星を司るプロの話   作:零円

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03 融合

 ふわりと欠伸を漏らしながら、光莉は紗乃と共に公園内を歩いていた。

 この公園は、事務所からバイクで30分ほどにある自然公園。光莉の行きつけの公園でもある。

木々が多く散歩道が整備されていて、その散歩道は森林浴に来た人達のゆったりとした空気が流れている。久方振りに感じるその雰囲気に、光莉も嬉しそうであった。

 

「やー。久しぶりに来たな。最近忙しくて」

「そうですね。前はしょっちゅう行ってましたもんね」

 

 変装の為にサングラスをかけた光莉がそう言うと、伸びをしながら紗乃が答えた。紗乃も此処暫く、方々に行っては光莉の相手を探していた為、こんなにのんびりとした時間は久し振りであった。木々の間を抜ける風が気持ちいい。

 

「こういうのいいですね。光莉さんがここを気に入ってる理由が分かる気がします」

「そうか?」

 

 自分の好きなものを好きだと言って貰えることが嬉しいのか、元々嬉しそうだった光莉の笑みも更に深くなる。

 

「俺もこのゆったりした空気は好きだ。でも、それ以上に此処を俺が好きな理由は、この空気以上にデュエルコートの設備がきちんとしてるからって方が強いんだけどな」

「あー」

 

 相変わらずのデュエル馬鹿だなぁと、いっそ感心してしまう。

 そんな会話をしている内に、気が付けば散歩道を出ていた。

 この公園には、散歩道の他にもデュエルコートが完備されているのだ。森林浴もデュエルも出来るということで、親子連れやカップルといったグループが、連日賑わいを見せている。流石に散歩道の方にはないが、こちらには出店まで出ているほどだ。その賑わいの要因の1つに、プレイベートの光莉が出没し、交流出来るという理由もあるのだが、本人は気が付いていない。

 だが、目に飛び込んできた光景に、「あれ?」と光莉は首を傾げる。

 

「人がいない」

 

 光莉の見下ろした先にある5面のデュエルコート。そのいずれにもデュエルを行っているプレイヤーがいない。

 平日ならともかく、今日は休日。日曜日だ。普段であれば、全面フルで使われている筈のデュエルコート。それだけでなく、溢れたメンバーやここで知り合った者達で、コートでない場所でも交流が行われており、多くの人で賑わっていてしかるべきなのだ。

 にも関わらず、誰もいない。否、正確にはいない事もない、といった感じか。

 手前から3番目。中央のデュエルコート。そこに男が立っている。

 青いブレザーに白いズボンに黒のインナーシャツ。これだけならデュエルスクールの制服にも見えるが、見覚えはない。ただ攻撃的な印象を受けた。制服というよりも軍服。何故そんな印象を受けるのか光莉にも分からなかったが、

 

「……」

 

 相手が、強者だということは自然と分かった。デュエルに対しての飢餓感。それが、あいつと戦えと訴えているようだった。腰につけていたデュエルディスクを左手に装着。入れてあったデッキをファン対応の物から本気の物へと入れ替える。

 

「光莉兄ちゃん!」

 

 パタパタと走ってきたのは、かなり長い期間。それこそ、光莉がプロになる前からこのデュエルスペースで親しくしている、少年2人と少女1人であった。少年達の方は、体が小さく、理知的な印象を与えるほうが川城テツヤ。体が大きく、底なしに明るそうな印象を与える方を原口サトシ。紅一点である元気な印象を与える少女は、綾川アヤという。

 

「久し振りだな」

 

 近寄ってきた3人に光莉がそう言うと、「それどころじゃないんだよ!」とテツヤが慌てた様子で告げた。

 

「アイツ、凄く強いんだ。それに、見たことない召喚法も使ってるし」

「見たことない召喚法?」

「うん。融合とかいうの。私ビックリしちゃった」

「融合……。そうか。それで?そんなに慌ててる理由は?」

「あの人、いきなり現れたと思ったら、デュエルしてる人達に片っ端からデュエルを挑み始めたんです。しかも、デュエルの衝撃が本物みたいになってて、怪我した人もいるみたいで」

「そりゃまた、物騒だな」

 

 周囲に視線を巡らせれば、蹲っている者が数名見て取れた。傍らには不安げに寄り添う者もいる。

 

「兄ちゃん!早く、あいつをやっつけてよ!」

「……そうだな。ちょっと行ってくる。お前達は此処から動くなよ。近づいたら危ないかも知れないから」

「光莉お兄ちゃん……大丈夫?」

 

 サトシの言葉に頷く光莉。それから心配そうな表情を浮かべるアヤに笑顔を向けて、頭を撫でた。テツヤとサトシの方もきっちりと撫でてから、紗乃に「3人を頼む」と言い残し、デュエルコートの方へと歩き出す。

 少し前から男の視線は光莉の方を向いており、光莉が近づくと好戦的な笑みを浮かべた。相手もやる気らしい。直ぐに察して気合を入れつつ、デュエルコートの片側にあるプレイヤーゾーンに足を踏み入れた。そして、未だデュエルコートの中央を陣取る男をまっすぐ見つめ返す。

 

「随分と、物騒な事をしてるみたいだな」

「そうか?俺達にとっちゃ、普通のことなんだがな」

 

 男の言葉に、光莉の眉がピクリと跳ねる。それを見た男が、「おっと」と呟いて、口を噤んだ。

 

「そんなこたぁ、どうだっていいか。そこに立ったんだ。デュエルしようぜ、星野光莉」

「……いいぞ。興味あるしな」

 

 サングラスを外し投げ捨て、デュエルディスクのついた左腕を前へと突き出す。ディスクが起動し、ターゲットとして男がロックオンされた。

 

「へへ」

 

 男が移動し、反対側のプレイヤーゾーンへ移動した。左腕に装着されていたディスクが起動する。

 

「あ?」

 

 場として、カードの置かれる部分の形に、光莉は注目した。光莉の使うディスクは、通常の物と同じく、長方形が途中で一度曲がるだけのオーソドックスなもの。だが、男のディスクの場は、十字架――否、剣のような形をしていた。かっこいいと少し思うが、一体どこで手に入れたのかと疑問が生まれる。

 オーダーメイドでもしない限り、ディスクの場にバリエーションなど持たせられないのだが。

だが、ディスクとしてはきちんと機能しているらしく、男のディスクによって光莉はターゲットとしてロックされた。それに応じて、光莉のディスクに相手プレイヤーの情報が表示された。表示内容に、光莉は眉をひそめる。書かれていた名前は、『Unknown』であった。

改造ディスク。その可能性が頭をよぎり、対峙する男が犯罪者ではないかと、光莉は疑う。そのため光莉は、挑発がてらに男に話しかけた。

 

「Unknownって書かれてるんだが、名無しって呼ばれるのと、自己紹介するのどれがいい?」

 

 光莉の言葉に、男は鼻で笑ってから答えた。

 

「名無しでいいぜ」

「ふーん……。まあ、それでいいならいいけどな」

 

 流石に教えてくれないかと思いながら、光莉はディスクのタッチパネルを操作して、デュエル開始を選択した。ディスクに設定されたプログラムが、先攻と後攻を設定する。

 先攻に選ばれたのは光莉であった。

 

「先攻は俺だな」

「楽しませてくれよ、プロデュエリストさんよォ!」

「ああ。精々努力してくれ」

 

 売り言葉に買い言葉で返して、双方ともにディスクを構えた。

 

「「決闘!!」」

 

***

 

「俺は『星因子 ベガ』を召喚。効果で『星因士 ウヌク』を手札から特殊召喚。『ウヌク』の効果でデッキから『テラナイト』モンスターを墓地に送る。俺が送るのは『星因士 デネブ』だ」

 

 場に2体のモンスター。墓地にはデッキのキーカードが落ちる。このままエクシーズ召喚もありだが、今回はもうすこし行動出来そうだった。

 

「速攻魔法『天架ける星因士』を発動。場の『テラナイト』モンスターを選択して発動。デッキからそのカードと違う名前の『テラナイト』モンスターを特殊召喚して、そのモンスターをデッキに戻す。俺は『ウヌク』を戻して、『星因士 アルタイル』を特殊召喚!この『アルタイル』がいる限り、『テラナイト』以外のモンスターを特殊召喚出来ない」

 

 更なる展開。

 

「『アルタイル』の効果は墓地から『テラナイト』モンスターを表側守備表示で蘇生させる効果。この効果で『デネブ』を墓地から蘇生。『デネブ』は特殊召喚成功時にデッキから『テラナイト』モンスターを1枚手札に加える。この効果で2枚目の『アルタイル』をデッキから手札に加える」

 

 これで場には3体のモンスターが並ぶ。

 

「モンスター3体!いけー、光莉兄ちゃん!」

「お兄ちゃんがんばれー!」

「頑張ってください!」

 

 子ども達の声援を受けながら、光莉は右手を突き出した。

 

「俺は『デネブ』『アルタイル』『ベガ』の3体でオーバーレイ!3体の『テラナイト』モンスターでオーバーレイネットワークを構築!極寒の夜空に輝く大三角の気高さよ。今こそ我が剣に宿り、仇なす敵を打ち払え!エクシーズ召喚!ランク4『星輝士 トライヴェール』!!」

 

 1ターン目からの3体のモンスターを使用したエクシーズ召喚。『トライヴェール』には、エクシーズ召喚成功時に自分以外の場にある全てのカードを手札に戻す効果がある。場には『トライヴェール』以外のモンスターがいない為、バウンス効果は発動しない。

 しかし、『トライヴェール』にはもう2つ、効果がある。そのうちの1つを、光莉は発動した。

 

「『トライヴェール』の効果を発動!エクシーズ素材を1つ取り除き、相手の手札をランダムに1枚選んで墓地に送れる」

 

 『トライヴェール』の周囲に飛んでいたエクシーズ素材が1つ、『トライヴェール』の持つ盾に吸い込まれ、効果が発動する。

 

「俺が選ぶのは真ん中のカードだ!ピンポイント・シュート!」

「ちっ」

 

 盾の中央から放たれた光線が5枚ある手札の中央のカードを貫いた。そのカードは、『真紅眼の黒竜』。ステータスこそ平凡だが、そのレアリティ故に希少価値が非常に高く、伝説の一端とまで言われているカードだ。名称他、闇属性・ドラゴン族・通常モンスターとサポートカードの豊富であり、プロの中でも使っているものは片手で数えられる程度だが確かに居る。

 とはいえ、光莉自身、実物を見たのは初めてで、思わず感動してしまった。

 

「すげぇ、本物?」

「偽物があるのか?」

「たまにな」

 

 偽造カードは、ハートランドシティでも問題になっているのだ。そこまで言って、この男がカードの偽造者ではないかと一瞬疑うが、この状況では確認出来ないし、それならそもそも、こんなところで堂々と使うはずもないかと、光莉は考えを改める。

 

(しかし『真紅眼』か。ランク7エクシーズか、サポートカードの『黒炎弾』軸バーンデッキくらいしか知らないんだよな)

 

 それに、先ほどテツヤの言っていた未知の召喚法。『融合』が気になった。

 

「……俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 1枚のハンデスに守備力2500でリクルート効果の持つモンスターとセットカード。

 未知の召喚法相手の様子見としては十分過ぎる場を作り出し、光莉はターンを終了した。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 1枚引いて、初期手札と同じ5枚になる名無しの手札。

 

「……こいつだな。相手フィールドにのみ、モンスターが存在する場合、『聖刻龍 トフェニドラゴン』は特殊召喚出来る」

「『聖刻』か」

「知ってんのか?だったら話が早い。俺は『トフェニドラゴン』をリリース。来い『デーモンの召喚』!」

 

 現れたのは、恐ろしい形相の悪魔であった。攻撃力2500。光莉のエースである『デルタテロス』と同じ攻撃力だ。だが、悪い言い方をすれば、それだけである。『真紅眼』程でないにしろ、このカードもそこそこレア度は高いが、『デーモンの召喚』もまた通常モンスター。特にこれと言った効果もない。

 

「『トフェニドラゴン』の効果だ。こいつがリリースされた時、デッキからドラゴン族通常モンスターを特殊召喚出来る。俺が呼ぶのは、『真紅眼の黒竜』!」

 

 黒い身体に紅い目のドラゴンが出現する。その姿に光莉の顔が強気に笑う。

 

「だがその効果で特殊召喚されたドラゴンは攻守が0になるだろう」

「関係無い。俺は手札から――」

 

 名無しは、手札のカードを1枚、叩きつけるようにディスクに置いた。

 

「『融合』発動!」

「っ!光莉さん、来ます!」

「みたいだな」

 

 テツヤの言葉に、小声で答える光莉の前。デーモンと黒竜が、今まさに融合しようとしていた。

 

「赤眼の黒龍よ、禍々しき悪魔よ。神秘の渦の中今一つとなり、黒き悪魔竜の姿となって現出せよ!融合召喚!現れよ、『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』!!」

 

 黒き炎が燃え上がり、激しく弾ける。舞い掛かる火の粉を払いのけるように、光莉が腕を一閃させる。一瞬切れる視界。その視界が再び開いたとき、そこには『真紅眼』と『デーモン』の姿は無くなり、代わりに『デーモンの召喚』を彷彿とさせる悪魔のような形相のドラゴンがいた。紫の体に骨格のような体躯が禍々しさを助長させていた。

 その姿を冷静に観察してから、相手の公開情報域をデュエルディスクで確認していく。

 

「『真紅眼』と『デーモン』、『融合』のカードは墓地か。『ブラック・デーモンズ』のカード情報に『デーモンの召喚+真紅眼の黒竜』という表記から察するに、指定のモンスター同士を『融合』のカードでくっつけてる訳か。融合モンスター自体はエクストラデッキに居るんだな。エクストラデッキの枚数減ってるし」

「……意外だな。初見の召喚方法を見て、そこまで分析出来るのか。プロってのも、案外伊達じゃないってことか?」

「さっきから、どうにも馬鹿にしてるっぽいが……。お前、本当に何者だ。プロになるにあたって勉強はしたつもりだ。でもその紫色の枠のカードは見たことない」

「ハッ!勝ったら教えてやるよ」

「面白い。ならデュエルを進めろ」

「行くぜ、バトルだ!『ブラック・デーモンズ』!『トライヴェール』を攻撃しろ!メテオ・フレア!」

 

 黒と紫の入り混じった火球が、『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』から放たれる。まっすぐ『トライヴェール』に向かって飛んでくるそれに、光莉は舌打ちを漏らす。

 攻撃力3200が相手だ。守備力2500の『トライヴェール』では太刀打ち出来ない。光莉がこの後の展開を考えていると、火球が『トライヴェール』を直撃し――

 

「ぐぅおおおおおおお!?」

 

 尋常でない衝撃が光莉を襲った。完全な不意打ちに、急ぎ踏ん張るも、数メートル後退してしまう。

 テツヤから実体化の話は聞いていたが――

 

「成る程。守備表示モンスター越しにこれか。結構きついな」

 

 舞い上がった砂埃を払いつつ、そんな強がりにも近い軽口を叩いて。僅かな緊張と恐怖から、荒くなりそうだった呼吸を、一息で押し殺した。

 

「エクシーズ素材を持った『トライヴェール』が墓地に送られた場合、墓地から『テラナイト』モンスター1体を蘇生する。俺が蘇生するのは『星因士 ベガ』だ」

 

 現れたのは、召喚、特殊召喚時に手札から『テラナイト』モンスターを特殊召喚するモンスターだ。特殊召喚成功により、ベガの効果が発動する。ダメージステップだろうが関係無い。

 

「『ベガ』の効果でさっき手札に加えた『アルタイル』を特殊召喚。更に『アルタイル』の効果で墓地から『デネブ』を蘇生。蘇生した『デネブ』の効果でデッキから『ウヌク』を手札に加える」

「俺の攻撃を利用して、モンスターを3体だしやがっただと……!?」

「スゲー!流石光莉兄ちゃん!」

「そのまま行けー!そんな奴、やっつけちゃえ!」

「頑張れー!」

 

 サトシ達へは拳を向ける事で答えた。

 

「ほら、お前のターン、まだ続いてるぞ?」

「……チッ、いい気になんなよ。俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー」

 

 1枚ハンデスしたとは言え、名無しの手札は現在0枚。

 

(消費が激しいってのも、融合の特徴っぽいな。さっきはサーチ併用したとは言え、普通なら融合素材モンスター2枚と『融合』の魔法カードの3枚は使うもんな)

 

 とはいえ、光莉の方も手札3枚と余り多くはないのだが。それでも、場にはモンスターが3体と伏せカード。カード枚数だけなら7枚と多い。

 

「さて、まずはそのデカ物からだな。俺は『ウヌク』を召喚!効果で『ベテルギウス』を墓地に落とす」

「――撃つなら此処だな。罠発動『無力の証明』!レベル7以上のモンスターが存在する時、レベル5以下のモンスターを全て破壊する!これでエクシーズは出来ねェ!」

「……へぇ、エクシーズ召喚してから打たないのか」

「たりめェだ。てめェが言ったんだろうが、『ランク4』ってな。多分だが、レベル持ってねェんだろ、エクシーズモンスターは。レベルがねェと『無力の証明』じゃ殺せねェからな」

「Exactly. いい読みだ。無意味だけどな!コストで場の『デネブ』を墓地に送って発動!カウンター罠『神星なる因子』!」

「カウンターだと!?」

 

 カウンター罠。有名なところでは『神の宣告』や『魔宮の賄賂』などがある。基本、相手のカード効果と発動を無効にするカードが多い、防御の要。スペルスピードの関係上、カウンターにはカウンターでしか対処出来ない。

 今回光莉の発動した『神星なる因子』は、『テラナイト』専用のカウンター罠であり、魔法・罠・効果モンスターの効果の発動、いずれかを無効にして破壊出来る効果がある。

 

「『無力の証明』は破壊!更に効果で1枚ドロー!」

「ちぃッ!」

「(つっても、予定は狂ったな。まあしゃあないか)俺は『ウヌク』『ベガ』『アルタイル』の3体でオーバーレイ!3体のレベル4モンスターでオーバーレイネットワークを構築!灼熱の夜空に輝く大三角の輝きよ。今こそ我が刃に宿り全ての敵を殲滅せよ!エクシーズ召喚!ランク4『星輝士 デルタテロス』!」

 

 『トライヴェール』と並ぶ光莉のエース。金色の体を持つ『デルタテロス』が、堂々と光莉の場へと現れる。

 

「『デルタテロス』の効果発動!エクシーズ素材を1つ取り除いて、場のカード1枚を破壊する!俺が選択するのは『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』だ!」

「チェーンはねェ」

「だったら破壊だ!ブレイザー・レイ!」

 

 手に持ったレイピアの先から放たれた光線が、『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』を貫き、破壊する。

 これで、名無しの場はガラ空きになった。

 

「バトルだ!『デルタテロス』でダイレクトアタック!」

 

 飛びかかった『デルタテロス』が、名無しの体を切り裂く――ように見えた。もし刃が実態であれば、間違いなく斬られていたであろうが、しかし『デルタテロス』はあくまでソリッドビジョン。振り下ろそうが斬られる筈がなければ、多少の衝撃はあろうとも先程の『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』の一撃程ではない。

 

「ハッ!ハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 だからだろう。ライフが大きく削られ、残り1500ポイントになったにも関わらず、名無しは大声で笑った。

 

「温い!温いなぁおい!こんな不抜けたデュエルしてんのかよ、お前ら!?」

「なんだ?俺と戦うまでに何人かとデュエルしてたんだろ?だったら知ってんじゃないのか?」

「今までのデュエルじゃ1ダメージも受けてねェんだよ。だからどんなもんかと思ったが、正直拍子抜けだな」

「そうか。それは残念だったな」

 

 残っている手札3枚。この後の大体の算段を立てつつ、光莉はカードを1枚伏せて、ターンエンドを告げた。

 

「お前のターンだぞ」

「……チッ、言い返さねぇのか?腑抜けたデュエルやってる奴は、牙も大したことねぇみたいだな」

 

 名無しの言葉に、光莉は肩をすくめる。

 

「俺はプロだ。見た事無いカード郡と戦う事だってあれば、こっちが1喋れば、10の言葉で返してきやがる面倒なのと戦うことだってある。ビックリしたり、ムカつく時だってあるけどよ、だからっていちいちテンパって心の余裕崩してたら、負けちまうだろ。常に冷静に、だ。それに――」

「あん?」

「伏せ1枚、手札0枚。今の状況でお前が何を言っても、唯の強がり。負け犬の遠吠えにしか聞こえないぞ、名無しちゃん?」

 

 侮蔑の色の強い光莉の言葉に、ピクリと名無しの眉が跳ねた。それに気がついた光莉が、「くはは」と笑う。

 

「怒ってるのか?怖くないな。随分と軽くて安っぽい怒気だ。赤ん坊の癇癪みたいだぞ?」

「……殺す。俺のターンだ」

 

 ドローと、静かにカードを引く男。引いたカードを確認して、伏せカードを発動した。

 

「『融合準備』。エクストラの融合モンスターを見せて、デッキから融合素材を、墓地から『融合』のカードを手札に加えるカードだ。『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』を見せて、デッキから『真紅眼』を、墓地から『融合』を手札に加える」

「3枚目の『真紅眼』……。また融合召喚する気か?」

「黙って見てろ。俺は手札の『真紅眼』を除外して『七星の宝刀』を発動。カードを2枚ドローする」

 

 レベル7モンスターをコストに、2枚のカードをドローする。『トレード・イン』や『調和の宝札』のような手札交換系のドローソースだ。かつてOCG界を欲望と混沌の渦に巻き込んだ無制限征竜デッキが跋扈していた時代には、よく使われていた。子征竜と並んで、征竜のお供だったカードである。

 

(サーチしやすい『真紅眼』をドローソースに変えられるカードって訳だ。除外ギミックも多少なりとも入ってるんだろうな)

 

 ふむふむと黙って納得する光莉。一方で、カードを更に2枚引いた名無し。

 引いたカードを確認して、そのうちの1枚を発動する。

 

「『闇の量産工場』。墓地の通常モンスターを2枚、手札に戻す。『真紅眼』と『デーモンの召喚』を手札に戻す」

 

 3枚から4枚へ。手札を増やした名無し。

 

「『召集の聖刻印』!デッキから『聖刻竜』と名のついたカードを手札に加える!俺は『トフェニドラゴン』を手札に!そのまま特殊召喚!」

 

 先程と同じ龍が姿を現し、そのまま渦中へ飲み込まれる。

 

「リリースして、『デーモンの召喚』をアドバンス召喚!」

 

 先程と同じ流れ。だが、既に1ターン目にサーチしてきた『真紅眼の黒竜』はデッキに残っていない。

 

(何を呼ぶつもりだ?)

「『トフェニ』の効果で『メテオ・ドラゴン』を特殊召喚!」

 

 現れたのは、隕石とともに飛来したと言われるモンスター。レベル6ながら、攻撃力1800守備力2000と低ステータスの目立つドラゴンである。最も、そのステータスは『トフェニ』の効果でどちらも0になっているのだが。

 『デーモン』も『メテオ・ドラゴン』もレベル6。普段であれば、ランク6エクシーズを警戒する場面であるが。

 

(流石に違うよな)

「『融合』発動!」

「むっ」

「手札の『真紅眼』と場『メテオ・ドラゴン』を融合!赤眼の黒竜よ!神秘の渦の中、外宇宙より来りし力を取り込み、更なる高みへ昇華せよ!融合召喚!全てを滅ぼせ『メテオ・ブラック・ドラゴン』!」

 

 黒い体躯に赤いライン。先程の『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』を上回る大きさに、攻撃力。

 思わず身構える光莉。セットカードは防御札ではない。攻撃力3500と2500を前に、大ダメージは免れない事は明らかであった。

 

(ちょっと煽り過ぎたかな?ピンチかも)

 

 総ダメージ数がいくつになるかは分からないが、守備表示のトライヴェールであれだけの衝撃だ。攻撃表示に受ける衝撃が、果たしてどれほどのものか。想像するだけでも恐ろしい。

 

(覚悟決めとけば、大丈夫かな?)

 

 それでも少し、不安だった。

 

 一方、名無し。彼は、まっすぐ『デルタテロス』を見据えていた。

 

(さっきの『トライヴェール』には、破壊時のリクルート効果があった。『デルタテロス』は、ほぼ同じ条件で出てくる『テラナイト』のエクシーズモンスター。なら、あいつにも破壊時のリクルート効果があると考えたほうが自然……)

 

 破壊しないで突破したい所であるが、生憎手札には除外やバウンスでモンスターを除去出来るカードも、展開してきた先を叩ける攻め手を増やせるカードもない。

 

「なら、引きに行くしかないな。俺は『デーモンの召喚』をリリース。『馬の骨の対価』を発動。2枚引く」

 

 だが引いた2枚のうちの1枚を見て、名無しの顔が凶悪に歪んだ。

 

「バトルだ!やれ、『メテオ・ブラック・ドラゴン』!『デルタテロス』を粉砕しろ!バーニング・ダーク・メテオ!」

 

 『メテオ・ブラック・ドラゴン』の放った火球が、『デルタテロス』へ衝突し、粉砕する。

激しい衝撃。踏ん張りが効かず、光莉は吹き飛ばされた。そのまま、デュエルコートの周りに巡らせられたフェンスへと、背中を打ち付けた。息が詰まる。倒れそうになるのを、気合で耐えた。

 

「つぅ……。だが、『デルタテロス』の効果発動!『トライヴェール』と違ってエクシーズ素材が無くても発動して、リクルート先はデッキか手札!俺はデッキから『プロキオン』を守備表示で特殊召喚!更に『プロキオン』の効果で、手札から『カペラ』を捨てて1枚ドロー!」

「洒落せェ!速攻魔法『融合解除』!」

「っ!?」

「名前聞きゃ、何となく効果分かんだろ!? 『メテオ・ブラック・ドラゴン』をエクストラへ戻す! 甦れ『真紅眼の黒竜』!『メテオ・ドラゴン』!」

 

 場に現れる、黒き竜。『メテオ・ブラック・ドラゴン』よりも一回り小さく、シャープな体をしたそのモンスターは、伝説の一端に存在するモンスターだ。

そしてもう一方。隕石のような胴を持つドラゴン。低ステータスは相変わらずだが、しかし『プロキオン』を倒すには十分過ぎるステータス。

 

「『メテオ・ドラゴン』で『プロキオン』を攻撃!」

 

 飛び上がった『メテオ・ドラゴン』が、亀のように四足と頭を胴内に引っ込める。そのまま、隕石のように『プロキオン』へと突撃し、『プロキオン』を粉砕した。さらなる衝撃が、光莉をフェンスへ押し付ける。

 

「やれ、『真紅眼』!黒炎弾!」

 

 『真紅眼』の代名詞。カード名にもなった必殺技。口内にて火球を生成した『真紅眼』は、その火球をまっすぐ光莉へと放った。迫るそれを前に、光莉は動けない。慣れない衝撃を続けて受けたのだ。体が動くはずもない。

 

「やっべ」

 

 思わず口をついたその言葉。直後、黒炎弾は光莉へと直撃した。

 




征竜禁止はちょっと酷いんじゃないですかね、KONAMIサン

3.21
招集する聖刻印⇒召集の聖刻印
誤字修正。
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