もし瑠璃がいれば、聞かずとも解説したであろう、光莉の新技。『RUM‐アストラル・フォース』。
光莉の公式連勝記録の38勝目。ハートランドシティと肩を並べる大都市『アストラルシティ』に置いて行われた大会の、優勝賞品である魔法カードだ。
その効果は、光莉の場にいる最もランクの高いエクシーズモンスターを、同属性同種族のランクが2つ高いエクシーズモンスターへランクアップさせる。扱いが難しいが決まれば格好良い、魅せるという意味ではかなり有能なカード。大会景品としてしか配られていないため、光莉以外に持っている者がいないから、使っていれば光莉ならではと、プロとしての名前も更に売れただろう。だが、意外なことに公式使用記録は無し。
景品という立場上部数を刷れない為あまり強くできない事、生憎光莉の最も使用するランク4光属性戦士族エクシーズにこのカードを使っても、出せるモンスターが1体しか居ないという2つの理由から、御蔵入りとなってしまっていたのだ。
それを使う事に決めたのは、以前の総司とのデュエルにおいて、エクストラデッキの融合モンスターと入れ替えたり、同じ素材から全く違う融合モンスターを召喚して見せた事に感化されたからだ。実際、ランク4エクシーズだけではキツくなる状況も今後出てくると判断してだ。まさに今、その状況である。
「ランク4の『ガガガガンマン』でオーバーレイ!1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築!」
光球になった『ガガガガンマン』が銀河の渦へと飛び込んでいく。
「ランクアップエクシーズチェンジ!」
銀河が爆ぜた。
「堅く猛き鎧の戦士!その力を持って粉砕せよ!エクシーズ召喚!ランク6『ガントレット・シューター』!」
ガンマンに変わり、赤い装甲を持った戦士が現れた。攻撃力2400守備力2800。ランク4にはない、ランク6だからこその純粋な高ステータスを持ったこの戦士は、能力もシンプルで使いやすい。
「『ガントレット・シューター』の効果を発動!エクシーズ素材を取り除いて、相手モンスター1体を破壊する!『スサノヲ』を破壊!バーストシュート!」
『ガントレット・シューター』の手甲が飛んで行き、『スサノヲ』を粉砕し、『ガントレット・シューター』の元へ戻る。
「『ガントレット・シューター』の効果にターン制限は無い!バーストシュート第2打!」
再び飛んでいった手甲が『アマテラス』を粉砕する。これで、卓斗の場はガラ空きになった。
「カードを伏せて、ターンエンド」
セットカード1枚に、光莉の場には3体のエクシーズモンスター、『ガントレット・シューター』、『隻眼のスキル・ゲイナー』、そして『星輝士 デルタテロス』が存在する。大量にあった手札は無くなってしまったが、作れるだけの場は作った。
警戒心は解けないが、それでも余裕は出来た。
「俺のターン。ドロー!」
カードを引き4枚に手札を増やした卓斗。ディスクに叩きつけるように手札の1枚を置いた。
「『武神降臨』を発動!」
『武神』限定の蘇生カード。2体の『武神』を墓地か除外ゾーンから特殊召喚する効果だ。
「除外ゾーンの『ミカヅチ』、墓地の『ヤマト』を特殊召喚する!」
2体の『武神』を並べた卓斗は、そのままエクシーズ召喚に入る。
「2体の獣戦士族モンスターでオーバーレイネットワークを構築!捨てし力を結集させ、敵を討ち果たす姿とかせ。エクシーズ召喚!ランク4『武神帝‐カグツチ』!」
出てきた『カグツチ』がその効果を発動する。エクシーズ召喚時にデッキトップの5枚を墓地へと送る効果だ。デッキトップ5枚が卓斗のデッキから飛び出して、墓地へと送られた。そのカードは『サグサ』、『マフツ』、『武神集結』、『ツムガリ』、『隠武神』。墓地発動のカードは前回同様2枚だが、全て『武神』カード。1枚につき100ポイントの攻撃力を上昇させる『カグツチ』は、『天キ』の効果を合わせ、自身の攻撃力を3100まで上昇させた。
だが、『カグツチ』には『スサノヲ』のように多数の敵に攻撃出来る効果はなく、戦闘耐性のみである。『ガントレット・シューター』を破壊されてしまうかもしれないが、挽回は効くだろう。そんな事を考えたが、その期待は裏切られる。
「『エクシーズ・リベンジ』を発動!」
光莉も使ってエクシーズモンスターの蘇生カード。エクシーズ素材を奪うその効果を前に、光莉は『スキル・ゲイナー』がコピーした『アマテラス』の効果を使用し、除外されていた『デネブ』を手札へ戻す。
「俺が蘇生するのは『No.80 ラプソディ・イン・バーサーク』!!」
先程光莉を苦しめた呪いの鎧が蘇生し、『ガントレット・シューター』が持っていた最後のエクシーズ素材を奪っていく。
「『スサノヲ』じゃ……無い?」
てっきりエースを呼び戻すものと考えていた光莉は、卓斗のプレイに首を傾げる。卓斗は何故『ラプソディ・イン・バーサーク』を蘇生させたのか。その理由を明かすように、新たなカードを。呪いを加速させるカードを場へと出す。光莉の使った『RUM』と違い、モンスターを純粋にランクアップされる物ではない、『RUM』。
「『RUM‐バリアンズ・フォース』を発動!」
「っ!?」
「このカードは、俺の場のモンスターエクシーズを同じ種族でランクの1つ高い『CNo』か『CX』へランクアップさせる!俺は『No.80 ラプソディ・イン・バーサーク』でオーバーレイ!1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築!」
『ラプソディ・イン・バーサーク』を出した時と同じ黒い渦に、光球となった『ラプソディ・イン・バーサーク』が飛び込んでいく。
「カオスエクシーズチェンジ!CNo.80!魂を鎮めし葬送の鎧。悪意と共に敵を穿つ力とかせ!『葬装覇王レクイエム・イン・バーサーク』!」
新たなエクシーズモンスター。カオス化した『ラプソディ・イン・バーサーク』。『CNo.80 レクイエム・イン・バーサーク』が現出する。禍々しさは更に増し、息苦しさすら覚えた光莉は、思わず胸元を握り締めた。
ヤバイ相手だと、勘が告げていた。何かされる前に手を打たねばとデュエリストとして本能が告げている。だが光莉のそんな訴えとは裏腹に、光莉の場にあるカードは、相手のモンスターをどうにかできるカードでは無い。
「クソッ!」
「『レクイエム・イン・バーサーク』の効果を発動!素材を取り除き、相手の場のカード1枚を除外する!」
「今度は場からだと!?」
「対象は伏せカードだ!」
「『ラプソディ・イン・バーサーク』を強化したモンスター。って事は、装備効果もあるはず。使うしかないか『天架ける星因士』!」
光莉お気に入りの『テラナイト』専用サポート。このカードの効果に対し、卓斗は何もせず、効果が解決し、デッキから召喚されたのは3体目となる『デネブ』。『デルタテロス』はデッキへ戻り、『デネブ』の効果によって3体目の『ベガ』を、光莉はデッキから手札へ加える。
「『レクイエム・イン・バーサーク』の効果にもターン制限はない。『デネブ』を除外!」
出てきたばかりの『デネブ』が『レクイエム・イン・バーサーク』に殴られ、姿を消した。
「そして『レクイエム・イン・バーサーク』は攻撃力を2000ポイント上昇させる装備カード扱いとして、エクシーズモンスターへ装備できる。『カグツチ』へ装備させる!」
『スサノヲ』が『レクイエム・イン・バーサーク』を装備する。悲鳴か怒号か。声無き雄叫びを上げた『スサノヲ』は、その攻撃力を5100まで上昇させた。『F.G.D』でも攻撃力5000。それすらも上回った圧倒的な火力を、『スサノヲ』は『スキル・ゲイナー』へと向けた。
「『スキル・ゲイナー』を攻撃しろ!『スサノヲ』!」
振り下ろされる刃が、一刀のもとに『スキル・ゲイナー』を破壊し、床を陥没させ、光莉の体を今までで一番吹き飛ばし、壁へと叩きつけた。
***
光莉に負けてから、卓斗は世界を回り、武者修行をしていた。
そんな彼が、最後の日。アカデミアの進行の始まった日にいた場所は、『アストラルシティ』。『ハートランド』に負けず劣らずの強者の集う街だ。卓斗がこの街を修行の場として選んだ理由の1つに、光莉の38勝目、『アストラルシティチャンピオンシップ』での優勝があった。まずはどこまで追いつけたのかを確認するために。卓斗は武者修行での成果を確認するべく、ここで腕試しを選んだのである。
その目的は、彼の考ええぬ形――アカデミアのデュエル戦士との実戦という形で叶えられた。
結論から言えば彼の修行の成果は確かにあり、卓斗は長くアカデミアと戦い、多くのデュエル戦士を倒してきた。アストラルシティに居たレジスタンスの一員の中では一目置かれていて。だからこそ彼は、光莉と同じくブラックリストに載っていて。だからこそ、卓斗はあの男に目をつけられたのだ。
「ハァ!ハァ!」
その日。卓斗は、赤い服を着たアカデミアの戦士と対峙していた。右袖が無く、左袖は長いままという左右非対称の服に身を包んだ何者か。その格好に合わない無表情の白い仮面が、一層不気味であった。
「くっ、俺のターン!」
カードを引いた卓斗。苦し紛れに去勢を張って大声を張り上げたが、仮面の男に変化は無い。ドローしたカードは『武神集結』。
元々武神デッキは安定してアドバンテージを取っていくデッキだ。それでも『武神集結』は不利な状況化において一発逆転を狙えるカードだ。だが、このカードは場にこのカード以外のカードがある場合は発動できず、現在卓斗の場には『天キ』と使い終わった『リビデ』の2枚が存在している。
墓地には自身除外する事で表側の魔法・罠を破壊出来る『ギャラクシー・サイクロン』があるが、1枚だけ。割るのは片方のみ。それでは意味がなかった。
「……俺は、カードを伏せて、ターン終了だ」
やれることは、引いた唯一の手札『武神集結』をブラフとして伏せることだけだった。
「ドロー」
カードを引く仮面の男。とはいえ、やることなんてない。相手の場には既に3体のモンスターがいる。攻撃宣言で終わりだ。だが、それだけで終わらせるつもりはないらしい。
男がこのデュエルで何度目かの同名速攻魔法を発動させる。すると場のモンスターが再び変化し、特殊召喚されたそのモンスターにより、伏せカードもろとも、卓斗の場の魔法・罠すべてが吹き飛んだ。
「バトル」
3体のモンスターが、卓斗へと襲いかかった。ライフは瞬く間に0を刻み、卓斗はその場へと倒れ伏す。
倒れた卓斗へ、仮面の男が歩み寄った。ディスクを操作し、ある部分を卓斗へと向ける。
「なにか言い残したい事はあるか」
「……」
パッと思いついたのは、謝罪の言葉だった。仲間へ、ファンへ、敗北したことへの謝罪。光莉へ、再戦の叶わなかった謝罪。
だが、卓斗は何も口にしなかった。ただに仮面の男を睨み上げる。
「恨むだけ恨んでくれ。そっちのほうが気楽だ」
男は最後にそう言って、卓斗に光を浴びせた。
それからのことを、卓斗は良く覚えていた。覚えていたくないというのが本音だが、ただの闇、というのは存外忘れられないのだ。
そう、闇。ひたすらに闇。変化するものは何も無い。時間経過すら感じられない空間に、卓斗は1人で取り残されていた。最初は耐えようとした。他の事を考え、気を紛らわそうと考えた。だが、その程度の抵抗は長く続かず、卓斗はやがて闇に飲まれた。
恐怖。いっそ死にたいとすら思えるほどのそれを前に、もはや自分が生きているのか死んでいるのかも分からない程の時間が経った頃。
意識が覚醒したとき、卓斗は外に居た。ベッドに寝かされ、その体はガッチリとベルトで固定されている。訳が分からなかった。しかし、光がそこにあるというのが、何よりもの救いであった。
「起きたかい?」
声をかけられ、首だけでそちらを向く。紫色の髪と服、そして赤いマントの、中学生程の男がそこにいた。
「外の気分はどうだい?」
「……」
本能的に、こいつが敵だとわかった。だから、口を閉ざしたまま。男はお構いなしに言葉を続ける。
「またカードに戻りたいかい?」
その言葉に、卓斗の体がゾクリと震えた。思い出してしまう闇の世界。自分の身すらも見えない閉ざされた暗黒を思い出して、恐怖心が増す。
「い、いやだ……」
「うん?」
「戻り、たくない……」
気が付けばそんな声が出ていた。その言葉に、男は我が意を得たりといった様子で頷いた。
「なら、勝てばいい」
気が付けばベルトを外され、自由の身になっていた卓斗。起き上がった彼に、男は卓斗のデッキを差し出した。
「勝つんだ。誰にも負けなければ、君は自由の身でいられる」
「――負ければ?」
「またカードになるだけさ」
ゾクリ。再び体が震えた。
「分かっているとは思うが、戦わないという選択肢もない。一定期間デュエルしなければ、またカードになるだけだ」
逃げ道は潰されて。
「勝ち続ける。それが君の安全を保証する唯一の術で、君の使命だ」
男は最後にそうまとめた。
「これは選別だ。受け取るといい」
そう言って男の差し出したのが、『ラプソディ・イン・バーサーク』と『レクイエム・イン・バーサーク』。そして『RUM‐バリアンズ・フォース』。
「これでますます、君は強くなれる。その力を存分に振るうといい」
それだけ言い残して、男は立ち去る。残された卓斗はベッド脇のサイドテーブルに置かれていたディスクを――アカデミアのデュエル戦士が使っていた物と同じディスクをつけると、デッキと渡されたカードをディスクへセットした。
その日から今日まで、卓斗は10人のエクシーズ次元のデュエリストを倒していた。とはいえ、行うのはデュエルで倒す所まで。カード化は、卓斗の見ていない所でデュエル戦士によって行われていた。だからだろう。卓斗の同郷の人間を倒していく抵抗感は薄く、ただ恐怖心から身を守るというその一点のみが、卓斗のデュエルを支配していた。
そしてそれは、今行われている光莉とのデュエルでも変わっていない。あれだけ望んだ光莉との再戦の筈が、卓斗は心を躍らせる事なく、ただ壁に叩きつけられた光莉を観察するに至る。
体をぶつけた光莉は、そのまま力なくズルズルと壁をずり落ちていく。気絶したのだろうと、卓斗は考えていた。理由は知らないが、『レクイエム・イン・バーサーク』を装備したモンスターの攻撃によって発生する衝撃は、例え守備モンスター越しでもかなり強烈。今までのデュエリスト達でも気絶によるデュエル続行不可能で敗北した者だっているのだから。
このまま倒れれば自分の勝ち。あの闇の中に戻る必要が無くなる。ホッとした。光莉に勝てたことよりも、そちらのほうが嬉しかった。
「……何?」
だが、卓斗の予想を裏切り、光莉の体は止まっていた。
膝は曲がっているが、光莉の体は床へと落ちてはいない。空気椅子のような状態で、光莉は肩を上下させていた。
その事実に、卓斗はギリッと奥歯を噛み締める。ぬか喜びしただけに、なおさらだ。
「なぜ倒れない」
その言葉にぴくりと反応を見せた光莉は、ゆっくりとその顔を上げた。
顔に浮かぶのは、笑み。楽しくて仕方がないという様子だ。
「なんだ、その顔は」
「そりゃ、切崎プロとデュエルしてるんですから。楽しくないわけ無いじゃないですか」
勢いを付け、壁から身を離す光莉。少しふらつきながらも、しっかりと自分の足で立った光莉。
楽しいと、光莉は言った。光莉の言葉に、卓斗は苛立ちをあらわにする。
「ふざけるな、貴様……!この決闘に、そんな感情はいらない!」
「無理です。俺の大切な友人から、俺は俺のままでいてくれと言われましたから。確かに、この決闘に負けたら、俺はカードにされるのかもしれません。だけど、決闘は楽しみます。貴方との、こんな戦いならなおさらだ」
「お前――!」
「だって、ナンバーズにカオス化。どちらも知らない。未知の相手だ。これで楽しめないで、何を楽しめって言うんですか」
にやりと笑った光莉が、びしりと卓斗を指さす。
「さあ!貴方のターンです!ライフを0にしない限り、俺は諦めませんよ!」
「――その自信の理由はお前の手札か」
光莉の手札2枚。片方や除外ゾーンより回収された『星因士 デネブ』。もう片方はサーチされてきた『星因士 ベガ』。ランク4エクシーズを簡単に出せる手札だ。追加のドローで攻撃力を上昇されるカードを引かれれば、それで勝負が決する可能性もある。
デッキサーチを駆使し、安定してのデュエル展開を得意とする光莉だ。この状況への対抗策もあるのだろう。だからこそ、その対抗策も入れてある。
「『手札抹殺』を発動!」
「――ッ」
お互いに全ての手札を捨て、捨てたカードと同数のカードを引く手札交換カードだ。
サーチしたカードを使われる前に捨てさせる。なんとも単純な、しかし確実な戦法。これによって、『アルタイル』『デネブ』『ベガ』のカードが全て、3枚ずつ墓地へと置かれたのだから。
「やってくれるじゃないですか。2枚捨てて2枚ドロー」
「俺は1枚だ」
それぞれ手札交換を終えて、卓斗は1枚のカードを場に伏せる。
「次のターンで終わらせる。ターン終了だ」
「俺のターン!ドロー!」
プレイに迷いはなかった。引いたカードと残りの手札。纏めて掴み、
「3枚伏せてターンエンド!」
ガン伏せする。
「3枚の、伏せカードだと……!」
「そういや、あの時もガン伏せしたんだっけ」
光莉の言うあの時が、かつての自分とのデュエルの時の話だと、卓斗は理解する。あの時は、一時休戦→貪欲な壺と続き、引いた2枚がそのまま伏せられた。
「だが、『一時休戦』による守りは無い。攻撃すればライフは削れる」
「それも込で、貴方のターンですよ、卓斗さん」
「……俺のターン!」
カードを引いた卓斗は、そのままそのカードを発動する。
「『死者蘇生』!」
「っ」
「復活しろ『スサノヲ』!」
地面に現れた魔法陣から、『スサノヲ』が姿を現す。『スサノヲ』と『カグツチ』。ますますあの時の場にそっくりだ。伏せカードの枚数に『カグツチ』の装備した鎧という違いはあるのだが。
「バトル!まずは『カグツチ』で『ガントレット・シューター』に攻撃!」
『カグツチ』が刃を振り下ろし、『ガントレット・シューター』を破壊する。今度は覚悟していたからか、吹き飛ばされて壁に叩きつけられても、直ぐに立ち上がる光莉。畳み掛けるように『スサノヲ』が光莉へ襲いかかる。
「罠発動!『エクシーズ・リボーン』!」
対して光莉は、エクシーズモンスター専用の蘇生カードを発動させた。
「目覚めろ極寒の大三角!気高き我が刃!『星輝士 トライヴェール』!」
魔法陣から『トライヴェール』が飛び出し、『スサノヲ』が光莉へ向けて振り下ろした刃を、自らのレイピアで受け止める。
「『トライヴェール』の守備力は2500。『天キ』で強化しても『スサノヲ』の攻撃力は2500だ。勝てないぞ、このままじゃ」
「俺の墓地のカードを忘れたか!『ツムガリ』を除外!攻撃力をバトルする相手のモンスターの攻撃力分、上昇させる!」
『トライヴェール』の攻撃力2100ポイント分、『スサノヲ』の攻撃力が『トライヴェール』を上回る。
瞬く間に拮抗状態は終わり、『トライヴェール』のレイピアが折れ、『スサノヲ』の一撃で破壊される。
「『トライヴェール』の効果発動!星の巡りに終わり無し!蘇生しろ『デネブ』!」
『トライヴェール』が墓地に送られた場合、墓地の『テラナイト』を蘇生させる。何度目かの『デネブ』が蘇生し、光莉のデッキ内では最後の1枚である『テラナイト』モンスター『ベテルギウス』が手札へと加わった。
「『スサノヲ』!猛攻せよ!『デネブ』へ攻撃!」
振られた刃が、『デネブ』を破壊する。
「『リビングデットの呼び声』を発動!『アマテラス』、蘇生せよ!」
攻撃対象のモンスターがいなくなり『スサノヲ』は沈黙したが、卓斗の攻撃は止まらない。
『リビデ』により『アマテラス』が蘇生する。バトルフェイズでの特殊召喚であれば、そのモンスターにも攻撃権は残っている。
「行け!」
刃を構え、『アマテラス』が光莉へと向かう。迫る刃を前に、光莉は口角を釣り上げた。
「『リビングデットの呼び声』!」
そして光莉もまた、『リビングデットの呼び声』を発動させる。
「蘇生しろ『アルタイル』!」
『リビングデットの呼び声』のカードから飛び出すように現れたのは『アルタイル』であった。
「『アルタイル』の効果により『ベガ』を蘇生!」
『アルタイル』が刃を振るい、空間を裂いて。そこから飛び出してきたのは『ベガ』。
「『ベガ』の効果で『ベテルギウス』を特殊召喚!」
そして『ベガ」のが掌を向けた先に現れた魔法陣からは、『ベテルギウス』が現れる。
「また……!2枚とも蘇生カードか!」
あの日の記憶が蘇る。凌ぎを削り、全力で戦ったデュエル。
「『アルタイル』に攻撃しろ!」
湧き上がった感情を振り払うように、卓斗は『アマテラス』に『アルタイル』を攻撃させる。
「『ダメージ計算前』に『ツムガリ』の効果を発動!」
光莉最後の1枚の手札が『オネスト』であることを警戒し、『ツムガリ』の効果を発動させる。
ダメージステップの段階は5段階。その内、『オネスト』の効果が使えるのは『ダメージ計算前』の段階のみである。このタイミングで『オネスト』を使われようと、『ツムガリ』の効果で上昇分すら上回れるのだ。
だが、光莉は何の反応も見せず、『アマテラス』の一撃で『アルタイル』は破壊された。『ツムガリ』のデメリットにより、戦闘ダメージは半分になるため、2700の半分である1350が光莉のライフから削られ、残りは550ポイント。かなり削られたが、0ではない。
「ターン終了だ」
ターンを終了する卓斗。光莉の場には2体のモンスターと1枚の伏せカード。手札は無し。
(ランク4のエクシーズ召喚は避けられないが……だが、俺の場にいるモンスターで最も攻撃力が低いものでも『スサノヲ』の2500)
光莉であれば、この状況なら『ツクヨミ』を出し、手札交換だろうかと、卓斗は考えるが。
「俺のターン!」
勢いよくドローする光莉の姿を見て、彼がこのターンで決着をつけるつもりなのだと悟った。光莉の目にある光が、あの日のデュエル、そのラストターンの輝きと同じ物であったから。
「魔法発動!『貪欲な壺』!」
ドローソースを引き当てた光莉。『トライヴェール』『キングレムリン』『ガガガガンマン』『ガントレット・シューター』『スキル・ゲイナー』の5枚をデッキへと戻す。だが、この5枚は全てエクシーズモンスターである為、エクストラデッキへと行く。デッキ枚数は1枚も増えることなく、カード効果でシャッフルは挟んだものの、ただの2ドロー。
引いたカードを確認し、「っしゃあ!」と、光莉はポーカーフェイスを気取ることなく、純粋な喜びを顕にした。
「来た!まずはコイツだ!俺は『ベガ』と『ベテルギウス』の2体でオーバーレイ!」
光莉の勢いに触発されるようにその輝きを増した銀河の渦へ、2体のモンスターは飛び込む。
「2体の光属性モンスターでオーバーレイネットワークを構築!星光に導かれし美しき光剣の騎士!エクシーズ召喚!ランク4『輝光子 パラディオス』!」
青白く輝く白い鎧を身につけた騎士が、銀河の爆発の中から姿を現した。
衛星のように回転しながら、2つの輝くオーバーレイユニット。それが光剣へと飲まれて消える。
「効果発動!エクシーズ素材を2つ取り除き、相手モンスターの効果を無効にし、攻撃力を0にする!俺は、『カグツチ』を選択!フォトン・ディバイディング!」
光剣から放たれた光線が、『カグツチ』を捉えた。その攻撃力を0にして効果を無効化する。
「『エクシーズ・シフト』を発動!美しき光剣の輝きに惹かれし灼熱の大三角!その力を我が刃に宿し、全ての敵を殲滅せよ!エクシーズ・シフト!ランク4『星輝士 デルタテロス』!」
光球となって銀河に飛び込む『パラディオス』。銀河が一際大きく爆ぜると、『デルタテロス』がその姿を現した。
「魔法カード発動!『アサルトアーマー』!『デルタテロス』に装備して、そのまま外す!これにより、このターン2度の攻撃が可能!
そして、エクシーズ素材を取り除き、『デルタテロス』の効果を発動!破壊対象は『ラプソディ・イン・バーサーク』!」
『デルタテロス』が刃を構え、そのまま『カグツチ』へと向かっていく。
「『デルタテロス』よ!闇に満ちた葬送の鎧を、その刃で打ち砕け!」
『デルタテロス』が刃を振るい、『カグツチ』が装備していた『ラプソディ・イン・バーサーク』を破壊する。
「……」
卓斗は、破壊されてボロボロと落ちていく『ラプソディ・イン・バーサーク』と、それを成した『デルタテロス』をジッと見つめていた。
「バトル!『デルタテロス』で『カグツチ』を攻撃!ブレイザー・スラッシュ・ワン!」
『ラプソディ・イン・バーサーク』を破壊した返しの刃で、『カグツチ』を斬り裂く『デルタテロス』。
『サグサ』の効果を使えば、そのまま場に居座ることも可能だが、攻撃力0のモンスターを残す理由もなく、『カグツチ』はそのまま破壊された。
「『スサノヲ』に攻撃!ブレイザー・スラッシュ・ツー!」
「――迎撃しろ!『スサノヲ』!」
『デルタテロス』はそのまま『スサノヲ』へと斬りかかる。攻撃力は互角。振り下ろした『デルタテロス』の刃を、『スサノヲ』が受け止めた。
その刃を『スサノヲ』は弾きあげ、代わりに倒さんと剣を振るった。
「ダメージステップ!速攻魔法『ハーフ・シャット』!」
最後の伏せカード。攻撃力を半減させ、戦闘破壊されない効果を与える速攻魔法。
前のデュエルでも『スサノヲ』を対象に使用したカードだ。今回もまた、対象は『スサノヲ』。攻撃力は半減し、1250。攻撃力が減少したためか、『デルタテロス』は容易に振られた『スサノヲ』の剣を砕く。
「……全く。好きだな、そのカード」
卓斗のぼやきは光莉へ届き。光莉は苦笑気味の笑顔を浮かべた。
刃は『スサノヲ』を攻撃する。だが『ハーフ・シャット』の効果で破壊されることはなく、代わりに膝をついた。見下ろす『デルタテロス』と俯く『スサノヲ』。それがこのデュエルの勝敗だった。
***
ソリットビジョンが消えると、卓斗は光莉へと歩み寄った。
正直疲れ果て、腰を下ろしたい気分であった光莉も、以前言われた事を思い出して、なんとか耐える。
「ありがとうございました。切崎プロ」
「ああ」
あの時と同じ、感謝の言葉を述べる光莉に、卓斗は頷いて返す。
「いい、デュエルだった」
「……あの、切崎プロ。聞きたいことが――」
「いや。時間が無い」
何故アカデミアの味方になったのか。それを聞こうとした光莉だったが、遮られてしまう。
「受け取ってくれ。せめてもの謝罪の気持ちだ」
差し出された卓斗のデッキ。
「え?いや、あの――」
尋ね返すより早く。卓斗の体が消えた。
「――は?」
支えを失い、ばらばらと落ちていくカード。呆然と落とした視線の先に卓斗のデッキが広がり、その一番上に、最後のカードが表側で落ちた。他でもない、卓斗が封印されたカードであった。
「……」
かがみ込み、卓斗のデッキを纏めて自身のデッキホルスターにしまってから、光莉は卓斗が封印されたカードを手に立ち上がり、それを見た。
人々がカード化されるのは知っていた。知っていたが、だからと言ってこうして実物を見るのはこれが初めてであった。
「――お前ら、もしかしてカードにするぞって脅して、切崎プロを利用してたのか」
振り向くと、ディスクを構えたデュエル戦士達。
「……ふざけるなよ」
卓斗のカードも、彼のデッキをしまったホルスターへと入れて、光莉は代わりにデッキから5枚のカードを抜いた。だが、そこからカードを出す事はなく、代わりにディスクを操作する。
「絶対に許さない――」
やったのが、誰だかは分かっている。全ての元凶。自分の敵。
「許さないぞ、プロフェッサァアアアアアアアアアアアアアア!」
敵の名を叫びながら、卓斗はディスクの機能を――融合次元への転送システムを起動した。
システムは何の問題もなく機能して、光莉はエクシーズ次元から姿を消した。
4.14
ベテルギウスの能力使用修正。
元々使わない展開で書いてたんですけど、使ってもいいんじゃないかと思って使うように直そうとして、やっぱり使わなかった名残です。