星を司るプロの話   作:零円

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学校が始まったので、投稿ペースが乱れた。



14 甲冑

(今の声……)

 

 ハートランドシティ中央付近に存在する、大手ショッピングモール。

 そこのさらに中央。3階まで通じる吹き抜けと噴水の置かれた大きな空間、通称『噴水広場』にて。

 既に枯れ果てた噴水を挟み、光莉はアカデミアらしき男と対峙していた。

 大柄の体にトレンチコート。フードに隠されて顔は見えなかったが、それでも男の声は届いていた。その声に、光莉の中にある人物の名前が過ぎる。

 

「……まさかだよな。俺のターンだ!」

 

 脳裏に浮かぶ可能性を振り払い、ディスクに決められた先攻後攻に従って光莉はターンを開始した。

 

「手札から『増援』を発動!この効果で、デッキから『星因士 デネブ』を手札に加える!」

 

 汎用性の高いカードで、キーカードを手札に加える光莉。手札に『星因士 ベガ』があれば、『ベガ』と合わせて『武神帝‐ツクヨミ』を狙う所だが、生憎居ない。しかし、モンスターを並べられないわけではなかった。

 

「俺は『ゴブリンドバーグ』を攻撃表示で召喚!」

 

 飛行機に乗った、3体のゴブリンが現れる。吊るされたコンテナを落とすと、ゆっくりとそれが開いた。

 

「効果で『デネブ』を特殊召喚!そして、『ゴブリンドバーグ』は守備表示に変更される。

 そして特殊召喚された『デネブ』の効果。俺は『星因士 アルタイル』を手札に加える!」

 

 総司とのデュエルでも行った流れ。あの時召喚したのは『H-C エクスカリバー』だったが。流石に先攻1ターン目に『エクスカリバー』は少しもったいない。

 

「うちの新顔、その1だ。俺は『デネブ』と『ゴブリンドバーグ』の2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!冷血なる者の頂点に君臨せし獣の王!ランク4!来い、『キングレムリン』!」

 

 銀河の渦が爆ぜ、現れたのはSF映画に出てきそうなエイリアンチックなモンスター。鋭い爪と筋肉質な大きい体。爬虫類特有の鱗のテカリが嫌にリアルだ。プロ時代、使いたかったのに、このグラフィックのせいで、女性ファンを取り逃したくないからと、社長からストップを止められたモンスターである。

 光莉自身、可愛いのにとは思わないが格好良いとは思う。それに効果も優秀だ。

 

「『キングレムリン』の効果を発動!エクシーズ素材を1つ取り除いて、デッキからレベル4以下の爬虫類族モンスターを手札に加える!俺は『カゲトカゲ』を手札に加える!」

 

 デッキから1枚のカードを引き抜き、男に見せる光莉。2度のサーチにより、手札枚数は初期の5枚に戻る。その内2枚はサーチしてきたカードの為、情報アドバンテージは無いが、牽制だと考えれば十分だ。それに、止められなければ情報があろうと意味がない。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 続け様に光莉は、2枚の伏せカードを出した。ここまですれば、少しくらい反応が見られるかと思ったが、男の様子に変化はない。

 

「俺のターンだ。ドロー」

 

 静かに1枚引き、既に決めていたのか6枚ある内の1枚を、男は場に出した。

 

「『武神‐ヤマト』を攻撃表示で召喚」

「ッ!? 『武神』……だと……!?」

 

 知り過ぎている程に知っているテーマの登場に、光莉はデュエル中ながら狼狽する。先程頭をよぎった可能性が、鎌首をもたげて光莉へと迫ってきた。

 

(まさか……いや、でも)

「俺は2枚のカードを伏せ、エンドフェイズ。『ヤマト』の効果で『武神器‐ハバキリ』を手札に加え、『武神器‐ヤタ』を墓地へと送る。ターンを終了」

 

 堅実なプレイング。2枚の伏せに、手札誘発の『武神器』をサーチし、墓地発動の『武神器』を墓地へと送る。なんなら教科書にだって出てきそうな初動だ。

 堅実すぎて、面白みに欠けるプレイング。だがそれを常とし、他者を圧倒してきた男を、光莉は知っていた。

 

「――俺のターン。ドロー」

 

 まさかという思いが拭いきれぬまま、光莉はカードを引く。

 

「……『キングレムリン』の効果で『カゲトカゲ』をサーチする」

 

 先程と同じくサーチを行い、手札を増やす光莉。男の正体について、気になる所はあったが、それよりもまずは、目の前のデュエルだ。深呼吸をして高ぶった気持ちを冷静にさせて、光莉は先程男がサーチした『ハバキリ』の存在を思い出す。

 このカードは、『武神』と名のつく獣戦士族モンスターが相手モンスターとバトルする時、手札から墓地へ送る事でダメージ計算の間、対象モンスターの攻撃力を元々の数値の倍にする効果がある。『武神』デッキには、こういった戦闘においてはほぼ無敵に近いサポートカードが多いのだ。一時期研究していたから、光莉は良く知っていた。

 

(一先ず『ハバキリ』か伏せカードは使わせたい所……だったら)

 

 ライフに余裕のある内に、行動に移す事を選ぶ。

 

「バトルだ!行け、『キングレムリン』!『ヤマト』を攻撃!」

 

 エクシーズ素材を失った『キングレムリン』が、『ヤマト』へと襲い掛かる。その攻撃を前に、男はなんの反応も見せず、『ヤマト』は『キングレムリン』の鋭い爪により破壊された。

 

「守らないだと!?」

「『武神』モンスターの破壊をトリガーに手札の『武神‐ミカヅチ』の効果を発動。さらにチェーンして『武神器‐イオツミ』の効果を使う。

 『イオツミ』の効果により、デッキから『武神』モンスター、『武神器‐ムラクモ』を特殊召喚。更に『ミカヅチ』を手札から特殊召喚する。」

「ッ!?」

 

 『武神』デッキの要である『ヤマト』を守るだろうと光莉は考え、だからこそ『ハバキリ』か伏せカードを消費させるべく、更には『激流葬』や『ミラーフォース』のような全体破壊カードでの犠牲を減らす為、『キングレムリン』単体で攻撃を仕掛けた。攻撃反応の罠が釣れればよし、『ハバキリ』が釣れればもっと良し。それなりの確率で、どちらか片方は釣れると思っていた。

 だが、予想に反して男は『ヤマト』と『ハバキリ』を囮にモンスターを展開してきた。しかも1体は墓地で発動する『武神器』。面倒なと思いながらも、そのトリッキーな戦法が、やはりあの男の記憶を呼び起こす。『トライヴェール』のバウンス対策に『安全地帯』を選び、セルフバウンスのような戦法を取ってきた男。拭いきれぬ不安感を抱えたまま、光莉はメイン2に入った。

 

「俺は『アルタイル』を召喚。召喚時、効果の発動にチェーンして『カゲトカゲ』の効果を発動。レベル4のモンスターが召喚に成功した時、『カゲトカゲ』は特殊召喚出来る。

 チェーン2『カゲトカゲ』を特殊召喚。チェーン1『アルタイル』の効果で『デネブ』を蘇生。蘇生した『デネブ』の効果で『アルタイル』をサーチ」

 

 これで再び、手札に『アルタイル』と『カゲトカゲ』のセットが揃う。

 

「俺は『デネブ』『アルタイル』『カゲトカゲ』の3体でオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!灼熱の夜空に輝く大三角の輝きよ。今こそ我が刃に宿り全ての敵を殲滅せよ!エクシーズ召喚!ランク4『星輝士 デルタテロス』!」

 

 3ターン目と早い登場の光莉のエース『デルタテロス』。だが、今回はメイン2であり、『ハバキリ』の警戒の為に守備表示だ。

 

「『エクシーズ・ギフト』を発動。自分の場にモンスターエクシーズが2体以上存在する時、エクシーズ素材2つを取り除き、2枚引く」

 

防御姿勢を取っているデルタテロスの持つ剣に、オーバーレイユニットが2つ、光莉のデッキトップへと飲み込まれた。そのまま2枚のカードを引き、それから光莉は『デルタテロス』の効果発動を宣言する。

 

「エクシーズ素材を1つ取り除き、場のカードを1枚破壊する!『武神‐ミカヅチ』を破壊だ!ブレイザー・レイ!」

 

 『デルタテロス』の持つ剣に最後のエクシーズ素材が飲まれ、剣の切っ先から放射された光線が『ミカヅチ』を貫き、破壊した。

 爆風による衝撃が男を襲う。光莉が今使っているディスクはアカデミアの物。衝撃は実体化する。モンスター破壊によって生じる爆風も例外ではなく、巻き起こった風が男のフードを外した。

 現れたその顔に、光莉は一瞬驚き、直後にギリッと歯ぎしりする。予感はしていたから、衝撃よりも怒りが強かった。

 

「――で」

「……」

「何で、貴方がそっち側にいるんですか!? 切崎プロ!!」

 

 意識が混濁しているような、光の無い瞳の男――切崎卓斗へ、光莉は叫んだ。

 名前を呼ばれた卓斗は、ぴくりと反応を見せ、のろのろと頭を上げる。曇った瞳が、光莉を捉えた。

 

「……星野か。生きていたんだな」

 

 まるで気が付いていなかったと言わんばかりの言葉に、光莉は唇を噛み締めながら、一礼した。

 

「お久し振りです。貴方も、ご無事なようで」

「無事? ……ハハッ」

 

 曇った瞳が嘘のように、声高らかにハハハハハ!と狂ったように笑いだした卓斗。以前の卓斗から亜では想像もつかない笑い方だ。無意識に恐れたのか右足が勝手に半歩、後ろへ下がった事に気がつかない光莉。

 暫く笑い続けた卓斗は、やがてぴたりとその笑いを収めると光莉を睨みつける。

 

「暗闇を知ってるか?」

「……はい?」

「何もないんだ。一寸の光も無く、本当にそこに自分の体があるのかも分からない」

「切崎プロ?」

「俺はもう、彼処に戻りたくない」

「一体何を――」

「デュエルを続けろ!星野光莉!」

 

 怯えを振り払うかのように大声を上げた卓斗の剣幕に、光莉は目を見開きながら、「ターンエンドです」とそう告げた。

 

「俺のターン!」

 

 ズバッとまるで抜刀するようにカードを引いた卓斗。先程までが嘘のような剣幕だった。

 

「『炎舞‐『天キ』』を発動!効果で『武神‐ヒルメ』を手札に加える!」

「特殊召喚モンスター……!」

「墓地の『イオツミ』を除外し、『ヒルメ』を特殊召喚!」

 

 金色の体を持つ、新たな『武神』。前回の光莉と卓斗のデュエルでも現れたこのモンスターは、あの時同様、光莉の前に立ちはだかった。

 

「墓地の『武神器‐ヤタ』の効果を発動。獣戦士族の『武神』が居る時、自身を除外して相手場の魔法・罠を1枚破壊する。俺は向かって左の伏せカードを選択!」

「なんで分かんだろうな、本当に!チェーンして対象になったカードを発動!『リビングデットの呼び声』!『デネブ』を蘇生!」

 

 『リビングデットの呼び声』から飛び出すように現れた『デネブ』だが、『ヤタ』により『リビデ』が破壊され、そのまま破壊される。だが、きちんと効果は適用され、光莉は『星因士 ベガ』を手札へ加えた。

 

「俺は『ヒルメ』と『ムラクモ』でオーバーレイ!2体の『武神』モンスターでオーバーレイネットワークを構築!絶対の力を持って、我が敵へ誅伐を下せ!エクシーズ召喚!ランク4『武神帝-スサノヲ』!」

 

 一方で、『リビデ』を破壊した卓斗は、『スサノヲ』を召喚する。前回の卓斗とのデュエルでも召喚され、『おじゃまトリオ』とのコンボで大ダメージを与えるに至ったモンスターである。

 『武神』のサーチ効果もあり、2400ともう一声欲しい攻撃力は『炎舞‐『天キ』』の効果で2500に底上げされている。だが、今はそれ以上に手札に厄介なカードが握られているのだ。

 

「『スサノヲ』の効果で『ヒルメ』を手札に加える。そして『ミカヅチ』を除外し『ヒルメ』を特殊召喚する」

 

 その流れは前回のデュエルと同じもの。召喚権を使っておらず、更に『武神』には除外をトリガーに特殊召喚出来る『アスラダ』もいる。だが光莉の予想に反し『アスラダ』は特殊召喚されず。

 

「『武神器‐ハバキリ』を召喚する」

「なに?」

 

 優秀な手札誘発のモンスターを召喚する卓斗に、光莉は内心で首を傾げる。エクシーズを優先するプレイングを珍しいとは思わないが、だからと言って『ハバキリ』を召喚してまで、というのは以前には見られなかったものだ。

 

(戦闘に自信があるボードって事か?だが『カグツチ』は召喚出来ない)

 

 『武神帝‐カグツチ』は獣戦士族モンスターという縛りのあるモンスターだ。『ハバキリ』は獣族モンスター。『カグツチ』は出せない。

 

「俺は『ヒルメ』と『ハバキリ』でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 2体のモンスターが光球となり、渦の中に飛び込んでいく。だが、その渦はいつもの銀河の如き輝きを持ったそれとは違う、ブラックホールのような黒い渦であった。

 

「なんだ!?」

「No.80!悪意より現れし、魂にとりつく呪縛の鎧!『狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク』!」

 

***

 

 相手の攻撃に合わせて蘇生させた、ユート率いる『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』と、バイクの男の率いる白いドラゴンが相対する。

 

「旋風のヘルダイブスラッシャー!」

 

 白いドラゴンが雄叫びをあげ、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』へと猛追する。

 

「反逆のライトニング・ディスオベイ!」

 

 迎撃以外の選択肢は無く、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』に迎撃の指示を出すユート。

 黒と白、2色のドラゴンが空中で激突し、強烈に発光する。余りの眩しさに思わず視線を逸らし、やがて光が収まったであろうタイミングで恐る恐る覗き見ると、そこには何事もなかったかのように瓦礫の街が広がるのみであった。

 

「あいつは!?」

 

 周囲を探るが、バイクの男も白いドラゴンの姿も見当たらず、彼の乗っていたエンジン音も聞こえない。先程の瑠璃とアカデミアの男と同じように、まるで元々居なかったかのように姿を消していた。彼が確かに居た、という証明はディスクに置かれた『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』のカードのみである。

 

「ユート!」

 

 名前を呼ばれ、ユートはそちらに視線を動かした。隼と、合流したらしい仲間が数名、纏まって走ってくる。作戦に参加した人数から考えれば、明らかに少ない。

 

「瑠璃は!?」

 

 開口一番、共に逃げたはずの妹の事を聞いてくる隼に、ユートは首を振った。謝罪や言い訳、色々な言葉が思い浮かんだが、色々なことがありすぎて、これ以上に答えようが無かった。

 

「くそっ!アカデミアめ」

 

 悪態をつく隼。そんな彼を見ていると、自分ソックリの男がいた話をしづらい。だからせめて、もう1人の頼れる兄貴分に話をしようと考えて隼の後ろを覗き込み、その男の姿が無い事に気がついた。

 

「隼、光莉さんは?」

「……」

 

 光莉という名に一瞬反応し、直ぐに視線を伏せた隼。それが、星野光莉という人間がアカデミアにやられたのだという意味にとれ、ユートは愕然とし、膝をついた。

 大切な幼馴染は守れず、憧れの人はやられて消えた。

 

「アアアアアアアア!!」

 

 溢れた魂の慟哭。何故か涙は流れなかった。

 

***

 

 黒の渦が爆ぜ、卓斗の場には紫色のマントをつけた鎧のようなモンスターが現れた。右襟にはNo.80の刻印もある。

 眼前にいるモンスターは、ただのソリットビジョンでしかない筈だ。にも関わらず、現れたモンスターに光莉は言いようのない気配に不安を覚える。

 

「……どこから持ってきたんですか、そいつ」

 

 そのやばそうなカードと、言外に込める光莉だが、卓斗は答えない。答えぬまま、プレイを続けた。

 

「『ラプソディ・イン・バーサーク』の効果を発動。エクシーズ素材を1つ取り除き、相手の墓地のカード1枚をゲームから除外する」

「除外効果……ッ!」

「エクシーズ素材を1つ消費し、『星因士 デネブ』を除外!」

 

 『ラプソディ・イン・バーサーク』の前に、地面を割るようにして『デネブ』のカードが現れた。『ラプソディ・イン・バーサーク』がそのカードを殴りつけると、カードが砕け、光莉の墓地から『デネブ』のカードが取り除かれる。

 

「まだだ。この効果にターン制限は無い。もう1つの素材も取り除き、『アルタイル』を除外する!」

 

 今度は『アルタイル』のカードが現れ、殴られ、取り除かれる。折角準備した墓地アドバンテージを纏めて消され、渋い顔をする光莉。だが、その渋い顔は警戒心と恐怖心が織り交ざった色が強かった。2体エクシーズで攻撃力0、守備力1200。それだけのステータスで、効果が墓地除外だけとは考えづらいから。

 まもなく、その疑問は解消される。戦闘で優秀な『ハバキリ』を切ってまで、このカードを出した理由も、その効果によって解決した。

 

「『ラプソディ・イン・バーサーク』のもう1つの効果!俺の場のエクシーズモンスター1体に、このモンスターを攻撃力1200ポイント上昇させる装備カードとして装備出来る!『ラプソディ・イン・バーサーク』を『スサノヲ』へ装備!」

「永続的な攻撃力上昇効果か。成る程、『スサノヲ』との相性は抜群だな」

 

 苦しげな声を上げながらも、『ラプソディ・イン・バーサーク』をその身に纏った『スサノヲ』。1200ポイント、攻撃力が上昇し3700になった。モンスター全てに攻撃出来る『スサノヲ』だからこそ、その上昇による戦力強化は一入だ。

 

「バトル。『スサノヲ』で『キングレムリン』を攻撃!」

 

 『スサノヲ』が、『キングレムリン』へと襲い掛かる。受ければ1400のダメージだ。流石にそれは重すぎる。

 

「罠発動『くず鉄のかかし』!」

 

 故に防ぐ。『くず鉄のかかし』が『キングレムリン』の前へと立ちはだかり、『スサノヲ』の振り下ろした刃を受け止め、弾き返した。全てのモンスターに1度ずつ攻撃出来る『スサノヲ』だが、逆に言えば1度攻撃したモンスターには攻撃出来ない。こうして攻撃を止めれば、『キングレムリン』に攻撃されることは、少なくともこのターンはない。

 だが、再び伏せ状態になった『くず鉄のかかし』は、このターンはもう使えない。それはつまり、残りの攻撃を光莉には防ぐ術が無いという事である。

 

「『デルタテロス』に攻撃!更にダメージステップに永続罠『幻獣の角』を発動し、『スサノヲ』に装備する!」

「くっ」

 

 修羅のように赤く目を光らせ、額からは角を生やした『スサノヲ』が、光莉の場に居座ったまま体をよじり、『デルタテロス』を粉砕した。守備表示の為ダメージは無い。そのはずなのに、受ける衝撃が何故かいつも以上で、光莉は僅かに蹈鞴を踏んだ。

 2,3歩下がってから、光莉は『デルタテロス』の効果を起動。デッキから『星因士 ウヌク』をリクルートして、2枚目となる『星因士 デネブ』を墓地へと落とす。

 一方、『デルタテロス』の戦闘破壊をトリガーに、『幻獣の角』の効果で、カードをドローした卓斗は、『スサノヲ』に『ウヌク』を攻撃するように指示。光莉の場に居座ったままの『スサノヲ』が『ウヌク』をそのまま粉砕。

 

「うぉおおお!?」

 

発生した衝撃に、光莉は吹き飛ばされた。ゴロゴロと何回か転がるハメになってから、慌てて体勢を整える。

 

「『幻獣の角』の効果で1枚ドロー」

 

 光莉の様子を無視してデュエルを続ける卓斗に、服についた埃を落としながら光莉は立ち上がった。まっすぐ卓斗を睨みつけるが、それでも反応はない。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

「……俺のターン!ドロー!」

 

 此方を向けと言わんばかりに、大声をあげてカードを引いた光莉。

 だが、やはり反応は見えない。露骨な舌打ちを一つして、光莉はカードを掴んで、ディスクへ置いた。

 

「『星因士 ベガ』を召喚!召喚成功時に効果発動!手札から『星因士 アルタイル』を特殊召喚!更に『アルタイル』の効果で『デネブ』を蘇生し、『デネブ』の効果で3枚目の『アルタイル』を手札に加える!」

 

 流れるように行われる『テラナイト』の王道的流れ。瞬く間に3体のモンスターを並べた光莉。出すモンスターは決めていた。

 

「『デネブ』『アルタイル』『ベガ』の3体でオーバーレイ!3体の『テラナイト』モンスターでオーバーレイネットワークを構築!極寒の夜空に輝く大三角の気高さよ。今こそ我が剣に宿り、仇なす敵を滅殺せよ!エクシーズ召喚!ランク4『星輝士 トライヴェール』!!」

 

 2ターン続けてのエース。更に『トライヴェール』ならどれだけ高い攻撃力も、関係無く除去出来るバウンス効果がある。決まれば――の話だが。

 

「森羅万象もろとも吹きとばせ!シェイリング・ブリザード!」

「させん!罠発動、『ブレイクスルー・スキル』!」

「ぐっ」

 

 効果を消され、『トライヴェール』のバウンス効果が潰される。

 

「……『キングレムリン』を守備表示に変更。カードを伏せてターンエンド」

「俺のターン!」

 

 カードを引いた卓斗。引いたカードをそのまま発動する。

 

「『ギャラクシー・サイクロン』を発動!『くず鉄のかかし』では無い方の伏せカードを破壊する!」

「――」

 

 デュエルディスクには遅延防止機能が付いており、相手のカードの発動に対し、一定時間無言でいた場合、デュエルの進行が優先されて、勝手に効果が処理される。悪い時は勝手にフェイズが進められ、エンドフェイズになる時だってあるのだ。

 だがそれでも、時間ギリギリまで、光莉は立てていた予定を修正し、

 

「――カウンター罠『神星なる因子』!」

 

 対象になったカード『神星なる因子』を発動するに至った。

 

「『トライヴェール』を墓地に送ることで発動し、『ギャラクシー・サイクロン』を無効にして破壊する!」

 

 巻き起こった突風を、『神星なる因子』による光が打ち消した。

 

「破壊後に1枚ドロー!更に『トライヴェール』の効果!墓地に送られた場合に『テラナイト』を蘇生する!『アルタイル』を蘇生し、効果で『デネブ』を蘇生する!」

 

 カウンター罠をトリガーに、2体のモンスターを並べる光莉。

 ただ『スサノヲ』の的を増やすだけにも見える光莉のプレイング。それを前に、成る程と卓斗は呟いた。

 

(俺に1枚引かせてでも、デネブのサーチ効果を使用したい。だがデネブは墓地に送っても、場にはレベル4のモンスターを残し、次のターンに繋げたい、そんな所か)

 

 仮に、蘇生したモンスターが『デネブ』だけであった場合、『くず鉄のかかし』で守れるのは『デネブ』か『キングレムリン』のどちらか。エクシーズ素材を失っている現状では、『キングレムリン』は攻撃力2300のバニラモンスターでしかない。そしてそれは、『デネブ』も同じだ。『星因士』モンスターは、召喚後はバニラモンスターになってしまう。

 一方、『アルタイル』も蘇生させておいた場合、『アルタイル』も守るという選択肢が生まれる。この場合、相手に2枚ドローされてしまうが、『デネブ』を墓地に置け、用済みとなった『キングレムリン』も墓地へと送れる。

 最もそれは――『くず鉄のかかし』が残っていれば、の話。

 

(当初の予定では、『くず鉄のかかし』を打開する為に俺が『スサノヲ』の効果を使用。それ対応し『因子』を使い『スサノヲ』を破壊しつつ、モンスターを展開。次のターンに備える予定であったはず。

 それが魔法・罠を破壊するカードを引かれた。予定外とまでは言わずとも、かなり計算は狂わされたはず。それゆえの長考。それゆえの行動。そう考えれば――)

 

 現在卓斗の手札は2枚。伏せカードに、場のモンスター。光莉と同じく持ち時間いっぱいに考え、決める。

 

「『スサノヲ』の効果によりデッキから『ヤタ』を墓地へ。『ヤタ』の効果で『くず鉄のかかし』を破壊する!」

「っ」

 

 地面から飛び出すように『ヤタ』が出現し、『くず鉄のかかし』を粉砕した。これで、光莉の場に伏せカードは無くなり、3体の守備表示モンスターのみが残る。

 

「伏せカード発動!『顕現する武神』!」

 

 墓地から『武神』と名のつくモンスターを手札に加えるか、除外されている『武神』モンスターを墓地へと戻すカード。卓斗は手札に戻す効果を選び、『ヒルメ』を手札に加えた。

 

「『ヤマト』を除外し、『ヒルメ』を特殊召喚!更にモンスター除外により『アスラダ』を守備表示で特殊召喚!そして『ツムガリ』を通常召喚!」

 

 一気に3体のモンスターを並べ、攻勢に出た卓斗。

 

「『スサノヲ』!敵の場を殲滅しろ!」

 

 攻撃指示を受けた『スサノヲ』が飛び上がり、光莉の場へと降り立つ。直後、『キングレムリン』を『アルタイル』を『デネブ』を。全てのモンスターを巻き込むように暴れて光莉の場を蹂躙し、卓斗のもとへと戻っていった。光莉の場はガラ空き。無防備な光莉へ『ヒルメ』が牙をむく。

 通常であれば、直接攻撃は攻撃力の低いモンスターからというのが鉄則だが、光莉がここまで使用したカード『くず鉄のかかし』や『リビングデットの呼び声』のような場持ちのいいカードから察するに、『冥府の使者ゴーズ』はありえないと判断したからだ。

 

「『ヒルメ』でダイレクトアタック!」

 

 振られた『ヒルメ』の拳が光莉を捉え、そのまま殴り飛ばす。

 

「ぐぅああああああ!?」

 

 吹き飛ばされ、床を転がった光莉。その光景を見ていた周囲のアカデミアのデュエル戦士たちから、歓声が上がる。散々振り回し、やられてきた鬱憤が晴れるようだ。

 もっとやれ、嬲ってやれと余り品の良くない言葉が飛び交う中、光莉の倒れていた場所から影のような黒い靄が急に立ち上がった。ぎょっとしたデュエル戦士のヤジが急に収まる中、「いっててて」とぼやきながら光莉は立ち上がる。

 

「流石にダイレクトは効くな。アカデミアのクズ共と違う、アンタだから尚更だ。切崎プロ」

 

 言いながら光莉は手札の1枚をディスクへ置いた。

 

「こいつは俺が戦闘ダメージを受けた時、手札から特殊召喚出来る」

 

 溢れていた靄が光莉の場にて収束し、モンスターの形を成す。

 

「恐怖開放。現出しろ、『トラゴエディア』」

 

 現れたそのモンスターは、卓斗に『ヒルメ』からの攻撃を決断させたモンスターだ。『トラゴエディア』は、コントロールするプレイヤーの手札枚数1枚につき、600ポイントのステータスを得る。

 デュエル開始時点から、多くのサーチやドロー効果をフルに使い、守りを場持ちのいいカードに任せた故、光莉の手札は6ターン目現在を持ってして、未だ初期枚数の5枚。現在、それがそのまま、『トラゴエディア』というカードを経て、守備力3000という形で卓斗の前に立ちはだかっていた。この展開を予測したからこそ、ダメージを優先して『ヒルメ』から攻撃したのだ。そのかいあって、光莉のライフは一気に1900まで下がっている。

 

「メイン2」

 

 そして、特殊召喚された『トラゴエディア』。レベル変動にモンスター奪取という厄介な効果を持つこのモンスターを、次のターンまで残すつもりはなかった。

 

「墓地の『ハバキリ』の効果。こいつを除外することで、相手の場のモンスター1体を破壊する。『トラゴエディア』を破壊!」

 

 再び地面から飛び出すように現れた『ハバキリ』が、『トラゴエディア』の体を引き裂き、破壊した。

 

「俺は3体のモンスターでオーバーレイ!」

 

 光球となった『ヒルメ』『アスラダ』『ツムガリ』の3体が銀河の渦へと飛び込んでいく。

 その光景は、普段のエクシーズ召喚の物。またナンバーズかと少し警戒した光莉は、ほんの一瞬肩の荷を下ろした。

 

「神話に語られし太陽神。除かれしモノへ、その光の恩恵を与えよ。エクシーズ召喚!ランク4『武神姫‐アマテラス』!」

 

 『武神』モンスター唯一の素材縛りなしかつ3体必要なモンスター。前回のデュエルでは出てこなかった武神の姫。神話に登場する太陽の神と同じ名前を持つこのモンスターは、命を果たし、除外されていったモンスターへと光を与える。

 

「『アマテラス』の効果を発動!自分ターンに発動した場合、エクシーズ素材を1つ取り除いて、除外されているレベル4モンスターを特殊召喚する!『ヤマト』を帰還させる!」

 

 『アマテラス』が手に持った剣で虚空を斬ると、そこから『ヤマト』が現れる。

 

「そしてエンドフェイズ。『ヤマト』の効果で『武神器‐ヘツカ』を加え、そのまま墓地に送る。ターン終了だ」

 

 卓斗がターンを終える。

 

「俺のターンだな」

 

 そして光莉のターン。ドローと言いながら、1枚引いて、7枚に手札を増やす。

 

「……ハッ!」

 

 引いたカードを見て、楽しそうに笑う光莉。

 

「いいカードだ!さすが俺のデッキ!やる気十分だな!行くぞ『エクシーズ・リベンジ』!」

 

 発動した今引きの蘇生カードを前に、卓斗は舌打ちを1つ漏らして、『アマテラス』の効果を起動した。

 

「相手ターンに発動した場合、除外されているレベル4モンスターを手札に加える効果になる!『ハバキリ』を手札へ戻す!」

「構うか!『エクシーズ・リベンジ』の効果!」

 

 条件が限られているとは言え、『エクシーズ・リボーン』と違い即座に打て、『死者蘇生』と違いエクシーズ素材も回復出来る『エクシーズ・リベンジ』。この状況でこれほど輝くカードはない。その輝きが、灼熱の大三角の化身を呼び覚ます。

 

「『デルタテロス』を蘇生し、『アマテラス』の素材を奪う!」

 

 エクシーズ素材――オーバーレイユニットはモンスターエクシーズの魂だと、誰かが言った。

 それなら、この状況はさながら魂を奪われたということになる。奪った魂を糧に、光莉は『デルタテロス』の効果を起動した。

 

「『デルタテロス』の効果発動!『武神帝‐スサノヲ』を破壊する!」

「させん!墓地の『ヘツカ』の効果を発動!墓地のこのカードを除外する事で対象を取る効果を無効にする!」

「だがこれで『ヘツカ』は消えた!後は手札だな」

 

 先のターン、『幻獣の角』の効果により3体のモンスターを破壊した為、3枚ドローをした卓斗。にも関わらず1枚のカードも伏せること無く、卓斗は3枚の手札を保持したまま。あの中に手札誘発のカードがある可能性があった為、光莉の選択は3ターン目と同じであった。

 

「バトル。『デルタテロス』で『ヤマト』に攻撃!ブレイザー・スラッシュ!」

 

 剣を構えた『デルタテロス』が、『ヤマト』へ斬りかかり、そのまま斬り捨てる。

 

(手札誘発無しって事は……魔法のみ?そうなると、次のターンが怖いな)

 

「メイン2。『ベガ』を召喚。効果にチェーンして、『カゲトカゲ』を特殊召喚。『ベガ』の効果で『アルタイル』を特殊召喚。効果は使わない」

 

 3体のモンスターを並べる。出すモンスターは決めていた。その為に『アルタイル』も使わなかったのだ。

 

「『アルタイル』『ベガ』『カゲトカゲ』の3体でオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!隠せし隻眼に真実を宿せ!エクシーズ召喚!現れろ『隻眼のスキル・ゲイナー』!」

 

 やはり守備表示で特殊召喚されたのは、2刀流の剣士。初登場から余りいいところが無く、融合相手だとただの2500打点であることが多いからか、どことなく張り切って見える。張り切っているなら、その分頑張って貰おうと、光莉は『スキル・ゲイナー』の効果を発動する。

 

「エクシーズ素材を1つ消費し、『スキル・ゲイナー』の効果発動!相手モンスターエクシーズの名称と効果をコピーする!『アマテラス』の姿をその隠れた瞳に写せ!」

 

 仮面の片方の瞳が光り、そこに『アマテラス』の姿が映った。

 

「『スキル・ゲイナー』でコピーした『アマテラス』の効果を発動!エクシーズ素材を1つ取り除き、除外されているレベル4モンスターを特殊召喚する!お前にされた除外、利用してやる!来い『アルタイル』!」

 

 『スキル・ゲイナー』が刀を一閃すると、その切れ目から『アルタイル』が姿を現した。今度は『アルタイル』の効果を起動させる光莉。

 

「墓地から甦れ!『デネブ』!効果で『ベテルギウス』を手札に加える!」

 

 『デネブ』と『アルタイル』。2体のモンスターが、光莉の場に並ぶ。にやりと笑った光莉の場で、再び銀河が渦巻いた。

 

「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!その銃口を持って敵を撃ち抜け!エクシーズ召喚!ランク4『ガガガガンマン』!」

 

 カウボーイのようなモンスター。攻撃表示なら戦闘の効果、守備表示ならバーンダメージと器用なモンスターだ。だが、この状況ではいささか物足りなさを禁じえない。だが、このターン光が最も呼びたかったのは、このモンスターである。

 

「さてと。折角珍しい物を見せて貰ったんだ。俺も新技、見せないとな」

 

 漸くお披露目出来ると、嬉しそうに。光莉はカードを手にし、ディスクへと叩きつけた。

 

「見晒せ!『RUM‐アストラル・フォース』!」

 

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