星を司るプロの話   作:零円

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後編が明日投稿出来るか怪しい模様


10 学舎

 融合次元、アカデミア。

 デュエル兵士養成所であるこの場所は、一見すればただの学び舎にしか見えない。

 そこにいる生徒達は年齢差があれど、青春を謳歌しているとばかりに意気揚々としている者が多いし、道行く教師を呼び止めて質問する姿は、まさしく学生のものであった。

 ただ、彼らの会話の内容は、やれ誰々がエクシーズ次元のデュエリストを何人狩ったとか、いつか自分の立派な兵士になるのだとか、そんな物騒な話題ばかり。そんな会話を耳にしながら、彼女――明野都姫は僅かに顔をしかめた。

 

(今までの私は、良くこの環境に適応出来ていたものですね)

 

 中庭のベンチに座ってそんな会話を聞きながら、都姫は恐ろしさに身を震わせた。自分もあんな会話をしていたのだと思うと余計にだ。

 

(此処にいる彼らにとっては、所詮対岸の火事ということなのでしょう)

 

 アカデミアのある融合次元は戦場になる事はない。それは、他の次元に次元転送の技術が確立していないからだ。もし出来ても、融合次元の座標が分からなければ、この次元に来ることは叶わない。ここにいるほぼ全員が、戦果は知っていても、戦火を知らないのだ。

 ……否。仮に行ったとしても、戦火を前に恐ろしいという心を得ることなく、崇高たる目的の為の灯火として美しいと考えるのだろうと、都姫は確信する。自分もそうだったのだから。光莉に怒鳴られ、戦火が広がり荒廃した街を改めて見て、初めて自分のした事が間違いなのではないかと思えた程なのだから。

 

(それだけ、プロフェッサーに心酔していたということなのでしょう。そういう意味では、一番恐ろしいのはあの方の教育能力というか、洗脳技術ですわね)

 

 そのプロフェッサーが問題だった。

 

(いつになれば謁見が叶うのでしょうか)

 

 光莉に敗北し、アカデミアへと帰還して暫く経つが、未だにプロフェッサーと会えていない都姫。聞きたいことは決まっているのだから、恐らく10分程で終わるというのに、いつも忙しいと突っぱねられてしまうのだ。

 ここまで来ると、もう向こうに会うつもりが無い、というのは明らかである。なにか他の方法を考えなくてはいけないだろうかと、都姫は溜息を漏らした。

 

「明野」

 

 ふと、名前を呼ばれて都姫は顔を上げた。見上げた先には、赤い制服を纏った男。右袖が無く、左袖は長いままという左右非対称の改造制服に身を包んだこの男は、アカデミアきってのイレギュラーであった。

 紙パックのコーヒー牛乳を飲みながらそこに建っていた男に、都姫は眉を顰める。

 

「どういたしましたの?確か、エクシーズ次元に行っていた筈では?」

 

 この男は、オベリスクフォースではなく、しかも赤い制服――アカデミアでは最下層のヒエラルキーに存在することの証である――を着ているにも関わらず、都姫と同じくエクシーズ次元の侵攻に関与していた。流石に一個小隊を率いることは許されず、完全自立しての遊撃役。要は厄介払いされているのだけれど。

 それでも、この男は戦火を上げ続けているのだ。つい昨日も、有名なプロデュエリストを1人倒したと、学内掲示板に貼り出されていた。それでも話題に上がらず、誰にも褒められない辺り、彼がどんな立場にいるのかは容易に想像できる。

 

「俺の担当だった街、誰も居なくなっちまったから帰ってきた。本当はレジスタンスの抵抗が1番激しいハートランド行きたかったんだけどな。ダメって言われちまったよ」

 

 舌打ちをする男。基本的に戦闘狂であるから、戦いの匂いがする場所には何が何でも乱入していきたいのだろうと、都姫は考えるまでもなく察する事が出来た。

 表に出すことなく、都姫は心中で胸を撫で下ろした。この男があの街に出向けば、確実に光莉と衝突する。星野光莉の名前は、アカデミアの中でもトップクラスの獲物として名高いのだ。誰が狩るかで賭け事が行われているという話も聞いたことがある。

 風の噂で、レジスタンスに彼が入ったと聞いて、思わず安堵したものだ。いつまでも1人では、数の暴力で蹂躙される可能性が高い。仲間が居ると居ないとでは、大違いである。

 

(彼には、私の答えを聞いて頂きたいですから。それまでは無事でいて頂かないと)

 

 その答えを出す為にも、早くプロフェッサーと謁見したいものだった。

 

「――い、おい!」

「あっ」

 

 つい考え事をしてしまい、都姫は男のことを完全に無視してしまっていた。

 慌てて反応を返すと、呆れ顔を浮かべる男。非常に不服である。

 

「ったく、なんだよ急に。黙りやがって」

「失礼。貴方と違って色々と考えることがあるんですの」

「謝るのか馬鹿にするのかハッキリしろ」

「ばーか」

「しばくぞ、このアマ!」

 

 ガァッ!と分かりやすく怒りを示す男に、都姫は溜息で答えた。

 

「そんなに血が激っているのでしたら、そこらへんの生徒を適当に捕まえて相手をさせれば良いではないですか」

「もうやった」

「ああ」

 

 どこの誰だか知らないが運の悪い。まあ、狂犬に噛まれたと思って忘れて貰いたい所だ。

 

「んで?お前はなんで此処にいんだよ」

「デュエルで敗北致しましたので、謹慎中です。それに少し聞きたいこともありましたから」

「聞きたいこと?」

「ええ。プロフェッサーへ。ですが、中々謁見が叶わないのです」

「はぁ?あの糞ジジイに話があんなら、いきゃいいじゃねぇか。なんでいい子ちゃんに待ってんだよ、お前」

「……貴方と違って育ちが良いもので」

 

 ピキッと男のこめかみに青筋が浮かんだのが見えたがスルー。口が悪いし素行も最悪だが、だからと言って、無闇矢鱈と人に暴力を振るうような人間ではない。

 

「……あの」

「なんだよ」

 

 ふと、男の片手で数えられる交友関係の内の1人の事を思い出し、都姫は男に尋ねた。

 

「貴方は、知っていますか?エクシーズ次元やシンクロ次元に大きな被害を出してまで、何故世界を1つにしなければならないのかを」

 

 都姫の言葉に、男は先程までの怒りの様子をすっかりと引っ込め、どこか見定めるような、鋭い視線へと変わった。

 だが、それも一瞬。直ぐに先ほどまでのどこか気の抜けた感じへと戻った。

 

「……いや、知らないな」

 

 そして男は、首を横に振る。その態度に、「本当ですか」と都姫は思わず食い下がった。

 

「貴方のご友人、プロフェッサーの懐刀、アカデミアの実質No.2であるユーリから、何か聞いていらっしゃらないのですか?」

 

 アカデミアでは知らぬ者がいないであろう、ユーリの名前を出しても、男の態度は変わらない。

 

「最近疎遠なもんでな。お話する機会なんて滅多に無いんだ。ああ、ユーリ。君に会いたいなぁ」

「気持ち悪い」

「マジなトーンで言うなよ。冗談だよ。遊びたいのは本当だけどな」

 

 アカデミア校舎を見上げ、溜息を漏らした男は、「それはそうと」と言いながら、都姫の座るベンチへ腰を下ろした。紙パックを両手で掴み、都姫に視線を向けることなく告げる。

 

「お前、デュエルディスクはどうした?」

「え?ディスクですが?それでしたら開発部が持っていったままなのですが」

「そうか……」

 

 男は周囲を探ると、都姫の方へと身を寄せた。なるべく近づき、聞かれないことを意識しているのか、小声で言葉を続ける。

 

「その話、糞ジジイにはするな」

「……え?」

「俺はあのジジイが大嫌いだから、このアカデミアでは一番引いた目で見てるつもりだ。あいつは、言葉こそ立派に、俺達が強くて正しい的な事を言って、世界を1つになんて大それた目的語ってるけど、内容は薄っぺらだ。俺達に何も伝える気がない」

「……ええ。私も同じ事を考えさせられました。でも、同時に何か大きな理由があって、話が出来ないのでは、とも思うのです」

 

 それが洗脳所以の気持ちかもしれないが。だが、この気持ちを都姫は無視できない。

 しかし男は、そんな都姫の言葉に、溜息で答えた。

 

「……ナンバーズとダークシンクロ」

「え?」

 

 男が呟いた言葉に、都姫は首を傾げる。

 

「最近、開発部のキチガイ共が作ったテーマの名前だ。知ってるか?」

「いえ。初めて聞きました」

 

 開発部とは、通称『決闘装備開発部門』の事であり、ディスクやカードを作っている者達の事だ。都姫のディスクやオベリスクフォースの使う『古代機械』デッキもやはり彼らが作った物である。情報の秘匿性が極めて高く、新カードを作ったなんて情報、滅多に耳に入らないものだ。

 

「ナンバーズはエクシーズモンスター。ダークシンクロは黒縁だけど扱いはシンクロモンスターらしいぞ」

「……は?」

 

 耳を疑った。それはつまり、融合次元に置いて融合次元の技術を使い、『ナンバーズ』というエクシーズモンスターと『ダークシンクロ』というシンクロモンスターを作った、という事である。

 

「で、ですが。私達は戦っている最中なんですから、他の次元の力でも使える物なら、使ってもおかしくないのでは?」

 

 半ば自分に言い聞かせるように、都姫がそう言う。「そうだな」と男が同意すると、少し気が楽にはなったが、その後、男が続けた言葉に都姫は言葉を失った。

 

「そのカード、誰に配られたと思う?」

「……ぇ?」

「作ったカード。ナンバーズとダークシンクロモンスター。誰に渡されたと思う?」

「……それは、私達デュエル戦士の誰か、では?」

 

 まさかという気持ちが生まれる中、男は淡々と告げた。

 

「餅は餅屋、らしいぞ」

「――ッ!まさか!」

「最近、そのカードを持たされた別次元のデュエリストが送りだされているらしい。実際それを見かけたって奴もいた」

 

 男の言葉にカッとなって、都姫は勢い良く立ち上がる。

 

「私達が捕らえたデュエリストに、同じ次元の仲間を襲わせているというのですか!?」

「声がでかい。落ち着け」

 

 周囲の視線が集まっているのを感じ、都姫は怒りは収まらぬまま、腰をベンチへ落とした。

 

「そんなの!そんなの、間違えています!幾ら何でも、それは――」

「そのカードには特殊な効果があるらしくてな。人の感情――特に恐怖心を煽るらしい」

「恐怖心?」

「ああ。――また、カードに戻される恐怖を煽って、冷静でいられなくさせるらしい」

「……ぁ」

 

 その言葉に、都姫は今度こそ言葉を失った。

 

「カードに戻される恐怖を煽って、利用するんだ。またカードにされたくなければ、仲間を倒せ。仲間を倒してカードにしろ。そうすれば、お前らはカードには戻らない」

「……」

「戦わないって選択肢は与えない。一定期間、成果がなければまたカードに逆戻りって設定らしい。俺達はカード化されたことないから分かんねぇけど、よっぽどこえぇんだろうな。今の所、やり返したって話は聞かない」

「……わ、わた、私は……」

 

 男が視線を動かすと、ボロボロと瞳から涙を流す都姫の姿。流石に急だったかと少し申し訳なくなりながらも、男は都姫の頭を撫でる。

 

「落ち着け。プロフェッサーに呼び出しくらっても無視しろ。開発部のディスクには記録装置が内蔵されてて、お前らの言動は全て記録されてる。ディスクが開発部に持ってかれたって事は、お前がエクシーズ次元で何かを聞いて、不信感を抱いたって事が知られたってことだ」

「……どう、すれば?」

「これもってけ」

 

 そう言って男が都姫に渡したディスクは、開発部から配布されているものとは違う形である、薄い物だった。与えられるイメージとしてはPADが近いだろうか。

 

「これは?」

「別次元のデュエルディスク。俺達の奴より薄くて軽いから持ち運びが楽なんだけど、デュエルしか出来ない。それとこいつ」

 

 もう一つ、液晶のついた腕時計のような装置が、都姫につけられる。

 

「こいつは次元転送装置の小型版だ。残念ながら、片道切符で行き来は出来ないから、使う時は気をつけて。緊急時の脱出用って考えろ」

「……なんで、こんな物を持っているんですの?」

 

 まるで、非常時の緊急キットのようだ。尋ねる都姫に、男はしばし無言の間を挟み、

 

「色々あるんだ、俺にも。何かあれば逃げろ。別次元に頼れる相手が居るなら、そいつを頼れ。アカデミアで信用出来る奴はいないと、考えていい」

 

 そうつげた。それを最後に、男はベンチから立ち上がる。

 

「俺は行く。何かあっても連絡するな。そのタイミングでの自己判断で行動しろ」

「……」

 

 歩き出した男の背を見て、言いようのない恐怖に駆られ、都姫は追いかけるように立ち上がった。

 

「――ヒデオ!」

 

 名前を呼ばれた男――ヒデオは立ち止まり、都姫の方へ振り返った。

 

「なんだ?」

「……貴方は、信用してはいけませんの?」

「……」

 

 そう尋ねた都姫に、ヒデオはヘラリと口角を釣り上げた。

 

「ばーか。俺が一番信用出来ないだろ。俺はアカデミアのNo.2。ユートの幼馴染で大親友なんだからな」

 

 自嘲気味に告げられたその言葉が、都姫には酷く悲しい物に聞こえる。

 

「そうですか……」

「そうそう。だから自分と、自分が信用出来るって思った相手だけ信じとけ」

「……分かりました。なら、貴方も信用致します」

「……」

 

 都姫のその言葉に、ヘラリと笑っていたヒデオの笑みは引っ込んだ。

 

「……まあ、勝手にしろよ」

「ええ。勝手にさせて頂きますわ」

 

 笑いながら告げた都姫に、「ったく」と悪態をついたあと、歩き去ろうとしたヒデオだったが。ふと思い出したように足を止め、都姫の方へと振り返った。

 

「そうだ。本題――ていうか、伝えなきゃいけない事があったんだ」

「なんでしょうか?」

「お前の兄貴。お前の仇討だとか言って、周りの制止振り切ってエクシーズ次元に乗り込んだらしいぞ」

「……は?」

 

 シリアスな空気を吹き飛ばすように、一陣の風が2人の間を吹き抜けていった。

 

***

 

 一方、エクシーズ次元、ハートランドシティ。

 レジスタンスの活動の一環としてのユートと共に行うアカデミア狩りの合間の時間。

交代で見張りを行い、最初に見張り、現在は休憩中である光莉は、近くの瓦礫に腰を下ろし、遅めの昼食である乾パンをもふもふと食べながら、心中で溜息を漏らした。

 

(味のついた物が食べたいなぁ)

 

 気が付けば季節も夏。この時期になってくると、シティ内の電力供給が切れた影響がより顕著に出始め、せっかくの食料も悪くなってしまって食べられないという事が多く、緊急時の避難所として定められていた体育館などに備蓄してあった保存食を食いつぶすしかなくなっていた。

 一応保存食の一環にチョコレートなどはあるのだが、子ども優先で活動する光莉である。自分で食べれる筈もなく、子ども達に分けていた。

 

「別に嫌いって訳でもないんだが」

 

 流石に飽きる。贅沢言える状況ではない事は分かっているから、我慢することは出来るのだが。

 最後の一欠片を口の中に放り込み、飲み込んだ。満腹にはならないが空腹は紛れた所で、光莉はデッキを取り出した。そらで暗唱出来る位にまで記憶したデッキ内容を改めて眺めていく。

 

「中々、思いつかないな」

 

 レジスタンスに加入した翌日から今日まで、光莉がずっと悩んでいるのは新たなデッキについてだった。軸はテラナイトそのままに、デッキの内容を変えようというのである。現状、色々なコンボギミックを詰め込んだごった煮構築なので、そこらへんをなるべく絞りたいのである。

 今はまたデッキ内容を少しいじって、除外ギミックが無くなった代わりに、新しいコンボギミックが入っている。回している感じでは、決まれば嬉しいけど、事故率高いが素直な感想だった。

 

「今日が終わったら片方は抜くかな」

 

 毎日毎日飽きずに攻撃してくるアカデミアのせいでじっくりデッキを弄る暇もないため、専ら実践で調整という命懸けの毎日。とはいえ、これも強くなる為。仕方が無い。

 

「光莉さん」

 

 名前を呼ばれ、光莉はデッキから顔を上げた。顔半分を覆うほどに上げられた赤いマフラーとゴーグルで顔を隠した瑠璃の姿があった。因みに光莉は顔を隠していない。今更隠しても無駄だからだ。正直他のレジスタンスメンバー達も隠す意味など無いと思うのだが、光莉は口に出さなかった。

 

「おかえり。どうだった?」

「この辺りには誰もいないみたいです。敵も味方も含めて」

「そうか。まあ、敵はその内湧くだろ。ゴキブリみたいにしつこいからな」

「そうですね」

 

 光莉の言葉に瑠璃はげんなりした様子で頷く。

 

「さて、じゃあ行こうか。もうちょい回ってから、食べ物探して帰ろう」

 

 光莉の言葉に瑠璃が再び頷き、歩き出そうとした矢先。

 

「星野光莉、出て来ーい!」

 

 という怒声が光莉と瑠璃の耳に届いた。思わず顔を見合わせる2人。

 

「聞いた?」

「聞きました。空耳じゃないですね」

「……」

「……」

 

 耳を澄ますと、再び出てこーい!との叫び声。

 

「……行くか」

「え゛!? 明らかに変ですよ!? 間違いなく敵です!」

「そりゃそうだけど、あんな風に叫ばれて、他のアカデミアの連中を呼び寄せても面倒だしな。さっさと行って、デュエルで黙らせたい」

「無視すればいいじゃないですか」

「――それに、こんなアホな行動する奴が、複数人で行動してるとは思えないしな。単独行動してるなら、狙いたい」

「……ああ、成る程。そういうことですか」

 

 光莉の言葉の真意を悟った瑠璃が、マフラーを下ろしゴーグルを外すと、にやりと笑った。悪い笑顔だ。釣られたように光莉もそんな笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ行こうか」

「はいっ!たまには狩られる側の気持ちって奴を分からせてやりましょう!」

 

***

 

 幸い、相手はすぐに見つかった。そもそもあれだけ大声で喚き散らしていれば、見つからない方がおかしいというものだ。

 

「あの野郎だな」

「何か、いつもと服装が違いますね」

 

 隠れて様子を見る光莉と瑠璃。視線の先の男は、オベリスクフォースと似た意匠の服装ながら、色は青ではなく赤色で、おまけに仮面もつけていなかった。その顔を見て、「うん?」と光莉は首を傾げる。

 

「見たことあるような……無いような……?」

「あるんじゃないですか?あっちはあんな大声で光莉さんを探している訳ですし」

「いやいや。流石にアカデミアの人間だったら、一度はデュエルしたはずだ。俺はデュエルした相手の顔は忘れない。前に会った時は仮面つけてたって言うなら、知らない顔って一蹴出来るし、見たことあるならあるって断言出来る。少なくとも、こんな中途半端な気持ち悪い状態にはならん」

「なら、見かけただけでデュエルしてないとか?」

「それだと、あんな風に探される謂れが無いんだよなぁ」

 

 まあ、隠れていても仕方が無いと、光莉は隠れるのをやめて男の方へと向かう。瑠璃も慌ててその背を追った。

 

「おい」

「ん?」

 

 呼びかけられ、男が振り返る。光莉の姿を目視すると、険しい視線を光莉へ向けた。

 

「黒いライダースーツに黄色のデュエルディスク!お前が、星野光莉か!」

「ああ」

 

 振り返った男が、ディスクを起動する。そのディスクは、まごう事なくアカデミアの物であった。

 

「デュエルだ!貴様は此処で俺が倒す!」

「俺をご指名なのはいいが、お前にそこまで言われる所以が分からないと、どうにも乗り気にならん。なんで、俺をそんなに目の敵にしてるんだ?目の上の瘤だからってだけじゃなさそうだが」

「貴様は妹の仇だ!」

 

 男の言葉に、瑠璃がショックを受けた顔をした。

 

「ひ、光莉さん!まさか、そんな!アカデミアの女のそういう関係になったのに、こういう状況になって都合が悪くなったからって、妊娠三ヶ月だったその女性を捨てたって言うんですか!?最低です!」

「今のセリフだけで、どうしてそこまでドラマ展開してんだよ!」

「貴様、そんな事をしたのか!」

「めんどくせぇ!? してねぇよ!」

「どこに証拠があるって言うんですか!」

「こっちのセリフだっつーの!」

 

 唐突に悪乗りする瑠璃と、バカ正直な反応を見せた男にガーッ!と声を荒げる光莉。

 

「ええい、お前!せめて妹の名前を教えろ!そうしたら、お前の怒りの理由も思い出すかもしれん!」

「捨てた女のことなんて覚えていないって言うんですか!女の敵!」

「お前は黙ってろ!」

 

 あくまで悪乗りを貫く瑠璃を一喝して、男を見据える光莉。男は光莉の言葉に、歯軋りを一つした。

 

「貴様……明野都姫の名前を忘れたか!」

「……え?」

 

 まさか知った名前が出てくるとは思わず、光莉は呆けた声を上げた。

 

「俺の知ってる明野都姫って、前に戦ったお嬢様然とした霊獣使いなんだが。間違ってない?」

「そうだ!超絶可愛い、プリティマイエンジェル都姫ちゃんだ!」

「「……」」

 

 うわ、コイツそう言う奴かよという視線を向ける光莉と瑠璃だったが、男は気がつかない。

 

「貴様と戦って以来、俺の妹は何か悩んでいる様子だ」

「へぇ……」

「俺には分かる。あれは――」

「あれは?」

「あれは――恋だ」

「……」

「光莉さん!」

「ちょっとすっこんで、どっかいってろ!」

「ぶー」

 

 光莉史上稀に見る面倒臭さに、光莉は瑠璃を追い払う。追い払われた瑠璃は、唇を尖らせて、全身で不機嫌ですよアピールをしながら、光莉に言われた通りどっかへ向かって歩き始めた。

 

「お前も。戦っただけの奴が、そんな恋とかありえないだろ。何言ってんだ、お前」

「だが物思いにふけっているのは事実だ」

「だったら何か悩み事でもあるんじゃないのか?俺なんかとデュエルしてないで、明野の傍に居てやれよ」

 

 光莉の言葉に、分かってないなと言わんばかりに男は肩をすくめた。イラッと苛立ちが光莉の中に生まれるが、何とか抑える。

 

「それだけの理由であれば、お前の言う通り俺は都姫の傍に居る」

「……それだけじゃないってことか?」

「そうだ。お前に負けて以来、アカデミアにおける都姫の立場が下がっている。それが我慢ならない」

「負けたんだ。おかしな事なんてないだろ」

「そうだとしても!貴様に負け続きのオベリスクフォースの立場が変わらず、妹だけが貶められるのを許せるはずが無いだろう!」

 

 その言葉を皮切りに、男の両目に闘志が宿る。思わず光莉も反応して、デュエルディスクを起動した。

 

「俺はお前に勝つ!お前に勝ち、俺達兄妹があの量産型共よりも優れているのだと証明する!」

「お前が勝ったって、明野があんたより強い証明にはならんだろ」

「いや。妹は俺よりはるかに優秀。戦績も上だ。俺がお前に勝つということは、お前より俺が強く、俺より強い妹はお前よりも強いということの証明になる。お前に負けたのはただの偶然だったのだと、アカデミアのバカ共に分からせるのだ!」

「なんつー暴論だよ」

 

 溜息を漏らしながらも、光莉は真っ直ぐ男を見据えた。

 

「でもやる気みたいだな」

「当然だ」

「上等。やってやるよ、アカデミア」

 

 そう言って、光莉はライダースーツの上を脱ぎ捨てた。

 

「エクシーズ次元、レジスタンス。星野光莉だ」

 

 対抗するように、ディスクを起動し、構えた男。

 

「融合次元、明野総司!」

「総司だな、行くぞ!」

 

「「デュエル!」」

 

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