ぐ隣から聞こえてくる姦しい少女の声に、ナスを彷彿とさせるカラーリングの髪の少年、ユートがゲンナリとした表情を浮かべながら、隣の方へと視線を向けた。

 

「瑠璃。もう少し静かに」

「うっさい」

 

 取り付く島なしとはまさにこの事だろうと思いながら、ユートは一先ず諦めて、少女――瑠璃の反対側に座っている男の方へと視線を動かした。こちらは少女の方とは一転。寡黙を貫き、平時でも悪すぎる目つきを更に鋭くして、試合へと集中していた。なんだこの状況と、ユートは漏らしそうになる溜息を頑張って飲み込み、男――瑠璃の兄である黒咲隼へと話しかける。

 

「どっちが勝つと思う?」

「……短期決戦なら星野。長期戦になるようなら切崎、と見ている」

 

 光莉の使う星因子というシリーズは、無効にされなければ絶対にアドバンテージを取れることが特徴だ。それは、星因子全員がターンに1度という制約はあるものの、『召喚、特殊召喚、反転召喚された場合に発動できる』という条件であるから。つまるところ、大嵐にチェーンしてリビングデットの呼び声を発動して特殊召喚しても、タイミングを逃すことなく、効果を発動するかしないかを選択出来る。

 それを利用して、サーチ効果を持つ星因子をとにかく使いまわしてアドバンテージを取り、エクシーズに繋いでいくデッキ。それが星因子だ。

 対して卓斗の使う武神デッキには星因子同様にサーチ効果を持つ武神がおり、そのモンスターは場にいる限り、1ターンに1度、自分のエンドフェイズにサーチと手札交換を行えるモンスター。武神は基本的にそのモンスターを守りながら戦い、要所要所でエクシーズに繋げていくデッキである。

だが星因子と違い、サーチがエンドフェイズということもあり、武神デッキは遅い。ガッチリと固めながら、堅実に守りと攻めを繰り返して行かないといけない。焦れてもダメ、慎重になり過ぎてもダメ。攻守を転換させるタイミングが難しいデッキである。

 

「長期戦になれば厳しいという事は、星野にも分かっているだろう。だからこそ序盤からガンガン攻めていくはずだ。それを切崎が凌ぎきれるか、そこが勝負の分かれ目だろう」

「成る程」

「何言ってるのよ」

 

 隼とユートの会話に、瑠璃が割り込んだ。

 

「勝つのは星野プロよ。決まってるじゃない」

「「……」」

 

 言いたいことだけ言ってさっさと応援に戻った瑠璃を前に、今度こそユート、そして隼の二人は、揃って溜息を漏らした。

 

***

 

「先攻は――こっちだな」

 

 そう言ったのは、光莉の方であった。

 この大会において用いられるDMのルールは、マスタールール3(ただし、初期ライフのみ8000ではなく4000ポイント。それ以外はOCGのマスタールール3を参照)。先攻プレイヤーのドローフェイズにおけるドローは認められず、初期手札5枚からのスタートとなる。

 扇状に広げた手札を見て、光莉はふむと頷いた。光莉は、先程客席にて隼がユートへ解説していた内容をきちんと理解している。いずれは挑みたいと思っていた相手の一人なのだから当然だ。きちんと研究し、シミュレーションもしてきた。それは、恐らく相手も同じだろうけども。だからといって負ける気など全く無い。

 

「さて行くか。順当に、確実に。俺は『星因士 ウヌク』を召喚」

 

 召喚されたのは、へび座の化身。星因子デッキに置いては、キーカードの為のキーカードであり、通常召喚出来る星因子では2番目に攻撃力の高い、縁の下の力持ち的なポジションにあるモンスターである。

 

「こいつは、召喚・特殊召喚・反転召喚成功時にデッキから『テラナイト』モンスターを1体、墓地に送れる。効果で『星因士 デネブ』を墓地に送る」

 

 送られたカードを前にして、卓斗は表情を変えることはない。このくらいは流石に予測の範疇、という事だろう。別に驚いて欲しかったわけでもないが、全く反応無しというのも正直面白くはない。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー」

 

 デッキからカードを引く卓斗。6枚になった手札のうち、1枚を迷わず場に出す。

 

「永続魔法『炎舞-「天キ」』を発動」

 

 発動されたのは、武神サポートカードという訳ではない、本来なら『炎星』と呼ばれるシリーズのサポートカード。しかし発動に成功すれば、獣戦士族モンスターをデッキからサーチ出来るという優秀な効果故、獣戦士を使うデッキであれば大体のデッキに入るカードだ。武神器モンスターは獣族と鳥獣族で分かれているが、武神モンスター達は皆獣戦士族。

 

「効果で『武神-ヤマト』を手札に加える」

 

 こうして、デッキのキーカードをそのまま手札に加えられる。

 

「そのまま召喚する」

 

 召喚されるモンスター。攻撃力1800で、ウヌクと同じ。基本的に下級モンスターの攻撃力が低めに設定されている星因子デッキでは、エクシーズ召喚抜きでは突破が難しい攻撃力である。ただでさえ難しい、その攻撃力が――

 

「『炎舞-「天キ」』の効果で獣戦士族モンスターの攻撃力は100ポイントアップする」

 

 強化される。これでヤマトの攻撃力は、ウヌクを100ポイント上回ってしまった。たかが100ポイント。そう言って切り捨てるには、星因子デッキには少し大きい。

 

「バトルだ。『ヤマト』で『ウヌク』を攻撃する」

 

 グッっと拳の握りを強めた『ヤマト』が、攻撃宣言を受けて飛び上がり『ウヌク』へと襲いかかる。

 セットカード2枚、どちらも反応無し。『ウヌク』はそのまま『ヤマト』に攻撃され、破壊された。攻撃力の数値の差分、100ポイントが光莉のライフから削られる。

 

「……予定通りという顔だな」

「やっぱり分かるか。まあ、予定通りだからって、このタイミングで発動するカードは無いけど」

「そうか。俺はバトルフェイズを終了。メインフェイズ2に入る」

 

 メインフェイズ2。卓斗は場にカートを2枚伏せ、そのままエンドフェイズを宣言する。

 

「だが、ここからは俺が好きにさせて貰おう。自分エンドフェイズ、『武神-ヤマト』の効果を発動。デッキから『武神』と名のついたモンスターを1枚手札に加え、その後手札を1枚墓地に送る。手札に加えるのは『武神-ミカヅチ』。そして墓地に送るカードは『武神器-ムラクモ』だ」

「『サグサ』じゃなくて『ムラクモ』……」

「ターンエンド。お前のターンだ」

「まあ、もう少し待て。そっちのエンドフェイズに、永続罠『リビングデッドの呼び声』を発動する」

 

 墓地のイラストの書かれたそのカードは、『死者蘇生』と並ぶ汎用性の高い蘇生カード。卓斗のデッキにも入っている。

 

「墓地に眠る『星因士 デネブ』を蘇生させる」

 

 蘇るのは、『ウヌク』の効果で墓地に送られたモンスター。『テラナイト』デッキのキーカード中のキーカードである。効果は単純。いずれかの召喚方法に成功して場に出た場合、1ターンに1度、『テラナイト』モンスターを手札に加える効果。

 

「『デネブ』の効果で『星因士 アルタイル』を手札に加える」

 

 デュエルディスクの自動サーチ機能で排出されたカードを、光莉は危なげなくキャッチする。その後、自動シャッフルが挟まって、卓斗は改めて終了宣言を行った。

 

『此処まで、お互いにターンを終え、ライフ、フィールド共にほぼ互角! 序盤はお互いに牽制といった所でしょうか! 次は星野プロのターン、このターンより星野プロもドローが可能となります』

 

「俺のターン」

 

 デッキトップに手をかけ、光莉は卓斗のプレイングについて自問する。

 

(『ムラクモ』の効果は、自分メイン中、場に『武神』モンスターがいれば墓地の自身を除外することで、相手の場にある表側表示カード1枚を破壊する効果……。厄介なのは事実だが、墓地にはこのターンの防御に使えるカードではない。……つーことは、だ。あのセットカードのどっちか、あるいは両方が防御札。手札から『ハバキリ』ないし『オネスト』が飛んでくる可能性もあるが、この序盤で使ってくるか微妙だな。ヤマトを守る為なら、使う可能性もあるが)

 

「ドロー」

 

 差し当たり関門の一つである伏せカードを破壊出来るカードを引けないかと思いながらカードを引くも、残念ながらその手の効果を持つカードではなかった。これではこのターン、罠と分かっている相手の場に特攻しなければいけなくなってしまう。勿論攻撃しないという選択肢もあるし、エクシーズ召喚を挟んでからの効果破壊という手もあるにはあるが、複数のカードを使用して召喚されるモンスターエクシーズを、あのセットカード1枚で対処されようものならそこからのリカバリーが少し厳しい。

 こんな事になるならマジ仕様で来れば良かったかもと、少しだけ後悔する。ワンパターンになってしまい、観客が飽きてしまうからイベント向きではないのだ。

 

「……まあ、そうだな。とにかくこのターンでやれることをやるか。うまく流れを掴みたいもんだ」

 

 小声でボソリと呟きながら、光莉は先程サーチ効果で手札に加えた『星因士 アルタイル』を召喚する。

 

「召喚無効にするカードがないなら、『アルタイル』の召喚成功時の効果を発動するが」

「無いぞ」

「なら発動だ。こいつは召喚成功時に墓地の『星因士』モンスター1体を蘇生する。この効果で俺は『ウヌク』を蘇生」

 

 『アルタイル』の剣先から光が放射され、場に円を描く。その円の中から、先程破壊された『ウヌク』が現れた。

 

「特殊召喚成功時に『ウヌク』の効果。デッキから『星因士 ベガ』を墓地に落とす」

 

 モンスターの展開と墓地肥やし。2つを並列して行われ、光莉の場には3体のレベル4モンスターが並ぶ。

 

「さて、行くぜ。俺は『デネブ』『アルタイル』『ウヌク』の3体でオーバレイ!」

 

 3体のモンスターが光の玉に変わり、銀河系のような渦の中に飲み込まれる。

 

「3体の『テラナイト』モンスターでオーバーレイネットワークを構築。極寒の夜空に輝く大三角の気高さよ。今こそ我が剣に宿り、仇なす敵を打ち払え! エクシーズ召喚! ランク4『星輝士 トライヴェール』!!」

 

 光の奔流と爆発。全てが明けた時、場に居たのは白銀の鎧とまとった騎士であった。右手にはレイピア、左手には三角形の盾を持つその姿に、会場が沸く。

 

「『トライヴェール』の効果発動! エクシーズ召喚に成功した時、このカード以外の場に存在する全てのカードを持ち主の手札に戻す! シェイリング・ブリザード!」

 

 『トライヴェール』がレイピアを一閃させると、突如吹雪が巻き起こった。ガタガタと光莉の『リビングデッドの呼び声』や卓斗の場の伏せカードが揺れ始める。

 しかし冷静に、卓斗は伏せカードの1枚を発動した。

 

「その効果にチェーンする。永続罠『安全地帯』!」

「っ!?」

「対象は『トライヴェール』!」

 

 表になった『安全地帯』のカードのイラスト部分からの光が放たれ、『トライヴェール』を覆う。

 『安全地帯』とは表側攻撃表示モンスターを対象にとって発動し、あらゆる破壊の無効と対象に取れない効果を与える防御カードである。ダイレクトアタック出来なくなるデメリットはあるものの、優秀なカードだ。

 

「何も無いなら、効果を解決して貰おうか!」

「……吹きとばせ、『トライヴェール』!」

 

 吹雪が一層勢いを増し、場のカードを全て持ち主の手札へと吹き飛ばした。それは、『安全地帯』も例外ではなく。

 

「この瞬間、『安全地帯』の効果を発動! このカードが場を離れた時、対象になっていたモンスターを破壊する!」

 

 『安全地帯』のもう一つ弱点。それが、場を離れた時に行われる対象モンスターの破壊である。自分モンスターを対象に耐性を与えていたのに、魔法・罠除去カード1枚で破壊されたなどざらに起こる。だが、このデメリットを利用するデッキも存在する。

 

「『トライヴェール』を破壊!」

 

 今回のように相手モンスターを対象に発動し、何らかの方法で『安全地帯』を外して破壊するコンボ攻撃。自らのカードを手札に戻すことでアドを取る【セルフバウンス】のようなデッキで良く見られる動きだ。今回の卓斗の動きは、それに近い。

 普通との違いは、バウンス効果を発動したのが光莉であるということだけ。光莉からしてみれば体良く利用された形になった。

 『トライヴェール』が破壊される。だが、この程度では止まらない。

 

「『トライヴェール』の効果発動! こいつはエクシーズ素材を持った状態で墓地に送られた場合、墓地の『テラナイト』モンスターを蘇生させる! 戻ってこい、『トライヴェール』!」

 

 破壊された衝撃で舞っていた『トライヴェール』の光の粒子が再び集まり、『トライヴェール』の形を取る。

 

「ここでサーチの使える『デネブ』ではなく『トライヴェール』……。ということは」

「バトルだ。『トライヴェール』でダイレクトアタック!」

 

 『ウヌク』が跳び、勢い良く滑降しながら、レイピアを使って卓斗を攻撃した。

 卓斗のライフポイントが一気に1900まで削られる。だが、まだ光莉の攻撃は終わらない。

 

「速攻魔法『天架ける星因士』!

こいつは場の『テラナイト』モンスターとデッキの『テラナイト』モンスターを入れ替える! 俺は『トライヴェール』をデッキに戻し、『星因士 シャム』を特殊召喚! この時、『トライヴェール』はエクストラデッキに戻る!」

 

 『ウヌク』の頭上に現れた円の中に『ウヌク』が吸い込まれ、入れ替わりに『シャム』と呼ばれた小柄な『テラナイト』モンスターが現れる。

 

「『シャム』の効果! 特殊召喚成功時に、相手に1000ポイントのダメージを与える! 喰らえ!」

 

 その手に持った弓から矢が放たれ、卓斗の右肩に突き刺さる。これで残りライフポイントは900。『シャム』の攻撃力は1400である。

 

『おーっと! 切崎選手のライフポイントが『シャム』の攻撃力を下回った! 場はガラ空き! この攻撃で決まってしまうのか!?』

 

 実況が会場を煽る。それを聞きながら、本当に終わればいいなと少しだけ思いながら――

 

「『シャム』でダイレクトアタック!」

 

 攻撃宣言。新らたに番えた矢を、『シャム』は再び放った。迫る矢を前に、卓斗は手札を1枚、公開する。

 

「『バトルフェーダー』の効果を発動!」

「なっ!?」

「こいつは相手の直接攻撃宣言時に手札から特殊召喚出来る。こい、『バトルフェーダー』!」

 

 迫る矢から卓斗を庇うように現れたそのモンスターは、現れた直後、身から伸びる鐘を打ち鳴らす。

 

「そして、バトルフェイズを終了させる!」

「手札誘発の防御札……。持ってたか」

 

 『シャム』の放った矢が打ち消され、強制的にメインフェイズ2に移行する。

 プレイを続行しようとした光莉だが、観客席が僅かにざわめいているのを聴いて、仕方がないかと、口を開いた。

 

「……一応、聞いてもいいか? いや、察してはいるけど、念の為。ファンサービスに」

「なんだ?」

「なんで『トライヴェール』の攻撃の時に『バトルフェーダー』を使わなかった。使っておけば、ライフは無傷だったはずだろ」

 

 ざわめきの内容など、大凡の察しはついていた光莉がそう尋ねる。すると、一字一句聞き逃すまいと、観客席のざわめきが静まり返った。成る程と、プロとしての経歴の長い卓斗も察し、返答する。

 

「単純だ。『トライヴェール』を蘇生した時点で、手札に『天架ける星因子』を握っていると予想出来た。だから受けたんだ。お前にそのカードを消費させる為にな」

「……ダメージ優先した可能性もあるだろ?」

「お前の事は研究した。お前だったらライフを0に出来る算段がつかなければ、基本的にアドを優先する。3枚のモンスターで召喚したお前のエースが破壊された状況なら尚更だ。アドバンテージを取り戻すために『デネブ』を蘇生。新たな『テラナイト』モンスターを手札に加える方がお前らしい。

しかしそうせず、『トライヴェール』を呼び出した。なら、ライフを0にすることを狙いつつ、例え失敗しても『トライヴェール』をエクストラデッキに戻せる『天架ける星因子』を持っていると踏んだ」

「……」

「『天架ける星因士』があると分かれば、話が早い。そのカードは今回のような追撃にモンスターの展開、何より、お前のデッキに眠る多くのコンボの要とも言えるカード。それを1枚でも消費させておきたかった。どうせ3枚積んでるだろうが、2枚になれば少しは気も楽だからな」

「……お見事。参ったな」

 

 ポリポリと頭を掻く光莉。

 

「そこまで読まれてたのか。思ってた以上に研究されてるな」

 

 だがそれは、相手が自分を認めているという証でもある。嬉しそうに笑いながら、光莉は残り4枚の手札のうち、3枚を魔法・罠ゾーンに伏せる。

 

「これでターンエンド」

「俺のターン。ドロー」

 

 1枚引き、手札は7枚。枚数としては十分過ぎる程である。

 

「まずはこいつだな。『炎舞-「天キ」』を発動」

 

 先程のターンも使った、獣戦士族モンスターの万能サーチ。手札にバウンスされた為、再利用が可能になったものだ。だが、再利用される事は、光莉としても織り込み済みだ。

 

「チェーンだ。速攻魔法『相乗り』!」

 

 今や禁止カードとなってしまったモンスター達がタクシーに乗っている様を描かれたそのカードを前に、卓斗が渋い顔をする。

 

「相手がドロー以外の方法でカードを手札に加える度に、このターン、1枚ドロー出来る。チェーンがなければ、逆順処理で解決するぞ?」

「好きにしろ」

「『相乗り』解決。『天キ』のサーチのタイミングは発動後の効果処理時。サーチするか?」

「……考えさせて貰おう」

「了解」

 

 光莉の言葉に、卓斗は悩む。

 

(手札枚数の差を見れば、アドバンテージの差は歴然。とはいえ、俺の残りライフも僅か。次のターン。『リビングデッドの呼び声』を使われ展開されれば、アドバンテージ差はあれど、ライフを削られかねない……か。防御に使えそうなカードはバウンスされた『安全地帯』のみ。手札誘発のカードはない……)

 

 態々手札の少ない相手にドローを許すのもどうかとは思うが、防御を固めるという意味では、多少のドローは致し方がない。そう、判断する。

 

「効果解決。デッキから『武神-ヒルメ』を手札に加える」

「『相乗り』の効果で1枚ドロー」

「更に墓地の『ムラクモ』を除外して『ヒルメ』を特殊召喚する」

 

 『武神-ヒルメ』。墓地の『武神』モンスターを除外することで特殊召喚できるモンスターだ。場に依存せず、攻撃力も2000と高い。

 

(召喚権を残しての展開……ってことは)

「更に墓地の『武神』が除外された時、『武神-アスラダ』を特殊召喚出来る。この時の表示形式は守備表示固定だ」

 

 新たに呼び出される『武神』。本来であれば、除外の後に召喚を挟むため、発動できないはずだが、『武神-アスラダ』のテキストは「武神と名のつくモンスターが除外された場合、特殊召喚できる」という「場合」の任意効果。これは、『テラナイト』モンスターの召喚時効果と同じである。

 その為に、タイミングを逃すことなく、特殊召喚出来るのだ。

 

「『ヤマト』を召喚する」

 

 最後に、『トライヴェール』でバウンスされたモンスターが召喚され、卓斗の場には3体の『武神』モンスターが並ぶ。これでもう1体の獣戦士族『武神』が現れれば、フルコンプなのだが、生憎と出てくる気配はない。一応そのモンスターにも特殊召喚効果はあるが、今の状況では条件を満たせない。

 

「さて。エクシーズにはエクシーズで返すべきだな」

「出オチ気味に破壊されたんだが」

「俺はレベル4の『アラスダ』と『ヒルメ』でオーバーレイ!」

「無視かよ」

 

 漫才じみたやりとりに、会場が笑いに包まれる中、気にせず卓斗は言葉を続けた。

 

「2体の『武神』モンスターでオーバーレイネットワークを構築! 集いし力を持って、悪しき神々へ誅伐を下せ! エクシーズ召喚! ランク4『武神帝-スサノヲ』!」

 

 それは、5つの武神器を従える『ヤマト』の姿であった。登場したエースモンスターに、卓斗側の陣営が沸き上がる。

 

「『スタノヲ』の効果を発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを一つ使い、デッキから『武神』と名のつくカードを、手札に加えるか墓地に送る。俺は『武神-ヒルメ』を手札に加える」

 

 2枚目である。ドロー以外の方法で卓斗がカードを手札に加えたのでドローしながら、うへぇと光莉は内心で呻いた。2枚目とかずるい。いや、ルール的に何の問題もないけど。

 

「墓地の『アスラダ』を除外して『ヒルメ』を特殊召喚!」

 

 再び現れる『ヒルメ』。凄く『激流葬』したいが、生憎光莉のデッキにはその手のリセット系のカードは入っていない。入れる枠が無い。ガチ仕様の方にも入れてない。

 

「そして『ヒルメ』と『ヤマト』でオーバーレイ!」

 

 その宣言に、おろ?と光莉は内心で首をかしげる。

 『武神』デッキに置いて、連続エクシーズというのは珍しい。少なくとも光莉の覚えている限り、公式記録でも卓斗が1ターンに複数回のエクシーズを行ったという記録は無い。

 

「2体の獣戦士族モンスターでオーバーレイネットワークを構築! 盟友のため、捨てし力。今再び結集し、友と共に正義を尽くせ! エクシーズ召喚! ランク4『武神帝-カグツチ』!」

 

 召喚されたのは、先程並んだ下級武神達の中で唯一並ぶ事のなかった『武神-ミカヅチ』が『武神器』を装備したモンスター。『スサノヲ』と並ぶ卓斗のエースである。

 

「エクシーズ召喚成功時、『カグツチ』の効果を発動! 効果は単純だ。デッキトップから5枚のカードを墓地に送る。その中にある『武神』カード1枚につき100ポイント、攻撃力をアップさせる」

 

 勢い良く5枚のカードをデッキの上から引き抜き、卓斗はそれを公開する。

 

「落ちるカードは『武神器-ハチ』、『武神降臨』、『ハーピィの羽箒』、『武神器-ツムガリ』、『武神器-ヤタ』の5枚だ」

 

 何とも言い難い落ちである。墓地発動のカードは2枚。それ以外は外れだ。だが落ちたカードは厄介な2枚である。

 『ハチ』の効果は魔法・罠カードの破壊。『ヤタ』の効果は戦闘時に相手モンスターの攻撃力分、モンスターの攻撃力を上げる『オネスト』と同じ効果。ダメージが半分になるデメリットはあるが、その強さは折り紙付きだ。

 

「『リビデ』は破壊しておきたい所だが、そうでなくとも、攻撃反応の罠を潰せればいいか。『ハチ』の効果を使う」

 

 卓斗は墓地にあった『武神器-ハチ』をゲームから除外する。

 

「『ハチ』は『武神』モンスターがいるとき、このカードを墓地から除外することで、相手の魔法・罠カード1枚を破壊する。俺が破壊するのは右側のカードだ!」

 

 ムカデのような生物が卓斗の墓地から飛び出し、卓斗の指さしたカードを狙い突き進む。

 

「……当たりだ。チェーン発動『リビングデッドの呼び声』!」

 

 発動したカードに、卓斗の顔がにやりと笑い、光莉は少し苦々しげに顔を歪めながら、効果を処理する。

 

「『アルタイル』を蘇生だ」

「だが『リビングデッドの呼び声』が破壊されたことにより、そのモンスターは破壊される」

 

 現れ、即座に破壊された『アルタイル』。だが、「場合」の任意効果はこれだけで発動条件を満たせるのだ。

 

「特殊召喚成功により効果。『デネブ』を蘇生。更に蘇生された『デネブ』の効果で『星因士 ベテルギウス』を手札に加える」

「随分だな。まあ『リビデ』を残しておいたら更に悪化したと考える事にしよう。幸い、何体展開されようが、『スサノヲ』の敵ではない」

 

 『武神帝-スサノヲ』。『武神』デッキの代名詞にも近いこのカードは、エクシーズ素材を使ったサーチ効果の他、エクシーズ素材を使わず相手モンスター全てに攻撃出来るという能力があるのだ。『スサノヲ』の攻撃力2400。現在は『炎舞-天キ』の効果で強化されて2500。

 攻撃表示なら攻撃力が。守備表示なら守備力が、2500より低いモンスターなら殲滅出来るのだ。現在、光莉の場にいるモンスター達は、それぞれその条件を満たしてしまっている。

 それだけではない。『カグツチ』の攻撃力は『天キ』と自身の効果を合わせてジャスト3000であり、総攻撃力は5500である。『スサノヲ』で場のモンスターを壊滅させられ、挙句『カグツチ』のダイレクトアタックを受ければ、合計4100ポイントのダメージを受けてワンターンキル達成だ。

 1ターン前には自分がワンキルを受けそうになったにも関わらず、その直後のターンにワンターンキルを仕掛けようとしているのだ。

 

「バトルフェイズだ」

「……『オネスト』警戒しないんだ」

「ここで攻撃しないを選んだ所で、モンスターを残せば返しのターンに負ける可能性もあるからな。ここは臆せず攻める」

(だよねぇ)

「まずは『スサノヲ』で『シャム』を攻撃する!」

 

 剣を振りかざした『スサノヲ』が『シャム』へと向かう。迎え撃とうと『シャム』が矢を放つが、『スサノヲ』の周りにいる武神器達が全てを叩き落とす。

 やがて『スサノヲ』は『シャム』の元へ到達。振り上げた剣を振り下ろし――その刃は『シャム』を庇うように動いた『デネブ』の体を切り裂いた。

 

「っ!?」

「悪いがモンスターを全滅させるつもりもダメージを受けるつもりもない。発動したのは罠カード『立ちはだかる強敵』!」

「そいつか! めんどくさいカードを!」

「相手の攻撃宣言時に発動出来、相手の攻撃対象をこっちの指定したモンスターに変更。このターン、相手はそのモンスター以外を攻撃出来ない。つっても正直この使い方だと『和睦の使者』とかの方が便利なんだけどな」

 

 生憎入れていないから、無いものねだりはできない。

 

「『デネブ』は『スサノヲ』の攻撃で破壊。『立ちはだかる強敵』の効果で、このターン『デネブ』以外を攻撃出来ない。『シャム』を戦闘で破壊する事は無理だぞ」

「結局モンスターは残るか。メイン2にカードを3枚伏せてターンエンドだ。さて、覚えているとは思うが、『カグツチ』には『武神』モンスターの破壊をオーバーレイユニットで肩代わりする効果がある。墓地には攻撃力を上昇させる『ツムガリ』もいる。更に3枚の伏せカード。この状況、突破出来るか?」

「ワンキルは厳しいと思うかな。俺のターンだ」

 

 苦笑いしながら、光莉はカードを引いた。

 

 

 

デュエル状況

 

光莉

LP:3900

手札:4枚

場(モンスター):星因士 シャムATK1400

 (魔法・罠) :無し

 

卓斗

LP:900

手札:1枚

場(モンスター):武神帝-スサノヲATK2500 武神帝-カグツチATK3000 バトルフェーダーDEF0

 (魔法・罠) :炎舞-天キ 伏せカード3枚

 




3.18
黒咲の妹が璃緒になっていたのを修正しました。
全部ナッシュって奴の仕業です。嘘です。TFSPで璃緒ルートやってたので、ごっちゃになっただけです。
無力な作者を許してください。

3.18
テラナイトの表記ミス修正。ベテルギウスの名前間違い修正。
思い込みって怖いね。

5.28
変な言い回しがあったので直した。
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