星を司るプロの話   作:零円

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最終回が見えてきた


13 激戦

「此処も久し振りに来たな」

 

 独り言のような光莉の呟きに、「そういえば」と反応したのは瑠璃であった。

 

「ここでデモンストレーションやった事ありましたよね、光莉さん」

「よく覚えてるな。デビューしたてで、観客もあんまり居なかったのに」

「瑠璃は――」

 

 と光莉の言葉に答えたのはユートであった。

 

「光莉さんのデビュー戦からファンでしたよ。テレビ放映されてるの見て、キャーキャー言って――」

「せい」

「ガッ!?」

 

 話の途中にどつかれ、ユートは口元を抑えてプルプルと震える。痛そうだなぁと思いながらも、絆を感じさせる微笑ましい光景に、光莉は笑みを浮かべた。

 

「……あれ?じゃあもしかして、握手したか?」

 

 そのデモンストレーションの後、観客も少ないからという事でファンとの交流会をやったのだ。握手をし、幾らか言葉を交わす程度の短い交流。見に来ていたなら、握手をしたと思うのだが、生憎光莉の記憶には引っかからない。全員とまではいかないが、古参のファンの顔位なら、覚えているのだ。なにせ活動期間1年程なのだから。

 

「し、しました。しましたけど……」

「瑠璃は恥ずかしがって、ずっと顔伏せてましたから」

「……ああ。そういえば。何度か来てくれてた子がいたな」

「覚えてるんですか!?」

「何度来ても顔伏せてて、それでも握手した手を大きく振って。必死って感じに応援してくれてたから、居たのは覚えてる。顔は見たことなかったから」

 

 すまん、と苦笑しながら謝罪する光莉に、いえいえと瑠璃は首を振る。

 

「でも、その頃から応援してくれてたんだな。ありがと」

「え、えへへ~」

 

 照れ照れと頭を掻く瑠璃。嬉しそうな光莉。まだ痛いのか口元を抑えるユート。

 レジスタンス達の最後尾を守っているはずの3人の余りにほのぼのとした空気に、「おい」と先頭にいた隼の怒りの声が飛ぶ。

 

「真面目にやれ」

「「「……」」」

 

 言われた通りだったので、素直に押し黙る光莉達。ユートは完全に被害者なのだが、だからと言って文句を言うタイプでもないのだ。

 だが、実際懐かしいという光莉の言葉は本当で、光莉達がこの場所――ハートランドシティ中央にあるショッピングモールに来たのは本当に久しぶりなのだ。ここに食品を扱う場所があれば別だったのだろうが、近くの商店街とのごたごたゆえ、此処にはフードコートはあってもスーパーのように食品を扱う店が無い。その為、来る必要が無かったのだ。

 だが今回。マシンパーツが必要になった為、レジスタンス達はここに来た。ほぼ総動員。最小限しか残していない。それだけ重要な作戦なのだ。

 

「でもさ」

 

 そう言って、口火を切ったのは光莉。

 

「大丈夫なのか?本当に」

「……」

 

 その言葉が自分に向けたものだと分かった隼が溜息を漏らして答える。

 

「信じるしかないだろう」

「あー……」

 

 それはまあ、確かにそうなのだが。言い放った男を思い出し、光莉は困ったように頭を掻いた。

 

 総司を光莉と瑠璃が拉致してしばらく。光莉の借りていたマンションの一室において、総司のデュエルディスクの研究が進められていた。研究とは言え、ディスクに理解の深い男が1人、ディスクを解体してその仕組みを探っていたのである。

 衝撃の実体化、人間のカード化に次元移動。結論から言えば、仕組みがわかったのは衝撃の実体化のみ。後の2つについては、仕組みがさっぱりだったのである。

 じゃあダメじゃんと思えるのだが、仕組みが分からなくたって、オリジナルがあるんだから複製すればいいんじゃないかと、そんな単純な結論に達したその男は、とりあえず複製を作るから、材料を持って来いと隼他、レジスタンスの面々に告げた為、今に至るのだ。

 それを言い放たれた時の隼の顔と来たら、それはもう恐ろしい物で、その場に居合わせた瑠璃とユートはそろって視線を逸らし。新デッキできたー!とテンション高めに登場した光莉は、そのまま何事もなかったかのように扉を閉じた程であったという。その後に聞こえてきた鈍い音については、ついぞ誰も触れていない。

 

 そんな訳で、この場所に来たレジスタンスの面々。このショッピングモールは、スーパーが無い代わりに、ディスクの予備パーツ等、機械パーツを多く取り扱っているのだ。それで生計が保てていたのかと言われると怪しいが、此処は元々、デュエルが活発だったハートランドシティである。

 デュエルディスクのメンテナンスくらいはデュエリストの嗜みなのだ。分解メンテ位なら朝飯前である。その為、摩耗したパーツの予備を求めるデュエリストが多かったのだ。中には自作する猛者も居た程である。因みに光莉は、市販品を染め直して使っていた。気に入った黄色が中々無かったのである。

 

「……ん?」

 

 ふと、ユートが足を止めた。

 

「どうした?」

 

 近くにいた光莉がそれに気がつき、足を止める。光莉に続き瑠璃が止まり、他のレジスタンス達も止まる。

 

「いや、さっき誰か見てた気がして」

「何?」

 

 ユートの言葉を聞き、隼が視線を周囲に走らせる。光莉や瑠璃、その他レジスタンスの面々も、何も言わず互いに背中合わせになって、周囲を警戒し始めた。

 

「本当か、ユート」

「一瞬だったから、何とも――」

「居る」

 

 そう言ったのは、光莉だった。

 

「あいつらだ」

 

 ――光莉がそう言った直後、ニヤニヤと笑うアカデミアのデュエル戦士が、至る所から現れた。オベリスクフォースだけじゃない。総司と同じ意匠の赤や黄の服を着た者達まで多数。その数は、圧倒的にレジスタンス達の一団を上回っていた。

 

「……ここはいつの間にこいつらの巣になったんだ?」

 

 流石に少し引き攣りがちになりながら、光莉が呟いた。デュエル戦士の包囲網が狭くなる度、レジスタンス達も、徐々に身を寄せ合っていく。

 

「どうする?」

「――やるしかない」

 

 隼の瞳に闘志が宿る。呼応するように全員が一斉にやる気になった。

 

「全員、生き残ることを優先しろ」

 

 そう言いながら、隼はデッキトップから5枚のカードを引いた。

 

「俺は『RR-バニシング・レイニアス』を召喚!」

 

 ディスクにカードを置くと、隼の使う『RR』モンスターの1体、『バニシング・レイニアス』が現れる。誰ともデュエルしていない筈の状況。何故とデュエル戦士が思う中、続け様に隼は、『バニシング・レイニアス』の効果を使って2体の『バニシング・レイニアス』を召喚する。

 

「俺は3体の『バニシング・レイニアス』でオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!現れろ、ランク4『RR-ライズ・ファルコン』!」

 

 3体のモンスターで召喚される、隼のエースモンスター。ソリッドビジョンとは違う、その威圧感。まさかとデュエル戦士の誰かが思った時には、遅かった。

 

「やれ!『ライズ・ファルコン』!攻撃だ!」

 

 直後、『ライズ・ファルコン』が襲いかかる。壁を破壊し、2階エントランスを破壊して。デュエル戦士達を混乱に陥れた。

 

「おお、すごいな」

 

 感心したように呟く光莉。

 実は、光莉の家にあった予備パーツを使い、衝撃の実体化だけは既存のディスクに再現していたのである。最もパーツが足らず、再現したのは隼ともう1人。

 

「行け!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!反逆のライトニング・ディスアベイ!」

 

 ユートのディスクである。当初は光莉のディスクという話だったのだが、俺は頑張って走って逃げるからと、有無言わせぬ態度で光莉が断固拒否した為、ユートのディスクに再現することになったのだ。

 『ライズ・ファルコン』と『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の2体の攻撃で、ボロボロになったアカデミアによる包囲網。

 

「よし、行け!」

 

 隼が合図するやいなや、蜘蛛の子を散らすように走り始める。

 

「お前ら、ちゃんと逃げろよ」

「えっ?光莉さん、一緒に来ないんですか!?」

 

 光莉の言葉に瑠璃が反応を見せる。「だって」と、光莉。

 

「この中じゃ、俺が1番目立つからな。囮にならないと」

「そんな……だって、危険じゃないですか」

「危険も承知。瑠璃さんやユートにやらせるよりずっといい」

「でも……」

 

 なおも食い下がろうとする瑠璃、ユートも、口には出さないが言いたいことがありそうだ。

 そんな2人に笑顔を見せることでそれ以上の言葉を黙殺し、光莉は足を止めると、ディスクにあるエクストラデッキからカードを1枚取り出した。そして、ユートへそのカードを投げ渡す。

 

「それお守り。持っといて」

「って、これ。『セイクリッド・ダイヤ』じゃないですか!」

 

 光莉のデッキの切り札を前に、ユートが驚いた声を上げた。

 

「お守りにはちょうどいいだろ」

「重すぎますから!返します!お気持ちだけで!?」

「いいから持っとけ。後で安全になってから返して貰うから」

 

 それが暗に、再会の約束だと気がついて、瑠璃は思わず口をつぐむ。ニッとプロ時代のニヒルな笑みを光莉は浮かべた。

 

「お前ら、必ず返せよ。大切なカードだから」

「「――はい!」」

「よし、いい返事だ。行け!」

 

 バタバタと走っていく足音に安堵しながら、光莉は嬉しそうに笑う。

 やがて粉煙が晴れ、光莉の視界には多くのデュエル戦士と、仁王立ちしたままの隼の姿。溜息を漏らしながら隼のもとまで行き、背中合わせになるとその背中に体をぶつけた。

 

「何でいるんだよ」

「お前こそ、何故いる」

「……デッキ調整したくて」

「俺はディスクの具合を確かめたかった」

 

 隼の言葉を聞いて、あははと光莉が笑う。

 

「ならしょうがないな」

「ああ」

 

 どちらからと言わず、自然に2人はディスクを構え、敵を見据えた。

 

「死ぬなよ」

「当然だ。奪われた仲間を取り戻すまで、俺は死なない」

「上等、行くぜ――!」

 

「「デュエル!」」

 

***

 

 瞬く間に、ショッピングモールは戦場と化した。

 1vs3ならいい方で、中には1vs5等圧倒的不利な状況に追い込まれながら、レジスタンスはアカデミアに対抗していた。最悪と言っていいのは隼と光莉だろう。せめて1vs多数の状況にならないようにと、常にお互いの位置を意識しながら、2vs多数の状況を作り出していた。

 そんな中、1番まとまな状況に居たのは、瑠璃とユートのペアであった。最年少かつレジスタンスリーダーの隼とブラックリスト筆頭の光莉の2名が当初の狙い通り多くの敵を引きつけた事もあって、2人は追っても少なく、無事にショッピングモールを脱出し、離れた場所へと移動していた。

 

「こ、これから……どうすんの、ユート」

 

 肩で息をしながらそういう瑠璃に、同じく肩で息をするユートが、ショッピングモールの方を見、僅かに聴こえてくる戦闘音を聴いて、覚悟を決める。

 

「アジトに戻る。それしか出来ない」

「出来ないって……アジトの皆を連れてくるとか、しなくていいの?」

「今回の作戦でアジトに残してきたのは、防衛に必要な最低限だ。だから連れてくるわけには行かない。隼や光莉さんもそう判断する」

「でもっ」

「隼が生き残る事を優先しろと言ったんだ。だったら、そうするべきだ」

 

 悔しくないわけじゃない。寧ろ悔し過ぎる程に悔しい。だが、戻った所で、この状況に一石を投じる事すら出来ない事は、明らかだった。

 ユートがゴーグルとマスクを外す。呼吸が楽になって息は直ぐに整った。そうしてまっすぐ、瑠璃を見つめる。ユートに習って、やはり変装道具一式を外した瑠璃。不安に揺れる瞳に、せめて勇気づけようとユートは『セイクリッド・ダイヤ』のカードを瑠璃へと渡した。

 

「これ……」

「瑠璃の手から、光莉さんに返すんだ。光莉さんがどれだけ大事にしてるのか、知ってるだろ?」

「……うん。分かった」

 

 受け取ったカードを、瑠璃はエクストラデッキへ入れる。ぎゅっと噛み締められた唇が、強がりの表れだったが、気がつかない振りをして。ユートと瑠璃は、アジトへ向けて走り出す。走り出そうと――した。

 

「なっ!?」

「えっ!?」

 

 戸惑いの声を上げながら、2人同時に足を止める。2人の進行方向に、男が1人立っていた。

 自分達と同じ位の身長。紫色の髪と、同色の服。水色のズボンに赤いマント。目立つ外見をしていた。その手につけたデュエルディスクから、彼がアカデミアだということも分かる。分かった。彼は敵だ。ちゃんと判別もつく。

 だが、思考がついてきていなかった。目の前の男。その彼の顔が余りに見慣れた物だったから。

 

「……俺?」

「ユートと同じ顔?」

 

 そっくりと、その一言では表せない。全く同じ顔。髪の色も、髪型も。眉毛も違ければ、眼の冷たさだって違うけれど。それは正真正銘、ユートの顔であった。

 

「ショッピングモールを上手く抜け出した2人を追ってきたら、意外な獲物にでくわしたね」

 

 男が喋る。その声も、ユートと同じ物だ。

 

「まさかレジスタンスに加入していたとは。これも運命かな」

「なに……を……」

「ちょうどいい」

 

 そういった男が、ディスクを起動した。呼応するように、ユートと瑠璃も、ディスクを起動する。

 

「君達纏めて、僕が狩ろう」

 

 2vs1。明らかに有利なはずのこの状況で。

 何故だろうか。震えが止まらなかった。

 

***

 

 バキッと顔面に一撃入れて、倒れたところを踏みつけて止めを刺す。流石に殺しはしていないが、当分動けないように容赦はしなかった。

 

「はぁ、面倒になってきたな。流石に」

 

 衝撃実体化があると楽なのでディスクを奪い取りながら、光莉が呟いた。

 戦闘開始から如何程の時間が経過したのか、完璧には把握出来ていない。恐らくは肩を並べている隼もそうだろうと、想像できた。流れる汗を拭いながら、光莉の悪態に隼も乗る。

 

「大分倒したはずなんだが」

「キリがない。それに他の仲間達も心配だ。――どう見ている」

「戦力比を考えて、良くて3人だな」

 

 隼の言葉に、光莉が答える。隼の顔が苛立たしげに歪んだ。良くて2人。それがレジスタンス側にとってどれだけ希望的観測なのかなど、考えなくても分かった。

 

「ユートと瑠璃さんは無事に逃げられたかね」

「……」

「……すまん」

「いや。あの2人なら、大丈夫だ」

 

 言い聞かせるような言葉に申し訳なさを覚えながら、光莉は隠れているその場から、顔を覗かせる。アカデミアのデュエル戦士が数名。誰かを探すように歩いていた。自分達を探している事は明らかで、光莉は舌打ちを漏らしながら、装着したアカデミア製のデュエルディスクの具合を調整する。

 

「パーツ持ち帰らなくても、ディスク掻払ってけばいいような気がしてきた」

「……」

「そんな渋い顔すんなよ。俺達の方が不利なんだ。使える物なら何でも使う。それくらいの気概が無いとな」

「わかっている。分かっているが」

「まぁ、気持ちは分かるけどな」

 

 光莉としても、積極的に使いたいかと言われれば否だ。使わないで済むなら使いたくない。

 だが、今は使わなければならない状況だ。嫌な気持ちを押し込めて、装着したディスクへデッキを挿入した。幸いメインもエクストラも拒絶されることはなく、素直にディスクに収まる。

 ついで、デュエルアンカー等、各種ギミックも簡単に確認してから、「よし」と1つ頷いた。

 

「行けるぞ、隼。大分時間も稼いだはずだ。俺達も突破して、先に進もう」

「ああ」

 

 そう言って、光莉と隼はそれぞれエースを手に取り――。

 

「現れろ!『ライズ・ファルコン』!」

「来い!『デルタテロス』!」

 

 召喚。そのまま隠れていた場所を飛び出した。

 

「居たぞ!こっちだ!」

 

 声を上げるアカデミアのデュエル戦士に『デルタテロス』で攻撃を仕掛けつつ、光莉達は走る。

 もうまもなく、以前光莉がデモンストレーションを行った噴水広場にさしかかろうとしていた。

 

***

 

「「はぁ……はぁ……」」

 

 ライフは共有でなく、ユート4000、瑠璃4000、男4000で始まった筈だ。

 手札だって、全員初手5枚で始まった。先攻だってこっちが取った。

 単純にアドバンテージは2倍だったはずである。にも関わらず、気が付けば追い込まれているのは自分達であった。

 ライフは2人分合わせても相手に満たず、相手が手札5枚に対して、ユートが2、瑠璃が1枚。

 盤面に至っては、此方が一方的に伏せ0、モンスター0とどうしようもないほどに差がついている始末。

 虎の子の『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』は、とうの昔に相手の召喚した正体不明のドラゴンによって破壊されていた。

 

「そろそろ決着かな」

 

 勝ち誇る男に、ユートは歯ぎしりした。確かに、どうしようもない状況だ。

 

「舐めんじゃないわよ!私のターン!ドロー!良し、『貪欲な壺』!5枚戻して2枚ドロー!」

 

 だが、こんな状況でも、瑠璃は折れて居なかった。そしてそれは、ユートも同じである。

 

「……カードを2枚伏せて、ターンエンドよ」

「あれ?意気込んだ割にそれだけかい?」

「うっさい!」

「俺のターン!ドロー!」

 

 ビッと引いたカードを見て、ユートの目の光が強まった。

 

「俺は『貪欲な壺』を発動!」

 

 土壇場で引いたドローソース。『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を含んだ5体のモンスターをデッキへ戻し、2枚のカードを引いた。

 

「よしっ、まずはその伏せカードからだ!魔法発動!『ハーピィの羽箒』!」

 

 相手の魔法・罠を一掃する魔法カード。この土壇場の引きとしては十分過ぎるそのドローを前に、男は『パラドックス・フュージョン』を発動した。

 

「これにより『羽箒』は無効――」

「させない!チェーンして『神の宣告』を発動!」

 

 カウンターにはカウンター。そう言わんばかりに、瑠璃が返す。

 

「そのカードの効果は無効よ!」

「成る程。さっき引いたカードはそれか。だが残念だ。『神の宣告』を発動」

「なっ!?」

 

 もう1枚の伏せは、カウンター罠では無い。瑠璃にも、ましてや伏せの無いユートにもそのカードを返す術が無く、『神の宣告』は同じ『神の宣告』で打ち消され、『羽箒』は『パラドックス・フュージョン』で無効化される。

 だが、『パラドックス・フュージョン』には、場の融合モンスターを1体、除外するコストがある為、男の場にいた融合ドラゴンはゲームから除外された。これで、男の場は伏せカード1枚のみである。

 

「俺は手札から『オーバーレイ・スナイパー』を召喚!更に、モンスターの召喚に成功した時、『カゲトカゲ』を特殊召喚!」

 

 レベル4のモンスターが、ユートの場へ瞬く間に2体並ぶ。

 

「ヤッちゃいなさい、ユート!」

「俺は『オーバーレイ・スナイパー』と『カゲトカゲ』の2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!ランク4!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!」

「またそのドラゴンか」

 

 しつこいなと言わんばかりの態度を前に、ギリッとユートは歯噛みした。

 

「バトルだ!行け、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!反逆のライトニング・ディスオベイ!」

 

 翼を振り上げ、その身に雷を従わせた『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』が、男へと突撃する。

 

「罠発動『次元幽閉』」

「ッ!?」

 

 発動されたのは、余りに在り来りな攻撃反応型の罠であった。

 ユートの手札。最後の1枚は『エクシーズ・リフレクト』。伏せていなければ発動出来ない罠カード。

 瑠璃の場。最後の1枚は『威風堂々』。バトルフェイズ中に発動した効果モンスターの効果を無効化し、破壊出来るカード。

 詰まるところ――『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を守る術を、どちらも持ち合わせていなかった。2人は、時空の裂け目に飛び込んでいく反撃の起点になるはずだった相棒を、ただ見つめることしか出来なかった。

 

「さてと。じゃあ、僕のターンでいいのかな?」

 

 ドローと、静かにカードを引く男。

 男は、『D.D.R』を使い融合ドラゴンを帰還させ、モンスターを展開する。

 

「バトルだ」

 

 直後、男のモンスター達がユートと瑠璃へ襲いかかる。その一撃を前にどうすることも出来ず、2人のライフは0を刻み、その衝撃で吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされた際に体をぶつけ、痛みに悶える2人。そんな中、男は服についた埃を払うと、「さてと」と呟いた。そのまま歩を進め、瑠璃の元へ。

 

「こんの……」

 

 近づいて来るのが分かり、瑠璃は立ち上がろうとするのだが、思いのほかデュエルのダメージが大きく、上手く動けない。やがて男が瑠璃の傍に着いた。最後まで負けるものかと、瑠璃は男を睨みつける。

 

「随分と気が強い。セレナそっくりだ」

 

 見下しながらそう言いつつ、男は瑠璃へと手を伸ばす。

 

「辞めろ!」

 

 それを見たユートが叫んだ。

 

「瑠璃に手を出すな!」

「……」

 

 睨みつけるユートを一瞥し、男は瑠璃へ伸ばした手を引っ込めると、ユートの方へ向き直った。

 

「鬱陶しいのは嫌いだ」

 

 そう言って、男はユートをカードに封印しようと、デュエルディスクへ手をかけた。

 それに気がついた瑠璃が、男の足を掴む。

 

「ユートに手を出さないで!」

「……」

 

 男の視線が再び瑠璃へ。その直後、瑠璃のつけていたブレスレットが発光し始めた。

 

「え!? なに!?」

「なんだ!?」

 

 戸惑いの声を上げた瑠璃に男。

 

「瑠璃!」

 

 ユートが慌てて瑠璃の名前を呼び、ふらつきながらも立ち上がり彼女のもとへ向かおうとする。

 だが、それよりも早く。ブレスレットの発光が一際強くなると、次の瞬間、男と瑠璃の姿がその場から消えていた。

 

「なっ!?」

 

 ふらつきながら近寄るが、そこには何も残っていない。男の痕跡も、瑠璃の痕跡も。一切合切何も残さず、まるで最初から居なかったかのように消えていた。

 

「何が……どうなって……」

 

 茫然自失になるユート。そんな彼の耳に、エンジン音が聞こえてきた。

 光莉の愛車の物とは違うエンジン音。釣られるように見上げた先。ビルの屋上に、白いバイクに乗った白いライダースーツの何者かがいた。黒いライダースーツとバイクの光莉とは真逆。

 味方ではないと反射的に思った。味方で無いのなら敵だと確信した。ユートが睨みつけると、答えるように男がバイクを走らせ、ビルの壁面を走り始めた。手札を5枚引いたのを見て、ユートも5枚引く。まさかとは思ったが、バイクに乗ったままデュエルするつもりらしい。少し驚いたが、それでも関係なかった。

 

「「デュエル!」」

 

 先程戦っていた融合次元の男の影響か、聞こえてきた声が、自分と似ている気がした。

 

***

 

 兎に角走った。デュエル戦士とはいい感じに距離を取れているから、この距離をキープしたい。

 そう考えていた矢先だ。光莉のつけていたディスクを、アンカーが掴んだ。

 

「やばっ」

「光莉!」

 

 引っ張られ、足を止めるしかなかった光莉。それに合わせ、隼も止まる。

 

「いいから行け!」

「しかし!」

「ここで2人仲良く捕まったら意味ねぇだろうが。行け。後で追いつく」

「――すまん」

 

 走り出した隼を見送り、光莉は視線を移動させる。自分を捉えるワイヤーの先。トレンチコートを着てフードを被った大柄の男が居た。顔は見えないが、雰囲気がおかしい。

 

「デュエル戦士……とは、雰囲気が違うな」

 

 だが、つけているディスクはアカデミアの物。敵であることに違いはないだろう。

 

「やんならさっさとやろうぜ。早く隼に追いつきたいんだ」

 

 ディスクを双方、起動させる。ターゲットをロック。先攻後攻が選択された。

 

「手早く終わらすぞ」

 

「デュエル!」「……デュエル」

 




4.8
『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の技名ミス修正
4.10
光莉のプロ活動期間修正
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