(実際不利なんだよなぁ)
引いたカードに目を落としながら、光莉はぼんやり考える。
なんとか最低限の挽回は行えたとは言え、やはり『トライヴェール』を消費無しに破壊されてしまったツケが、ボードアドバンテージという形で出ていた。1ターン前よりも状況が悪化しており、セットカード次第では、本格的に勝ち筋が無くなってしまう。まさに危機的状況であった。
(『相乗り』にお構いなしにサーチしてくれたおかげで手札は潤沢。ライフポイントもマックスのままっていうのが救いか。相手の手札は1枚。どっちかだけでも対処できれば、次のターンにライフが残る可能性も高まる)
やられたのだしやり返したい所だが、流石にそれは厳しそうだ。
「まあ、行くか。俺は『星因士 ベテルギウス』を召喚!」
先程手札に加えたペテルギウスをそのまま召喚。効果が発動する。
「こいつは召喚成功時、墓地の『テラナイト』カード1枚を選択して発動。自身を墓地に送ることで、そのカードを手札加える。手札に戻すのは『星因士 アルタイル』!」
「そいつか……」
「『フォトン・リード』を発動!手札のレベル4以下の光属性モンスターを特殊召喚する!こい、『アルタイル』!」
再び三度召喚されるアルタイル。その働きぶりたるや、エースの貫禄すらあった。
「効果発動!蘇生対象は『デネブ』だ!」
「……フッ」
「ん?」
「『ペテルギウス』をサーチしてきた段階で、この展開は読んでいた!罠発動『おじゃまトリオ』!」
「んな!?」
伏せカード0枚では対応出来るハズもなく、逆順処理で『おじゃまトリオ』の効果は解決される。
「お前の場に、3体のおじゃまトークンを特殊召喚する!」
「チィッ!」
黄、緑、黒のそれぞれ精神を逆撫でする顔をしたトークンの姿に、光莉は舌打ちを漏らす。
遊戯王に置いて、自身の場に出せるモンスターの最大数は5体。現在、トークン3体に『シャム』と『アルタイル』と5体のモンスターで場が埋まった光莉は、『アルタイル』の効果を使ってモンスターを展開することは出来ない。
更に、トークンはエクシーズ召喚に使えない。よって、光莉がエクシーズ召喚をしようと思ったら、『アルタイル』と『シャム』で行わなければならないのだ。だが、光莉の『テラナイト』デッキのエースであるモンスターはどちらも素材が3体必要なモンスターである。
(これはきついな。自分で自分の場のモンスターを取り除けるカードなんて入ってないぞ)
おまけにおじゃまトークンには、破壊された時、プレイヤーに300ポイントのダメージを与える効果がある。3体破壊されれば900ダメージ。全快のライフの約4分の1だ。無視するには少々数字が大きすぎる。
(手札の防御札の枚数を考えると、不安が残るな。……しょうがない。『テラナイト』モンスターだけで勝ち進んできたし、このまま優勝まで行きたかったんだけどな)
「流石だな、切崎さん。追い込まれちまった」
「まだライフと手札には余裕が有るようだが?」
「言ってくれるなよ。分かってんだろ」
苦笑いを浮かべた光莉が、表情を引き締める。
「メインデッキは変えられないからな。エクストラデッキは制限解除してプレイングだけマジモードで行かせて貰う」
「……」
ゾクリと、卓斗の背中に悪寒が走る。誰が呼んだか、光莉第三形態。ファンサービス抜き、プロデュエリストとしての自覚をかなぐり捨てた、勝利を求める純粋なデュエリストモード。
「俺は『アルタイル』と『シャム』。2体のモンスターでオーバーレイ。2体の光属性モンスターでオーバーレイネットワークを構築。神話に名を連ねし月影の化身。現れろ。エクシーズ召喚。ランク4『武神帝-ツクヨミ』」
それは、『武神-ヒルメ』が『武神器-ヤサカニ』を従えた姿であった。『武神』モンスターなだけあり、卓斗のデッキにも入っているし、効果も覚えている。だからこそ、卓斗は、ヤバイかと少し焦った。
「カードを2枚伏せる。そして『ツクヨミ』の効果発動だ。エクシーズ素材を一つ取り除いて、手札を全て捨てる。その後手札が2枚になるようにドローする」
墓地に送られたのは『星因子 リゲル』であった。
「追加で2枚伏せる。これでターンエンド」
伏せカード4枚。まさか全てブラフと言う事はないだろうとは流石に分かる。とはいえ全く無いことも無いのだろう。一番楽なのは全て破壊することだが、唯一それが出来る『ハーピィの羽箒』は先程『カグツチ』の効果で全て墓地に送られてしまった。だからこそのガン伏せなのだろうが。
「俺のターン。ドロー」
引いたカードは、『武神降臨』。優秀な蘇生カードではあるが、発動条件を満たせていない。このカードは、自分が不利な状況でしか使えないのだ。
(でもいいカードだ。もしモンスターが全滅しても、セットカードも含めて、これなら幾らかの挽回も効く)
「メインフェイズ。まずは『スサノヲ』の効果。デッキから『武神』モンスター――2枚目の『武神器-ハチ』を墓地に落とす。そしてそのまま『ハチ』の効果を発動。破壊するのは、最後の伏せカードだ」
「『サイクロン』だ。発動はしないでそのまま破壊される」
卓斗の場にある最後の伏せカードは、先ほどの『安全地帯』と読んでの事だ。
実際そうであったため、卓斗はポーカーフェイスながらも、心中では苦々しげに笑う。
「『重力解除』を発動」
続いて卓斗の発動したカードは、場の表側表示モンスター全ての表示形式を入れ替えるカードだ。
「お前の場のモンスターは全て攻撃表示。俺の場のモンスターは守備表示に変更」
「……」
「そして俺の場のモンスターは攻撃表示に戻す」
おじゃまトークンの攻撃力は0。対して、相手モンスター全てに攻撃出来る『スサノヲ』の攻撃力は2500。総攻撃を受ければ、ひとたまりもない。
「バトルフェイズ」
宣言に、『スサノヲ』と『カグツチ』がそれぞれ臨戦態勢を取る。
「やれ『スサノヲ』!モンスターを殲滅しろ!1体目のおじゃまトークンに攻撃!」
「――攻撃宣言に発動する。『ハーフシャット』!対象は、『スサノヲ』!」
速攻魔法『ハーフシャット』の効果は2つ。モンスターの戦闘破壊を防ぐ効果。そして対象モンスターの攻撃力を半減する効果。
チェーンして『安全地帯』を発動しようかとも考えるも、再び『トライヴェール』を展開された時の事を考え、温存することを選ぶ。
「『スサノヲ』の攻撃力を半減!」
『収縮』と違い、攻撃力をそのまま半減させるこのカード。攻撃力2500のスサノヲは、そのまま攻撃力1250まで低下する。それでも、攻撃力0のおじゃまトークンを破壊するには十分過ぎる数字である。
「だが、ダメージステップで発動すれば――」
「チェーンして使う。『月の書』。対象は『カグツチ』」
「むっ」
「さらにチェーン。『非常食』」
「成る程」
「コストとして『ハーフシャット』、『月の書』を墓地に送る」
ライフゲインカードとしては有名な『非常食』。自分の場の魔法・罠を墓地に送る事により、1枚につき1000ポイントのライフを回復するカードだ。そのまま使うと、カード消費が激しいというデメリットが大きい為、基本的には今回のように、発動したカードをコストとして墓地に送ることでそのデメリットを回避する。『ゴブリンのやりくり上手』のような、墓地のカード枚数でカード効果の変動するカードと共に使うという使い方もある。
今回は送られたカードは2枚のため、2000ポイントの回復。光莉のライフは5900になった。
その後、『月の書』の効果で『カグツチ』は裏側守備表示になり、『ハーフシャット』の効果で『スサノヲ』の攻撃力が下がるも攻撃は止まらず。剣でおじゃまトークンはそのまま真っ二つに切り裂かれた。
爆発の衝撃で光莉は僅かに顔をしかめる。無傷だったライフは、一度に1250ポイント削られる。それに止まらず、おじゃまトークンの効果で更に300ポイント。合計1550ポイント削られる。
「続けて残り2体のおじゃまトークンにも攻撃!」
1550ずつ。3体合わせて4650ポイントのライフが削られる。残りは1250ポイント。
「ドローソースは残さない。『スサノヲ』で『ツクヨミ』に攻撃!ダメージステップに墓地にいる『ツムガリ』の効果!こいつをゲームから除外することで、『武神』モンスターの攻撃力を戦闘する相手モンスターの攻撃力分上げる!『ツクヨミ』の1800を追加して、3050だ!」
「だがダメージは半減」
1250の半分、625が光莉のライフから削られる。残り625。タクトのライフとほぼ並ぶ。しかし、ボードは圧倒的に不利で、手札も0。
「ターンエンド」
「俺のターン」
伏せカード、手札共に0から始まる光莉のターン。ドローして、漸く1枚。このターンでどうにか出来なければ、確実に敗北するだろうという状況だ。
「……とりあえず、戦闘は問題ないみたいだな」
「何?」
戦略を立てる傍らのリップサービスなのだろう。光莉がそう切り出した。
「『オネスト』ないし『ハバキリ』みたいな戦闘時に使える手札から発動するモンスターがいるなら、さっきのターンで使えばいい筈だ。どっちか1枚使われただけで俺のライフは0だったからな。それをしなかったってことは、少なくとも戦闘時に誘発して攻撃力を上げるカードは無いってことだ。
後の不安要素は『ヤタ』か。その手札。初ターンから持ってた1枚。防御札と読んだから、3ターン目に『トライヴェール』を使ったんだしな」
「……なら、どうする?」
「どのみちこの手札じゃどうしようもない。だから一旦お休みしようぜ?『一時休戦』」
「むっ」
相手にもドローさせてしまう、ドローソース。というよりは、防御カードとしての意味合いが強い。次の相手ターンのエンドフェイズまで、使用者は一切のダメージを受けないのだから。時間稼ぎには持って来いなカードだ。
「お互いに1枚ドロー」
カードを引く。引いたカードに目を落とし、ふむと一つ頷いた。
「いいカードだ。『貪欲な壺』を発動」
皆大好きドローソース。ただしカードは鼻からで有名なムカつく顔の壺である。
「『ベテルギウス』『ウヌク』『リゲル』『ベガ』『シャム』の5枚をデッキに戻して、2枚引く」
2枚のカードを引き、一瞬眼を通し――
「2枚伏せてターンエンド」
直ぐに伏せる。この間、1秒もない。
「俺のターン、ドロー」
ノータイムでの2枚セット。星野光莉というデュエリストを研究した者としては、この動向は正直不気味過ぎた。
というのも、光莉のデッキはそもそも罠カードの比率がそこまで高くない。『リビデ』といった汎用蘇生カードに『神星なる因子』という『テラナイト』専用のカウンター罠は確定採用されているが、それ以外は基本的に『立ちはだかる強敵』のようなコンボパーツ、ということが殆どだからだ。それらのカードは、大抵1枚では汎用性に欠ける為に大した警戒も必要ないのだが、もし一度に引いてきた2枚がコンボを行えるカードならば、一網打尽にされる恐れもある。
破壊しようにも2積みの『ハチ』は使いきって『羽箒』は既に墓地。『サイクロン』は引けてない。
(どのみち、このターンはダメージを与えられない。なら、次のターンの為の下準備をするか)
「俺は『カグツチ』を反転召喚。カードを2枚伏せてターンエンド」
「エンドフェイズに発動するぞ。永続罠『強化蘇生』」
「……何?」
「こいつの効果で墓地から『アルタイル』を蘇生。『アルタイル』は『強化蘇生』の効果でレベルが1つと攻守が100ポイント上がる。更に『アルタイル』の効果で『デネブ』を蘇生して、効果で『シャム』を手札に加える。更に手札に加わるのにチェーンして、『エクシーズ・リボーン』を発動」
「2枚とも蘇生カードだと!?」
「効果で『ツクヨミ』を蘇生。『エクシーズ・リボーン』はエクシーズ素材になる」
流れるような速度で瞬く間に3体のモンスターを並べ、手札を1枚獲得した光莉。一方、卓斗には如何せん発動したカードが解せなかった。
エクシーズ召喚に特化した構築なのだから、『エクシーズ・リボーン』はまだわかる。
だが『強化蘇生』。カード効果で言えば優秀な部類だ。同じ永続罠の『リビングデッドの呼び声』と違い、レベル4以下という制限があるとはいえ、完全蘇生が可能で、『リビデ』同様に手札に戻しての再利用が可能という点では差別化も出来る。
だが、攻守の変動はともかくレベルの変動は、『テラナイト』デッキにとっては大きな痛手の筈であった。レベルが違えば、エクシーズ召喚は行えない。ランク4モンスターのエクシーズ召喚に特化している『テラナイト』デッキに、『強化蘇生』は不釣り合いだ。レベル3のモンスターが入っているならともかく、『テラナイト』しか入っていない光莉のデッキでは尚更である。
「どういうつもりだ?」
「何が?」
「『強化蘇生』。お前のデッキに入れるなら、『リビデ』でいいはずだが」
「……まー、否定はしないかな。でもほら、このカードじゃなきゃいけない理由とかもあるさ」
「……なら、教えて貰おう」
「オーライ。俺のターン。ドローだ」
引いたカードを手札に加え、まずは芸のない単純な手で行く。
「堅実に。まずは『シャム』を召喚。『シャム』の効果で1000ポイントのバーンダメージ」
卓斗の残りライフ900。数値としては十分過ぎるダメージ量だ。『シャム』が矢を放つ。
「対策はしてある。カウンター罠『ダメージ・ポラリライザー』!」
「ふむ」
「効果ダメージを発生させるカード効果を無効化。その後お互いに1枚ずつカードを引く」
「ありがたくドロー」
『シャム』の矢が打ち消された代わりに、それぞれ手札が1枚ずつ増える。どのみち決まるとは思っていなかったから、手札が増えてモンスターが残っただけ儲け物だ。それに、ドローカードもかなり強い。
「さて、加速するぞ!『強化蘇生』を墓地に送り、手札から魔法発動『マジック・プランター』!デッキからカードを2枚ドロー!更に、『強化蘇生』が墓地に送られたことにより、『アルタイル』のステータスが元に戻る!」
「成る程、『リビデ』だとこれは出来ないのか。エクシーズ前に『プランター』を使えるか使えないかの差、というわけだな」
「それだけって訳でもないけどな。続いてコイツだ。俺は『デネブ』『シャム』『アルタイル』の3体でオーバーレイ!」
3体のモンスターで行うエクシーズ。『トライヴェール』の名前が、卓斗の脳裏をよぎる。
(破壊耐性のある『カグツチ』諸共除去。更に手札の『ヤタ』を除去しようと考えたら、それしかないはず。だが、俺の残りのセットカードは『リ・バウンド』。バウンス効果を無効にして、手札か場のカードを1枚選んで墓地に送れる効果だ。こいつで『トライヴェール』の効果は潰せる)
「3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。灼熱の夜空に輝く大三角の輝きよ。今こそ我が刃に宿り全ての敵を殲滅せよ!エクシーズ召喚!ランク4『星輝士 デルタテロス』!」
だが、卓斗の思惑と違い、出てきたのは、光莉の『トライヴェール』と並ぶもう一つのエースである『デルタテロス』であった。持っているのは、バウンス効果ではなく破壊効果である。
「『トライヴェール』じゃないだと!?」
「だってそのセットカードがバウンス対策だったら、目も当てられないだろ?」
「っ」
「1ターン前から伏せられてるそのカード。『天罰』みたいな効果無効系のカウンター罠なら、もっと前に使うタイミングはあった筈。とはいえ、よっぽど俺の子を研究してるあんただ。破壊対策を『カグツチ』がやってるなら、『トライヴェール』の全体バウンス対策もアンタなら入れるに違いない。『安全地帯』だって、『ヤマト』を守る傍らでバウンス対策に入れてたんだろ。そうじゃないなら、もっといいカードあるだろうしな」
「……」
「2枚目の『安全地帯』ないし、『リ・バウンド』あたりか。オーソドックスなバウンス対策は。だから『デルタテロス』だ。でもその前に『エクシーズ・ギフト』を発動。モンスターエクシーズが2体以上自分の場に存在するとき、オーバーレイユニット2つを取り除いて2枚ドロー出来る。『デルタテロス』のユニット2つを取り除き、2枚ドロー」
手札が4枚に増える。まだ止まらない。
「『デルタクロス』の効果。オーバーレイユニットを一つ取り除いて、場のカード1枚を破壊する」
『デルタクロス』の剣に吸い込まれたオーバーレイユニットが、閃光となって卓斗のセットカード――2枚の内、後から伏せられた方を狙う。破壊に応じ、表側になったそれは『リ・バウンド』。光莉の読み通りのカードであった。
「だが、『リ・バウンド』は破壊された時、デッキからカードを1枚ドロー出来る」
「読み通り。次は手札を削らせてもらう。魔法発動『エクシーズ・シフト』!」
「くっ」
「俺の場のモンスターエクシーズをリリースして、違う名前の同ランク、同属性、同種族のモンスターエクシーズを特殊召喚する。『デルタテロス』をリリース!」
エクシーズ召喚を行うときと同じ銀河系のような演出の中に、光球となった『デルタテロス』が飛び込んでいく。
「灼熱から極寒へと星は巡る。打ち払え、その気高さを持って! エクシージ・シフト! 来い、『星輝士 トライヴェール』!」
再び現れる『デルタテロス』。エース2連続の出現に、光莉陣営のファンが沸いた。
普段ならファンサービスに手を振るくらいはしそうなものだが、今はお構いなしにプレイを続けていく。
「『エクシーズ・シフト』は発動後、『トライヴェール』のオーバーレイユニットになる。このカードでの特殊召喚はエクシーズ召喚扱いではないから、『トライヴェール』のバウンス効果は発動しない。
次に『デルタテロス』の効果発動。場から墓地に送られた場合、手札かデッキから『テラナイト』モンスターを特殊召喚出来る。特殊召喚するのは、『星因士 ベガ』!特殊召喚した『ベガ』の効果で手札から『カペラ』を特殊召喚。効果は使わない。
『トライヴェール』の効果を発動。エクシーズ素材を1つ取り除いて、相手の手札1枚をランダムに墓地に送る。『ピンポイント・シュート』!」
レイピアの先から光線が放たれ、卓斗の手札1枚を貫く。そのカードは『武神降臨』であった。
「外れか。となると、やっぱりあいつを呼ぶのが正解かな。手札から速攻魔法発動『天架ける星因士』!」
「2枚目か!?」
「『トライヴェール』をエクストラへ戻し、デッキから『星因士 シリウス』を特殊召喚!」
現れたモンスターに、卓斗の顔が訝しげに歪む。
「『シリウス』?てっきり『アルタイル』だと……」
「だってモンスターに限って言えば、このデッキ、ハイランダーだし」
「はぁっ!?」
「別に馬鹿にしてる訳じゃない。プロになった時に決めたんだ。同じカードを使うにしても、アクセスを変えてやったほうが目に見えて楽しいかと思って。まあ、『天架ける星因士』はエクストラにモンスターエクシーズを戻せるのが便利すぎて、結局3積みなんだけどな」
2枚目になった『天架ける星因士』を墓地に送りながら、光莉は別のカードに手をかける。
「さーていくぞ。このターン、3度目のエクシーズ召喚だ。俺は『ベガ』『シリウス』『カペラ』の3体のモンスターでオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!星光絶えず、何百年の時を経てもその気高さ、消える事無し!エクシーズ召喚!三度現れよ、ランク4『星輝士 トライヴェール』!」
「くっ。流石に守備表示か……」
『安全地帯』で対象に取れるのはあくまで攻撃表示のモンスターのみ。守備表示で出された『トライヴェール』を対象に取る事は出来ず、結果、最後の伏せカードは沈黙したまま。
「効果発動!吹きとばせ、シェイリング・ブリザード!」
妨害の為の『リ・バウンド』は既になく、突風が吹き荒れ、自身を除いた全てのカードが吹き飛び、手札に戻る。残ったのは『トライヴェール』のみであった。
「『バトルフェーダー』はゲームから除外される。モンスターエクシーズは手札ではなくエクストラに戻るぞ」
「『トライヴェール』の効果発動。手札を1枚破壊!」
撃ち抜かれたカードは、先ほどまで伏せていた『安全地帯』であった。
「そして『死者蘇生』を発動!」
「っ!?」
「『アルタイル』を復活!更に効果で『カペラ』を蘇生!今度は『カペラ』の効果を適用する!」
そして、3枚に減った手札の1枚を手に取り、発動した。
「力を残す余裕は無い。だからお構いなしだ!2枚目、『フォトン・リード』!効果で手札から『ウヌク』を特殊召喚!効果は使わん!
さあ、行くぞ。4度目だ!『アルタイル』『カペラ』『ウヌク』の3体でオーバーレイ!この瞬間、『カペラ』の効果が発動する!コイツが召喚、特殊召喚されたターン、3体以上のモンスターでエクシーズ召喚を行う場合、『テラナイト』モンスターのレベルを5として扱うことが出来る!
よって、俺はレベル5扱いの3体のモンスターでオーバーレイ!」
「あのモンスターを呼ぶつもりか!」
「星天の輝きの化身たる星因士の守護竜よ!我が声に応え姿を表せ!エクシーズ召喚!ランク5『星輝士 セイクリッド・ダイヤ』!」
轟っ!と一際大きい突風が吹き、現れるモンスター。戦士族モンスターが殆どの割合を占めるモンスターの中にいる、守護竜。三幻神と呼ばれるデュエルモンスターズ界における伝説と同じ幻竜族。
光莉が誇る、最大最強のモンスター。公式戦でも光莉自身、殆ど使用記録が無い、奥の手。
「あの状況からランク5エクシーズにつなげるとは……」
「一応つけとくか。装備魔法『星輝士の因子』を『セイクリッド・ダイヤ』を対象に発動。効果により、攻撃力を500ポイント上げ、相手カードの効果を受けなくさせる」
キラキラとしたエフェクトを、『セイクリッド・ダイヤ』が纏う。余り変化があるように見えないのは、本体がそもそも白く輝いているからだ。
「バトルだ!『セイクリッド・ダイヤ』でプレイヤーにダイレクトアタック!」
『セイクリッド・ダイヤ』がゆっくりと口を開け、その口内に光が集まっていく。
「『スターフォール・ブレイザー』!」
極限まで極まった閃光が、放たれる。
「攻撃宣言時に『バトルフェーダー』の効果――」
言い切る前に、思い出す。
「『セイクリッド・ダイヤ』の効果発動!エクシーズ素材を1つ取り除いて、闇属性モンスターの効果を無効にして破壊する!『ダークエンド・ソーラー』!」
両羽についた鉱石部分が光り、『バトルフェーダー』のカードを包み、そのまま破壊した。
「くっ」
「終わりだ!」
閃光が、卓斗の身を包んだ。
***
『決着ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!』
卓斗のライフが0を刻み、決勝での勝者が決定した。仁王立ちのまま、悔しげに歯を食い縛る卓斗と、腰を落として息を荒げる光莉。ターン数を数えれば9ターン。互いに酷く、消耗していた。
『激闘を制したのは、星野光莉選手!ハートランドチャンピオンシップ優勝!そして、驚異の50連勝の記録を達成!私達は今、伝説を目撃しました!』
ヒートアップする会場。ヒラヒラと一応手を振る光莉だが、俯いたままだ。
そんな光莉の頭部に、ゴチリと痛い衝撃が与えられる。
「~~~~~~~」
「勝者が蹲るな、馬鹿者」
そろりと顔を上げると、右手を固く握り締めた卓斗の姿。文句の一つも言いそうになったが、しかし言われた通り、勝者でありプロである光莉のあるべき姿は、蹲った姿ではない。
気合を入れ直し、立ち上がる。ググッと背伸びをして顔を叩く。ディスクに置きっぱなしであった『トライヴェール』、『セイクリッド・ダイヤ』に加え、もう1枚。『デルタテロス』を墓地から取り出して、ディスクに置いた。
オンにしたままのディスクが、光莉のデッキにいる3体のエースモンスター達を出現させた。
「応援、ありがとうございました!」
『わぁああああああああああああああああああ!!!!』
ブンブンと大きく手を振って、それから卓斗の方へ視線を戻す。
「ありがとうございました、切崎プロ」
「ああ。俺もそう思う。いい試合だった。次は負けないぞ」
最後に握手が交わされた。
***
「キャー!星野プロー!」
ブンブンと大きく手を振る莉緒の脇で、ユートは唇を噛み締める。
純粋に、凄いと思えた。手札0枚からの逆転。お互いの手を読みあっての心理戦。プロの試合でもトップクラスの戦いであった。
「いつか、俺も……」
握り拳を作りながらのユートの言葉を、隼のみが聞いていた。
***
数週間後。
「絶好調ですね光莉さん。ハートランドチャンピオンシップ以来、今まで以上のオファー数ですよ!」
「そうだねー」
光莉が所属している事務所の一角。にこにこ顔でそう告げるマネージャー――宮藤紗乃の言葉に、光莉がおざなりに答える。目線はテーブルに広げられた自分のデッキにまっすぐ向いたままだ。
テーブルの向こう側に置かれたテレビでは、件のハートランドチャンピオンシップの録画データが流れている。画面の中には、表彰台に上がる光莉の姿。ちらりと一瞬視線を移すも、直ぐにデッキの方に戻る。
「……光莉さん」
「何?」
「やっぱり、最近元気無いですね。大会直後くらいはノリノリでイケイケだったのに」
「……最近仕事が気に入らない」
「そう……ですよね」
光莉の言葉に納得する紗乃。
光莉が、超が付くほどのデュエル馬鹿である事は周知の事実である。プロになったのだって、そうすれば強い相手と沢山戦えるからという理由だったのは、デビュー当時のインタビュー記事にも掲載されていたし、本人も語っている。
だが、ハートランドチャンピオンシップ以降はといえば――。
「大会終了後こそ、チャレンジャー結構居ましたけど。最近じゃ勝てないからなのか、デュエルの仕事は殆どなくて、代わりにバラエティ番組の出演とか、デュエル雑誌の為のグラビア撮影とか主になりましたからね」
「デュエル不足で欲求不満だ」
「社長は売り時って考えてますから。この前チラッと、ドラマの話があるとかないとかって聞きました」
「マジかよ……」
溜息を漏らす光莉。紗乃としてはどうする事もできない。仕事を断ろうにも社長が取ってしまった仕事にケチをつける事など出来るはずもない。ならばせめてデュエルをと思い、色々な所に掛け合ってはいるが、あれから更に連勝記録を重ねている光莉。
とにかく名を挙げたい新米プロやアマチュアが、勇み足で挑んでくる位だ。大御所は相手にしない。もし負けるようなことがあれば、名前に傷がつくから。
「すみません、光莉さん。私に力のないばかりに」
「紗乃さんは良くやってくれてる。スケジュール管理とか、俺じゃ無理だから。感謝しこそすれ、恨んだりなんかしないよ」
「でも、マネージャーとしては、やっぱり貴方の望む仕事を一つでも取りたいんです。貴方のモチベーション維持も私の仕事ですし、それに……」
「それに?」
「……いえ。何でもありません」
貴方がデュエルしている姿を見るのが好きだから、等と言えるはずもない。
「……まあ、言いたくないならいいけど。今日、この後の予定は?」
言いづらいことなのだろうと察し、話題を変える光莉。そんな光莉へ、手帳を取り出しながら紗乃が答える。見なくても把握しているが、念の為。万が一があっては困る。
「この後は久しぶりにオフですよ。半休ですけど」
「おお。お休みか。ありがたいな」
「必要でしたら車を回しますよ?」
「いや、大丈夫。のんびりツーリングでもするよ。良かったら紗乃さんもどう?」
「そうですか? なら、お供します」
ちょっと待っててくださいねと残し、紗乃はロッカーに荷物を取りに行く。
それを待ってから、光莉は紗乃と共に事務所を出た。
――もし、この時の光莉が第三形態と呼ばれるデュエリストモードだったら、もしかしたら気が付いたかもしれない。
ハートランドに並ぶビルとビルの間の路地に、一人の男が現れたことに。
制服のような青い上着と白いズボンといった出で立ちのその男は、ディスクの点検を終えた後、ハートランドの雑踏の中へと足を踏み出す。その足がまっすぐ、光莉の方を目指していた。
3.19
トライヴェールの効果外テキストを修正。
ツクヨミが卓斗ターンのエンドフェイズに復活しただけで、大きな変化はないです。
普段ツクヨミ出さないから、トラヴェのデメリット、すっかり忘れてました。